キズモノ - 闇ガ凡テノ人ノ光と成ル

 手にこびり付いた、まだ温かい精液をティッシュで拭きとったあと、部屋の中が急に白くなり、あのいつも頭の中に浮かんでくる、擬態語のような言葉がメチャメチャに並べられた気の遠くなりそうな文字列が目の前に浮かんできた。これは僕の脳内、体内なのだろうか。そんな気持ち悪いものが見えるなんて、何かが一昨日までと違う。また激鬱状態になるのを恐れた僕は、ピンポン玉のような感触のする人形の首を腕や胴体やらが転がっているゴミだめの中に思いっきり投げつけた。赤ん坊のように禿げた少年の首はこの間までマリナと呼んでいた人形の頭に見事命中し、嵌められていた目玉が吹っ飛んで僕の方へコロコロと転がってきた。拾ってみると、青い瞳が丹念に描かれただけの、ただの冷たいガラス玉だった。そんなの当たり前、本物の目玉が入ってるはずがない、でも実際に感触を確かめたことで目の前に壁をドンと立てられたような失望感に襲われた。まったく不便な脳みそをもって生まれてきたものだ。

 結局、菊川から新たにもらった少年の人形は同じく球体関節人形で、別にそうでなくてもいいと言ったのにわざわざこんな値の張るものを買ってくるあの男の無駄に深い懐にただただ驚嘆するしかないのだが、僕にとってはこっちの方が簡単にバラバラに破壊できるので良かったといえば良かったのかもしれない。しかし、バラバラにし易い方が良いなんてのはどこか安直でつまらない気がしてきていた。自分が薄っぺらすぎて、幼女を誘拐してグチャグチャに犯しぬいた後で殺していく薄汚くてゴミと呼称するのも憚られるようなクズ以下の連中の一員になってしまうのが堪らなく恐ろしかった。

 この少年の人形の「殺し方」はこの間までマリナと呼んでいた人形の時とほぼ同じで、やはり同じような虚無感と激鬱に襲われ、今まさにシャケに走りたい衝動が全身の穴という穴から噴出してしまいそうなところを、その0.0000001ミリメートル手前でなんとか抑え込んでいた。何か変化が欲しい、普通じゃないことに傾いてみたいという普通極まりない感情が僕の本能を押し込めていた。

 しかし、座っている体勢ではそれが厳しくなってきたので、9月という季節に合わない、鳥肌が立つほど冷たい床に関節をロボットさながらにカクカクとうごめかせつつ寝っ転がり、あの文字列が浮かび上がってくるのを打ち消すように一心不乱に思考を働かせた。

――今、僕に必要なことは何だろう。

 こんな、孔子みたいな賢者しか知らないようなどれだけ考えてもなかなか見つからないであろう、抽象的で具体的なとにかくモヤモヤした答えを探すなんて馬鹿げている。でも今、僕には一縷の希望があると信じれることがあった。あのとにかく意味不明なのにどんな言語よりも自分を表現する擬態語の集合体だ。
ブハブハシキシキデリデリヨゲヨゲミヒュミヒュカヅカヅヌフォヌフォシニシニエベエベ――が見えること、それがきっと、僕にとっての蜘蛛の糸。あれを何とかして自分のものにすることが、堕落からの華麗なる再生に違いない。

 プルルルル…

 不意に携帯電話が鳴った。きっと菊川だ、そう予想したのは即座に何か理路整然とした推理を行ったのではなく、単にここ数日菊川としかまともなコンタクトを取っていないというだけの、奇妙な点が何一つ見当たらなさ過ぎてつまらないという言葉すら与えることが難しいいわゆる勘であったことにわずかな憤りを覚えた。

「どうしたんだ」

「ちょっと教えておきたいことがあります」

 菊川の声色が変だ。どことなく平べったい。最もこれがこいつの素の声音なのかもしれないが、そうすると僕の前で見せた姿は仮初めで、自分を隠しやがったのかもしれない。

「来栖さんのご連絡先です。いざとなった時に必要だと思いまして」

 そしてすぐに、菊川は来栖の電話番号をさらりと口にした。メモの用意はできましたか、○○○‐△△△△‐××××です、もう一度言います、○○○‐△△△△‐××××です、ちなみに住所をお教えしますと、東京都K区T町三の二四の――

「おい」そこで遮った。「何で住所まで教える必要があんだよ」

「まあ、必要になるかもしれないじゃないですか」

 間を置かずに答えが返ってきた。何かおかしい。

「菊川とか言ったな」僕はいくらか高圧的な言い方になっていた。

「最初から勘ぐるべきだった。お前一体何考えてんだ。意味が分かんねえ、気持ち悪いんだよ」

「別に」しゃべり方の平べったさがいい加減イラついてきた。

「僕は実験をしたかっただけですよ」

「嘘つくんじゃねえ」自然とさらに語気を強めていた。怒りよりも、奇怪なものに対する恐怖によるものだ。

「嘘じゃないですって」愉快な詩人のような変なテンポの抑揚がついていて、ますます不快なものになった。快楽殺人者と話しているようだ。

「もしかして、今日も瀉血してしまいましたか」話題が変わった。

「いや、今日は我慢した」

「そうですか、それは良かった」もう最初に会った時の菊川だった。

「では、また人形が壊れてしまったら連絡ください。ストックはこちらで用意してありますので」

 プツッ…ツー……

 電話が切れた。

 僕は再び皺くちゃの布団の上に横たわり、菊川の言動を思い返してみたが、背筋が何やらウニュウニュと疼いてくるので数秒で考えるのを止めた。まったく分からない男だ。どこからがあいつの企みの中に入っているのか見当もつかなかった。どうしたものか――。

 まさか。一つ思い当たる節があった。僕はディスプレイの汚れたパソコンを開き、インターネットの検索エンジンのウインドウを開き、震える指で薄くホコリをかぶったキーボードに文字を打ち込んでいった。























――全部で十五人…。

 マリナたちを大きな黒いケースに一人づつ入れてやると、我ながらそれだけマリナだけを生みだした精神力に感服した。

 これから、私は埼玉県の祖父の住む実家に移り住むことにした。全人類を凌駕する美貌を武器に私を陥れ、内部に深く入り込んできた挙句、私を身の危険に晒させたルシファー、菊川天馬。それに加えて、いつ私の家に来て、何をしてくるか分からない危ない男、カンザキ。彼らに囲まれていては、私はあと何日正常な精神でいられるか分かったものではない。祖父はまだ私の寝室を綺麗な状態のままにしてあるとついさっき電話で言ってくれていたし、近くに昔祖父がお世話になっていた小さな画廊があるから、個展を開くのも困らないだろう。

 明日までに宅急便がうちにやってくる手筈になっているので、トラックに全荷物を詰め終わったら私はこの地獄の都市から解放される。祖父とマリナたちとの、十七人での新生活が始まる…。

 ピルルルル…ピルルルル…

 ケータイの着信音だ。誰だろう。漠然とした不安の塊に全身を包まれる。恐る恐る開いてみた。

 画面に記されていたのは――『菊川天馬』。

 考えるより先に、私の指は電源ボタンを押して着信を切っていた。これ以上近づかないで――。

 ピルルルル…ピルルルル…ピルルルル…

 画面にはやはり『菊川天馬』

 再び電源ボタンを押した。だが五秒と持たなかった。

 ピルルルル…ピルルルル…ピルルルル…ピルルルル…
また切ってしまおうという考えが頭をよぎった。だが、今度は思い留まった。今まで菊川がこんなにしつこく電話を掛けてきたことがあっただろうか。何か事情が変わったのかもしれない…東京を出る前に、最後の一縷の望みを信じてみたい。

「もしもし。どうし――」

「アッハッハッハハハハハハハハハ」

 もしもし、の返しもなくけたたましく電話口から発せられるのは、紛れもなく菊川の笑い声だ。過去、こんなに愉快そうな笑い方をしたことなんてなかった。

「何よ」

「アッハハ、すいませんもう笑いが止まんないんですよおホントに、ウハハハハッ、キヒャハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ――」

「止してよ、気色悪いわ」かつて鴻池が使っていた、アッパー系のドラッグでも打ったのだろうか。

「切るわよ」

「やめてください今からとおおおっても面白いこと伝えないといけないんですからあいいですかアッハハハ」

 菊川は狂人のようにひとしきり笑い終えたあと、いまだ興奮が冷めないといった調子で話し始めた。

「今外に、カンザキさんいるんですよ。戸口でチャイム押し続けてます。僕がいるって分かってんでしょうね、すごい勢いで押しまくってますよ。でね来栖さん、一度僕が覗き穴から覗いてみたんですけどもね、たったいたんですよドアを。もうすごい勢いですこのまんまだと俺死んじゃいますよ」

 激しい躁状態によって説明が端折られているので、状況が良く読み取れない。とにかく、何かとんでもない事態らしい。

「来てくださいよ今から」菊川は独り言のように続ける。

「今からあなたが来るとちょうどいいんだ、きっと面白いものが見れると思いますよそれに、来栖さんは僕のこと憎んでるんでしょう、分かってますよそのぐらい、僕に仕返しをするいいチャンスです、では今からカンザキさんをお迎えするので来栖さんもいらっしゃってくださいよああ楽しみだ楽しみだアハハハハ」



















 
 ドアを開けるやいなや、僕は玄関に突っ立っている菊川を突き飛ばそうとしたが、僕の頼りない腕力では半歩よろけさせるのがやっとった。

「最初から仕組んでやがったんだなっ」 

 喉から声を絞り出すようにそう言い放ったあと、僕は自分の擦り傷だらけの黒い携帯電話を開いた。そこにはさっき写メを撮った、血の溜まったビーカーの写真が写っている。

 僕は菊川の胸ぐらに、今まで出したことのないほど強い力で掴みかかった。

「この写真、同じものが昨日お前のパソコンに映ってたよな。あの『夜咲堕璃亜』とか名乗って自傷画像を沢山貼り付けてたブログは、テメエの自作自演かよっ、畜生、騙しやがったな!」

 菊川は相変わらず彫像のように無表情だが、こいつがさっき僕が外で待っているのにもかかわらず、気違いじみた嬌声を上げていたのは聞こえていたし、それを当然菊川も理解しているはずだから、こんな二流演技で火に油を注ごうとする理由が分からず、結果として二重に油を注いでいることになった。

「お前は――」掴んだ手のひらに粘っこい汗が滲んでくるのを感じながら、菊川の乾いた瞳をギッと睨みつけた。視線の力で目玉を吹っ飛ばしてやる。

「お前は、俺みたいなシケた生活をしてる奴らに自傷行為を広めようとしてあんなブログを立ち上げ、自分の実験のモルモットにできる奴を増やそうとしていた。そんな最中に偶然腕に注射痕のついた俺と出会い、こいつはきっとシャケラーなんだと推測したお前は、実験体として使うために俺に話しかけた。違うか?」

 菊川は変わらず黙っているが、その表情は一変した。緩かった目や口の筋肉がしまり、石像のように固くなっていた。空気に静寂そのもののような見えない物体が漂い始め、外のキイキイという鳥の鳴き声がディスコの音楽みたいにやかましく聞こえる。菊川の僕を見据える眼光は心なしか鋭くなっていた。僕はその瞳の奥にデジャヴを覚えた。そうだ、あの時、菊川が僕の注射痕を凝視しながらひたすら撫で続けていた時の、あの目だ。つまり菊川は今、激しい怒りに燃えている。

 僕はついに悟った。あの時の菊川は、自身のおかれた状況や、俺の傷に対しての怒りなんて持っていなかった。そんなに対象は小さくなかったのだ。こいつの怒りの矛先は――僕そのものだ。
なるほどな。僕は何故か口元が緩みそうになっていた。

 お前は、最初から俺のことを憎んでたんだな。

「おい、だんまり決め込んでねえで答えやがれ」

「そうですね…」口調は相変わらず冷静だった。

「なかなかいい推理です、まあ大した謎ときでもないですかね。そうです、大体は合ってます。でも、ちょっと違いますね。」

 菊川は掴んでいる僕の手を容易に払い除けると、自分の机の椅子に腰掛け、黒い画面に爍咤rvival″という文字が揺れているスクリーンセーバーが映るパソコンのマウスを動かした。

「カンザキさんは、僕があなたと偶然出会ったと仰ってましたが、それは違います。僕からあなたの方に近づいたんです」

 言い終わると同時に、菊川は僕が見たこともないアイコンをクリックした。画面の真ん中にウインドウが開いた。

 そこに表示されていたのは、ウェブサイトか何かにアクセスされた日付日時、それとパソコンのIDのような数字の羅列だった。

「このソフトはヤミ業者に頼んで譲ってもらったものです。もちろん高額でしたが。これを使うと、このブログにアクセスしてきたユーザーを任意に選び、あるウイルスを送ることができるんです。このウイルスはまだ違法化されてないどころか、今までパソコンのセキュリティにまったく引っかかったことのないので、検知すらされていません。これを使うと、ウイニーみたいに相手のあらゆる個人情報をズルズルと引き出せます。それこそ、そのパソコンがどこに置いてあるかということまで」

「ってことは――」僕の声がやや掠れた。

「そうです。あなたの家の場所まで分かってしまうんですよ。僕はこのソフトを使って、ブログにアクセスしてきたユーザー一人一人にウイルスを送り、家の場所を全て特定したんです。そしてアクセス数の多いユーザーから順番に、その家の様子を調べようとした。そのユーザーが自傷行為を行っている人間かどうか調べるために。さすがに僕も、この作業は長丁場になるかと覚悟してましたが、運のいいことに、ウイルスはあなたが今まで通販で買ったものが何なのか、その購入履歴までを引き出したんです。そしたら注射針に駆血帯そしてビーカー、わざわざボウルまで通販でお買いになられているじゃないですか。医療道具にしてもわざわざこれしか買わないなんて、これは絶対にシャケラーだなって確信しましたよ。それで僕はあなたの自宅に最も近い空き物件を探し出し、そこに引っ越すことにしたんです。でも一時的に住むだけなので、衣食住に困らない程度にしかこっちに持ち込みませんでした。だからこの家はほぼ空っぽです。この家、いささか殺風景でしょう?」

 そういう理由だったのか。僕は何か、自身の人格を反映しているのかもしれないという、もっと三流文学的で難しいことを考えていた。

「さっぱり意味が分からない」僕は混乱していた。個人情報が漏れていたことへの怒りは不思議と感じなかった。

「そんなことをするためにわざわざ物件まで買ったのか?馬鹿げてる。お前がとんでもない大金持ちなのは聞いたが、そこまでしなくちゃいけない理由が分からない」

「はは、そんなの大したことないですよ。単に面白がりたかったんだ」

 菊川の顔が笑顔状に歪んでいる。唇が限界まで右に引きつり、ニタッと真っ白い歯がのぞく。口裂け女のごとき悦楽の表情。

「僕はあたかもあなたより下の立場にいるかのように接してきまたね。あんなの全て偽り、まやかしです。あなたが実験に積極的に参加してくれるように仕組んだに過ぎません。あなたが今までずっと底辺の人生を歩んできたと思いましたから、思い通りに引っ掛かってくれましたね。依頼を受けた時のあなたの顔、まさにどや顔の典型例って感じで内心笑いを堪えるのに必死でしたよ、ボロ布を羽織った乞食が金貨を一枚拾ったようで。それにこの前僕の家に押しかけて来た時の動きもまた傑作でしたね、あなたみたいな生まれながらの負け犬は勝ったことがないからああいう変態的な動きしかできないんでしょうね、いやもうホント感動しましたよ、「下の下」の人間が幻想の優越感を感じた姿ってあんなに笑えるもんなんですね、あなた普通に暮らしてるだけでピエロの仕事ができるんじゃないですかカンザキさん、心底尊敬いたします、あなたのような何もかもが薄くて自傷大好きな人間が見せてくれたたった数日間の遍歴は素晴らしいコメディでした――」

 ゲモゲモ――――――――――――――!!!!!

 僕の中で何かが切れた。モウイイヨ、全部壊シチマイナ――。

 スィッ――…ドン。

 ポケットの中に入れておいた、実験の際に渡されたナイフが床に風穴を開けた。

 菊川が一瞬怯む。

 その隙に僕は奴に人生初の飛び蹴りを浴びせて椅子の上から吹っ飛ばして床に叩きつけ、間を空けずに勢いのままその上に馬乗りになった。

 床に突き刺さったままのナイフを引き抜く。そして腕の伸びる限界まで振り上げた。

 菊川の顔を見下ろした。こんな逼迫した状況にもかかわらず、未だに怜悧なポーカーフェイスのままだった。こんなのでは人形たちと大して変わらない存在に見えた。しかし、それらとは明らかに違う。この肉体は眼球が動、体温があり、臭いがあり、口や鼻から空気が出、心臓の鼓動が聞こえる。その圧倒的な事実が、僕に激しい興奮を与えていた。そうだ、僕はこういう身体を求めていたのだ。この、全てを持った人間に、僕が傷を与えてやる、痛みを感じさせてやる、完全を壊してやる。それがエクスタシーというセラピーだ。

 僕はナイフを、菊川の美しい顔めがけて振り下ろした。

 皮膚を破る柔らかく小さな音と、肉を貫く生々しくて湿っぽい音が一瞬だけ聞こえた。

 そして、冷たい床に刃先が触れる。

ドロドロニュルニュルムラムラムニムニショボショボゴバゴバビリビリドビドビグナグナドニドニミコミコロミロミビョヴィビョヴィモギモギウリウリエニャエニャミラミラブドブドツゴツゴゴビゴビズバズバウォウィウォウィヴェニヴェニゲブゲブレピレピリョゴリョゴニピニピケジャケジャロニロニデゴデゴソアソアジュシュジュシュゼディゼディニュフィニュフィギョルギョルアオアオショブショブリツリツゼバゼバボビボビコスコスミユミユヨビヨビベニャベニャミドミドヲンヲンヂョンヂョンヴェユヴェユビデビデゴゴゴゴラマラマシビシビゲフィゲフィウェチュウェチュホジャホジャデシュデシュサゾサゾガフェガフェズヴァズヴァコドコドモレモレツユツユケキケキルチルチイェムイェムケビョケビョミニェミニェボグボグオダオダゼスゼスレサレサヅホヅホニョフォニョフォヒヒョヒヒョキヴァキヴァドレドレティリュティリュソカソカジキジキディレディレチェショチェショキョグキョグルソリュソイマイマワノワノエサエサザデザデルギルギツニツニベニョベニョコヌコヌファクファクケサケサイギイギレモレモウェキウェキシャキュシャキュテェンテェンジュカジュカデクデクロミロミヌサヌサルファルファパピパピルグルグゼペゼペミケミケシゴシゴリモリモノベノベクルクルツベツベシポシポミシャミシャジギョジギョアウアウミアミアセロセロチュカチュカミゼミゼルブルブゲモゲモスギスギキショキショセマセマバジャバジャビズビズビエビエケマケマソピソピキエキエヲルヲルモスモスコエコエルルルルベノベノキソキソセリセリクトクトウメウメキアキアデヲデヲンキャンキャイドイドゴトゴトミホミホセピャセピャキビャキビャリビリビキュレキュレタセタセポルポルノバノバクヘクヘゾキゾキヅナヅナモソモソドベドベヒホヒホトゴトゴオヌオヌミメミメベコベコロブロブユヒユヒエヅエヅワモワモブネブネヂカヂカショキショキヴヌヴヌザデザデウェチョウェチョキペキペポシポシフィグフィグテワテワミジミジペアペアジャジェジャジェミキャミキャチェシチェシイウイウキリョキリョコエコエグジェグジェヂョパヂョパルシルシケドケドソピソピウェルウェルコギコギヒバヒバニュジャニュジャデヤデヤミギョミギョエリャエリャレモレモキヅキヅグファグファデェデュデェデュキオキオハスハスニビャニビャオハオハイファイファウユウユチャヂチャヂキシャキシャポラポラコヲコヲツサツサレギャレギャヒュロヒュロミカミカフィツフィツフツフツワソワソデウデウカデカデレノレノフテフテリュモリュモキフォキフォベチュベチュヴュレヴュレミュヘミュヘザゴザゴルファルファジュガジュガイイェイイェフジフジデヤデヤミゾミゾケキャケキャオパオパエクエクニウニウシュチャシュチャバジバジベニョベニョユハユハピトピトコピコピ――が今、一つのカタチになった。





















 私が来た時には、既にカンザキという男の姿はなく、数メートル先に血まみれの菊川が大の字になって転がっていた。
どうやら、カンザキという男にやられたらしい。このまま放っておけば出血多量で死ぬかもしれない。私はどうしたものかと逡巡した。この男は私が追い詰められ、東京から逃げる羽目になった張本人だ。助ける義理など微塵もない。しかし、このまま死なれては私が犯人として疑われてしまう。唯一真犯人を知っているにもかかわらず、だ。それならばどんなに癪だとしても、助けるより他に方策はない。

「やはりいいタイミングで来てくれましたね…来栖さん」
息切れしたような声で呟くのが聞こえる。徐に近付いてみると、左肩に風穴の空いた菊川が、痛みをまったく感じていないかのように、どこか満ち足りた爽やかな微笑みを浮かべ、天を仰いでいた。どうやら刃物か何かで突き刺されたらしい。あんな骸骨のようにひょろひょろした男が、肩を貫通できるほどの腕力を持っていたとは驚きだ。

 菊川の笑顔を見ていた私の目に、何故か涙が浮かんできた。

「最初から、これが目的だったのね…傷つけられることが」

「ええ」私の方を向かずに菊川が答えた。

「どんなモノを手に入れても、決して満たされることがなかった僕の心を満たすには、身体に傷を与えることが一番だと思ったんです。しかし、その辺で適当にかすり傷がついたり、歌舞伎町で素姓の分からないチンピラに殴られて骨折するようなことにはなりたくなかった。僕の望んだシチュエーションは、自分で自分に傷をつける人に傷をつけてもらうことだったんです。そうでなければ満足しないだろうって思ったんだ。そしてついさっき、その願いは叶った」

 菊川の首がこっちを向いた。

「さあ来栖さん、今度はあなたの番ですよ。どうぞお好きに、僕への復讐を果たしてください。この実験を行ってからさらに憎しみは増したでしょうが、それよりずっと前から、少しも傷のない僕がさぞかし羨ましかったんでしょうから」

 私は涙を拭き、菊川の傍らにしゃがんだ。そう、私は菊川に顔の傷を見せたことがあった。あれは一緒にイベントを観るためにクラブで飲んでいた時だった。当時の菊川に抱かれたがっていた私は、単なる体目当ての付き合いをしたかったはずが、どういうわけか一面に顔を覆っていた歌舞伎白粉の一部を剥がし、頬にある一筋の傷痕を見せていた。菊川はそれが自傷行為によるものではないと分かったからか、大した反応を見せなかったが、私は見せてからすぐに、一体何を気が狂ったことをしているのかと後悔した。あの時の自分の行動の意味が、今なら分かる。

 私は、一瞬だけでも醜い傷まで愛して欲しいと願っていた。

「できないわ」

 私はきっぱりと言った。

「私はそんなことをしたいわけじゃない。今分かったの、きっと私はあなたを愛したことがある。醜い素顔までも愛してもらいたいと、たとえ一瞬でも思ったの。そんな私があなたを傷つける資格なんてないわ」

 私は菊川の肩の傷にそっと触れた。

「こんな表面上の傷が私たちを苦しめ、翻弄してきたのよ。傷のない完全な姿を持ったマリナの人形を量産したのも、それをカンザキという見知らぬ男に傷つけられたくなかった理由も、元は同じだわ。私はもう、こんなのに振り回されるのはいや」

 私はバッグから、ステンレス製の細工棒を二本取り出した。人形の顔を彫る際などに使う道具だ。

「菊川、あなた何とか動けるでしょう。救急車を呼ぶのは頼んだわ」

 次の瞬間、細工棒は私の視覚を闇に葬った。

後書き

御感想&アドバイスお待ちしてます。

この小説について

タイトル 闇ガ凡テノ人ノ光と成ル
初版 2010年10月10日
改訂 2010年10月10日
小説ID 4074
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レッド・サイコパスの写真
熟練
作家名 ★レッド・サイコパス
作家ID 488
投稿数 20
★の数 28
活動度 1984

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