エメラルド -  プロローグ −過去と現在ー

     




  全ては、出会ったときから決まっていた。そう思  う。・・・・・そう、思いたい。


 ねぇ?人は、生きているうちに、どれだけの人を・・・・・愛せるのかな?


 どれだけの人に・・・・愛されるのかな?


 君に出会って、気付いた。




 人は・・・・・人は・・・・・。



 出会った人全てに、愛される権利を持ってるんだ。


 だから、僕と、君も・・・・・出会う事ができたんだ。




   

    過去と現在



  ピピピピピピピピピピピピピピ・・・・・・・・


 押さなければ、永遠に鳴り止まない。まるで赤ん坊のようだ。億劫になりながらも、手を伸ばせばとどく距離にある、そいつを押す。のではなく、叩いた。

「ふぁっ・・・・・・・。」

 朝日に向かって、大きな欠伸をする。朝の挨拶、とでも言った所だろうか。これこそ、習慣だ。

 今日もまた、始まってほしくない1日が始まる。まるで、徒競走で『位置について・・・・・よーい・・・・・』まで言われ、今か今かと待ち望む、小学生のようだ。・・・そんな事はどうでも良くて。

 時計を確認すれば、6:30分。電車に乗る時刻が刻々と近づき、長針は残り30分だと告げている。

「やばっ・・・・・・・。」

 慌てて着替えを済まし、1階に駆け下りる。

 寝癖も手で梳かし、財布とケータイ。適当に教科書を入れたバックを肩に掛け、小走りで玄関を出た。

 ケータイで時刻を確認すれば、あれから約10分が経過。その短時間で、駅に向かう道を歩いている自分を、つくづく尊敬する。


 この道、・・・・・この町を、俺は結構気に入っている。そりゃあ、生まれてからずっとこの町に居るのだから、気に入っていて当然といえば、当然だ。

 海が目の前にあるこの町の、駅に続く海沿いの道を歩く。 時々、学校で「海のにおいがする」と言われることがある。多分、この道で、風に乗った潮に吹かれているからだろう。

 気付けば、駅に到着。ここから1時間ほどかかる駅に向かう切符を買う。


 海が目の前にあるこの町に、ちゃんとした高校なんて無くて、中学を卒業して、この町から離れた海南高校を受け、見事合格。

 どうしてもこの町から通いたかったから、少し無茶して、自分の偏差値よりも遥か上だった海南を受けたんだ。

 今まで、こんなに夢中になって何かを成し遂げたことなんて無かったと思う。それまでずっと、何となく生きていた俺にとっては。

 でも、今になっては、『何で、あんなに頑張ったんだろう?』って思う。別に、頑張ったことが、悪いわけじゃない。その理由は何だったんだろう。そう考えるんだ。


 ただ単に、この町が好きって言えば、すごくきれいな表現かもしれないけど、俺の場合、それだけじゃないと思う。

 まぁ、いわゆる、『思春期の反抗期』ってやつだと思う。すごく変な言い回しだけど、この言葉がその時の俺には、ピッタリだと思う。


 そんなことを考えていると、電車がやってきた。

 この世の全ての宝石が集められてような、言葉では言い表せないほどきれいな色をしたマリンブルー、エメラルドグリーンの宝石たちが、朝日を浴びて、さらに増して異彩の光を放っているというのに。その光景とは余りにも不釣合いな気味悪い音をたて、そいつはゆっくりと停車した。

 俺を少し不機嫌にさせたそいつは、今度は俺の機嫌をとるかのように素直にドアを開く。まるで、地平線の果てまで連れて行ってくれるように。行けるものなら行ってみたい、そう思う俺は、かなり幼稚なんだろうな。


 俺が座る席は、いつも誰も座っていない。と言っても、乗ってくる人自体少ない。

 海が見たいから、進行方向から見て右側に座り、背中は町の方に向け、真正面には、宝石が散りばめられた海が広がる。

 今までずっと見てきて、飽きなかったものは、この海だけだった。強いて言うなら、空も。

 そう思うと、やっぱり俺って・・・・・すごく純粋だよな。自分でそう思うのも変だけど。この性格をありのまま、素直にさらけ出せていたらなら、もうちょっと今までの人生、楽しく生きていたかもしれない。


 それより何より、自分が傷付くとか、それ以上に・・・・・。


 『大切な人を、傷つけることは無かった。』


 『あの時は、若かったんだ。バカだったんだ。』それで、片付けられるならば、どんなに楽だろう。そんなことじゃ、解決しない問題なんだと思う。


 子供の頃の記憶、そういうものが、俺にはほとんど無い。孤児だったから。

 児童保育施設で、今の父さんと母さんに出会った。その時2人は、子供ができなくて悩んでいたらしい。俺が5歳の時に引き取られた。

 ここまでは、結構よく聞く話。

 俺が中学生の頃。もうすぐ卒業、という時期になって、足を故障した。当時、バスケットをやっていた俺は、バスケの名門校からスカウトを受けていた。自惚れるわけではないが、県代表選手に選ばれ、全国大会に出場したことだってある。

 医者からは、バスケを続けていく事は諦めた方がいいと言った。そこまで言われて、ドラマのように、怪我治して、復帰しよう。という感情は、芽生えてこなかった。

 全てを失って、地獄のどん底に突き落とされた俺を、更なる悲劇が襲った。


 ―――――――――――――。


「えっ・・・・・・・?」
「だから!子供ができたのよ!」
「よかったな、晴れてお前も兄貴になるんだぞ。」
「・・・・・・・・・・。」

 もう終わった。そう思うしかなかった。

 唯一の支えだったんだよ。おれにとっちゃあ・・・・・あんたらが。


 それから、俺は狂った。おかしくなった。

 日に日に膨らんでいく母さんの腹が、俺の気持ちのバロメーターだった。


 『このままじゃ、この命を消してしまう。』


 そう思った。自分が自分では無くなる。その意味が、その時の俺はよく思い知らされた。


 「俺、少しこの家出て行くわ。」

 俺が、そう切り出した時、2人とも安心したような顔をしたんだ。そりゃ、傷付いたけど、仕方ないと思った。そのくらい俺は荒れていたから。

 そして、今の家に来た。

 俺が引き取られて、始めに住んでいた家だった。


 おそらく生まれたであろう、兄弟の顔も勿論の事ながら、見ていない。

 名前だって、性別だって分からない。今思うと、知らないことだらけだ。


 思い出すだけで、自分の不甲斐無さ、喪失感に苛まれる。枯れたはずの涙も、また流れ出す。

 今は、送られてくる金が、俺と、父さんたちを繋ぐものだ。悲しい事かもしれないけれど、仕方ない事なんだ。


 『次は、海南駅〜海南駅〜。』

 お決まりのアナウンス、年紀の入ったどこか懐かしい声を背に、地平線には連れて行ってくれない夢の無いこいつから降りた。


 君と出会うまで、知らなかったんだ。


 『生きる』


 事の楽しさを。




 大切さを・・・・・。






この小説について

タイトル  プロローグ −過去と現在ー
初版 2010年10月19日
改訂 2010年11月14日
小説ID 4085
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作家名 ★水無月 澪
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