エメラルド -  3.−輝きを放つモノー

   


 「なぁ!奏!!ヤバくね?ヤバくねぇか!?」

 『何がだよ』先ほどから同じことを連呼している葵。それが鬱陶しくて、わざと分からないような素振りで、怪訝な表情を向ける俺は、意地の悪いヤツなのだろうか。

 分かっているさ。例の転校生だろう?お前の言った通り、すごく美人じゃないか。がんばってアタックしろよ。――――――こういうことを言えばよいのだろう、しかし、今までの俺の過去を唯一知っていると言える葵は、こんな捨てゼリフ・・・・・というより、アドバイスには、見向きもしない。長年付き合った腐れ縁だ。時々、『2人してホモなのか!?』というくだらなさ過ぎる噂を周りがしているくらいだ。

 というよりも、あの一件があってから、葵は俺のプライバシーに関わる質問、問いを投げかけてこなくなった。それまでは、『お前は誰が好きなんだ』とか、『お前、アイツが好きなのか』という、――――――まぁ、大体は恋愛の話なのだが。それさえも聞いてこない。

 それより何より、家族の話は俺の前では誰も話さない。高校生になったから、家族の話なんていちいち話すヤツも減ったが。俺の前で、そういう類の話はご法度だと、俺の発する『何か』で周りは、感じ取っているのかもしれない。


 キーンコーンカーンコーン・・・・・


 錆びた古い音のチャイムが、次の授業が始まることを告げた。皆、慌しく席に戻るヤツ、友達との会話を名残惜しそうに続けるヤツも居る。結構自由なのだ。


 「おーい、席に着けー。授業始めるぞー」
 入ってきたのは、如何にもやる気の無い様子でふてぶてしい国語教師だ。そういえば、国語持ってきたかな。

 「・・・あった」
 運良く、国語の教科書など諸々を鞄の奥から俺は、そいつらを机の上にいかにも勉強がんばります。というかのごとく開いたり、並べたりして、受ける気も更々無い授業を誤魔化すことにした。教える立場の方も、やる気が無いわけだから、正当といえばそうなのだ。だがしかし、決してそんなことは無いのも事実だ。態々金を払って、あくまでも勉学に励まなくてはならない立場であるということが、俺達学生の使命なのだから。

 だがやはり、異様に天気がよく晴れ晴れとした陽気には睡魔が伴ってくる。まだ、授業の4分の1の時間も経っていないにも関わらず、クラスを見渡せば、約半分の生徒が首をかっくりかっくり折っているという有様だ。


 ―――――徐に、窓辺へ目を向ける。


 『地球は青かった』ソビエト連邦空軍パイロットであったユーリイ・ガガーリンが、宇宙飛行士として人類初の宇宙飛行を成功させ、帰還後に本人が語った有名な言葉である。

 その言葉を裏付けるかのごとく、空は青々と輝きを放つ。瞬きをしていなければ、見ていられないほどに。

 彼の言葉が、海を指したのか、空を指したのか。地球全体を指した言葉なのか、それは分からない。だが、とにかく地球は青いのだ。


 その青々とした空に、1つの影が落ちる。栗色の髪を靡かせながら、その影。―――――いや、あれは少女だ。少女は言う。


 「あの空を、飛びたいか。」


 『あぁ、飛びたいさ。飛べるものならね。飛ばしてくれるかい?』

 少女は答える。


 「お前なら、飛べる。」


少女は、そう言葉を残し、飛び立った。青々と輝く空へ。

 ――――――――――――――――。


 キーンコーンカーンコーン・・・・・

 ――――――――夢か。古びたチャイムが俺の心を、現実に引き戻した。

 やはり俺もあの首をかっくりかっくり折っている生徒と同一化したらしい。だが、彼らには、我慢しようという態度が見られた。首を折りながらも、なんとか自分の精神を奮い立たそうとしたのは事実だ。俺といえば、彼らとは違い、自信満々に少しの後ろめたさも無く、机に突っ伏していたのだ。

 「奏、・・・・・あのさ・・・・・」
意識がぼうっとしていた中、葵が何かを言いたそうに声を掛けてきた。

 「わりぃ、まだ・・・・・痛いんだ」

 そんなに困った顔しないでくれよ、俺が困るじゃないか。葵が言いたかったのは、まだ足が痛むのか?と聞きたかったらしい。体育の授業は、いつも見学しているから気になっているのだろう。あぁ、そうだよ。多分、もう痛くない。走っていないから、何も分からないけど。

 でも、走る度に、バスケットボールを体育館の床に打ち付ける度に、思い出すんだよ。全てを。あの嫌な過去を。

 だからと言って、いつまでもそれを引きずっていたらダメなんだ。分かっているよ、分かっているさ。

 だけど、葵は。

 「そっか!ムリすんなよ?それより、碧海ちゃんのこと見張っておいてくれよ!あの子も見学みたいだから♪」

 そんな風にあしらってくれる、重たい空気に飲み込まれそうになった俺を引き戻してくれる。

 「あぁ、分かったよ」

 そう言うしかなかった。涙が出そうになったから。意外と俺って、涙脆いのかもしれない。ありがとな、葵。絶対本人には言わないけど。

 心の中で葛藤をしている間に、クラスのほとんどが校庭に向かって行った。葵も、名残惜しそうに例の彼女を見つめ、教室から姿を消した。


 教室の中には、2人きり。沈黙を守ったまま、俺は窓辺へ向かう。





この小説について

タイトル  3.−輝きを放つモノー
初版 2010年11月6日
改訂 2010年11月14日
小説ID 4110
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常連
作家名 ★水無月 澪
作家ID 691
投稿数 6
★の数 11
活動度 670

コメント (2)

ももか コメントのみ 2010年11月6日 19時18分36秒
ブロ友のももかだよww
小説読みましたっ><
めっちゃ上手wwまた書いてください♪
★水無月 澪 コメントのみ 2010年11月6日 19時26分51秒
ももかさん☆

ありがとう♪

いえいえ、あたしなんか全然だから;
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