むりやり解釈百人一首 - 9.小野小町



9.小野小町

花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに
Hana no iro ha,Utsuri ni keri na.Itadura ni.Wagamiyo ni furu,Nagame seshi ma ni




 外は雨だった。
 土砂降りの雨ではなく、梅雨独特のしとしとと降る長雨である。
 私はぼーっと縁側で物思いにふけって、ただただこの長雨を見つめていた。
 すでに私も年寄り。顔には深くしわが刻まれ、腫れぼったい目は若かれし頃を想像するには難しいまでになっていた。
 そんな現実に、私は目を向けたくない。鏡を見るのさえ怖い、そこまで私は落ちぶれてしまった。
 自分で言うのも恥ずかしいけども、昔は数々の男を落としてきた。今の容姿じゃ想像もつかないが。
 人間が老いるのは仕方のないことだとは分かっているけども、人間にそのような機能を付けた神様が憎い。
 そう、昔は……昔は―――。
 男遊びだけで私は輝いていたわけではなかった。むしろそれはくすんでいると言えるだろう。
 私は昔、都で『六歌仙』と謳われるほど、短歌を詠むのが上手かった。
 そこでこそ私は、輝いていられた。素の自分を出すことができた。
 男遊びばかりしてたって訳でもない。いろんな男を落としてきたが、唯一落ちなかった男がいる。
 在原業平(ありわらのなりひら)だ。
 私はいつしか彼の堅苦しい真面目さに心ひかれていた。しかし私は所詮遊び人、真面目な彼の視界に入ることなどなかった。
 富、名誉、美貌、男。欲しい物はなんでも手に入れることができたけど、唯一手に入れることができなかった彼。私は、それが非常に悔しくてたまらない。
 彼は私のことを覚えているだろうか。少なくとも、私は彼のことを忘れはしないし、冥土に行っても彼への想いを忘れることはないし、それを嘆いたりもしない。
 もう、私にとっては遅すぎる恋なのだ。
 私が美しくなかったからいけなかったのだろうか。
 私の性格に問題が?
 わかりかねるが、紀貫之に『衣通姫(そとおりひめ)』と言わしめる美貌、そこに問題があるはずはない。
 彼の鈍感さから、私の歌の完成度はどんどん落ち、最終的には過去の人になり下がってしまった。
 彼の存在が、私の人生を狂わせたのである。


 そうこう考えているうちに、庭のアジサイの花の色があせてしまっている気がする。これだけ雨に打たれていれば当然と言えば当然かも知れないが。
 ……なんだかこのアジサイ、私にそっくりだなぁ。
 さっきまで美しく咲き誇っていたのに、今となっては色が落ちて見る影なし。全く、なんでここまでそっくりなのだろう。
 諸行無常ってことは分かってるつもりなんだけど。
 それを認めたくないっていう女々しい自分が悪いってことも分かってるんだけど。
 全部認めたくない。これはみんな夢だ。こんな悪い夢、さっさと覚めて欲しい。
 そう考えて逃げるのは簡単だけども、私もいい年なんだから、この事実から目を背けちゃいけないんだ。
 このアジサイは、色はあせてしまっても、昔と同じ様に咲いている。
 私は、色はあせて、下を向いて咲いてしまっている最低のアジサイだ。こんなアジサイが庭に咲いていたら、すぐにハサミで切り落としてしまうだろう。
 別に老いたからと言って前を向いて生きることが恥ずかしいことなわけがなくて、実は下を向いて逃げていることが一番恥ずかしいんだ。
 それに気付けただけで、私は今、こうも前を向いていられる。人間は、簡単に変わることができるのだ。意識次第でどうにでもなる。
 私も少し前までは、花の盛りだったけど……所詮過去の栄光。誰にだって未来は来るし、過去を捨てる勇気が必要になる。
 アジサイ1輪でここまで哲学を繰り広げるなんて、そろそろ恥ずかしくなってきた。こんなこと、他人には絶対に言えないな。
 美貌は元には戻らなくても、歌の感性なら昔のように―――。



花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに



 ……今度久しぶりに都に行って、彼の行方でも探してみようか。
 恋なんて物はこの際捨てて、この先を生きる勇気を、彼にもらいたい。
 ちょうどその時、長かった雨が小雨になり、雲の割れ目から暖かい光が降り注いできた。


     もうひと花、咲かせてみようか。

後書き

最近はぱろしょ住民の入れ替えが進んで、俺の事を知ってる人は少なくなったか・・・。
全く小説が書けない日々が続いたので、リハビリのつもりで書き上げました。



コメントよろしくおねがいしまーす。

この小説について

タイトル 9.小野小町
初版 2010年11月13日
改訂 2010年11月13日
小説ID 4111
閲覧数 1307
合計★ 12
せんべいの写真
作家名 ★せんべい
作家ID 397
投稿数 62
★の数 597
活動度 12726
卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (5)

春燕 2010年11月13日 11時04分47秒
 忘れられても、今日も燕は元気です。
 お久しぶりです。あと九十一作品、頑張ってくださいね。

 ってなわけで、小野小町と言うことでしたので、てっきり美貌について面白い事を書くのかなと思っていましたが、哀愁が漂う良い雰囲気の小説でした。
 平家物語にも盛者必衰などという言葉があり、そのイメージによる影響か、昔の人々は晩年を過ごす時は皆この小説のように哀しく暮らしていたのかなぁと……そう思わせるモノでした。
 そして、久しぶりに読んだからかなんなのか、かなり文の作り方にそつが無い、というか、読みやすいなという印象を受けましす。
 やはりせんべいさんは雲の上の存在か……

 さて、このあたりで失礼します。
 長い長い道のりになりそうですが、いつぞやの武士高生のように挫折しないでくださいね!

 ……では。
 
★亞華羽 2010年11月13日 17時39分17秒
こんにちは(・ω・)
実に興味深いタイトルだったので、読ませていただきました。
あ、迷惑でした?すみません←

私はたいてい本を選ぶときは、表紙の人や裏表紙に書いてあるミニ内容みたいのを読んで決めるんですけど、
初めてタイトルで惹かれました←
私、小説書いてる癖して国語嫌いなんですけどこの作品を読んで、『あ、百人一首覚えよう』なんて思っちゃいました。笑
百人一首なんて全然身近に感じられなかったんですけど、なんだか一気に小野小町が隣のクラスにでもいそうな雰囲気になりましたw
読み終えた後は、

『あれ?小野小町って友達だべ?』

みたいなノリになってましたね←

あー…あと5日間ぐらいで定期テストやないか(;ω;)
確か百人一首は範囲ではなかったけれど、国語の範囲を差し置いて百人一首やりそう((←
それほど、素敵な作品でした(^ω^)
せんべいさんはこういうものが好きなんでしょうね←←

では、未熟者の私がこんなにも上級者の方に意味の分からんコメントをしてよろしいのか分かりませんが、
お邪魔いたしました(^ω^∩)
★takkuりばーす 2010年11月28日 8時09分24秒
91作多っ!!堯福д゜

というわけで、百人一首シリーズ読ませていただきましたtakkuです。


世界三大美女も年月を重ねるとただのおばあちゃんか……
現代に例えると、一昔前に一世を風靡したトップアイドルも今では子持ちのマダムへと変わるようなもの。←激しく違う

盛者必衰はモノに限らず森羅万象全てに当てはまることを改めて痛感させられました。
そんな中でもやっぱり前向きに生きるためには、目標ってとても大事。


……珍しくシリアスなコメントをしてますが、病気でも何でもないのであしからず。←一言余計
★鷹崎篤実 コメントのみ 2010年12月1日 4時01分35秒
ビッチ小野小町だったわけですね。
お久しぶりぶりの鷹崎です。
和歌に関しての素養がないため、これまではコメントを避けてましたが、小野小町だったのでついコメント。
なんかこう、昭和のスターが平成の今、過去の栄光を振り返っているのがありありと連想される感じで、ああ、小野小町もこんな感じだったのかなーみたいな。
男は昔の女を引きずるけど、女はあんまり引きずらないよねーみたいな話をしてたけど、こんな感じにビッチな女性が一人の男を引きずり続けるというシチュエーションはなかなかにいいですよね。
すみません。秒速五センチメートルを観たせいでかなり感傷的になってるんで、コメントにいつもの切れがないんです。
とにかく、最後の台詞が好きです。

もうひと花、咲かせてみようか。

いつかこういう台詞を吐ける大人になりたいものですね。
★那由他 2011年1月14日 23時56分03秒
こんばんは。那由他と申します。
拙作にコメントをお寄せいただき、ありがとうございました。

御作を拝読いたしました。
初心者のくせに上から目線で生意気なコメントになりますが、ご容赦ください。

百人一首のシリーズという発想がいいと思いました。こういう発想は私にはありません。
この作品は小野小町ですが……読んでいてしんみりとするような内容でした。実際の小野小町もこのような感傷を抱いていたのかもしれません。それを想像すると、なんともセンチメンタルな気持ちが残る読後感でした。
なんというか、普段は意識していなくてもそれを失ったときに、いかに大事なものであったのかをひとは再認識するのかな、と、そんなことを考えさせられました。最後は「もうひと花、咲かせてみようか。」という小野小町に声援を送ってあげたくなります。

作品全体の雰囲気と雨の情景がマッチしていて好印象です。「雲の割れ目から暖かい光が降り注いできた。」の一文も小野小町の心情と通じるところがあってとても印象深いものがありました。

コメントは以上です。たいして参考にならないかもしれません。初心者が書いているものですので、平にお許しください。
次回の作品もがんばってください。
それでは失礼いたします。
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