僕は道化になろう。

僕の目の前には、君がいた。
何度も逢って、何度も時間を共に過ごした公園で。
風が吹く。
冬の、冷たい風。
君は身を縮ませることはなかった。
いつもそうだった。
切れ長の一重の目で初めて僕を見た時も、睨むようだった。
ショートのさらさらの髪は、動くたびに揺れた。
頬は白くて、でも、すぐに赤くなった。
そんな君が、ただ好きだった。
って、言うのはダメだったのかな。
地面に向けていた視線を、君に向ける。
いつも挑発的な眼で僕をみるのに、君はすっと目をそらした。
そのことが、悔しい。
いつもいつも、僕をダメだしするときも僕をかばう時も目をそらすようなことはしなかったのに。
目をそらすのは卑怯者、と言っていたのに。
僕はいつか、そんな君にプロポーズをして目をそらすようにして欲しかった。
その綺麗な瞳を揺らして、唇を震わせて、白い頬を染めて。
もう叶わないんだろうな。
君はもう僕を見ないから。
僕は分かってるよ。
君の気持ちがどこにあるのか。
僕から切り出してもいい。
君に逢いたいと、突然言い出したのは僕だから。
でも、君が言わないと、君がフられたってことになるから。
でも、君が愛しいから、そんなことは嫌なんだ。
もしかしたら意地悪かもしれない。
ごめんね。
また君にはたかれるかもしれない。
巡るめく季節のように気まぐれで、生き生きとしていた君はよく僕をはたいた。
悪い気はしなかったよ。
女子を殴るなんてことはできないし、殴ったのは君だったから。
Mなのかな。
変態って君は笑うかな。
君が笑うならそれでいいよ。
僕は道化になろう。
この公園で、何度も僕は道化だった。
そう言えば君はよく言った。
アンタって道化みたいって。
顔だってたいして良くないし、スポーツも勉強もそこそこで、いわゆるジミーズの類に入っていた僕。
でも、僕は派手な仲間たちといた。
僕といると楽しいって仲間は言った。
僕がトロいからだろうね。
自分でも薄々気づいてたけど、君に言われてショックだった。
でも、人のためになるんだったら僕は慰み者になるよ。
公園の滑り台で、滑るのに失敗して頭から桜の散る砂場に突っ込んだ時、君は笑った。
鉄棒の逆上がりでカッコつけようとして、成功したけど、手についたサビで顔の汗をぬぐって変な顔になった時も。
落ち葉を足で踏んづけて遊んで、犬の糞を踏んでしまった時も。
手袋をもってきて、君の手につけようとしたら穴が開いていた時も。
バカみたいだったけど、君は笑ってくれた。
今君が笑うなら、僕は道化になろう。
そう思って、公園を見渡した。
その時、雨が降ってきた。
君は空色の傘をさし、僕は黒い傘をさした。
君の好きだった空色の傘。
晴れを望む君にその傘はぴったりだ。
僕は、雷の嵐の夜が好きだったけど、君と雨の下で空色の傘に入るのはうれしかった。
新緑の葉が濡れ、雨露が滴り落ちる。
君は傘の下でうつむく。
ごめん。
僕のせいだ。
君は泣くことないのに。
僕がダサいからいけないのに。
僕は君のもとに行こうと、足を踏み出した。
ニ、三歩歩くと、僕はみごとに滑ってコケて、出来たての水たまりの中に足を突っ込んだ。

「……何やってんの」

泣き笑いのような顔で、君はタオルを持って僕の方に駆け寄った。
小さくため息をついて、僕の足を拭く。
「ごめん」
「……いいの…」
君はそう言って、いいの、いいの、ごめんね、ごめんねと何度もつぶやいた。
眼窩から君には縁のないはずだった液体が、頬を伝う。
こんなことさせちゃいけなかったのに。
この公園は思い出の場所で、君はいつも笑っている人で、僕は道化でもいいから人を幸せにするはずだったのに。

「ごめんね……あたしがいけないの。アンタがいたのに、心変わりなんかして」

分かってたよ。
君の視線は虚ろだったから、僕に焦点を結ぶことがなくなってきていたから。
それでも、君を付きあわせたのは、僕のワガママだったんだよ。
君は悪くないって分かって欲しい。
「いいよ、楽しかった」
それだけ言って、僕は君に顔を近づけた。
僕の唇を君の頬にかすめる。
君の傘から、小さな滴が水たまりに落ちて、いくつもの輪を作った。
「行って」
僕は耳元でささやく。
君は、何度も首を横に振った。
ダメだよ。
道化は人を泣かさない。
笑わさなきゃいけない。
笑われても構わないから、泣かせる事だけはしたくなかった。
「泣いちゃだめだよ。僕が魅力がなかっただけなんだって。道化みたいな僕に気遣う必要なんてないよ。道化は所詮奴隷なんだから」
「違う!」
君は鼻にかかった声で言う。
「道化っていったけど、でも、それは一緒にいて笑えたから」
「じゃあ、今まで笑わせたお礼に、僕の願いを聞いてくれる?」
この時、君は何を想像しただろう。
もう一度やり直すことを願うと思ったかな。
「勿論」
「幸せになってよ、ね。でも、君を幸せにするのは僕じゃないから」
僕は君の肩を、トンと押した。
君は躊躇うようにしながらも、立ちあがって、去った。
空色の傘は、いつまでも残像に残った。

小さな、道化の哀れな話。

後書き

久しぶりに書きました。
まあ、色々と察して読んでみてください。
コメントお待ちしております。

この小説について

タイトル 僕は道化になろう。
初版 2010年12月18日
改訂 2010年12月18日
小説ID 4154
閲覧数 858
合計★ 4
早房 翡翠の写真
ぬし
作家名 ★早房 翡翠
作家ID 517
投稿数 18
★の数 140
活動度 3109
一年が終わります。
来年の目標は、何処かの公募に応募すること!!

コメント (2)

★せんべい 2010年12月21日 0時54分17秒
読者に読ませる、という点でこの作品はそれができているように思います。
前半しっとりと始まり、最初は詩なのかな? と思わせる不思議な感覚でした。
その点は好きです。


ただ、早房さんは自身の手でこの作品の良い雰囲気を壊しているように思いました。
「フられた」「ジミーズ」「トロい」「カッコつけよう」「ダサい」「コケて」
など、カタカナが入っている単語はふさわしくないのでは、と感じました。
(プロポーズなどの単語はまた別)
これらの言葉は他の単語で代用できると思うので、早房さんの豊かな表現力でそれを補えるのは容易だと思います。




あと余談ですが、最後の一文はいらないように思います。
自らこの作品の余韻を殺している気がしました。
これは人によって意見が分かれるところだと思いますけども。
★エーテル 2011年1月22日 5時53分25秒
一つの視点から書かれた小説は感情的なものがストレートに伝わってきます
悲しさ やるせなさ
ただ 慈悲が最終的に視点の一部に加わったのか
加わらなかったのか…

恋愛的感情に対してストレートに受けとめれる特に若い無垢な世代にはウケると思います
もう少し歳が行くと打算的になってきます
そういう意味何か純粋な素敵さが感じられて好感のもてる作風ですね…
誤解だったら悪いのですが
作者さんはかなり若い方と感じたもので…
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