僕と村の魔女 - 紅茶と魔女と思いやり__01

閑散とした空気の中、辿り着いたのは一つの村だった。
寒空の下、冷え切った空気が肺にしみる。
きっと鼻は赤いと思う。
首もとのマフラーを引き上げ眼下に見えてきた村を目指した。


             *               *      


「右…よし」
「左よ‥し」

今日も窓の外には小さな影が見え隠れしている。
折角の小声の合図も時たま聞こえてくるくしゃみのせいで台無しだったりする。
季節も変わり冷たい空気が肌をかすめ、吐息はすでに白く溶けていく。

『せぇ〜の』

小声でタイミングを計りつつ侵入を試みていたのだが

「なにしてんだ、お前等?
ちゃんと玄関から入って来いよ」

アドニスの一言により台無しになってしまったことは言うまでも無かった。
自称 王の命に…以下省略〜、パンプキン討伐対の面々は
悔しそうにアドニスを見上げた。正確には睨んだ。

「なんだよ? 早く入ってこないと風邪ひいちまうぞ」
「おい、いつまでも開けっ放しにすんな。部屋の温度が下がるだろーが」
「わかってるって」

部屋の奥から声がしたかと思うと今度は本棚から
部厚いハードカバーの本が鈍い音をたてて落下した。
ひとりでに落ちた本はやはりひとりでに開き、
何故か開いたページの上に扉が出現したのだ。
全く忙しい家だ。

「パルノー、ミモレットが帰ってくるぞ」

アドニスはもう慣れた様子でその不思議な現象を観察している。
乾いた音をたてて扉が開いた瞬間、黒い塊が床に崩れ落ちた。

「いっっっ〜〜」
「大丈夫か?」

アドニスは黒い塊を抱き上げると椅子の上にそっと下ろした。
黒い塊_もちろんそれは魔女だった。                             
「師匠! 村長から蓮楽鳥が来ていますよって…」
「あはははは。ただいま」

肩に青い鳥を乗せて出てきたパルノは椅子の上にいる魔女に思わず脱力した。

「今度はなんですか? 
どうしたら、そう いつも いつも怪我ばかりこしらえてくるんですか」

そう言うと一度部屋を出て行った。
すぐに戻ってきたパルノの手にはお湯にさらしたタオルと救急箱が。
椅子の上には腕を抱えたまま座っている魔女が罰の悪そうな顔をして
こちらを伺っている。

……どっちが師匠なんだか。

「ミモレット〜、痛い?」
「今度はどうしたんですか?」
「魔女のくせに変な奴〜」

いつの間に部屋に入ったのか、おチビ達はミモレットの周りを取り囲んでいた。

「ったく、しょうがねぇな。ほれ、どいた、どいた」

おチビ達を散らすと椅子のそばに膝を折り、応急手当に入る。
アドニスは不本意という顔でパルノの補助として部屋の中を行ったり来たり。
医者志望の彼にしてみたら良い機会なのだ。

「良かったじゃないですか、アドニスさん」
「俺もそう思う」

仏頂面のアドニスを見上げながらトミーが不思議そうに口にすると
チャパもそれに同意した。
街から離れている村には大抵医者はいない。
しかし幸いなことにこの村には優秀な医者がいたのだ。
……魔女だけど。
魔女ほどの知識は無いがパルノも立派に医者の代わりが出来ていたので、
治らない病気は滅多に無かった。
アドニスも認めてはいるのだが……。

「あいつの指示だから腹が立つんだよっ」

パルノとは馬が合わないらしい。

「意地っ張りぃ」
「馬鹿ですねー」
「へタレだな」


_アドニス ココロに 35のダメージ_


自分よりも年下だからこそダメージも大きい。
3対1はさらに分が悪い。
こちらが一言、言い返すだけで倍以上が返ってくるのだから。

(確かに意地張ってる俺が悪いんだろーけど…)

足りなくなったという包帯を持ってパルノのところに行くと

「遅いっ! もっと早く 探せねーのかよ?!」

ひったくるように包帯を取ると背を向けるパルノに固まるアドニス。
心なしか肩が震えている。

(…これさえなければっ)


           *             *


部屋の中がカモミールの香りに満たされ、蓮楽鳥が羽を掬っている。
一見極々普通の日常だが、実際はそうではなかったりする。

「だめですっ! 大人しくしててください。私がやりますから!」
「いいの、普段も私がしてるんだから。スーランがする必要は無いのよ?」

淡いグリーンのエプロンドレスを揺らしながら、魔女の召使は苦難している。
ミモレットはスーランの手が届かないようにポットを右、左。
それに呆れる見習いが一人。
面白がっている子供が三人。
まだへそを曲げているのが一人。
なんともおかしな光景だ。
そんな中、終止符を打ったのは…。

「おいしいお茶ですね。もう一杯いただけませんか?」

帽子をかぶった男がカップを差し出しながら訊ねた。

「はいはーい」
「あっ、奥様!」

ミモレットはスーランの手を軽く避け、カップにカモミールを注いだ。

「いや、本当にいい香りだ」

男はそう言うとミモレットに礼を言った。
違和感に気付いたパルノの第一声は…。

「…ってゆーか、アンタ誰?」
「はいっ?」

一斉に視線が男に注がれたのは言うまでもなかった。
気付こうよ、皆さん。
特にミモレット!
その隙にスーランは負傷しているにもかかわらず、家のことをしようとしている魔女からまずはポットを奪還。
次なる作戦はソファーへ。
なかなか厄介なハードルだ。

「で、おっちゃん、誰?」
「おっちゃん…。これでもまだ二十代なんだけどな」

何の悪気も無い子供たちは男のコートを引き、自分達の目線に彼を合わせた。
悪気が無いのだから、何を言っても許される…というわけではない。
けれど、そこは子供という事で大目に見るのが大人の貫禄というものだ。
なので男も、それ以上は何も言わなかった。

「これ、カックイー」
「珍しいデザインですね」

子供達はいつの間にか男の袖をまくり、
手首につけられているブレスレットに感嘆の声を上げた。
男は満足気に子供達の前に腕を出し、よく見せてやった。
一言でブレスレットと言っているものの、
かなり横幅があるのでアームバンドの方が名詞的にあっているかもしれない。
デザインはトミーの言うように
この地方ではあまり見られない模様がいくつも織り込まれている。
全体的に朱色で彼にとてもよく似合っていた。

「……。あげませんよ?」
「え〜」

チャパがあまりにも『欲しー』 と、連呼するので男は途中で釘を刺す。
もちろんチャパは不服の声を上げる。
男は少し困ったように小さくため息をつくと手首に目をやった。

「悪いけど、これだけは譲れないんだ。これは僕にとって大事なものだから」

男は大事そうに優しく手首を包み込んだ。
朱色はチャパの視界から一時消えた。

「ちぇ〜、駄目か」

チャパはつまらなそうにソファーによしかかった。
ミモレットがミルクティーを運んできてチャパの頭を軽く叩くと困ったように笑う。
もう陽が傾き始め、西の空に鳥たちが岐路を辿り始めている。

「……。ミモレット、腕は?」

叩かれた頭に手をやっていたチャパが思い出したように声を上げた。
そういえば、そうかも。

「この通り、完治したわよ」

そう言って腕を振った。なるほど、完璧に治っている。

(…少し、早くね?)

チャパは呆れたように復活した魔女を見た。
後ろのほうで召使いのスーランが悔しそうにしている。
彼女はいつも自分の仕事を魔女に取られてしまうので
『今回こそは』と張り切っていたのだ。
……頑張れ、スーラン。
とりあえず、脅威の回復力を見せたミモレットのことは魔女という事で目を瞑りましょう。

後書き

今回も長くなりそうなので、何回かに分けて掲載する予定です。
このお話には違う魔女さんも出てきますので、乞うご期待って感じです。
また次回、お会いしましょう。
では。

この小説について

タイトル 紅茶と魔女と思いやり__01
初版 2011年1月21日
改訂 2011年1月21日
小説ID 4181
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札木翼の写真
熟練
作家名 ★札木翼
作家ID 637
投稿数 10
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活動度 1113
はじめまして、こんにちは。
のんびりと掲載していきたいと思っています。
よろしくお願いします(m^□^m)

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