メイワクな贈り物 - 第7話『Another aspect』

朝の挨拶が飛び交う校舎内の廊下。
私はそんな爽やかに挨拶をしてくれる下級生を持って本当に鼻が高い。
成大高校3年の生徒会長であり空手部主将で全国大会にも出場した経験のある若林瑞樹といえばこの学校で知らない者などいないだろう。
最近2年に転校してきた鏡財閥の娘ほどとは言わないが、私も結構裕福に育ってきた方だ。

規則を破っている者がいれば注意をし、直させるのが最近最も多い仕事とも言える。
服装、髪の毛、サボりetc…
大抵は言えばわかってくれるのだけど、反発してくる生徒たちも少なくはない。
“不良”が嫌いな私。
いけないことなのだろうが、逆らう生徒にはそれなりの覚悟はしてもらっている。
そんなことで周りからは期待され、信頼される存在となったわけ。

そう、それがきっかけで始めた企画。
【困ったBOX】
困った生徒たちのそれぞれの悩みを紙に書いてもらって中に入れるBOX、ネーミングセンスについては攻めないでほしい。
今日も朝早くに登校し、真っ先に箱の中身を取り出した。

“生徒会長かっこいいです”
“会長付き合ってください”
“憧れています”

最近の生徒は箱に書いてある内容を無視することが多くて困る。
その中で一枚、目に止まったワードがあった。
“坂本正志について”

坂本正志とは、この学校どころかこの地域でも有名な不良チームの頭であり教師も彼には頭を抱えているというほどの男だ。

“授業中に机の上で焼肉をするのはやめてほしい。
こっちまでお腹が空いてたまりません”

それは止めさせればいいのか、我慢しろと言えばいいのか。
あの男は何か感知をする力を持っているのか、いつも問題を起こして私が向かった時にはすでにその場にはいなくなっている。

溜息を付きながら最後の紙を開いた。

“置田浩二が怖いです”

一度大きな何かが胸の中で鳴った気がした。
置田浩二は、坂本正志と幼馴染で彼もまた不良の中でも有名人で問題児。
ただのヘタレ不良だと思っていたのだが、前回の出来事で彼はこの私よりも強いことを知った。
自分は強い、強くてはならないと言い張る坂本と、それとは全くの逆で強さなど全く求めていない置田。
それが勘違いとなって、彼が弱い、と認識していたのだ。


瑞樹「置田、浩二」
奴もまた大きな不良であり、問題児でもあり私が最も嫌いとする人間の一人。

―――なのに何故。
何かがこんなにも胸を叩くのだろうか。
紙に書かれた彼の名前をじっと見つめる自分の気持ちを理解していないわけではなかった。
ただ――――そんな自分の気持ちに気づかないフリをしているだけなのだ。





携帯を開いて時刻を確認するとすでに日付は変わっていた。
眠りについた商店街が余計に寒さを感じさせる。

正志「…さみ」
先ほどまで俺が仕切る<JET STREAM>という不良チームの集会があり、ちょっとした出来事の報告により別のチームを沈めてきたばかり。
喧嘩では驚くほどの強さを持つ俺、坂本正志にはたった一人だけ互角といえる男がいた。

“置田浩二”

ただ幼馴染で腐れ縁の奴とは強さの価値観が違っていた。
舎弟がいて、強さを求めいつも上にいる自覚を持たないといけない俺と、その強さを必要としていない浩二と。
確かに浩二がいればチームも最強になることは間違いない。
けど、奴はそれを拒み、また拒むことをわかっている自分がいる。

――――それが腐れ縁、か。

タバコの煙を大きく吐いて小さく笑みを浮かべる。

そういえば女っ気のなかったはずの浩二が、最近転校してきた美少女の鏡真夜と一緒に暮らしている。
まぁ奴のことだから何か理由があることは間違いないのだけど、その情報が俺に入ってくるのも時間の問題だから今は聞かないでいる。
そう、恋愛だのなんだのとは全く別の理由があるはずなんだ。
しかしそれがまた面白くもあり、楽しみでもある。
自分と並ぶくらいの不良とお金持ちの美少女、ミスマッチのように見えるが俺はそうは思わない。
あれはあれでなかなかのもんだ、と思って見ている。

――――ただ。

俺はあいつの中身を知っている。
中に秘めた冷たくて暗い感情、心に傷を負わない奴がいるとすれば間違いなく浩二のこと。
確かにあいつの家庭状況は最悪だったことはわかっている。
それでもあいつは自力で立ち上がって、顔を上げた時には今と同じ顔つきになっていたんだ。
全てがどうでもいい、めんどくさい、それが居心地良いと感じている俺もいるんだが。

正志「ま、めんどうに好かれる奴なんだがな」
めんどくさいことが嫌いな奴ほどめんどうが降りかかる、というのはこういうことだ。

間違いなく俺は一生奴と関わっていくだろう。
そういう立ち位置にいる自分にとって、鏡真夜の存在は大きいと思う。
彼女が浩二にとってどうなっていくのか、どうしていくのか。
柄にもなく、いい方向にいけばいいと思っている自分には否定するつもりはない。

――――本当に柄にもねぇな。

商店街のウィンドウに写るピアスだらけで茶色い髪をした自分を見てそう感じた。

正志「さて、明日は教室で鍋をしよう」
自由人な俺は明日の予定を大まかに決めて、ゆっくりと自宅へと足を運んだ。







幼稚園でもらった本を何度も読み返していた。
でんきこうじ?か何かで休園日の今日、『おぼえよう、あいうえお』と書かれた本を読みながら時間を潰していた。

月夜「か、が、み、つ、く、よ」
自分の名前を文字で確認しながら頭に入れていく。

―――鏡月夜。
本当の名前ではない、わたしの名前。
幼稚園でもよく、本当のパパとママはどこにいるの?とよく聞かれる。
一生懸命ママとコージと答えるが誰も信じてくれない。
自分と他の子たちとは違うことはわかっている、わたしは空だって飛べてしまうのだから。
生まれ方も違う、そんなことを周りに説明してはいけないことはわたしにもわかっている。
ただ、わたしにとってママとパパはあの二人で間違いないのだ。
それだけで十分。

月夜「か、が、み、ま、や」
ママの名前。
穏やかで優しくて、わたしを大切にしてくれている大好きな人。
決してママは笑顔を崩さない。
だけどちょっと料理がヘタっぴで練習中。

月夜「お、き、た、こ、う、じ」
パパと呼んだら怒るパパ。
コージはいつも目つきが悪くて、口調も乱暴で、ちょっと悪そうな人。
めんどくさい、どうでもいい、が口癖。
だけど、知ってるよ、コージが本当は優しいこと。


こんな二人がわたしの親。
そして、ここが自分の家、と胸を張って言えるくらい今は幸せ。
だから幼稚園でも何も恥ずかしいことはない。

友達もちゃんとできたし、運動も男の子にも負けないほど。
柔らかいボールでキャッチボールする時もわたしが一番早い。
コージに『相手の憎たらしい顔面めがけて……こうだ!』などとちょっとわかりづらい言葉が多いけど教えてもらったりする。

いろいろしてもらって、いろいろ教えてくれて本当に感謝してるよ。

よし、まだ二人が帰ってくるまで時間があるからお絵かきをしよう。
わたしとママとコージが遊んでいる光景を。
幸せいっぱいいっぱいを描こう!





授業も終わり、帰宅部である私は校門前で彼を待っていた。
私、鏡真夜は鏡財閥の社長の娘でよく周りからは『世間知らずのお嬢様』と言われることが多い。
最近はあることがきっかけで同居することになった彼にいろいろと世間について指導してもらっている。

置田浩二、彼は大好きだった父に似ている。
見た目ではない何か、性格なのか態度なのか仕草なのか。

もうこの世にはいない父。
子どもを庇って去っていった父。
ちょっとケンカっ早くて不器用な人だったけど、とても優しかった。
自分の前からいなくなった時はつらかったけど、今はもう大丈夫。

お守りであるピアスに触れながら私は記憶の中の思い出を開いていく。
高校では禁止されているアクセサリーのピアス、決して不良ではない私が唯一している規則違反。

幼い頃、私は本当に喋らない子どもだった。
笑うこともなく、友達も全くいなかった。
そんな私の前に現れたのが、このピアスをくれた男性で、彼の言葉は今でもまだちゃんと残っている。
笑顔をくれて、前を見ることを教えてくれた。

私は大丈夫、これからもきっと大丈夫。
月夜にもそう思いながら育ってくれると嬉しい。

私は高校二年生で当然あの子とは血の繋がりはない。
だけど私は月夜の母と胸を張りたい、ママと言ってくれている以上私は答え続けたいしこれからもずっと一緒にいたい。
こんな幸せが一生続けばいい。

きっとそれが許されない時がいつかは来る、私も浩二さんも不思議とわかっていた。
そんな日が来ないことを私は願うことしかできない。

顔を大きく振って、マイナスになりかけた感情を無理やり立て直す。
―――うん、今を大切に生きよう。
思い出の人にもらった言葉をしっかりと胸に秘めて。

靴を履き替えた浩二さんがこちらに向かって歩いてくる。
テストの点がどうとかで呼び出されて酷く怒られたのか、いつもに増して不機嫌そうな表情をしている。

真夜「……あ」

気がついた時には遅かった、運動場から勢いよく飛んできたサッカーボールが彼の顔面に当たっていた。
ゆっくりと立ち上がる浩二さんから放たれる殺気で、サッカー部員もボールを取りに行けなくなっている。
逃げ出す部員たちもいた。
校内で最も恐れられている彼にボールをぶつけたのだから恐怖しか生まれないだろう。

―――でも今は私がいる。
私は薄っすらと笑みを浮かべて彼の元へと走り出した。

真夜「ほら浩二さん、早く晩御飯買って月夜を迎えに行きましょうっ」
彼は頑固だが、ちゃんと理解してくれる人だから。

後書き

最近ちょっと忙しくて挫折気味ですが…最後まで書けるように頑張ります。

この小説について

タイトル 第7話『Another aspect』
初版 2011年1月30日
改訂 2011年1月30日
小説ID 4191
閲覧数 992
合計★ 5
HIROの写真
ぬし
作家名 ★HIRO
作家ID 199
投稿数 36
★の数 52
活動度 4305

コメント (2)

★takkuりばーす 2011年1月30日 22時44分13秒
どうも、お久しぶりです。
この間第6話で感想を書こうとしたらIEのエラーでコメントが消えてしまい、軽く鬱になったtakkuです←弱
第3話(……でしたっけ?)から間を開けてのコメントとなりますが、早速逝きたいと思います。

すっかりフリーダム&ギャグキャラと化してしまった正志……イイですねw
いい感じで浩二やらのオモチャになってますが、それでもことケンカとなれば浩二とタメを張るくらいの実力者……なんですよね?←何故弱気
そんな中現れた新キャラの『若林瑞樹』ちゃん。大概ラブコメだとこういう委員長タイプの子って主人公(この場合だと浩二)にフラグを立てられるのが定石なのですが……その前に彼女の場合はまずツンからデレに切り替わる事が重要になってきますが←ぇ

そして相変わらず究極フリーダムな真夜ちゃんと月夜ちゃん。ぱっと見、親子っぽいのはこの二人な気もしますがそれでも月夜ちゃん自身はちゃんと浩二を“父”として認めてるんですよね。
……本当の意味で浩二が父親らしくなるのは一体いつになるのやらw
自分もかーなーり不定期な連載となっていますが、それでも頑張って書き続けていこうと思いますのでHIROさんも頑張ってください!←追い打ちかけんな
★HIRO コメントのみ 2011年2月2日 14時43分04秒
>takkuりばーすさん
お久しぶりです。
たまにありますよね、、、そういう鬱になりそうなこと(汗

正志がいるからこそこの物語が成り立っている、そんな気が最近しますw
ですね、一応あんな男でも不良グループのトップですから…w
主人公(浩二)は強さを求めていない、悪い名声も必要ない、そういうのを出したくて彼女に登場していただきました。
道場の件の後の浩二に対する接し方が面白くなりそうですw

確かに親子らしいのはあの二人ですね。
父、と認めていないのは浩二だけで、この先あの性格が直るのかどうか…。
やっぱり抱えている“トラウマ”が理由ですね。

takkuりばーすさんの小説もゆっくり見させていただきますね☆
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