夢の楽園 - 第4章:彼の目的

第4章:彼の目的


 そこは深い森だった。
 街からは大分離れた崖の上二あると言ってもいいその大きな森の中に、1人の少年がいた。
 少年は10代ほどに思われ、マントで体を覆っていた。
 マントから顔が薄っすらと見える状態で、その少年は森を進む。
 三日月が地面を照らし、少年の行く先を導く。
 森にはある境界線があり、そこから向こう側は妙に明るかった。
 見たこともない青い空が広がり、見たこともない何かが月とは別物の光で街を照らしていた。
 それを先ほど少年は目にし、驚愕した。
 そして同時に、この現象を起こしたのは“奴ら”なのではないかという疑いも生まれた。
 奴らの事だ。
 どんなものを犠牲にしてでも研究を続けるのだろう。
 そう思っただけで怒りと虫唾が走り、少年はさらにスピードを上げて歩き出す。
 それからしばらくすると、森の中に一つの巨大な白い建物が見えた。
 少年はその建物にそっと近づきある入り口を見つける。
 壁に薄っすら線が見え、ここが入り口だと示している。
 抜け道に作られていたことを少年は知っていた。
 だが奴らがここを使うことはまず少ないだろう。
 開けるのに時間がかかると少年が手を添えたとき。
 それは、簡単に外れた。
「・・・・・・」
 何年も使っていない入り口の扉がこんな簡単に開くわけがない。
 最近誰かが通過したのか?
 そう考えるが、今はそんなことはどうでもよかったと我に帰る。
 早速その入り口を使い建物の中に侵入する。
 すると直ぐに長い廊下が現れ、見張りの人間が妙に多かった。
 普通はブロックごとに2・3人なものを5人・6人はいる。
「ッチ・・・・・・」
 小さく舌打ちをして、少年は駆け出した。
 バッ! とマントが翻る音がして、それに気づいた見張りは少年を見やる。
 が、一瞬気づくのが遅かった。
 1人2人と少年はキックをお見舞いし、見張りたちは床に倒れて気絶する。
「なんだお前!?」
 残りの見張りも少年に気づき警戒態勢に入った。
 それと同時に床を蹴り、宙へと少年は舞い上がる。
「!!」
 驚く見張りを無視し、その場にいた男達は皆気づけば気絶していた。
 騒ぎを聞きつけ、遠くから大勢の男達の声が聞こえた。
 今倒した男達と同じで見張りだろう。
 少年は見つかる前にと先を急いだ。


「ネオン様」
「何だ」
 とても広い部屋の中。
 イスにどうどうと座った人間と、清楚正しく立つ二人の人間がいた。
「また、ねずみが入ったようで」
「・・・・・・ここの基地のセキュリティが最近は甘くなっているのか?」
 ばつが悪い顔でネオンは呟き、ため息をついた。
 一方もう1人の人間は何も動じていない様子だった。
 冷静にセキュリティの話を長々と語り始めた。
 それを聞いたネオンはげんなりした顔で「もういい」とストップをかけた。
「それより、勝手にあのアンドロイドを少年から奪おうとした奴等がいたそうだな?」
「ええ。・・・・・・この施設の下働き3人ですね。貴方の命令ではなかったのですか?」
 ネオンは心外だと相手の言葉に不満そうに呟き、続けた。
「確かに私はあの3人に少年とあのアンドロイドを見つけるように言った。だが、誰も“手荒真似をしてもいいから連れ戻せ“までとは言っていない。少年がこちらに深入りしようとするなら最悪処分。だがそうでないのならあのアンドロイドを返してもらう交渉すればいいだけの話だ」
 目を伏せて、何かに思い日たっているかのようにネオンは話す。
 相手が何も言わないので、しばらく沈黙が流れた。
 ネオンは目を開け、相手に振り返る。
 と、そこには誰もいなかった。
「あいつ・・・・・・いつから!」
 自分の話を聞いていたのか聞いていなかったのか。
 正直判らない。ネオンはイスから立ち上がってその部屋を出た。



 そこは基地内のどこか。
 これだけ広いとこの研究所に関わりのある人間が全員把握できているのか不思議に思う。
 その研究所の長い廊下をコツコツと足音をたてながら歩く青年がいた。
 黒髪に眼鏡をしていていかにも真面目そうな顔つきをしていた。
 その青年はシュッと音を立てて左右に開いた自動ドアを潜りある部屋の中へと入る。
 そこにはモニターが部屋中に広がっており、どうやらこの研究所内に設置されている監視カメラの映像をまとめている場所だと思われた。
 青年は下から上まである映像を眺め、あるカメラにマントを羽織った人物が映った。
 それを見て、青年は笑みを浮かべる。
「鼠め。こんなところまで来たか」
 忌々しそうにそのマントの人物を見つめ、彼は言った。
 それから、マントの人物。
 彼の素顔がそのモニターに映し出されるのは少しあとの事である。

 
 どこにいるんだ。
 少年はそんな言葉を心の中で何度も呟いていた。
 どこにいるんだ。
 この何年も探していた。
 ずっとずっと、探していた。
 ――あいつは、かならずここにいるんだ!
 目の前に分かれ道が見えて、左に曲がろうとした刹那。
 その方向から、1人の人物が現れた。
「!」
 少年は驚き、目を見開いた。
 そして次の瞬間。その表情は、怒りに変わる。
「君の探しものは、私ですか?」
「ヴィーダ!」
 嫌悪をむき出しにし、少年、エオは叫んだ。
 一方黒髪に眼鏡のヴィーダと呼ばれた青年は、何も感じていないかのような無表情で少年を突き飛ばす。
「今は、アルベールだ」
「っそんなことはどうだっていい。オレはここ数年お前をずっと探していた」
 マントを脱ぎ、エオは腰に下げていたナイフを手に握った。
「やっと、見つけた!!」
 勢いよくナイフがアルベールに向かい、刺さる。
 ポタ・ポタ・・・・・・と透明な床に赤い液体が模様を描いた。
 その血は止まることなくアルベールの左手から滴り落ちる。
「っつ・・・・・・」
「・・・・・・こんなことのために、お前は人生を捨てたのか」
 エオの攻撃はとおったのではない。
 わざとアルベールが受け止めたのだ。
「はっ・・・・・・こんなこと? お前がよく言う」
「・・・・・・・・・・・・」
 エオは握っていたナイフに力をいれ、再びの叫びをあげた。
「お前が! 2人を殺したくせに! なのに、のうのうとお前は生きてる! ふざけるな!」
「2人? ああ・・・・・・。母さんと父さんか。そんなやつらも、いたな」
 その言葉を耳にした瞬間。
 エオの怒りが頂点に達する。
「ヴィーダ!!」
 エオがナイフを離し、さらに隠していたナイフを再び手に握り締めた時だった。
 一瞬アルベールの反応が早かった。
 エオは彼の長い足に蹴飛ばされ、数メートル先へと吹っ飛んだ。
 床を擦るように吹っ飛んだエオは、やがてその場に倒れこむ。
 ツカツカとそんなエオにアルベールはゆっくりと近づいた。
「これがお前の人生だ。俺に近づかなければ死なずにすんだものを」
 呆れるような、哀れむような。
 アルベールはそんな瞳で彼を見た。
「っつ・・・・・・お前が、生きてるってのがムカつくんだ。・・・・・・どうして、2人を殺した? なんで、殺したりしたんだよ!!」
 吐血しているにもかかわらず、エオは今までで一番大きく叫んだ。
 そんな言葉も、アルベールには届かないように。
 彼は、返事をしなかった。
 そして去っていく彼の後姿が見える。
 薄れる意識の中、エオはずっと彼の背中を追っていた。
 とうとう見えなくなった頃。彼の瞳には暗闇が訪れた。





 青い空と暗い空が混ざる境界線がギリギリ見える小屋の2階で。
 1人の少年がベッドに横になっていた。
 すぅすぅと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。
 その小屋の1階には3人の人物。
 1人は黒髪の20代と思われる青年。もう1人は赤髪に近いオレンジの髪をした同じく20代の青年。
 そして最後の1人は、10代半ばほどと思われる珍しい白髪の少女。
「シェラ。何があった? ロアンがエオと呼んでいた少年も、何者だ?」
 シェラ。
 ロアンに貰った名前。
 あの瞬間から、彼女は「シェラ」になった。
「・・・・・・ザウラが私達と判れたあと直ぐ。私とロアンは何者かに捕まった・・・・・・。気づけば私の目の前には「エオ」という少年がいて、彼からロアンは別の場所にいると知らされた」
 自分が理解しきれているところまでをシェラは2人に話、俯く。
 それを聞いた2人は顔を見合わせる。
「何があったかは大体分かった。つまりロアンとシェラは何者かに狙われた。と、いうことだ」
 ザウラが言うと、となりの青年ラウが続きを引き継いだように言う。
「だが、どうしてロアンとシェラが狙われた? ザウラの研究を狙ってというわけではないみたいだし、2人を狙った奴らは誰なんだ?」
 その質問にシェラは答えることができるが、答える気になれなかった。
 それを知っているロアンは狙われた。
 2人に話してしまったら、またロアンのように狙われるかもしれない。
 ロアンはまだ眠っている。
 自分はどうすればいいのか。
「・・・・・・・・・・・・」
 俯いたままのシェラを見て、ザウラはラウに顔を向けて小さく笑った。
「まぁ・・・・・・無事でよかった。シェラも休め。話をしてもらって悪かったな」
「あ・・・・・・」
 席を立ってキッチンに向かうザウラに、彼女は何かを言おうとしたがその言葉を引っ込めた。 
 シェラに睡眠は必要ない。
 だが自分を人間と思っている2人に「寝ない」などと言えば心配を生む。
 シェラは「おやすみ」と2人に告げると、つかつかと階段を上がってロアンがいる2階の部屋へ向かった。
 部屋の扉を開けると、未だに眠っているロアンが見える。
「ごめん・・・・・・ロアン」
 きっと自分のせいなのだと、彼女は自分を責めた。
 自分はあの研究所で作られたアンドロイド。
 あの男達はきっと自分を連れ戻しに来たのだと察しがついた。
 ロアンは関係ないのに。
 彼女はベッドの傍に膝を立てて座った。
 そっと、無意識に彼の額に自分の手のひらを添える。
 ロアンが、もう目覚めないような気がした。
 瞳が閉じたままの彼を見ていると、そう思えて仕方がない。
「私が、抜け出さなければ」
 事の元凶は、すべて自分なのだ。
 そう呟く彼女の脳裏に、笑ったロアンの顔が浮かぶ。
 自分がもし抜け出さなければ、ロアンとの時間はなかったのだ。
「・・・・・・う」
「!」
 ビクッとシェラは思わずロアンの額から自分の手を離した。
「ロアン・・・・・・?」
 ゆっくりと、彼の瞳が開いていく。
 それから。
 ぼーとしたような顔をシェラに向け、ロアンは笑った。
「よかった。夢じゃなかった・・・・・・無事で、よかった」
 その言葉を聞いて、シェラは申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい・・・・・・」
「え?」
 ロアンはベッドから上半身だけを起こし、誤るシェラを見た。
「ロアンは、関係ないのに。あの人たちの狙いは、私だったはず」
「・・・・・・・・・・・・」
 俯くシェラに、ロアンはゆっくり手を当てた。
 そして頭をくしゃくしゃにする。
「シェラのせいじゃない」
 言い切るロアンにそれでもシェラは言う。
「でも、私が現況なのは変わらない・・・・・・」
「・・・・・・君は、あそこにいたくなかったんだろ?」
 突然のロアンの質問にシェラは驚いたもののハッキリと頷いた。
「なら、一緒に逃げたオレも同じだ。オレだってあいつらには侵入者呼ばわりされたし。お互い様さ」
「ロアン・・・・・・」
 ロアンはシェラに笑いかけた。
 その笑顔に、シェラも小さく笑った。
それから。
「――――」
「――――」
 誰かが1階から階段を上がって部屋に近づいてくるのが分かり、
「起こすなよ?」
「お前こそっ」
 それは言うまでもなくザウラとラウディスで。
 2人はゆっくりと部屋のドアを開けると、そこにはベッドで眠っているロアンとシェラの姿があった。
 それを見て、2人は顔を見合わせて笑った。
 それは、今だけは2人に安寧と休息を与えていた。
 だが。
 それから数時間の後。
 ドンッ。
「なんだ?」
 ザウラとラウが1階で資料を見直していると扉のほうから何かがぶつかったような音がした。
 ザウラが扉に近づき、ゆっくりと開けると。
「君は・・・・・・!」
 あの時の少年が倒れていた。
 口からは薄くもう乾いてはいるが血が流れていた。
 ドタドタと1階が騒がしくなり、ロアンとシェラは目を覚ます。
「なんだ・・・・・・?」
 目を擦りながらロアンが呟き、シェラは立ち上がる。
「私が見てくる」
「あ・・・・・・オレも行くよ」
 ロアンもベッドから立ち上がり、シェラと共に部屋を出る。
 階段を下りると、ザウラとラウの話し声がよく聞こえた。
「ザウラ、ラウ。何かあったのか?」
「ロアンッ・・・・・・」
 1階につくと、ザウラのベッドに横たわる少年の姿が見えた。
 気を失っているようで、これだけ騒いでも一向に起きる気配はない。
「エオ・・・・・・?」
 ロアンはベッドに横たわる少年に近づきその名を呼んだ。
 シェラも一瞬驚いた顔を見せる。
「エオって・・・・・・ロアンとシェラを助けてくれたやつのことか?」
 ラウが小さく呟いた。
 ロアンとシェラは黙り、ただエオを見た。
 ザウラとラウには狙われた理由を話していない。
 そのままじゃ、ダメだと思った。
 だが、話してしまっていいのか?
 信じていないわけではない。
 でも、巻き込んでしまったら。
 2人の思考にそんな言葉だけが残り、さらに口を噤んだ。
「う・・・・・・」
「エオ!?」
 ロアンが叫び、さらに彼に近づく。
 すると、血がついた手でエオはロアンの腕を掴んだ。
「お前らは、何を知っている・・・・・・? あいつらと、どんな関係なんだ!?」
 かすれそうな声が、精一杯にそう叫ぶ。
 それを聞いて、「あいつら・・・・・・?」とザウラとラウは首を傾げた。
「ロアン・・・・・・」
 名前を呼ばれて、ロアンは視線をエオからザウラへと移す。
 ザウラの目は、何があったのかと問うている。
 そう直ぐに判った。
「・・・・・・すべて、話すよ」
 ザウラにそう言うと、今度はシェラに顔を向けて、
「・・・・・・それでいいか? シェラ」
 シェラはゆっくりと頷いた。
 それを聞いてエオがベッドから上半身だけを起こす。
「エオ、大丈夫なのか?」
「手の血は、オレのものじゃない。たいした事ない」
 そう言い切ってエオはロアンに瞳を向けた。
 そして、ロアンは何があったのか自分達の秘密をすべて話し始めた。

「それは、本当なのか?」
 ザウラがその場にいたロアンとシェラ意外の全員の言葉を代弁して言った。
「シェラが、人形・・・・・・?」
「正確には、アンドロイドだけど。シェラは、元々あの研究所の奴らが作った。だから、一緒に逃げたオレも同罪だ。どうせ侵入者呼ばわりされてたしな。だから狙われた」
 そういえば、とザウラは初めてロアンとシェラに会った時の事を思い出す。
 あの時ロアンは自分に攻撃してきた。
 それはあの研究所の人間だと勘違いしたからだった。
 つまりはそういうことだったのだ。
「侵入者のロアンはあのまま殺す気で、シェラだけを連れ戻そうとしたってことか?」
 ラウが青ざめた顔で言う。
 信じたくはないが、事実そうだ。
 エオが来なければロアンはずっとあの部屋に閉じ込められ、餓死するまであそこにいたことだろう。
「騙してるわけじゃなかったんだ。言えば、巻き込むと思った」
「ああ・・・・・・」
 ロアンの言葉にザウラは疑うことなく頷く。
「ありがとう」
 そしてロアンはただお礼だけを口にした。
 ロアンの話はある程度終わり、皆はエオを見た。
「エオ。君は奴らとどういう関係があるんだ・・・・・・?」
「・・・・・・いいだろう。オレも話そう」
 思っていたよりもあっさりと彼は了解し、話始める。
「恐らくそこにいるアンドロイドを作ったのはネオンというあの組織のトップの人間だろう」
「ネオン・・・・・・」
 あの時耳にしたその名をロアンは再び思い出す。
 シェラを作った、人間。
「オレが用があるのはそのネオンという男の部下。今はアルベールと言ったか・・・・・・そいつだ。奴らの情報をできるだけ深く探り、オレはこの森の奥にあるあの研究所を見つけた」
 この小屋とあの研究所までそう遠くない。
 エオはそのアルベールと会い少し負傷をおってここまで来たと話した。
「ロアン」
 エオは真剣な顔でロアンを見た。
「お前たちが狙われているなら、この小屋にいるのは正直危ないぜ。居場所を突き止められたらこの小屋からだと逃げ切れない可能性が高い」
 そうエオが言い終えた刹那。
 不幸は、やってくる。
「ザウラ=ローディス! 中に少年と少女がいるか調べさせてもらう!!」
「「「「「!!!」」」」」




「アルベール!」
 廊下を歩く彼に、男は大声で引き止めた。
「ネオン様」
「勝手に行動を取るな! ・・・・・・その血はどうした」
 アルベールは自分の手のひらを見つめた。
 そこから滴り落ちた赤い液体は、彼の来た道をまるで導のように表していた。
「ああ・・・・・・廊下に血がついてしまいましたね。すみません」
「そんなことを言ってるのではない。何があった!」
 ネオンはアルベールの腕を掴み追究する。
 彼の表情を見れば分かった。
 どうやらネオンは怒っているようで、それでもアルベールは「何も」とだけしか言わなかった。
「・・・・・・もういい。手当てをする、来い」
「勝手に行動をしたことは誤ります・・・・・・」
 ネオンに引かれながら進むアルベールは戸惑い気味に言った。
 その言葉にネオンは余計に気分を害したようだった。
「違う! それも確かにあるが、どうして手に怪我をした? そしてそれを放っておく?」
「・・・・・・・・・・・・」
 そこでやっと理解した。
 ネオンは自分が怪我をしたことを怒っているのだと。
「この傷は、償いですよ」
「・・・・・・・・・・・・?」
 唐突に、アルベールは呟いた。
「たった1人の、家族への」
「・・・・・・・・・・・・」
 それ以上、ネオンは何も言わなかった。
 それから。
 アルベールは手の怪我を手当てしてもらい、ネオンに言った。
「ありがとうございます。そして早速で悪いのですが、アンドロイドを持ち出した少年の居場所が分かりました」
「何?」
 エオは気づいていなかった。
 知らぬ間に自分の体に居場所を伝える発信機がついていたことに。
「この研究所からそう遠くない小屋です。持ち主はザウラ=ローディス」
「・・・・・・ご苦労。今から私が向かう」
 ネオンが即座に向かおうとしアルベールに背中を向けたとき。
「私もいきます」
「・・・・・・お前は怪我をしてるだろ」
「行かなきゃならないので」
 ネオンは思った。
 自分はアルベールに甘いのかと。
「・・・・・・好きにしろ。ただし無理はするな」
「はい」




「言った傍から、か」
 無理やり小屋の扉をドンドン叩いて開けようとする輩がいる。
 どう考えても研究所の人間であろう。
「ロアン。シェラと一緒に窓から逃げるんだ」
 エオが唐突に言う。
「ザウラ?」
「捕まれば終わりだ。あとから俺達も追いかける。どうせこの小屋にはもういれないだろう」
 ラウディスもザウラに同意権のようで何も口出しはしなかった。
 エオも黙っている。
「ごめん・・・・・・ありがとう」
 ロアンはシェラを連れて窓から森の中へと逃げた。
「エオ、だったな。巻き込んですまない」
「・・・・・・どうせオレも研究所の人間にはようがある」
 ドンッ!!
 大きな音がして、小屋の中へと兵隊のような男達がぞろぞろと現れた。
「少年と少女をどこにやった?」
「俺はこの小屋に引っ越して一人暮らしだ。子供なんていない」
 当りを見渡すが、やはりいない。
「探せ! どこかにいるはずだ!」
 するとそう士気を取る男を、エオはお構いなしに蹴りつけた。
「アルベールという男がお前たちの上にいるな? そいつはどこにいる!?」
「貴様!」
 兵隊達は隊長が狙われたことでエオ、ザウラとラウに襲い掛かる。
 ザウラとラウも仕方ないかと苦笑して襲い掛かってくる男達をなぎ倒す。
「子供の頃を思い出すな」
「これは遊びじゃないぞ、ザウラ」
 同時刻。
 息を切らしながらロアンはシェラを連れてどこに向かうわけでもなく駆けていた。
 なるべく研究所から遠ざかろうとスピードを上げる。
「シェラ、大丈夫・・・・・・か?」
「私は平気・・・・・・」
 さすがにアンドロイドとなるといくら走っても息切れなどしない。
「ロアンは・・・・・・?」
 心配そうに尋ねてくるシェラにロアンは笑って大丈夫だと答えた。
 ――シェラは、守らなきゃならない。
 ふと、そう思った。
 捕まったときも思った。
 自分は、どうしてこんなにもこの少女を大切に思うのだろうと。
 成り行きで連れ出してしまったのは確かに自分だ。
 でもそれは彼女の意思でもあった。
 そんなことは関係なくて。
 ――ただ、オレはシェラのことがすきなんだ。
 なんていえばいいのか判らないけど。
 最初は無口かと思ったけど、心配してくれていたり。
 笑った顔が、綺麗だと思った。
 まるで儚く夢の中に咲き誇る純白の花のように。
 ――守りたいと、心から思った。
 この好きが、どんな好きなのか自分でも判らない。
 でも、彼は彼女と共に生きて生きたいのだ。
 2人で歩いて行きたい。
 きっとそう思っているのは彼だけではないのだろう。
 その瞬間。
 自分たち意外の草を踏む音が聞こえた。
 ロアンは後を恐る恐る振り返る。
 そこに、2人の若い男はいた。
 1人は金髪の眼鏡の男。
 1人は黒髪の眼鏡の男。
「エオは、こっちではなかったか・・・・・・」
「何か言ったか?」
「いえ」
 ロアンは走る足を思わず止めた。
 男達はゆっくりとこちらに近づいてくる。
 逃げなければならないと分かっているのに足が動かなかった。
 シェラも逃げようとはしない。
 動かないロアンをただじっと見つめている。
「君が私のアンドロイドを持ち出した犯人か」
 金髪の男は言った。
「お前が、ネオンか?」
 お互いの距離はほんの3メートルほど。
 走って逃げても追いつかれてしまうかもしれない。
 ロアンはどうすれば逃げ切れるかを考える。
「そうだ。私の名を知っていたのか」
「・・・・・・どうしてシェラを取り戻そうとする? シェラは、あの研究所には戻りたくないんだ」
 相手が質問に答えるとは思っていなかった。
 ただ、時間稼ぎになればいい。
「それは、もともと私の物だ。君のものではい」
 そう言って、ネオンがロアンに4・5歩近づいたときだった。
「!」
 ネオンは突然驚いた表情をした。
「どうして・・・・・・」
「?」
 確かに彼はロアンを見ていた。
 だがロアンはネオンが何も思っているか全く判らない。
 そしてそう呟いたと思うと、ネオンは回れ右をして引き返していく。
「ネオン様?」
 自分のもとに戻ってくるネオンを見てアルベールは怪訝そうに彼の名を呟いた。
 だがネオンは何も言わず、森を引き返していく。
「アルベール、帰るぞ」
「?」
 一体どうしたのか。
話が見えない3人はそう思うことしかできず、アルベールは何も言えないままただ彼の後を追った。
残されたロアンとシェラはただそこに立ち尽くす。
「どうなってるんだ・・・・・・?」
 それからしばらくして。
 兵達と撃退したザウラたちが小屋から必要な荷物だけを持ってロアンたちのもとにやってきた。
「ロアン! 大丈夫だったか!?」
「あ・・・・・・うん」
 呆気とするロアンを見てあとから駆けつけた3人は何があったのかと不思議に思ったが、今はそれどころではない。
「これから街に向かう。早めに住める場所を見つけるぞ」
「あ・・・・・・ザウラ、ラウ。エオ・・・・・・・。ごめんオレのせいで」
 俯いたロアンを見ていつものように優しくザウラは微笑んだ。
「俺はお前たちの見方だよ。なんだってするさ」
 お礼を言っても言い切れないくらい。
 ロアンはザウラたちに救われていた。

後書き

お久しぶりです。
五月です。
僕のことを覚えてくれている人はそんなにいないんじゃないかなあと思いますが、読んでくれると嬉しいです。

この小説について

タイトル 第4章:彼の目的
初版 2011年3月1日
改訂 2011年3月1日
小説ID 4224
閲覧数 995
合計★ 3
五月の写真
作家名 ★五月
作家ID 497
投稿数 60
★の数 165
活動度 11432
一言・・・・・・頑張ります。

http://simotukiharuka.blog.so-net.ne.jp/
自分の小説ブログです。
ここに載せた小説についていろいろ書いてます。

コメント (4)

★さんたろー 2011年3月3日 19時37分49秒
最初から読ませていただきました。
人間とアンドロイドの物語というのはあまり無い設定なので、私も興味津々でした。昼と夜に分けられた世界設定も面白いし、登場人物も個性的でいいと思います。

ただ、アンドロイドが人間的すぎるのがもったいないなと思いました。たとえ心を持っていても、人とはやっぱり違うと思うのです。その微妙なギャップを表現できたら、キャラがより生きてくるんじゃないかと思います。

あとは、いい場面での誤字が気になりました。推敲の際は、物語のバランスだけでなく、そのあたりも意識すると、より読みやすい作品になると思います。

これからの展開を楽しみにしてます!
★五月 コメントのみ 2011年3月3日 22時51分44秒
さんたろーさん>コメントいつもありがとうございます。

シェラは徐々に人間らしくを意識したのですが、最初から人間らしかったでしょうか?(苦笑

何度も見直しはしたはずなのですが、誤字ありましたかorz
★那由他 2011年3月5日 16時28分14秒
こんにちは。那由他と申します。

御作を拝読いたしました。拙いコメントになりますが、感じたことを書いておきます。私みたいな未熟者の上から目線で生意気なコメントになりますがご容赦ください。

第一章からこの第四章まで通しで読みました。
読んでいて気づいた誤字などを挙げておきます。誤字がちょっと多かったように思います。もう少し推敲を重ねた方がいいかもしれません。

第一章

>入ってみたはいいもの、
「いいものの」だと思います。

>ゴホッとロアンは思わず堰をした
この場合は「堰」ではなく「咳」です。「堰」は例えばですが「堰を切ったように涙があふれる」とかです。

>走ったほうが適作だ。
「適作」は「その土地に適した作物。」(出所:広辞苑)という意味です。

>そして、ドア開きっぱなしの、
「ドアが開きっぱなしの」だと思います。

>男の後から部屋の覗き込んだ
「部屋を」だと思います。

第二章

>青空の中に夜空がる。
「夜空がある」でしょうか。

>何かの衝撃か何かで、
「何か」が重複しています。

>それは悲劇を生む意外に
「意外」は「以外」だと思います。

>ザウラは面影にとっさに隠れ
「面影」は「物陰」だと思います。

>ロアンは脾肉気味に返した。
この場合は「脾肉」ではなく「皮肉」だと思います。「脾肉」は「脾肉をかこつ」というようなときの表現です。

>ロアンに誤った。
「誤った」は「謝った」だと思います。

>画写てきには
すみません。意味がよくわかりませんでした。

>「ロアンに俺も同意権」
「同意権」は「同意見」だと思います。

>夜のほうの人間の言っていたから、「朝」を知っているのはおかしい。
ここは「夜のほうの人間が」とした方が文意もすっきりすると思います。

>どう考えてもおかしいだ。
「おかしいのだ」だと思います。

>今は森の小屋に住んでるだが、
「住んでるんだが」または「住んでいるんだが」のどちらかだと思います。

>ちゃんと彼女を見ていれば、ちゃんと表情はある。
「ちゃんと」が重複しているように思います。

>頭が怒れたじじいかと
この場合は「怒れた」という漢字はあてないと思います。ひらがなで「いかれた」ではないでしょうか。

第三章

>「シュラ、か。・・・・・・どう?」
「シュラ」ではなく「シェラ」だと思います。

>出会ってばかりで、彼女の事を何も知らない。
「出会ったばかり」だと思います。

>ダンボールが床やテーブルの上に山済みになり
「山済み」は「山積み」だと思います。

>一方のシュラはロアンの隣でただ黙っているだけだった。
ここも「シェラ」だと思います。

>ダンボールの積み重ねがバランスを保てなくなって振ってきた。
この場合は「振ってきた」ではなく、「降ってきた」だと思います。

>「ザウラ! 危ないだろう! お前・・・・・・朝から本の掃除をしてると思ったら」
夜の世界の住人でしたら「朝から」という言い方をしないのではないでしょうか。

>ちょっとあの店にも言ってくる。
「言ってくる」は「行ってくる」だと思います。

>ロアンが理解するようにも早く、
「理解するよりも」ではないでしょうか。

>ロアンは下ろされた上体のまま
「上体」は「状態」だと思います。

>口が序所に動かせるようになったが、
「序所」は「徐々」だと思います。

>見上げると、特に以上はない。
「以上」は「異常」だと思います。

>男なのか女のか正直判らない。
「女なのか」だと思います。

>ロアンはその人物が敵か味方が以前に、
「敵か味方か以前に」ではないでしょうか。

>彼を見て蓋然としていた。
「蓋然」は同じ読み方の「駭然」でしょうか。あるいは「愕然」ではないでしょうか。

>その代わり後ずさりをしているは窺えた。
「後ずさりをしているのが窺えた」でしょうか。文意がよくわかりませんでした。

>白髪の髪に
「白髪」は「白い髪の毛」という意味ですから、「白髪の髪」は言葉が重複しているように思います。「白髪に」だけでいいと思います。

>楽しく暮れしてた。
「暮らしていた」だと思います。

第四章

>大分離れた崖の上二あると
「崖の上に」だと思います。

>どうでもよかったと我に帰る
「我に返る」だと思います。

>その場にいた男達は皆気づけば気絶していた。
「気づけば気絶していた。」というのは矛盾した表現のように思います。

>何かに思い日たっているかのようにネオンは話す。
「思い浸って」ではないでしょうか。

>ザウラが私達と判れたあと直ぐ。
「別れた」だと思います。

>シェラは2人に話、
動詞ですので、「話し」と送り仮名が必要だと思います。

>誤るシェラを見た。
「謝る」だと思います。

>でも、私が現況なのは変わらない
「元凶」だと思います。

>ロアンとシェラ意外の
「以外」だと思います。

>行動をしたことは誤ります
「謝ります」だと思います。

>ラウディスもザウラに同意権のようで
「同意見」だと思います。

>当りを見渡すが、
この場合は「辺り」だと思います。

>士気を取る男を
「指揮」だと思います。

>彼は彼女と共に生きて生きたいのだ。
「生きたいのだ。」でもいいと思います。

>自分たち意外の
「以外」だと思います。

>呆気とする
「呆気に取られる」の方が自然な表現だと思います。

>俺はお前たちの見方だよ
「味方」だと思います。


「朝」の世界と「夜」の世界に分かれている、というのが世界観としておもしろいと思いました。一見、ファンタジーのようですが、アンドロイドの登場など、テクノロジーの水準としてはむしろ現代社会を超えているような感があり、一種独特の世界観を構築しているようにも思います。ストーリーとしてはいわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」ですね。ヒロインがアンドロイドという点が物語の幅を広げる原動力になっていて、このあたりも設定としてはおもしろいと思います。ロアンの一途な気持ちと姿勢が好印象でした。わきをかためるキャラも豊富で、これからの展開が楽しみです。

気になった点は、その世界観そのものですが、「夜」の世界ですと太陽がなく、ずっと暗いままなのでしょうか。月が明るいので暗い、ということはないようにも読めるのですが、よくわかりません。私の読み落としのようでしたらごめんなさい。

キャラも主人公のロアンとエオ、ザウラとラウの区別がはっきりとしていない印象を受けます。よく似た者同士といいましょうか、もう少し特徴があってもいいように思いました。あと、ところどころで視点がブレるので(特に第二章でロアンの視点とザウラの視点がごっちゃになっているように感じました)そのあたりが読みにくかったかな、と思いました。

コメントは以上です。あまり参考にならないかもしれませんが、少しでもお役に立てるようでしたら幸いです。
次回の作品も期待しております。
それでは失礼いたします。
★五月 コメントのみ 2011年3月8日 10時54分08秒
那由他さん>わざわざ誤字を表示していただいてありがとうございます(汗
そんなにあったとかと正直驚きな状態です。
3章あたりまでがかなり前にかいたものなので見直しはしているつもりだったのですが、「つもり」で終わってしまっていたようです(苦笑

なんかもうギャグになってる誤字が笑うしかない状態ですね(遠い目
指摘されたところは直していきます。
コメントありがとうございました!
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