オカシナ勇者様

【序章】〜規格外で何が悪い〜

 とある王国の国王と王妃の間に玉のような男の子が生まれた。
その瞳は理知的な輝きを放ち、赤ん坊だというのにどことなく精悍な顔立ち。
成長すれば間違いなく民に慕われる立派な王となるであろうと周囲の者は楽しげに会話をする。
 早くも一年が過ぎ、王子―アベルの成長を祝うパーティが開かれた。
そこで招かれたのは古の魔術を用いるという預言者。
年老いた彼女は皺が刻まれた目元をくしゃりと細め口を開いた。

―この者は必ずや暗黒を打ち破る光となろう―

 その予言に周囲はどよめき、国王と王妃はそっと身を寄せ合って無邪気に微笑むアベルを誇らしげに。だが少しだけ寂しそうに見つめた。
 世界では今、不穏な噂が流れていたのだ。
伝説の勇者がかつて仲間たちと協力して倒したという魔王が復活したと・・・・・・。
 預言者の言う『暗黒』が魔王のことならば、『光』とは勇者。すなわちアベルのことなのだ。
 生まれてから一年しか経っていないのに、勇者となることが義務付けられた少年アベル。
その事実は国を統べる立場として誇らしさを。そして、親である立場として早くに子供が巣立ってしまう寂しさを彼らに与えたのだ。

それから月日は流れ、アベルは十六歳になっていた。
鍛えられた身体と多くの知識。彼はどこからどう見ても立派な勇者。
それもそのはず。なにせ予言されたその日から勇者としての英才教育が始まっていたのだから。
 「アベル、あなたも十六。本当に月日が流れるのは早いものです」
 「あぁ、お前も立派な青年になった。誇らしいぞ」
 「ありがとうございます、父上、母上」
 にっこりと祝いの言葉を受け取るアベルだが、自室に戻ったとたんその表情は一変する。
ぽーんと頭の上に乗っかっていた王冠をそこらへんに放り、自分自身はどさりとベッドに寝転がり、ごそごそと枕の下を探って取り出したタバコで一服。
深く深く身体に悪そうな煙を吸い込みため息と共に吐き出して一言。
 「あー・・・・・・疲れた」
 彼は立派な『猫かぶり』であった。
両親のことは尊敬しているし、大切な存在だ。
だが幼い頃・・・・・・自分が物心つくまえに予言されたとかで周囲から『勇者』と言われて育った自分の気持ちも分かってほしい。
小さい頃からそんな称号を与えられて、王子としての教育だけでなく勇者としての教育まで強要されてグレない子供がどこにいるのだろうか。
 「あなたは勇者なのです。いつかあなたが魔王を倒すのですよ・・・・・・って、勇者だから無敵だとか死なないとか考えてるのかあいつらは」
 自分の数々の家庭教師を思い出しアベルは顔を歪ませた。
あまりにも他人任せで夢見がちな考えだ。
勇者だって人間だ。怪我をすれば痛いし姿が恐ろしい魔物に遭遇すれば怖いんだぞ。
それを『勇者』だから大丈夫なんて思われてはたまったものじゃない。
ぶっちゃけ、勇者で得することなんて他人の家に入って壷壊したりタンスを漁ったりして、その家の財産だの誰かのヘソクリだのを勝手に持っていっても罪にならないことくらいだろうが。
 アベルの思考回路は間違いなく勇者らしくなかった。
彼はおもむろに手を伸ばし、古びた本を手にする。
何度も何度も開いたページ。特に印などはつけていないが感覚でそのページを一発で開けるくらい読み返した。
 そこに記されているのは『聖なる泉』のこと。
その聖なる泉の水があれば、どんな願い事でも叶うという都合の良い話だ。
現実的すぎるアベルはもちろん、そんな夢物語を信じてはいなかった。
だが、そんな夢物語にさえ縋りたくなるほどアベルの精神状態は限界だったということを悟ってほしい。
 アベルは本を放り投げると(因みに国宝級の代物なのだが、彼は気にしない)手早く荷物をまとめ、有名な刀鍛冶に鍛えられたという剣を持ち(なんとかソードとか大層な名前がつけられていたが覚えてやるかって話)、旅用のマントを羽織って両親への置手紙を残してスタコラと皆が寝静まる城を出た。

 拝啓 父上、母上。
 私も十六となった今日。
大人の一員として自覚を持ち、今まで教えられたことを糧に仲間を集め魔王を倒す旅に出ることにしました。
突然で驚かれるでしょうが、どうか心配しないでください。
敬具
 父上、母上、申し訳ない。
あなたたちの息子は初めて家出なるものをします。
魔王なんて倒さないこと前提ですが、どこかで元気にやっているのでそちらもお元気で。と、いうのが置手紙の裏に隠された本音だったりする。
「旅をするにも先立つものが必要だな。まずは資金稼ぎから始めるか」
 タバコを片手にマントを翻し進むアベル。
暗く、明かりのない道を颯爽と進む彼を見てすれ違ったものは揃えて首を傾げる。
 あれー?今のって王子じゃなかった?
 いやいや、王子がこんなところ歩いてるもんか。
 そうさ。それにあの『ニヤリ』なんて表現がぴったりの笑み。
 あの爽やかな王子があんな顔するわけないって。
 お前飲みすぎだろ。
 やっぱり今日は調子乗りすぎたかー。
 あっはっはー。
笑い声と共に去っていく町民。
 今こそ彼らに言いたい。

―世の中には知らない方が幸せな真実もあるのだ―

後書き

感想、意見などいただければ嬉しいです。

この小説について

タイトル オカシナ勇者様
初版 2011年3月16日
改訂 2011年3月19日
小説ID 4234
閲覧数 896
合計★ 6
久遠永久の写真
ぬし
作家名 ★久遠永久
作家ID 275
投稿数 47
★の数 73
活動度 4987

コメント (4)

★蒼衣 2011年3月18日 7時08分27秒
初めまして蒼衣です。
久遠永久さんの作品を読ませていただきました。

まずタイトルで、おもしろそうだな。と思って、読んでみたら本当におもしろかったです。特に、王子兼勇者であるアベルが、『猫かぶり』というのが良かったです。
まだ序章なのでこんなことしか書けませんでしたが、続きを楽しみにしています。
久遠永久 コメントのみ 2011年3月18日 9時45分50秒
蒼衣様

励みになる感想ありがとうございます。
時間はかかるかもしれませんが頑張って完結させます。
★那由他 2011年3月19日 14時47分58秒
はじめまして。那由他と申します。

御作を拝読いたしました。拙いコメントになりますが、感じたことを書いておきます。私みたいな未熟者の上から目線で生意気なコメントになりますがご容赦ください。なお、コメントはすべて私見であることをお断りしておきます。

一箇所だけ、脱字と思われるところがありました。

>旅をするにも先立つもが必要だな。
「先立つもの」の「の」が抜けていると思います。

あと、細かいところで恐縮ですが、

>暗く、明かりのない道を颯爽と進む彼を見てすれ違ったものは揃えて首を傾げる。
暗くて明かりがないのなら顔が見えないのではないかな、と思いました。


まだ物語が始まったばかりですので詳細なコメントは難しいのですが、王子であり勇者である主人公がガチガチのヒーローではないところがおもしろいと思いました。これから本当に魔王を倒す旅を続けていくのか、先の展開が気になるところです。

>ぶっちゃけ、勇者で得することなんて他人の家に入って壷壊したりタンスを漁ったりして、その家の財産だの誰かのヘソクリだのを勝手に持っていっても罪にならないことくらいだろうが。

ここは笑いました。いくら勇者でも罪になりますよ、とツッコミをいれたいぐらいです。

気になる点はストーリーのテンポが早すぎて、小説というよりもあらすじのような印象を受けることでしょうか。冒頭は十六歳になったアベルから始めて、誕生から予言までのくだりは回想シーンとして途中で挿入する構成の方が読者のリーダビリティを高めるようにも思いました。

コメントは以上です。いろいろと書いてしまい申し訳ありません。あまり参考にならないかもしれませんが、少しでもお役に立てるようでしたら幸いです。最初にもお断りしましたが、あくまでも私見ですので的外れなことを書いているかもしれません。

次回の作品も期待しております。これからもがんばってください。
それでは失礼いたします。
★久遠永久 コメントのみ 2011年3月19日 16時23分46秒
那由他様

脱字の部分は直しました;ご指摘ありがとうございます。
さらにはいろいろと細かい部分までの感想をいただいて感謝しております。

これを参考に頑張って完結させたいと思います。
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