オカシナ勇者様2

 【第一章】〜類は友を呼ぶ〜

 ザワザワと騒がしい酒場。
酒とタバコ。そして女と男の声。
この酒場の売りは美味い酒でも美しい女たちでもない。
人々がここに求めているのはギャンブルという娯楽だ。
 「ロイヤルストレートフラッシュ。俺の勝ちだな」
 アベルは持ち札をバッと広げて見せるとニヤリと笑みを浮かべた。
すると周囲が沸く。
 「兄さんやるなー!」
 「さっきから勝ちっぱなしじゃねぇか」
 「もう賭けるもんねぇよー」
 アベルに負かされた男がぐったりとテーブルに伏せると彼の仲間であろう男たちが慰めるように肩を叩いていた。
その光景を見ながら内心ため息をつくアベル。
 そろそろポーカーも潮時だな。
余計な恨みを買わないように賭け金も少ないし、何より俺が飽きてきた。
恨みを買わずでっかく稼げるものは・・・・・・やっぱりアレしかないか。
 酒場の少し奥にある開けたスペースに目を向ける。
その周囲だけ盛り上がり方が普通のギャンブルではなかった。
その名も『格闘ギャンブル』
犬などの動物同士を争わせるものではない。
人間と人間が拳をぶつけ合うのだ。
カードやルーレットなどのギャンブルに抵抗はまったくないアベルだが、生き物同士を娯楽のためだけに争わせるなんて正気の沙汰じゃないと、そっち方面には手を出したことがなかった。
 そんな彼がなぜ今回に限って興味を持ったのかというと、金銭的なこともあるが嫌でも耳に入ってきた噂の出場者を自分の目で見たいと思ったからだ。
 彼は強靭な肉体を持ち、向かってくる者に容赦はしない。
その拳は岩のごとく相手を打ち砕く。
その力を欲しがる者は後を絶たないというのに、彼は未だフリーの武闘家でいるという。
不思議に思ったことはなんでも調べないと気がすまないアベルは、噂の彼に賭けながらちょうど始まろうとしていた戦いを見ることにした。
騒ぎ立てる観衆の中で一人だけ冷静に戦いを見ていたアベルに気づいた者には、アベルの姿が奇妙に映っただろう。
「うおぉぉぉぉ!」
「遅い!」
相手の拳が自分へ届く前に、その巨体からは想像できない軽やかさでバックステップをし、右の拳をぎゅっと握った。
 「爆裂拳!」
 技が決まると同時に拳によって変形する男の顔。倒れるだけでは済まず、ズササァッと砂埃を立てて倒された男が地面を滑る。
完全に意識を失っている相手を見れば結果は一目瞭然。
勝敗はあっけなく決まった。
 「確かに、並外れた力だな」
 アベルは儲けた金を受け取りほくそ笑む。
 「やっぱアンタ最高だ!」
 「ありがとよ!今回もがっつり儲けさせてもらったぜ!」
 「あらん、こちらこそありがとう。またアタシに賭けてね」
儲けさせてもらった礼に一杯奢るか。
そう思って近づいたアベルの足がピタリと止まった。
野太い声であまりにセクシーな話し方のギャップに珍しく心から驚いたのだ。
 あれ?今話したのってアイツだよな?
あのいかにも武闘家ですってかんじで筋肉ムキムキのスキンヘッドなアイツだよな?
 城育ちのアベルはいろんな人物を見てきたと自負している。
腹に真っ黒い物を抱えていそうな狸だとか狐だとか、庭師に見せかけて昔は一流のギャンブラーだったオッサンとか(因みに、アベルはこの男にギャンブルのいろはを教わった)
そう、中には特殊な嗜好を持っている人間だっていた。
 落ち着け俺。アイツはきっと・・・・・・そう。身体は男、心は女というやつなんだ。
別に話しかけるのに躊躇するような相手じゃない。
 落ち着くためにタバコに火をつけて、その紫煙を漂わせながらアベルは彼に近づいた。
 「よぉ、兄さん。一杯どうだい?」
 「いいのん?じゃあ、お言葉にあ・ま・え・て」
 ・・・・・・よし、最初ほどの衝撃はない。こういう人間だと分かっていればこの話し方もそのうち慣れるだろう。
 「しかし強いな、アンタ。おかげで儲けさせてもらったよ」
 「ふふ、ありがと。良い男に褒められるのって気持ちイイわん」
 男はノーキアスと名乗った。
 「でも、それだけ強いならいろんなやつに誘われるだろ?このギャンブルよりも稼ぎが良い仕事だってあるはずだ」
 「アタシは誰かに縛られるなんてまっぴらゴメンよ。いつだって自由でいたいの。・・・・・・なんて、ね。本当は・・・・・・」
 ノーキアスの瞳が揺らぐ。
 やはり何かしらの事情があるようだ。初対面の人間に話すようなことじゃない。けれど誰かに聞いてほしい。そんな彼の葛藤がアベルには聞こえるようだった。
こういうのは無理に聞きださないで待ったほうがいいな。
そんなアベルの考えを邪魔するかのように気軽にノーキアスに話しかけてくる男たちがいた。どうやら以前からの知り合いのようだ。
 「よぉ!まーた仲間になるの断られたんだって?」
 「こっちはおかげで稼がせてもらってるけどな!」
 その言葉に、ノーキアスが一瞬傷ついた表情を浮かべたのをアベルは見逃さなかった。
ノーキアスは大袈裟な身振りで怒ったように男たちに言葉を返す。
 「そうよん!このアタシの魅力が分からないなんて失礼しちゃうわ!」
 「そうそう。そんなところこっちから願い下げだよな」
 「なんだったらあなた達のところへ行ってあげてもいいわよ?」
 「うげー!こっちもオカマなんて願い下げだよ」
 「んまぁ!酷い人。そんな酷いこと言うお口は塞いじゃうわよ!」
 いつものことなのだろう。
ひとしきり騒いだ男たちはわざとらしく怯え、自分たちのグループへと戻っていった。
静かになったあと、ノーキアスが苦笑しながらグラスを揺らす。
 「独りが好きな人なんていないわ。みんな最初はアタシの力を見て仲間に誘ってくれるけど、この話し方とか性格が気持ち悪いって言って最後は断られちゃうの」
 これが、本当のこと。
カラン、と琥珀色の液体の中で氷がぶつかった。

後書き

第一章。もう少し続きます。

この小説について

タイトル オカシナ勇者様2
初版 2011年3月22日
改訂 2011年3月22日
小説ID 4244
閲覧数 858
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久遠永久の写真
ぬし
作家名 ★久遠永久
作家ID 275
投稿数 47
★の数 69
活動度 4987

コメント (4)

★那由他 コメントのみ 2011年3月22日 23時15分53秒
こんばんは。那由他と申します。

御作を拝読いたしました。読んでいて感じたことをコメントしておきます。なお、コメントはすべて私見であることをお断りしておきます。まだまだ先が続くようですので、今回は星の方は保留とさせていただきます。あしからずご了承ください。

なんとも強烈な個性のキャラが登場してきましたね。読んでいてこの展開にびっくりしました。最初は格闘家と「爆裂拳!」から、「北○の拳」の「ケ○シロウ」をイメージしていたのですが、あまりにもギャップがありすぎて、強い印象が残りました。それにしてもアベルはいつの間にギャンブルの手ほどきを……。これから先の展開が楽しみな書き出しでした。

コメントは以上です。あまり参考にならないかもしれませんが、少しでもお役に立てるようでしたら幸いです。最初にもお断りしましたが、あくまでも私見ですので的外れなことを書いているかもしれません。

次回の作品も期待しております。これからもがんばってください。
それでは失礼いたします。
★久遠永久 コメントのみ 2011年3月23日 7時16分47秒
那由他様

コメントありがとうございます。
とりあえずキャラなどは印象を残せているようで安心しました。

とりあえず、引き続き頑張ります。
★蒼衣 コメントのみ 2011年3月31日 9時31分05秒
久遠永久さん。
オカシナ勇者様2、読ませていただきました。
今回はノーキアスという新キャラが登場し、物語が進んでいたのでとてもおもしろかったです。特に、ノーキアスの個性と言うのでしょうか、読んでいて続きが気になりました。
3も次回読ませていただきます。
頑張って下さい。
★久遠永久 コメントのみ 2011年3月31日 19時41分47秒
蒼衣様

感想ありがとうございます。
キャラの個性を生かしたままの完結を目指したいと思います。
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