オカシナ勇者様3

ノーキアスは何かを吹っ切るように酒を飲み干すと、大きく息を吐いた。
 「あーあ。こんなアタシを仲間にしてくれるなら勇者見習いの一行でも構わないのに、それも無理な話かしらね。やっぱり話し方変えようかしら」
 勇者見習いとは、その名のとおり勇者になるために修行している連中のことだ。
普通、勇者になるためには国王の承認がいる。だが富や名声、金だけを目的に勇者になりたがる人間は五万といるため、勇者となるにはそれなりの実績がなければいけないのだ。
アベルの場合は予言に加え、親である国王から称号を与えられているためなんの問題もない。本人にとってはまったくありがたくないことだが。
勇者見習いの連中はピンからキリまでいるが、だいたいがさほど力もなく金もない人間の集まりだ。
 そんな連中でもいい。独りでなくなるのならば。
 ノーキアスの声が聞こえた気がした。
 「話し方を変えるってことは、自分を偽るってことだろ。そんなこと、するなよ」
 「え?」
 アベルの真っ直ぐな瞳がノーキアスを貫く。
 「周りの連中なんて気にするな。確かにアンタは変わってるかもしれない。けど、それがアンタなんだ。自分を偽ってまでろくでもない連中の仲間になんてなるな、自分の価値を下げるな。アンタの価値はアンタが決めるんだ」
 目を見開き黙り込むノーキアスにアベルは小さく笑うと、酒の代金をテーブルに置いて席を立った。
 「待って!」
 そのまま去ろうとするアベルにノーキアスが慌てて声をかける。
勢いがありすぎて座っていた椅子が倒れた音が響いたのだが、そんなことを気にかける素振りもせずノーキアスは大股でアベルに近づいた。
そうしてアベルの両手を己の両手でぎゅーっと握りこむ。
アベルは近づいてくるノーキアスのごっつい顔に反射的に身を引かせるがノーキアスに手を掴まれていた状態のため断念。
 「な、なんだ?」
 「アベル・・・・・・惚れたわ!」
 「・・・・・・・・・は?」
 「あなたのその人柄に惚れたのよ!あ、もちろん顔もアタシ好みだ・け・ど。おまけによく見ればあなた勇者じゃない!」
 キラキラした瞳で熱っぽく語るノーキアスが、アベルがマントにつけていた小さなバッチを指差す。それは勇者であることを証明する印のようなものだった。
 「ね?アタシ絶対にあなたを後悔させないわ。だから一緒に連れて行って!」
 その真剣な瞳に、アベルは口端を僅かに上げた。
 「いくら勇者だっていっても、俺は善人じゃないぜ?ヘタするとそこらへんの勇者見習いより極悪非道だ。それでもいいのか?」
 「それでも、さっきアタシに言ってくれた言葉はあなたの本心でしょう?見縊らないでちょうだい。これでも人を見る目はあるのよ」
 試すようなアベルの言葉に、ノーキアスはフンっと鼻を鳴らして答えた。
 「楽な旅じゃない」
 「望むところよ」
 アベルは鋭い視線を少しだけ和らげると、右手を差し出した。
 「んじゃ、改めて自己紹介するか。俺はアベル。わけあって伝説の代物を探してる」
 「アタシはノーキアス。武闘家よ。ちなみに好みの男性のタイプはアベルちゃんみたいな人ね」
 固く結ばれた二人の手。
そんな光景を酒場の隅の方から見ている人物がいた。
薄汚れたマントを頭から被っているため顔は見えないが、僅かに覗く黄金色の髪と華奢な体型で女性のようだとわかる。
 「面白い人。あんな人初めて見たわ」
 形の良い唇が弧を描く。
さて、この女性の正体。それはとある王国の王女―レティアだった。
親に縁談を進められたが、会わせられるのは親の権力や財力の上に胡坐をかく軟弱な王子ばかりで嫌気が差して家出してきたのだ。
自分の旦那は自分で探すと置手紙を残し、王女であるにもかかわらず身一つで飛び出してきた。あだ名はジャジャ馬姫。
 なんともありがちな設定と言うことなかれ。
当人にとってはこれからの人生が薔薇色となるか灰色となるかの一世一代の賭けなのだ。
 そんなレティアの目に飛び込んできたのがアベルとノーキアスのやりとりだった。
勇者らしくない勇者。武闘家らしくない武闘家。
こんなに面白い組み合わせなんて今まで見たことがない。
何より惹かれたのは、アベルの瞳だった。
何か目的があるのだろう。それを叶えるためならばどんな非道なことでもしてやるとでも言いそうな人相で、瞳だけは眩しいほどに真っ直ぐ。
何が起きても自分が選んだ道だから後悔などしない。
そう彼の瞳が物語っているようにレティアには見えたのだ。

後書き

ご意見、感想お待ちしております。

この小説について

タイトル オカシナ勇者様3
初版 2011年3月29日
改訂 2011年3月30日
小説ID 4250
閲覧数 672
合計★ 0
久遠永久の写真
ぬし
作家名 ★久遠永久
作家ID 275
投稿数 47
★の数 73
活動度 4987

コメント (2)

★那由他 コメントのみ 2011年3月30日 21時49分32秒
こんばんは。那由他と申します。

御作を拝読いたしました。読んでいて感じたことをコメントしておきます。なお、コメントはすべて私見であることをお断りしておきます。

一箇所だけ、指摘しておきます。

>僅かに覗く黄金色の髪と華奢な体系で女性のようだとわかる。
「体系」は「体型」または「体形」だと思います。


星の数の方は物語が完結したときにでもあらためてつけたいと思いますので、申し訳ありませんが、以後、コメントのみとさせていただきます。

仲間となるキャラが次々と出てきて、楽しみな展開になってきましたね。実は、ノーキアスのような戦士タイプの男が登場してきたあとは、女性の魔法使いか僧侶かな、と予想していました。家出をしてきた王女さま、というのはちょっと予想外でしたが。ノーキアスに向かって啖呵を切ったアベルが格好よく見えました。

ところで、ノーキアスに対してアベルは本名を名乗っていますが、ノーキアスはアベルが王子さまだとは気づかなかったのでしょうか? アベルの方も本名を名乗るぐらいですから、自分の地位を韜晦するつもりはないようにも見受けられます。もしかしたら、すでに外国にいるのかもしれませんが、そのあたりが読み取れませんでした。説明があったのに読み落としをしていましたら、すみません。

>なんともありがちな設定と言うことなかれ。
ここは笑いました(笑)

コメントは以上です。あまり参考にならないかもしれませんが、少しでもお役に立てるようでしたら幸いです。最初にもお断りしましたが、あくまでも私見ですので的外れなことを書いているかもしれません。

次回の作品も期待しております。これからもがんばってください。
それでは失礼いたします。
★久遠永久 コメントのみ 2011年3月30日 22時03分37秒
那由他様

誤字『体系』から『体型』へ直しました;ご指摘ありがとうございます。
アベルの名前については実のところそこまで深く考えていなかったと正直に申し上げます;貴重なご意見として参考にさせていただきますね。

いつも読んでいただいてありがとうございます。
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