クロスロード - 第一話(2)

 街を出て、シンティアとルーフェンは森の中に入った。

目的地に近づいているのか、ルーフェンの足取りは、街を出た直後よりもさらに重たくなっている。

 二人は他愛のない話をしていたが、やがて、ルーフェンが立ち止まった。

「ねえ、本当に……」

「行く」

 シンティアはきっぱりと言い切った。

「ほら、背筋を正して。男らしくないよ」

 ルーフェンはむっとした顔で言い返した。

「知らないから、そんな風に言えるんだよ」

 ルーフェンの言葉に、シンティアは興味をそそられた。

胸の奥で、おなじみの感覚が顔をもたげる。

「そういえば、君の行きたいところって、どんな場所なの?
もうずいぶん森の中を歩いているけど……」

「聞くのが遅いよ。後悔しても知らないからね」

「それはないと思うけど」

「なんで、そんなに余裕なのさ?」

「余裕ってわけじゃないよ。
他にもっと、怖いものを知っているから」

「なんなの?」

「うーん。
君が大人になって、もう一度会うことがあったら、教えてあげる」

「ふん、子ども扱いして。
自分だって、ぼくと二つくらいしか変わらないのに」

 シンティアは苦笑しただけで、それについてはなにも答えなかった。

「それで、どんな場所なの?
もっと詳しく教えてよ。
さっきからどんなに怖いかって、そればっかりなんだから」

「そこ、塔なんだ。
塔っていっても、そんなに大きくはないんだけど。
昔からあって、なんのために建てられたかもわからない。
あそこの中になにがあるか誰も知らないのに、絶対に近づくなって言われてるんだ。
実際、旅人があそこに入って、そのまま行方不明になってるし」

「じゃ、冒険ついでに人助けもしてみる?」

「無理に決まってるじゃん。
逃げるので精いっぱいだよ」

 明るいシンティアとは対照的に、ルーフェンは憂鬱そうだ。

「なんで?」

「なんでって……なんで、驚くのさ」

 シンティアは、本気で驚いていた。

なぜって、最初から無理と決めつけることほど、不思議なものはない。

「それ、誰が無理って言ったの?」

「別に、誰かに言われたわけじゃないよ」

「じゃあ、自分でそう思い込んでるだけだよ。
それなら、大丈夫」

「なにが大丈夫なんだか……」

 ルーフェンは口をとがらせたが、すぐに怯えたような顔になった。

それまで森の中の細い道を歩いていたのだが、急に開けた場所に出たのだ。

 そこに、古めかしい石造りの塔が建っていた。

ルーフェンの言うとおり、そんなに大きくはない。

牢獄でもないし、敵を見つけるための物見塔でもなさそうだ。

外から見ただけでは、そこが何に使われていたのか、見当がつかない。

 しかし、妙な気配がする。

魔法使いではないから、ただの勘でしかないが、中になにかいる。

それも、あまりいい類のものではなさそうだ。

 シンティアは横目でルーフェンの様子を探った。

このことは、言わないほうがいいだろう。

「よし、入ろう」

 シンティアはルーフェンの手を引っ張って、扉の前に立った。

ルーフェンは「心の準備が」と言って叫んでいたが、塔を目の前にすると、今度は息をひそめて、絶対に喋らないように唇をひき結んだ。

「開けるよ」

 そう言って、シンティアは返事も待たずに実行した。

暗くてよく見えないが、奥のほうに階段がある。

三階ぐらいの高さだろうか。

シンティアが三歩ほど進んだとき、突然上から槍が降ってきた。

ルーフェンは絶叫したが、こんなトラップはよくあることだ。

シンティアは素早く剣を引き抜き、流れるような動きで槍を叩き斬った。

シンティアが振り返ると、顔を真っ青にしたルーフェンが、扉を開けようと躍起になっていた。

だが、鍵をかけていないはずなのに、びくともしない。

「閉じ込められた」

 ルーフェンは絶望的な声で言ったが、シンティアには理解できなかった。

「今入ったところなんだから、すぐに出られなくてもいいじゃない」

「なにかあったとき、逃げられないだろ!」

「わからないなあ」

 シンティアは呑気に言って、歩きだした。

ルーフェンはすぐにシンティアの隣に並んだ。

「後ろじゃなくていいの?」

「背後から襲われたら、怖いだろ!」

 しっかりしているのか、臆病なのか、よくわからない発言だ。

「とりあえず、最上階までいって、戻ってこよう」

 シンティアが言うと、ルーフェンが軽い調子で提案した。

「印でもつけて帰る?」

「あれ、元気が出てきたみたいだね」

「開き直ったんだよ。悪い?」

 ルーフェンがばつの悪そうな顔をしたので、シンティアは快活に笑った。

「ううん、生きていくには必要だと思うよ」

「仙人みたいなこと言っちゃってさ……」

 そうやって軽口をたたくことで、ルーフェンは恐怖を紛らわせようとしているようだ。

シンティアも軽い調子で応じていたが、ふと、足元に違和感を感じて、床に耳を近づけた。

拳で叩いてみると、やはり違和感がある。

「なに?」

「空気が流れてる。音も軽いし、下にも部屋があるみたいだね」

「じゃあ、最上階まで行って、地下に行く?」

「そうしよう。
ああ、階段を上るときは気をつけて。
もしかしたら――」

 ルーフェンが一段目に足をかけたとたん、段差が裂けて、茨が何本も足に絡みついてきた。

「なんだよ、これ!」

 鋭い棘が足に食い込んで、血が流れる。

どこかに引きずっていくつもりらしい。

 ルーフェンは気丈にも自分の剣を引き抜いて、茨を切りつけたが、切るどころか傷一つつかない。

 シンティアは柄を握った。

シンティアの気の昂ぶりに反応するように、剣が熱くなっている。

シンティアは床を蹴り、勢いをつけて茨を切った。

剣の熱にあてられたのか、茨はばらばらに切れたあと、灰になって床に散った。

「大丈夫?」

 ルーフェンは茫然としていたが、手を差し伸べると、我に返って息を呑んだ。

「あんたのその剣、どうなってるの?」

「これは特別な剣だから。
それより、怪我は?」

「……痛い!」

「今まで痛がってなかったのに」

 シンティアが吹きだすと、ルーフェンはうらみがましい目でにらんできた。

「ほっとしたら、痛くなったんだよ」

「血が出てるね」

 シンティアは自分のポケットからハンカチを取り出して、傷にまいてあげた。

「歩ける?」

「これくらい、どうってことないよ。
ぼくは魔法騎士になるんだから」

 どうやら、生来の負けず嫌いが顔を出したようだ。

恐怖を抑えて、強がっている姿が、昔の自分に重なって見えるようだ。

「たのもしいなあ」

「ばかにしてるだろ!」

「まさか」

 場違いな軽口と笑い声が塔の中に響いた。

それが、この塔のなかに潜むものの気にさわったのか、ぞろりと、なにかが身を起こしたような気がした。

「ちょっと、聞いてる?」

「うん、聞いてるよ」

 シンティアは抜刀したまま、ルーフェンと階段を上った。

後書き

一話を書いてからずいぶん時間が経ってしまいましたが、(2)更新です。

この小説について

タイトル 第一話(2)
初版 2011年5月1日
改訂 2011年5月2日
小説ID 4268
閲覧数 734
合計★ 0
かがみの写真
駆け出し
作家名 ★かがみ
作家ID 717
投稿数 2
★の数 3
活動度 214
ファンタジーしか書けません。
最近武道を始めました。

コメント (2)

★那由他 コメントのみ 2011年5月1日 21時36分49秒
こんばんは。那由他と申します。

御作を拝読いたしました。上から目線のコメントになってしまいますが、読んでいて感じたことを書いておきます。なお、コメントはすべて私見であることをお断りしておきます。

連載途中ですので、星の方は申し訳ありませんが完結するまで保留とさせていただきます。あしからずご了承ください。

シンティアとルーフェンの掛け合いがおもしろいですね。テンポよく読めます。ふたりともいいキャラをしています。キャラの設定がとてもうまいなあ、と思いました。

もう少し情景描写がほしいところでしょうか。シンティアもルーフェンも外見に関する情報がほとんどないので、そのあたりの描写があってもいいように思います。特にヒロインのシンティアは髪の長い女の子らしい外見なのか、それともボーイッシュな感じなのか、気になるところではあります。

コメントは以上です。あまり参考にならないかもしれませんが、少しでもお役に立てるようでしたら幸いです。最初にもお断りしましたが、あくまでも私見ですので的外れなことを書いているかもしれません。

次回の作品も期待しております。これからもがんばってください。
それでは失礼いたします。
かがみ コメントのみ 2011年5月1日 21時52分14秒
アドバイスありがとうございます!

とても参考になりました。

情景描写などの細かい文章は、一度完結させたあと、書きなおしている時に追加する癖がついてしまっているので、足りないところが色々あると思います……。

この先も描写不足が目立つかもしれませんが、できる限り細かい描写を増やしていくように頑張ります。

キャラ設定を褒めていただけると嬉しいです。

まだまだ続きますが、よろしくお願いします。
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