終焉に少しの光明 - 失敗からの春

『龍也君なら絶対受かるよ!俺達と同じ高校でまたがんばろうぜ!!』
『君には期待しているよ。必ず合格する』

中学受験をして私立中学へ進み、友人や先生、たくさんの人達に応援されながら臨んだ高校受験。
しっかり勉強した。学校の成績はそれほど悪くない。むしろ良かった。みんなもそれを知っていたはずだ。
でも、受からないわけがないと、どこかで思い上がっていたのかもしれない。

そう。
俺は、難関高校の受験に失敗した。


第一志望の受験が、俺の高校受験の初日となった。
出鼻を挫かれ、そのまま滑り止めの私立高校受験にも全て落ちた。
仕方なしに、なんとか入試の間に合った地元の高校を嫌々受験し、難なく合格した。ついでに言うと、【特待生】なんて素敵な称号も貰ってしまった。
もう戻れない。荒れ気味だと噂される、地元の高校への進学を余技なくされた。



「授業とかマジだるいんだけどー」
「昨日DVD見てて、寝たの3時だしー」
「やっぱりあの先輩あの子のこと好きだって!」
「なー、だれか食い物持ってねぇ?腹減ったわー」
「聞いてくれよー!昨日俺の彼女がよー…」


嫌々ながらも入学して1ヶ月。
クラスは俺1人を除いて団結していっていた。その証拠に、いまもガヤガヤとやかましい。
朝から騒ぎ立てるクラスメイトになんて、本気でどうでもよかった。
だから、俺は関わろうとしなかった。

入学してから特別、なにもしなくても勉強には着いていけた。
おそらく、高校3年間は【特待生】の称号を失うことはないだろう。
友人関係なんてものはさっきの通り、作る気持は微塵もない。

理由は簡単。
中学時代の友人が、俺が受験に失敗したのを機に全員疎遠になっていったからだ。
友達だ親友だといい顔して近づいて、釣り合わないと感じれば捨て去る。
友達関係なんてそんなものだということがよくわかった。
だから、高校ではなにもしないし、する必要もない。

グループの決まりきったこのクラスでなにかアクションを起こしたとしよう。
中学の二の舞か、もしくはもっと酷い事になることは目に見えている。
とっととこの無駄な3年間を消費して、まともな大学へ進もう。
入学したばかりだがこればかり考えていた。

入学してから少し経ち、なんとなく学校の人間の雰囲気も「あぁ、噂通りか」と解ってきた。
クラスを見回してみると、そこらの中学生よりもレベルの低い連中の集まりにしか見えなかった。

遅刻や違反は日常茶飯事、授業は他人事。
女子は、短すぎるスカートから醜い足を恥かしげもなく露出させ、「コレ昨日買ったんだけどかわいくなーい?」とか言いながら、俺からすればゴミみたいな物を見せ合ってキャーキャー騒いでいる。うるさい。

男子は男子で制服を自分好みに着崩し、口を開けば「ヤった」「ヤってない」。ちょっと自分より劣る人間を見つければ、集団で囲い込んでリモコンや遊び道具にする。言葉は悪いが「馬鹿ばかり」だ。心底くだらない。

その点、俺は【特待生】の称号を持っている。
勉強が頭ひとつ飛びぬけているため、そんなもののターゲットにされたことはいまのところは無い。
このくらいの年齢になれば、お互いをどんなタイプの人間か判断する能力も身に付き、お互いに興味の無い人間には、お互いに干渉し合わないようになっているのだ。
ひとりで過ごしたい俺としては、そこは非常に助かっている。


「はーい、おはよぉーございまぁーす!」


バッチーン!と、引き戸が外れそうな勢いで教室の入り口が開く。
若干の不意打ちに驚いた。

引き戸を素敵なくらいに吹っ飛ばして開けた奴は、学校指定の鞄ではない、サメを模した大きなリュック。腰で履いたズボンを膝下あたりまでたくし上げ、指定の紺のブレザーの下には蛍光色の緑に黒の星柄のパーカー。さらに、ワイシャツの下に着たシャツも蛍光色のピンクという、奇抜なファッションで登場してきた。
なんだ、今日は遅刻じゃないのか。なんて思ったが、誰が来ようが遅刻しようが、俺には一切関係ない。


「あっれー!尚輝はやいじゃん!」
「あのねー、オールしてた!家だと親いるから学校に寝にきた!」
「なー、尚輝!こないだのゲームもうちょっと借りてていいかぁ?」
「おうおう、かまわんよぉー!」
「オールって、こないだ遊んだ女の子と!?」
「ちがうー。地元の友達とー!」
「え!?女、女なの?ねぇねぇ」
「尚輝が今日来るとか、今日なんかあるんじゃねーの?」
「ちょっとちょっとー!俺がなんだってのよー!」
「ねぇ、女なの!?ねぇねぇねぇ!!」

ぎゃあぎゃあとやかましい声で男子生徒数名が一気に、尚輝と呼ばれた奇抜なファッションの奴に話しかけた。
うるさいうるさいうるさい。
そんなにでかい声で会話しなくてもいいだろうが。
というか、多人数との会話を一度にやってのける尚輝って実はかなり…すごいのかも?


「−っと」
「…!?」


あまりにも上手く会話を裁いている尚輝を、いつしか俺はじっと見てしまっていたらしい。
楽しそうに会話していた尚輝と目が合った。
やばいと思い、反射的に目を反らす。このまま机に突っ伏して寝たフリでも決め込むか?
いや、しかしそんなの不自然すぎる。絶対なにか文句いわれる…。
う…、近づいて来た…。


「……」
「…な、なに…?」


結局、俺の席まで到達されてしまった。
内心ビクビクだが、平静を装い、冷静に対応する。
は、早くどっかいってくれたりしないか…!?


「おはよー!」


なんだか知らんが、キラキラするほど爽やかな笑顔で挨拶された。


「お…、おは…よう…」
「声がちっちゃいよんっ☆」
「…おはよう…!」


なんだかイラッとする返し方をされたので、嫌々ながらも声を絞り出して低く唸るように挨拶してやった。


「おーし!おはよーう!そして俺、おやすみなさーい!」


補足だが、尚輝は俺のすぐ右隣の席だ。
朝くらい静かにしていたい俺の心に土足で踏み込んできた尚輝は、さっきのドアよろしくでかい音を立てながらサメのリュックを置き、机に突っ伏した。
まったく…なにしに来てんだか…。


「なにしてんだろーなぁ尚輝」
「特待生に声かけたの…尚輝が始めてじゃね?」
「あいつ、なんとなく暗そうだから避けてたんだけど…」
「チャレンジャーだよなー尚輝って」


さっきの男子生徒たちだ。声を抑えてるつもりだろうが全て聞こえてる。
俺は話しかけるなオーラを全身から放っていたし、避けてくれて非常に在り難い。
今回みたいなことにできればもう出くわしたくはない。

ちなみに、俺が今年度ただ1人の特待生であるということはクラスの全員が知っている。
まったく、どうでもいいような情報ばかりを奴らはどこで仕入れて来るのだろうか…。

なんとなくお分かりいただけているかもしれないが、尚輝はこのクラス全体のまとめ役のような役割ができる唯一の人間だ。
尚輝のペースに飲まれたら最後、俺にとって平和な学校生活が送れる事は絶対にない。
つまり、絡みたくないのだ。

誰にも関わらず、無事に高校を卒業する。
いま俺がしなきゃいけないのはこれだけだ。

後書き

ここまでは導入トークです。

この小説について

タイトル 失敗からの春
初版 2011年6月26日
改訂 2011年6月26日
小説ID 4288
閲覧数 887
合計★ 3
那託の写真
常連
作家名 ★那託
作家ID 738
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