博愛と汗

イジメの理由なんて、私ですら覚えていない。
この狭く白く、小さな私達には大きな建物の中で、じわじわと、成長してゆく。
私だけをとりのこして。



ただなんとなく、人とすこし違う。変わった性格。
それだけで、のけものにされる。
庇えばターゲットにされる。少しでも助ければ同じようにのけものにされる。誰も手を差し伸べない。

「ゆきこにさわったヤツには、ゆきこ菌がつくぞ!!」

悪意のないイジメ? 無邪気さゆえの残酷?
嘘だ。子供でも、悪意はある。邪気のある行動を起こす。
ただその感情や行動を、そういう名前だと知らないだけだ。

「死ねよっギャハハハ」

中学生にもなると、明確になる。 アイツぐらい死んだってかまわないって思う。周りと同調して、自分ははみ出し者じゃないと安心するために、なんだってする。
トイレの水に50回顔をつけさせるとか。冬に、汚れた水のはったプールへ落とすとか。そんなことしたって、人は死にはしない。だから彼らは安心して私をいじめる。
次に何をするかを、とても純粋に楽しんで計画を立てている。まるで遊びに行くかのように笑いあいながら。
最高に彼らが盛り上がった出来事は、私の持ってきたペットボトルジュースの中に虫をいれる"遊び"だと私は思う。
飲み干そうとあと少しのところで、違和感に気付いた私がハンカチへと違和感を吐き出す。目を見開いて、込み上げる嗚咽感に堪えられなくなり、口を押さえて教室をでたとき、勢い良く開いた教室の扉、私の背中の方では、クラスで大爆笑がおきていた。
さぞ楽しかっただろう。さぞ満足だっただろう。

「雪子ちゃん、どうして学校にくるのぉ」

けらけら笑いながら、私を屋上に呼び出した南場さんが言い放つ。

「学校が、好きだから」

その言葉に一瞬呆気にとられた南場さんの顔があまりにも間抜けで、私は心の高揚を感じた。
すぐに彼女は、いじめられて喜ぶとかヘンタイかよ、キモチワルイんだよ、と私のお腹めがけてカバンで殴った。教科書やノート、筆箱。重い重いカバンは私をえづかせる。南場さんの周りにまとわりついている本当は一人じゃ何もできないであろう気弱な女子達が、彼女に拍手や歓声を送る。

「イジメられても、私は根に持たないよ。 許してあげる。みんな、若い頃の、過ちだから。」

さっきの一撃でしりもちをついていた私に、カバンは頭をめがけて振り下ろされる。口の中の血がとんだ。口の中を切ったんだろう。一人の女子が、やばいんじゃないと気弱に言った。けれど南場さんは笑って、「大丈夫、人ってこんなカンタンに死んだりしないから」と、もう一度カバンを振り下ろした。カンタンには死なないよ。けれど、死のうと思えば結構カンタンに死ねるんだよ。

「雪子…大丈夫?」

小学生のときから仲が良い夏華が屋上で寝転がっている私に声をかけた。
夏華はいつでも優しくて卑怯な子。自分がいじめの被害に合わないように誰もいないところでしか話しかけない賢い子。
私は彼女がきっといじめの首謀者なのだろうと感じていた。夏華しか知りえないことを知られていることは多々あったから。
けれど私はそれを問い詰めることもせず、ずっと知らないふりをしてきた。青い空を見上げつつ、私は一つの真実を知っていた。夏華のような人間は、きっと人が死んだところで簡単には後悔したりしないだろうということ。じゃあ、どうすれば彼女を反省させられるだろうかと考えた。

蒸し暑い美術室。私は、夏華の趣味の油絵のモデルとして夏休みの間の数週間をそこで過ごした。じんわりとかく汗はあまり気にならなかったが、夏華が少し心配そうに、冷たい飲み物はいるか、休憩が欲しいなら遠慮せず言ってほしいなどと言うから笑いが零れた。なんて優しくて卑怯な子なんだろう。そうやってたまに本当の親友みたいな素振りを見せるから、私の中の確信は揺らぐのだ。
(きっと彼女がイジメの首謀者だということ)
今すぐ記憶喪失になれば、そんな不快な事実を忘れ去ることができるのに。夏休みの間の数週間、それはまるで普通の高校生として生きているような錯覚に陥らせた。真夏の太陽はジリジリと私の汗をどんどんと促して、苦しみを思い出せといわんばかりに照っていたというのに。
(ねえ夏華、貴方を反省させるためにはどうしたらいいのかな)
遺書に夏華の名前を出してしまおうかしら。それとも南場さんたちを脅して、無理やり目の前で首謀者が誰か口を割らせてみればいいのかしら。それとも、それとも…。
気付けば夏休みは終わり、またイジメが習慣化した学校生活が始まった。
秋に近づいてきて少しだけ涼しくなったけれど、なんとなく残る夏の暑さがクラスメイト達のストレスとなり、私は捌け口となった。
(死んで呪ってあげようかしら)
幽霊なんて信じていない私にしてはとても面白い考えだった。

「夏華は私の親友だわ」

油絵のモデルをしているときに私が呟いた言葉に、夏華は笑顔で「私もそう思ってるよ」と汗を拭いながら応えた。
貴方がイジメの首謀者だったとしても。と言いかけて、渇いた喉を潤すふりをして飲み込んだ。
私は夏華がイジメの首謀者だったとしても別に構わなかった。けれどこのままではいけないと思った。私と夏華が救われるために、こうするしかないと思った。
だからもっともらしい言葉を紙に連ねた。最初の一枚に、夏華に私は気づいていたことを知らせる最初で最後の抵抗をして。




雪がちらつく1月末、綺麗な太陽、朝日の迎え。

(ねえ夏華、貴方を反省させてまともな人間にしてあげるには、こうするしかないのかな)

雪がちらつく早朝、綺麗な朝焼け、涙のわけ。

(ねえ夏華、この頬に流れる涙のわけは、朝焼けが雪と相まってとっても綺麗だからかな)

きらきら、太陽に雪が光る。
彼女の笑顔のように、未来のように、
夏休みのときに見た、貴方の綺麗な汗のように。





後書き

スランプというより、書くものが尽きたのかもしれません。潮時でしょうか。早すぎてショックです。あ、佳人薄命とかそんな言葉がありますし、多分私はそんな感じだったのかもしれません。
そんな言い訳だけは簡単に打てるのにこの作品を書き上げるのに時間を浪費しまくりました。
今回も、厳しい意見も優しい意見も、率直な感想も、オブラートに包んだ感想もお待ちしておりますので、よろしくお願いします。

この小説について

タイトル 博愛と汗
初版 2011年7月13日
改訂 2011年7月13日
小説ID 4291
閲覧数 722
合計★ 5
佐藤みつるの写真
ぬし
作家名 ★佐藤みつる
作家ID 510
投稿数 36
★の数 185
活動度 4932
だらだら社会人やってます。
本(漫画・小説)の量が半端なさすぎて本棚がぎちぎちになってます。

コメント (1)

★GOLDY 2011年7月20日 0時05分51秒
感動の一言以外にコメントできません…!
物凄い文章力と迫力を感じました!

私の周りではイジメというものが起きたことは実際なかったので、リアルなものは分からないのですが、やはりこういうことってあるのでしょうか…。

色々と勉強になりました。ありがとうございます☆
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