ぺっぱのトンネル - ぺっぱのトンネル(続き)

三 ぺっぱ
二週間くらいたつと目が開いた。赤ちゃんたちはブルーのひとみだった。
「にー、にー」
(つぶらだ)
見ていると吸いこまれそうだ。そんなひとみ。
小さな声で鳴いてる。あかちゃんたちは、じっとぼくを見ていた。
このころには耳がしっかりと立つようになった。立ってみるとだいぶん大きい。それに頭の横にあった耳が、少し上の方に移動したように見える。
(まるでちわわだ)
早速ちわわを見せようと、そらを呼びにいった。
「やまちゃんて。ほんとにくちがよくないね」
そらは、笑うのをこらえながら赤ちゃんとにらめっこしていた。

「しょう、赤ちゃん元気?」
部屋に入ると、しょうが段ボールに向ってふせていた。
「・・・」
わずかに顔を動かしただけで、何も言わない。
ろんとしょうのおじさん二ひきは、かわるがわる段ボールにやってくる。じっと、うごめくものたちを見ているんだ。前足を丸めてふせていたり、寝転がったりしてる。それで、顔だけは赤ちゃんを見ている。
「おいっ子とめいっ子、かわいい?」
赤ちゃんが気になるんだろうか。
かわりばんこに見守ってる。二ひきとも何にも役に立たなそうだけどね。
まあ、おじさんといってもこにゃだからなあ。弟と妹ができた感じなのかも。
このこはくの兄貴ども、身体は大きいけど気が弱い。なんだかさえない男ども。でも、あまえてくるのはオスが多いよね。あまえモードに入ると、しょうなんかは足のまわりをぐるぐるすりすりする。ぼくは、使えなさそうなところが、男どもの可愛いところだと思うよ。
でもまあ、ろんとしょうが見ていてくれると、こはくは息ぬきができそうだ。案外、役に立っているのかもしれない。

ところで、赤ちゃん五兄弟、ただ一人の黄トラのこにゃ。あの黄色いもぐらは、やっぱりオスだった。しっぽが半分くらいで、しょうを小さくしたみたいなの。
小さいしょうは、小しょう。コショウと言えば、ペッパー・・・。あはは。それで黄トラのこにゃをぺっぱと呼ぶことにした。黄色いもぐらじゃ、そらに何て言われるかわからないしね。
ほかの四ひきはおんなじに見えるから、名前はまだつけられないな。

生まれてひと月くらいになった。
すくすく、ぐんぐん育ってる。
かわうそか、ちわわにしか見えなかったこにゃたちも、だいぶネコになった。歯も生えたし。見分けられるようになってきた。
だんだん、ちがいが見えてくる。そろそろ、名前をつけよう。
「ぺっぱはいいとして、キジトラ四ひきがもんだいだなあ」
こにゃは、五ひきでごろんごろんじゃれてる。
まず、かみなりのようなしっぽのやつ。
そらも、「かみなりしっぽ」と言ってる。こいつのしっぽは、何度も折れまがってぎざぎざだ。何故、折れ折れなんだろ?
一回り大きいし、オスだから・・・。「らい」とつけた。かみなりだから。それに強そうだしね。
次に、しっぽの長さが半分のやつ。
先の方がちょっと左に折れているけど。ぺっぱとおんなじくらいの長さだ。
これもオス。お腹を出してあおむけに寝る無防備な性格。黒っぽいけどぺっぱにそっくりだ。積極的で、人なつっこくて、おばか。「ぶらっぺ」にしよう。ブラックペッパーってことで。
あとの二ひきは女の子だな。しっぽが半分でぶらっぺにそっくりなのと、ひと際小さいの。
このちっちゃいのは「ちび」だな、やっぱり。大人しいから余計小さく見える。目も何故かおびえてるようだ。まゆが長いせいかな。案外あまえてくるんだけど。
さて、ぶらっぺに似ている方には困った。しばらく名前がつけられなかった。
まるでうり二つなんだ。でも、こいつはとてもけいかい心が強い。お腹を出して寝たりしない。ただ一ぴき野性的。メスだからかな。
「ぶらっぺ!」
なんて、そらが近づいていくと、ぴくっと身を引く。後ずさりして、「す、たたたた」と一目散に段ボールへとびこむ。顔も大きさもそっくりなのに、ぶらっぺじゃない。まやかしのようなんだ。
それで、お父さんに言ったら、
「まるでフェイクだねー」
だって。
よく似ているものとか、まやかしなんかを英語でフェイクと言うらしい。じゃ、ぶらっぺにそっくりなメスは「ふぇい」にしよう。
ようやくこにゃ全員の名前が決まった。

「やまちゃん、かわのじになってるよー」
階段でぼんやりしてたら、(いや、空想にふけってたら)そらが呼んでる。階段を上がると、なるほど、こにゃたちは五本の川になっていた。
横になったこはくに吸いついて、五筋に長くのびている。
(くらげのようだな・・・)
いけない。危なく口に出すところだった。
段ボールの前のこはくに、みんなでミルクをもらっているんだな。ぺっぱが真ん中にいた。左右たいしょうだ。五ひきもいるのに見事に納まっていた。
「しあわせなやつらだなー」
「やまちゃんほどじゃないけどねー」
「小学生はたいへんなんだよ。テストがあるし」
「ほいくえんもたいへんよ。わたし、ねんちょうさんなんだから」
やれやれこいつらは、とため息をつくぼくを、そらがたしなめる。そらには勝てないなー。
一心に吸いつくこにゃを見る。
(かわいい。こにゃは、これでも必死に生きてるんだろうな)
ちっちゃくて、ミルクがないと生きていけないけど。でも、音がすれば身をふせて、危ないと思えば段ボールににげこむ。自分で考えてる。えらい。
もう、七月になっていた。
生まれてから一ヶ月か。早いもんだなあ。家の中もだいぶん暑くなってきた。

四 住みかの探検
七月に入るともうすぐ夏休みだ。
二回目の夏休みがくる!
「何をしようかなあ」
身体がうずうずしてくる。
こにゃに夏休みは関係ないけど、こちらもそろそろと動き始めた。
横になった段ボールには十センチくらいのしきいをつけてある。このしきいから、こにゃが一ぴきひょこっと顔を出した。ぶらっぺだ。
「にゃ」
目が合った。
これまで、箱から出たくてうずうずしていたにちがいない。でもなんかこわいから、なかなか出られずにいたんだ。出るのは、こはくママが段ボールの前で横になる時くらいだった。
こにゃたち、周囲を見わたして、行けそうだなと思ったらしい。一ぴきまた一ぴきと出てきた。動作がぎこちない。ぺっぱとらいかな。おっかなびっくり、ゆっくりと一歩ずつだ。
「ふんふん」
手分けするように段ボールのまわりを調べてる。住みかの探検を開始した。
見てると、まずにおいをかぐ。何か知らないものがあると、ちょいっと足でつついてみる。食べられるのかな、と思ってくわえてかんでみる。という具合だ。
第一次探検はぼくらのこの角部屋。部屋を自分たちのものにしようとじっくり調査していく。ぬき足、さし足でね。
でも、例えば風で窓が少しでもカタッといおうものならだ。段ボールの中にとびこむ。ちょっとの異音に我先ともどる。
(本能なんだなあ)
今、段ボールは安全な場所。ホームなんだ。それがわかってる。だれにも教えられず、ひなん訓練ができてる、えらい。いや、もしかしたらこはくママが教えたのかな? でも、どうやって教えるんだろう。
「スタタタタッ」
(おっと、ごめん)
部屋を出ようと思って、ぼくが何の気なしに立ち上がったら、こにゃたちがおどろいてホームににげこんだ。

それから何日かした日曜日のことだ。部屋に入ると、
「スタタタ、タタタ」
部屋からこにゃがいなくなる音。おもちゃの歌で、夜のうちにとびだして散らばっていたのが、朝いっせいに箱にかえる感じ。クモの子を散らすようにの逆? 部屋の真ん中でろんが寝ぼけてこっちを見ている。
「あれ?」
よく見ると、ぼくの机にとり残されているのがいた。ひげが下がってる。黄色い。ぺっぱだ。
「ぺっぱ、すごいな」
よく登ったなーと、近づいて目の高さを合わせる。
ぺっぱ、なんだかどきどきしている。
急には机を下りられない。首を上げたり下げたり、うろうろ。段ボールにもどりたいけど、困ったー、という感じ。
(きみ、もしかして考えなしだな?)
どこにでも飛びこんでいく性格。すぐに帰れないところにも、行ってしまう。物おじしないのはいいんだけど。ぺっぱはあんまり注意して行動しないなあ。
(それにしても、どうやって机に上がったんだろう?)
うでの力でよじのぼったのかな。イスの生地にとびついて。そしてイスから机にとびのった。イスから机はそんなに高さがないし。
「あ、ぺっぱ。つくえにあがったのね!」
そらがきた。声が大きい!
「トン、ダダダ」
「ひどーい。にげなくてもいいのにー」
「あはは。ぺっぱ、びっくりしたなー」
ぺっぱは、もうあわてて、むりやり机からとび下りると段ボールに転がりこんだんだ。ゆかに顔をぶつけてないといいけど。

そんなこにゃたち、もうカリカリを食べるようになっていた。カリカリは小さなお皿に入れて段ボールの前に置いてる。
まあ、遊び食いなら二週間くらいのころからやっていた。牛乳やふやかしたエサにはほとんど目もくれず、歯が生えたくらいには大きく口を開けて、ふつうのカリカリをがじがじやってた。
一応、子ネコ用のカリカリも用意してある。栄養があって、食べやすいように小さくなってるやつだ。でも、何故かふつうのカリカリが好きなのが多い。こにゃは大人用のカリカリを食べる。そして、子ネコ用のカリカリはむしろおじさんたちが食べてる。おじさんは栄養のある方が好きなの? 太るぞ。
「ろん、またこにゃのごはんたべて! ろんのはベランダにあるよー」
そらが大きな声で言い聞かせてる。その声に、こにゃたちの方が段ボールで小さくなってる。ろんは、何? という感じだ。
ネコに、そんなこと言っても、しようがない。好きなのを食べてるんだから。まあ、いいのかなあ。いろいろ選べて。
こにゃはカリカリをよく食べる。と言っても、まだまだおっぱいがメインだ。

こにゃたち、だんだん部屋に慣れてきた。
「こはくー、だめだよって教えてよ」
この部屋のカーテン、いつの間にかぼろぼろだ。
こにゃたちがとびついて登るから。こないだは、オスこにゃ三兄弟でカーテン登り競争をしてた。
らいはきれいに下りる。「すたん」だ。ぶらっぺはムリヤリ下りてる。「どん」という感じ。何とか腹ばいに着地。ぺっぱは高くまでよじのぼったあげく、背中からバタンと落ちたりしている。くるっと回って足から下りないのが不思議。ネコらしくないなあ、と思うんだけど。しかし、ぺっぱは平気だ。まるで気にしてないみたいだ。
何日かすると、すっかりこの部屋がホームになった。部屋の中はすみずみまで調べて安心したらしい。
すると、開いているドアから部屋の外をのぞくのがでてくる。こにゃたちは、部屋の外が気になり始めた。第二次探検は角部屋をホームにして、その外のろうかだ。
段ボールを前に、ふと思った。
(ろうかへ出るって、どんな感じなんだろう?)
顔を横にして段ボールの前のゆかにつけてみる。ろうかは少ししか見えない。
今いるこの部屋は、こはくママがいるし、ろんやしょうおじさんもくつろいでいる。段ボールの中からも見えて、だいたい様子はわかっていた。でも、ろうかは・・・、見えないよな。段ボールからは見えなかった世界。ときどき開いているドアからは、古いキャビネットくらいしか見えない。この部屋しか知らないこにゃには予想もつかないんじゃないかな。
地図もない大海原に、船を出して行くくらいの気持ちにちがいない。まさに、こにゃたちには探検なんだ。

後書き

ぜひ、続きも読んでください!

この小説について

タイトル ぺっぱのトンネル(続き)
初版 2011年7月27日
改訂 2011年7月27日
小説ID 4303
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むんの写真
駆け出し
作家名 ★むん
作家ID 742
投稿数 2
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活動度 203
童話を中心に書いています。絵本も書きます。
最近は青春短編を書いてみました。

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