終焉に少しの光明 - 幻想からの現実

「ただいまー…」
「あらお帰り。どうしたの?早いじゃない」


家事をしていた母さんに、帰ってきたことを伝える。
運が悪いことに、今日は母さんの仕事が休みなのだ。
何故運が悪いだなんて思うのかというと…、


「…ちょっと具合悪いから帰ってきた…」
「え!?大変じゃない!熱は?どこか痛くない?」
「あー…大丈夫だから…」
「ごはんは!?普通のごはんじゃなくて、お粥にしたほうがいいかしら?」
「…うん…」
「すぐできるから、ちょっと待ってて…!」
「あぁ…、今はいいや…」


一人っ子な上に、女兄弟ばかりの母さんが待望していた男児なのもあってか、過保護すぎるのだ。
心配されて嫌な気はしないが、高校生の息子にこの過保護っぷりは、他所じゃなかなか見られないだろう。
これ以上余分な心配させる前に、早く部屋に行こう…。


「そうだ、薬!薬は飲んだの?」
「寝てれば治るから…あんまり心配しないで」
「なにか変わったことがあったらすぐ言うのよ!?」
「大丈夫大丈夫…」


そういい残して、2階にある自分の部屋に向かった。
もう、既に色々と変化が起きてます、なんて口が裂けても言えないが。

しかし、本当に家に着くまでいろいろあった…。
なんだか無駄に疲れを感じて、部屋に入ってドアを閉めた瞬間に俺は朝起きてからそのままの布団が乗ったベッドにダイブした。
制服がぐしゃぐしゃになるだろうが知ったことじゃない。

学校のベッドもふかふかで良かったけど、やっぱり自分のベッドのほうが落ち着くとか、尚輝が明日会わせたいって言ってる奴は一体どんな奴なんだろうとか、どうでもいいことを考えながら、睡魔の降臨を待つ。
もちろん、さっき見た夢の続きを見たいがためだ。

あのドラゴンは、【王様】がどうとかって言ってた気がする。これだけは聞き間違いじゃない。
ドラゴンは一体何者なのか、【王様】という単語は一体何を意味していたのか。
それを知るために、俺は瞼を閉じた。





真っ黒な空間。
そこに立つ俺。
授業中に見た夢と同じだ。

暗い空間の中で、自分の体を再確認すると…さっきの新聞紙のようなモノクロではなく、ちゃんと現実と同じように色がついている。
なんだか…、あのドラゴンと同じ生き物になったようでいい気分はしない。

服を捲ってみたが、あの痣もくっきりと残っている。
下校中にほんの少しだけ、【普通に下校している今が夢かも】とか考えてたけど、やっぱりそうじゃないんだな…。
無駄に期待を裏切られたところで、俺はあの時のドラゴンを探して暗闇を少し歩くことにした。

やっぱり、一番最初と同じで、はっきりした道もなければ光もない。
さっき居た地点からどのくらい歩いたのかも全くわからない。
ベタな表現かもしれないが、頭がおかしくなりそうだ。
進んでいるのか戻っているのか、わけのわからないこの空間は、ものすごく疲れを感じる。

でも、【疲れを感じる】…ってことは、やっぱりこの空間はただの夢で済まされる物じゃない、というのを再確認するきっかけにもなった。
これは隅々まで歩き回って調べるべきだ。
だが、終わりも光も見えないこの空間のどこをどうやって調べる?
目印かなにかを付けようにもそんなものを都合よく持っているわけでもないし、仮にあったとしてもこんな真っ暗闇のなかで目立つのかもわからないし。
一体何から手を付けていけばいいのか…−


『やっと見つけましたぞ』
「!?」


後ろから何かに話しかけられた。
年老いた掠れた声だが、俺を驚かせるには十分すぎた。


「お…まえ…!?」
『既に1度お会いしているではありませぬか。その様に驚かれなくても…』


後ろに居たのは、俺を追いかけてきたドラゴンに他ならなかった。
ただ、前回と違って色が付いていない。真っ白のドラゴンだ。

ドラゴンは、顔だけで俺の数十倍に及ぶであろうそのでかい体を、ずるずると引き摺りながらできるだけ俺と目線を合わせて来た。

思考ばかりがぐるぐると回転し、膝はガクガク震えている俺。
目を合わせてくるドラゴンと目を合わせられない。
人知を超えた生き物を前にしたせいで、頭の整理が追いつかない。
次になにが飛び出すのか、なにを要求してくるのか、わからないことだらけで冷や汗が異常なまでに吹き出てくる。


『そんなに怯えないでください。【王様】』
「【王様】…?」


こいつ、最初にも俺に【王様】って…。
それに…最初は気にする余裕なんかなかったけど…人間の言葉で、日本語で、しかも敬語…?
既に1度会ってるって言ってたから…、最初に俺を突き抜けて行ったときに、こいつと俺の立場が変わったのか…?
敬語で話しかけて来てるし、俺のほうがこのドラゴンよりも上の立場、という解釈でたぶん大丈夫だろう。
 この雰囲気だと、取って食ったりはされなさそうだ…。


『なにを仰います。【王様】にそのようなことをするはずがありません』
「お前…俺の考えてることがわかるのか?」
『当たり前ではありませんか。【王様】の心がわからずして、何がわかるというのですか』


どうやら、俺の考えてることは全て丸聞こえらしい。
本当に、漫画やゲームの設定みたいだ…。
っていうか、俺の気持がすべて筒抜けなんて、なんか…恥かしいな。


『心配ありません。【王様】のお心の内を知りうるのは【王様】と私だけですから』
「いや…、そうじゃなくて…っ」


何を考えても無駄だ。全て率直に話そう。


「さっきから【王様】って言ってるけど…俺のこと?」
『貴方以外に誰が【王様】だと仰るのですか?』
「俺…別に【王様】じゃないし、そういう願望も…」
『貴方は既に【王様】ではありませんか』
「…どういうことだよ?」
『貴方は【自分の世界】を変えたいと強く念じていらっしゃったではありませんか。「こんな場所に居たくない、もっと自分にふさわしい場所がある」と。それでこそこの【世界】の【王様】です』


そうか…、俺の目から見た高校のことか。
確かに、あんなメンバーの中に俺が居るのは間違っていると少なからず思った記憶がある。というか、ほぼ毎日思っている。
もしかしてそれのことか?


『その通りです。自分にふさわしい【世界】を手に入れたいと強く念じた貴方こそ、【この世界の王様】にふさわしいのです』
「…【王様】と【世界】について、もう少し詳しく知りたいんだけど」
『畏まりました。それでは簡単にですが、ご説明させていただきましょう』


ふぅ、と一息吐いてから、純白のドラゴンは話し始めた。

『口で説明するより、実物をお見せしたほうがご理解いただけるでしょう』


 そう言うと、純白のドラゴンは長い体をずるずる引きずりながら、俺に詰め寄ってきた。


 「なんだ…!?」
 『取って食べるわけではありません。どうか動かないで頂きたい』


 純白のドラゴンは、自分の額を俺の額に優しく、くっつけてきた。
 動くな、って言われたし…変なことして、取り返しのつかないようなことになったら、と
思うと、逃げられないどころか動けなくなってしまった。

 なんだ…これからなにが始まるんだ…!?


 『…それでは、詳しくご説明させていただきます』


 一瞬、ピリッと頭痛が走った。
 それを合図にするかのように、俺の頭に映像が流れ込んできた。

 まるで、夢でも見ている時のような、なんだか輪郭がはっきりしない、あのぼんやりとした印象の映像だ。

 これは…なんだ…?

 真っ黒の背景に、きらきらと無数に輝く青いビーズのような球体が見える…。
見慣れないその空間の真ん中にひとつ、見慣れた青い球体を見つけた。

 もしかしてこれって…。


 「…地球?」
 『そうです。そしてその星は、あなたの【世界】にあたります』


 ドラゴンの声が響いた。
 でも、この地球がなんだっていうんだ…?


『それでは少し、下がって観て見ましょうか』

ドラゴンはそういうと、地球1つ分しか見えなかった映像を退いて、地球以外の星が見えるように視野を広めてくれた。
俺の【世界】がスイカ程度の大きさに見える頃に、俺は衝撃の真実を見てしまった。


「なんだ…これは…!?」


俺の目に映るのは、地球が複数個あるという異様な光景だった。
複数と言っても、2コや3コではない。
100…200…、いや、もっとか…!?

それぞれの地球同士、適度な空間を保ちながら、それぞれが宇宙に存在しているのだ。
夢でもなければこんな光景は…信じられない。

 『【王様】にはまず、自分の【世界】の他にも【世界】が存在することをご理解頂きたいのです』
 「…俺の【世界】以外の地球は、全部他人のものだってのか…?」
 『左様でございます。全ての【世界】それぞれに【王様】がひとりづつ定められております。』


 俺のような立場の奴らが、他にもこんなに居るってことか…。

…かなり冷静に対応しているように見えるかもしれないが、今かなり動揺している。
俺が存在している自分の【世界】の他に、並行して他の【世界】が存在しているなんて、正直に言うと信じられない。あまりにもファンタジーすぎる。
でも、一番最初にあんな出来事があった後じゃ…信用せざるを得ない。

 星の数程の【世界】が居て、星の数程の【王様】も存在する。
 よし、ここまではなんとか付いて行けてる。
次に聞きたいのは…、


「他の【世界】との干渉とかはないのか…?」
 『ご安心ください。ちゃんとご説明致します』


 頭に流れ込んで来る映像が切り変わった。

 どこを見ても砂ばかりが続く場所だ…きっとどこかの国の砂漠か何かだろう。

 砂漠というものは、テレビや本でしか知らないが、太陽の照り具合が半端じゃない。  その場に居るわけでもないのに暑さを感じさせる。

 そこに出てきたのは、少しだけ遠くを進む戦車と…なんだか長い銃を抱えた、俺より小さい子供が手前に現れた。

 物騒なものばかりが目に入ってきて嫌な予感以外になにもしない。
まさか…!


 「おい…これって…!」
 『お静かに』


 低く唸るようなドラゴンの声に、俺は何も言えなくなってしまった。

 ただただ、頭に流れてくる映像を追いかけることしかできない。


 『これよりご説明させていただくのは、他の【世界】の【王様】に干渉された場合の対処法です』
 「なんだ…それは…!?」
 『ひとつのケースとして、この状況をご説明させていただきますと、この映像は貴方の隣の【世界】の【王様】であるこの少年の現在の姿です』
 「おいっ…!」
 『この少年は「争いのない世界が欲しい」という願望から【王様】に選ばれたのです。』


 くそ、聞いちゃいねぇ…。
今はこれを見てろってか…!

 頭に無理やり流し込まれる映像から、目を背けることが出きるはずもなく、俺は映像を見せられ続けた。

 長い銃を抱えた少年が、元々は建物だったらしい、崩れ落ちた壁のようなものに身を隠しながら、どうやら敵らしい戦車の様子を伺っている。

 キュラキュラとキャタピラの独特な音を奏でながら前進する戦車。
子供に気付いているのかは、俺から見ただけじゃわからない。

 でも、事が起きる前から、もう結末を悟ってしまった。
 この銃を抱えた子供の辿る末路を…!

 戦車の砲身がゆっくりと、子供のほうを向いた。


「逃げ…!」


 瞬間、爆音。

 戦車の発砲音なんて、いままでに聞いた事が有るはずがない。

 爆音からワンテンポ置いた後に、映像は砂煙で遮られた。

 砂煙が晴れて来ると、さっきまで長い銃を抱えた子供を覆い隠していた壁は跡形もなく崩れ落ちていた。

 壁があった場所から少し距離のある場所には…色々なパーツが足りなくなったあの子供だったものが倒れていた。赤くて黒い、水溜まりを作りながら。

 子供が纏っていた穴だらけのボロボロになった服から覗いた体には…俺と同じ昇り龍の痣…!?


『おや、やられてしまいましたね」


 色々なパーツが足りなくなった子供だったものが、ボロボロと砂のように崩れ落ちていく。

 みるみるうちに、砂漠の砂と混ざり合い、子供がそこに存在したという証拠はどこにもなくなった。
 残されたのは…穴だらけの服と赤黒い水溜まりだけ。


 「なんなんだよこれは!!」
『こちらを見ていただければ何が起きたかご理解いただけるかと』


頭に流れ込んでくる映像が切り替わる。
一番最初に見せられた、無数の地球が浮かぶ宇宙だ。
こんなもの、と思い、逃れようと体を動かそうとしたが、また酷い映像が流れ込んで、体が固まってしまった。


『解りますか?貴方の【世界】の右隣です』
「な…んだ…!?」


俺の【世界】の隣。先程の少年のものだったはずの地球は、先程の少年と同じようにガラガラと底の見えない闇に崩れ落ちていっていた。
 まさか、【王様】にあたる人間が殺されれば、世界もろとも崩れてなくなってしまうのか…!?


 『…先程の少年はとある【世界】の【王様】にあたる人物。それが消え去っただけのことです』
 「消えた…だけ…!?」


 人間が、子供が死んでるんだぞ…!?
 それなのに、「だけ」なんて言葉がよく吐けるものだ…!


 『つまりは、【王様】が殺されれば【世界】は消滅します。』
 「なんで…、なんでこんな…!」


 どうして、自分の理想の【世界】のために、何故他人の【世界】を、【王様】を犠牲にする、という選択をできるのか。

 『普通と変わらぬことですよ』


 ドスの効いたドラゴンの声。
気持の奥底になんとか蓋をしていた恐怖心が一気に溢れ出し、搾り出せるだけの力をすべて発揮し、ドラゴンから距離を取った。

ドラゴンの顔は…いままでに見たことの無いような殺気に満ちた恐ろしい顔をしていた。


 『人間は強欲な生き物です。

人の持っている物がどうしても欲しくなってしまうことがおありでしょう?

人の持っている才能がどうしても妬ましく思えることがおありでしょう?

自分が人より優位に立っていることが最高に幸せでしょう?

他人など蹴散らして、全てが自分の思い通りになれば幸せでしょう?』


耳の痛い言葉を吐きながら、どんどん距離を詰めてくるドラゴン。
後ろに道があるのか、もはやどこにいるのかもわからないせいで、あまり距離を取ることもできず、動けない。
ついに、先程と同じように、額を突き合わせる程の距離まで追い込まれてしまった。


 『自分が一番正しく、自分が誰よりもまともだと強く考えていらっしゃるでしょう?』


 ぐさり。

 確かに思った。思っていた。
 周りの奴らなんかに比べたら、俺は誰よりもまともな道を確実に進んでいたと…!


 『そのお考えは間違っておりません。貴方の人生に必要のない人間はすべて蹴落とし、見下していればいい。』


 やめろ。

 やめてくれ。


 『最後まで生き残ることができれば、貴方こそが、貴方の【世界】こそが一番なのですよ。なによりもまともな【世界】の誕生ですよ』
「そんなのっ…俺は…、ちがっ…!」


 ぱきん。

 皿が割れるような音。

 真っ暗だった世界に、真っ白い光の見えるヒビが入った。


 『…今回はここまでのようですね』
 「な、なんだ…!?」
 『夢が覚めるのですよ。もう数分も保ちません』


 ガラガラとけたたましい音を立てながら、真っ暗な世界が崩れ落ちていく。
足場もみるみるうちにヒビが入り、立っているのも辛いほどに崩壊を始めた。
生まれたての小鹿のような足取りで、なんとか立ち上がっている俺に、ドラゴンは一言添えて、一礼してきた。


『しっかりと生き延びてください。自分の【世界】と命が欲しいのならば…。』


…―

後書き

説明回ですので少々長くなってしまいましたが、

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幾千万もの【世界】が存在する現世。
それぞれの【世界】には1人づつの【王様】が存在する。

【王様】とは、【世界】の全てを担う存在。
【王様】が居なくなれば【世界】もろとも、全て無くなってしまう。

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これがお分かり頂ければ幸いです。

この小説について

タイトル 幻想からの現実
初版 2011年8月19日
改訂 2011年8月19日
小説ID 4316
閲覧数 590
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那託の写真
常連
作家名 ★那託
作家ID 738
投稿数 6
★の数 13
活動度 596

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