終焉に少しの光明 - 重大からの無関心

「龍也!龍也!!」
「む…」


なんだよ…煩いな母さんは…。

結局、変な夢のせいで中途半端な時間に寝て、起きて、おじや食べて、それからまた中途半端な時間に寝てしまったから、目覚めがものすごく悪い。
そこから更に半端な感じで寝てしまったから、なんとなく背中が痛い…。
布団が気持ちよくて、ここから動きたくない…。


「学校行かないの!?」
「……!?」


そういや…今、何時だ?
昨日、学校にもって行き忘れて、枕元に放置していた、黒の二つ折りの携帯電話を開いた。

携帯のデジタル時計は、午前7時40分を指していた。
ホームルーム開始は8時15分。学校までは徒歩20分程度。
あ、まずい。


「母さん!朝飯、今日いらないから!」


慌ててベッドから飛び起き、くしゃくしゃのままの制服に袖を通した。
いつもなら、ワイシャツの下に白のTシャツを着ているが、今日は黒のTシャツにした。
もちろん、【王様】の目印になる昇り龍の痣が透けてしまわないためにだ。ここだけは抜かりなく。

さらに、今日は携帯を忘れないように、ちゃんと制服のズボンのポケットに入れた。
そして、今日は新しいアイテム「もしものためのカッターナイフ」が携帯を入れたポケットとは反対の、左側のポケットに入っている。
備えあれば憂いなし、って昔から言うからな…。なにもないことが一番いいんだけど。

制服を着終えたら、教科書やら参考書やらがパンパンに詰まった通学カバンを片手に階段を駆け下りて、洗面所へ直行。
なんとか、5分で洗顔と歯磨きを済ませた。人間やればできるとはこのことか。


「んじゃ、いってきます!」
「あ、龍也!お弁当!」
「ああああ!」


まさかのタイムロスがあったが、8時5分前にはなんとか家を出ることに成功した。
あとは学校までの道のりを走るだけだ。

ただ…、小学校も中学校も勉強勉強で過ごして来た俺の体力が、どこまで、持つか…。
…あ、な、んか、疲…れ、て…きた…!
だいぶ走ったつもりで、なんとなく後ろを振り返ってみたが、俺の家の大きさは全然かわっていなかった。
実は俺の家に足でも生えて、俺を追いかけているんじゃないかと錯覚したぐらいに家から大して離れていない…。

男子高校生の体力じゃないな、と思いつつ、もう一度俺は学校を目指して走り出した。


「たーつやー!」


誰だ。人が、遅刻しまいと必死に、走っているときに、後ろから声、なんか、掛けて来る、やつは。


「おっはよーん☆」
「…な、尚輝…か…」


誰かと思えば、棒付きの飴を舐めながら、頭にテカテカした黄色のヘッドホンをつっくけて、ふらふらとやる気なさげに歩いて近づいてくる、いつもの調子の尚輝だった。
小学生の通学帽子のような黄色のヘッドホンに、今日のパーカーは蛍光ピンク。
正直、そのコンボは目に痛い。


「そんなに走ってどーしたのー?」
「ど、うも、なにも、ちこ、ちこくっ、する、だろっ!」
「えー、いいんじゃん?1回ぐらい〜。だってまだゼロでしょ?」
「い、やだ」


無遅刻無欠席。
これがあるだけで、かなり人間の見え方は変わってくると俺は思っている。
人間関係にしても、近い将来に就職するにしても、遅刻は一番の欠点、なんていうし。


「遅刻だけは、したく…ないっ!」
「んもー、真面目なんだから〜」


頭にくっつけたヘッドホンの先に付いたショッキングピンクの音楽プレーヤーで曲を選びながら、ぺたぺた歩いて付いてくる尚輝。
そんな尚輝に構わず、学校までの道のりを走る俺。
歩くのと走るのとじゃ全然スピードが違うはずなのに…俺と尚輝の差はまったく開かない。
つまり、俺の全速力は、尚輝が普通に歩いて追いついて来られるレベルなのか…。
嗚呼、なんて不憫なんだ。俺の全力疾走は。

そんなことを考えていたら、隣を「ちこくするぞー!」と、叫びながらダッシュする小学生3人に走り抜けられてしまった。見事なゴボウ抜き。いや…まさか、そんな…。


「…ぷっ…!」
「笑うなぁぁぁ!」


まさか、小学生如きに抜かれるとは…って、今はそんな場合じゃない!
ポケットから携帯を出して時間を確認した。
うっかり、左側のポケットに手を突っ込んで、違うものを取り出してしまわないように冷静に冷静に…。

―午前8時7分

嗚呼…もう終わりだ…なにもかもおしまいだ…。
先程の俺の全力疾走程度じゃ、あと8分で正門をくぐって遅刻を免れるだなんてのは無理。
どーせ遅刻するんなら…もうちょっとゆっくりしてもいいか…。
なんだかいつもより足が重いように感じながら、ゆっくりゆっくり歩き出すことにした。


「あれ?走んねーの?」
「もう、無理だ。適当に言い訳考える」
「まだちょっとだけ時間あるぞー?」
「俺の全速力じゃ無理あるだろ」


もう全部諦めよう。
腹痛とかの適当な言い訳を考えて、なんとか丸く治めよう。
俺の気持が、そんな消極的な考えに変わった時だった。


「無理じゃないって言ったら?」
「…え?」
「龍也も俺も、遅刻しない、って展開になったらどうよ?ってこと」
「そりゃあ…願ってもないことだけど…」
「よーし!わかった、尚輝くんにぜーんぶ任せなさい!」


ぱきり、といい音を立て、尚輝は棒付きの飴を噛み砕いた。
そのまま俺のほうに近づいて来たかと思うと、尚輝は俺のカバンをひったくった。


「な、なにするんだ!?」
「っは〜!今日もこんな重たいの抱えて歩いてんの!?俺だったら肩抜けちゃうかも〜」


そう言いながら、尚輝は俺の手を掴み、学校までの通学路を一目散に走り出した。

「おい!大丈夫なのか!?」
「このまま俺が学校までダッシュ!そのほうが早く確実に着けるでしょー!」

尚輝にぐいぐいと引っ張られる形になり、自分のペースで走れないところが少々辛いが、俺がひとりで走るよりも全然早い。
流石、並外れた身体能力を持っているだけのことはある。


「たつやー!今何時!?」
「は、はちじっ、じゅうに、っふん!」
「よっしゃ、これは間に合うぜぇぇぇぇぇ!」


だんだんと、学校の正門が見えてきた。
それと同時に、俺達と同じ「遅刻間際」の環境に身を置いている、同じ学校の面々もぽつりぽつりと出始めていた。

もっと早く来いだの、もう閉めるだのと大声を上げながら牧羊犬のように俺達生徒を追い込むジャージを着た体育教師。
朝も早くからご苦労なことだ。


「おっはよーございやーす!」
「またお前か!って遅刻…?!」
「今日は遅刻してまっしぇーん!」


煩い体育教師の前をさっさと通過する俺と尚輝。
あの体育教師は、尚輝が遅刻していないことにかなり驚いたらしい。
まだ俺達のほうを向いて口をぱくぱくさせている。しかも目が点というおまけ付きで。
そういえば…ここ2日間は遅刻してないな、尚輝。なんだこれは、天変地異の前触れか。


「はいはいはーい!下駄箱とうちゃーっく!」


やっと俺の手を離してくれた。
重たかった、と俺のカバンを俺に投げて返すもんだから、ちょっとふらついてしまった。
しかし…3日分ぐらいの体力を消費した気がする…。


「悪ぃ…助かったわ…!」


いまにも消え去りそうな、聞き取れるかどうかも曖昧な声で、尚輝に礼をいうのが精一杯だった。


「いっやー、重たかったわぁ〜!」
「あ…ごめん…」
「いやいや!そういうんじゃなくてさ!」


いやー、走った走った、と言いながら、尚輝は俺にカバンを返し、青虫のような緑色をしたスニーカーを脱いで、下駄箱につっこんだ。
俺もそれに習って、真っ黒いローファーを下駄箱にしまった。
走りすぎたせいで、膝がガクガクと情けないくらいに笑っているのを、ちょっとだけごまかしながら。

尚輝は先程のスニーカーの代わりに、校内履きを取り出して、床に落とした。
校内履きは校内履きで、また尚輝好みなカラーリングに、蛍光ペンやら絵の具やらでカスタムされている。今度は黄色にショッキングピンクというかなりポップな組み合わせだ。
そこに様々なカラーの絵の具で、返り血のような模様が施されている。
水色の絵の具だったりオレンジの絵の具だったり…うーん、クラクラする配色だ…。


「あり?結構フラフラだったりする?」
「いや、大丈夫…大丈夫…!」


膝が大丈夫じゃないけど。


「そーだ!昨日言ってた俺の友達のことだけどさー」
「あ、あぁ」
「昼休みに一緒にメシ食う約束したからさ!その時にでも一緒にどうかなーと思ったんだけど、どーだぁ?」


誰かと一緒に昼ごはんか…。
中学の時は、前後左右の数人と机をくっつけて給食を食べなければならない決まりがあったのをなんとなく思い出した。

あの時は、白いご飯を胃に詰める手助けをするためだけに調理された味の濃すぎる給食を、好きでもないクラスメイトと食べていた。
高校に上がってからは、ずっとひとりで居るような状態が続いていたから、友達と一緒に昼ごはんなんて始めてかもしれない。


「わかった。昼休みだな」
「よっしゃー!そういや、龍也って昼はどうしてんの?買い弁?」
「いや、俺は弁当」
「あーそっかー…俺、購買行かなきゃ昼飯ないんだよなー…」
「…一緒に行くか?」


尚輝も俺も「え?」というような顔をした。
まさか、俺の口から協調性のある言葉が飛び出してくるなんて思わなかったんだろう。
俺だって思わなかったんだから。


「マジで!?購買付き合ってくれんの!?」
「あ…あぁ…」
「くっはー!やっさしいねー龍也はっ!」


バシバシと背中を叩かれ、若干ふらつく。
そんなに嬉しいのか…?


「そんなこと言ってもらえるなんて、ママはうれしいわっ!」
「いや、お前は俺の親じゃないし」
「ツッコミいただきましたーっ!」


わははは、と心底楽しそうに笑う尚輝。
本当にこいつはいつでもこんなテンションなんだな…。


「じゃあ、昼休みな!約束!!」
「あぁ、わかった」


教室に入ると、俺と尚輝は自分の席に着いた。
俺は1限の授業で自習をするために教科書を準備し、尚輝は隣近所のクラスメイトと何をして遊ぼうかと話し合う。この前までと同じ、別々の時間の過ごし方だ。
うん、いつもの日常だ。変化なんて、ない。

この小説について

タイトル 重大からの無関心
初版 2011年9月3日
改訂 2011年9月3日
小説ID 4319
閲覧数 689
合計★ 2
那託の写真
常連
作家名 ★那託
作家ID 738
投稿数 6
★の数 13
活動度 596

コメント (1)

敬語苦手くん 2011年9月16日 19時41分59秒
細かいよ!

丁寧すぎて引く。
いやいいんだけどキャラとか世界観?が固まってるって意味では。でもさー、もうちょい肩の力抜きなよ。読む人もこれじゃ疲れるでしょ。
文章がちょっと凝ってる日記かと思ったよ。

しかも細かいせいで話に勢いがないよ。他の話あんま読んでないけど日常を書きたいからって、ここまで低速走行で完結まで持ってけるか不安になる。やる気続かないでしょまじで絶対。

プロットもし書いてるなら大体何話構成にするか決めたら、もっと丁寧すぎる部分省いていけるんじゃない?この丁寧さはもっと話に流れが出てきたら長所になって出てくると思うよ、がんばってねー
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。