僕の深海魚

深い深いブラックブルー。

僕の深海の色。

濃い濃いワインレッド。

僕の血の色。

僕の中で1匹の深海魚が泳いでいる。

黒い黒いプランクトンを食べている。

深海魚は成長する。

ダークブルーの塊に。

長い長い尾ひれを棚引かせ、ブラックブルーの底へ身を沈めた。

そこがそいつの寝床だ。

口からワインレッドの稚魚を生む。

稚魚は僕の膜を突く。

痛くて痛くて堪らない。

深海の底がシクシクと痛む。

稚魚は僕の膜を破り、外に出ようとする。

外に出すことは、絶対に許されない。

僕はその稚魚を殺そうとする。

稚魚を一か所に集めて。

深い深い深海に沈める。

根底に力を入れ、勢いよく飲み込む。

そうすれば、稚魚は僕の前からたちまち消えてしまう。

この方法には結構労力を使うけど。

残っているのは、黒い眼を濡らした深海魚だけ。

僕のことを少し見つめてから、深海魚はまた泳ぎだす。

くるくるくるくる。

深海魚が自分の尾ひれを追っている。

こいつ馬鹿だなぁっと思いながら、黒い眼を持つ僕が見ている。

くるくるくるくる。

小さな渦が大きく成長していく。

くるくるくるくる。

深海魚は自分の尾ひれを追うのを止め、渦の中へ身を投じた。

渦はだんだんと小さくなり、消えてしまった。

眼を開けると濡れた黒い眼とかち合った。

濁った水の音が耳元で聞こえた。

さっきの渦が逆流でも起こしているのだろうか。

そんな些細なことを思いながら、再び黒い眼を閉じた。

そして世界は暗転する。

僕が跳ねると、深海魚も跳ねる。

僕が食事をすると、深海魚も黒いプランクトンを食べる。

僕がワインレッドを吐くと、深海魚も赤い稚魚を吐く。

その繰り返しだった。

深海魚は僕なのではないか、と漠然な思いを抱くようになった。

そして、どこかで繋がっているのだろう、と。

同じ深海を共有し、同じ行動をとる。

同じものを食べ、同じものを吐く。

ぽこぽこと気泡が昇る。

深海魚の呼吸だ。

深海でいつも深海魚の存在を感じている。

この感覚はいつから持ち合わせていたのだろうか。

僕は深海に深海魚を飼っている。

その深海は、とても冷たくて、だけど何処か心地良い場所だった。

そいつは、いつのころからか僕の深海に住みつくようになった。

どこから来て、どうしてココにいるのかは分からないけれど。

それでも、それは当たり前のようで当たり前じゃないのかもしれない。

僕にとっては当たり前だけれども。

他の人の深海にはいないのだろうか。

いないのだとしたら、こいつもさぞかし寂しいことだろう。

……僕も寂しいのかなぁ。

それよりも、どんなことを考えようと、こいつがココに住んでいる事実は変わらない。

黒い眼がこちらを向いた。

いつにも増して翳を帯びている。

意識を向けると、また僕がワインレッドを吐いていた。

あれ?

僕の周りに赤い塵が舞っている。

世界がブラックブルーだ。

僕が見てきた世界じゃない―――ッ。

僕が見てきた世界は、どうしようもなく汚いところだった。

それでも綺麗なモノや感動するモノが沢山転がっていた。

ここは単色しかない世界。

なら、あの汚い世界にいる僕は誰だ。

あのワインレッドを吐いている僕は誰だ。

この赤い塵は、稚魚?

いつも深海魚が吐いている稚魚だ。

黒い眼とかち合った。

いつも無表情な僕の顔だ。

―――口角が上がるのを見た。

笑っている。

嘲ている。

僕が僕に―――?

ぽこぽこぽこぽこ。

耳元で気泡の音を聞いた。

深海魚が……僕が呼吸をした音だった。

僕は深海魚に根底へ沈まされた。

あの渦が眠っている場所に。

僕は始めから深海魚だったのかもしれない。

沈みながらそんなことを思った。

今となっては、どうでもいいことだった。

くるくるくるくる。

尾ひれを追って、沈んでいく。

くるくるくるくる。

僕が愉しそうに回っている。

ぽこぽこぽこぽこ。

最後に聞いたのが僕の呼吸なのか、深海魚の呼吸なのか分からなかった。

1つだけ分かるのは、僕は深海魚であった、ということだけだった。

ブラックブルーの世界が暗転していく。




―――そのあと深海魚がどうなったのかは、誰も知らない。


後書き

久方振りの人も、初めましての人も、ここまで読んで頂きありがとうございます!

謎な物語ですいません(苦笑)
突如頭に浮かんだ世界を表してみました。
今回は、色で場面を表現することに力をいれました。

感想・アドバイス等を頂けると有難いです。

この小説について

タイトル 僕の深海魚
初版 2011年11月19日
改訂 2011年11月19日
小説ID 4333
閲覧数 831
合計★ 3
幸村響の写真
熟練
作家名 ★幸村響
作家ID 614
投稿数 9
★の数 22
活動度 1561
活字中毒な為、読書が欠かせません。

コメント (1)

★那由他 2011年11月19日 22時28分55秒
こんばんは。那由他と申します。以前に一度、作者様の作品にコメントを書き残したことがありますが、憶えていらっしゃいますでしょうか。
御作を拝読いたしました。つたないコメントになりますが、感じたこと、思ったことを書いておきます。

一読した印象としては小説と言うよりも詩に近いかな、と思いました。内容もシュールで、正直、コメントしづらいです。御作から感じられるものを読者が納得すればいいわけで、そうした感覚にこれと決まったカタチはないようにも思います。

かなり色彩を意識した文体だな、という印象を受けましたが、あとがきのメッセージを拝見いたしますと、やはりそのあたりは狙って書かれたようですね。水族館でライトを浴びる魚をながめているような、そんなイメージを思い浮かべました。イメージを喚起する、という点では効果的であったと思います。

それほど長い作品ではありませんので、最後まで読みとおすのにさほど時間はかかりませんが、シュールな内容であるだけにこれ以上の長さになると途中で挫折してしまいそうな気がします。長さとしてはこれぐらいがちょうどいいのでしょうか。

読み進めていくと、濃淡の違いこそあれ、出てくる色は基本的に赤、青、黒の三色で構成されていますので、色を意識するのでしたらもう少し多彩であってもよかったかな、と個人的には思いました。

簡単になってしまいましたが、コメントは以上です。
次回の作品も期待しております。これからもがんばってください。
それでは失礼いたします。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。