Merci - 【約束】

『手術中』の赤いランプが消えた。
それと同時に、「ジャクソンっ!!」という言葉が遠くの廊下から聞こえた。
廊下から走ってきたのは、事故にあったと聞いて駆けつけた紫音の姉、桐谷緋雨。
緋雨は顔面蒼白で、今にも倒れそうな感じだった。
しばらくしてから、目の前の大きなドアがゆっくり開く。
中から頭や色々な箇所に包帯を巻いてベットに寝ている、桐谷紫音の姿が見えた。
椅子に座っていたバンドメンバーは一斉に立ち上がり、ベットに駆け寄る。

「どいてください」

ベットを押していた看護師がそう言った。
看護師は奥の廊下へ進んでいく。いつの間にか、紫音は見えなくなっていった。
手術室から出てきたのは、体格のいい医師。
マスクとゴム手袋を外しながらその医師は出てきた。

「桐谷紫音さんのご家族の方は?」
「私です」

そう言いながら緋雨は医師のほうへ行った。

「ジャクソンもこっち来な」

そう緋雨に諭されて、ジャクソンはゆっくりと緋雨についていった。
医師と2人は、手術室の近くの診断室へ入っていった。
残されたバンドメンバーは、ただ呆然としていた。
沈黙を破ったのは、先ほど紫音を運んでいった看護師だった。

「桐谷さんのお知り合いの方ですか?」
「え、あ、はい」

そうどきまぎしながら言ったのは、スプリングだった。

「桐谷さんは手術後なので病室には入れませんが、ガラス窓からでしたら
 お会いになれますけど、お会いになりますか?」
「…はい」
「ではこちらへ来て下さい」

その看護師は廊下を進んでいく。あとからゆっくりとした足取りでついていく。
看護師が示した場所は、『205』号室。そこは重症者が運ばれる部屋だった。
目の前には色々なコードを体につけ、周りには大型の機械がついている紫音の姿だった。
看護師は「何かあったら、ナースステーションまで来て下さい」と言って、去って行った。

「紫音…」

そう呟き廊下のソファーに座ったのは、スプリングだった。
和磨は、ガラス窓に手を当てながら窓越しに居る紫音を見た。

「お前…あと2週間で、夢見てたコンテスト…あるやないか」

和磨は、悔しさが混ざった小さな声で呟いた。
皆より1歩後ろに居たゼウスは、かぶっていたシルクハットに手をかけた。辺りが再び静まった。



「…紫音」

愛しき彼女。

「なんで…」

こんなことになったんだ。
俺はまだお前に伝えてない事が沢山あんだよ。お願いだから、早く目を覚ましてくれ――――


零王は静かな廊下に涙を落とした。

************


診断室に入った俺と緋雨は医師に諭されて、椅子に座った。
沢山の文字が書かれた紙を見ながら医師は、眼鏡をかけなおした。

「あの…!紫音は?紫音はどうなんですかっ!?」

緋雨は思わず大きな声を出した。
俺は前のめりになった緋雨を手で押さえた。

「あなたは桐谷さんのお姉さん…でしょうか?」
「はい、姉です。こっちは紫音の相方です」

緋雨はそう早口に、医師に説明をした。

「手術は…」

俺は思わず、焦りながら聞いた。医師は俺の目を見ながら、言った。

「手術は成功しました。ご安心ください。
 お姉さまは、桐谷さんの状況をご存知ですか?」
「いえ、何も…」
「そうですか…とりあえず状況から説明をした方がいいですね」

医師は再び文字が書かれた紙に、目を落とした。

「桐谷さんの状況は、左肩と右足の脛の骨折、それと頭と腹部を強打していました。
 ここへ運ばれて来たときは既に意識はありませんでした」
「紫音は…目覚めるんですよね?」
「それは桐谷さんの生命力によります」
「そんな…」

緋雨は大きな目から、涙を流した。
俺は再び、マスターを失うかもしれない。
俺のマスターになった人達は、皆死んでいくのかもしれない。
時雨の前の時のマスターも、時雨も…皆俺の前から消えていってしまう。
時雨に誓ったんだ、俺は。
あの時、あの時時雨と約束したんだ――――




**************


「ジャクソン」

弱々しい声で、病室のベットから時雨は言った。面会時間はもう過ぎていたので、紫音たちは居なかった。俺はギターの姿だったから、時雨のそばに居た。

『なんだよ?』
「俺、もう永くない気がする」
『何言ってんだか…らしくないぞ?』

俺はそう時雨の心に語りかけた。時雨はクス、っと小さく笑った。

「確かに。俺らしくないかもな」
『だろ?そんな弱気言ってる暇があるなら、さっさと治せ』
「…でもな、ジャクソン。人は死にそうになると、分かるんだよ」

時雨は布団の中に入っていた、点滴のついた手を天井へ向けた。
その時の時雨の手は、倒れる前のしっかりとした手ではなく、枯れ枝のような細い手だった。

「俺は、もう永くない。あと1ヶ月ももたないと思う。笑えるだろ?」
『…』
「俺の家族って、両親は俺が小さい時に死んだから、姉貴と兄貴と紫音の4人でここまで来たんだよ」
『…んなこと、改めて言わなくても分かってるよ』

時雨は、まぁまぁと俺をなだめながら話を続けた。

「兄貴と姉貴はもう大学卒業したし、兄貴はバイオリンで有名になって1人暮らししてる。
 姉貴も子供が好きだったから、保育園で働いて1人暮らしをしてる。ただ…」
『ただ?』

時雨は握ったり、開いていたりしていた手をそっと下ろし、ため息をついた。
時雨の横顔は、いつもの明るい笑顔ではなく悲しい顔だった。

「紫音は…紫音はまだ、高校生だ。いくら学校の寮で暮らしていたって、もうすぐ俺らは卒業だ。
 紫音を、1人にはしたくないんだよ―――」

双子の時雨と紫音は、いつも一緒に居た。2人の兄と姉は独立して、会える数も少なかった。
家族がばらばら中、悲しい時も嬉しいときも一緒にいたのは、紫音だった。

「俺が居なくなると、きっと紫音は悲しむ。それだけは嫌なんだ。アイツはああ見えて弱虫だから。
 俺は卒業式までは生きられない。卒業後1人になる紫音を考えると、なんか、自分自身にムカついて…」
『なんで?』

紫音は強く握ったこぶしをゆっくり話しながら言った。

「俺がそばに居てやれなくて…俺らは双子でも、俺の方が兄なのに…なのに…こんな体になったことが、悔しくて…」

時雨は目を腕で覆った。隠しきれていない目元からは、月で光る涙が見えた。
時雨が泣く姿を見たのは、今日が初めてだった。


「だから…ジャクソン」
『何?』



―――――――俺が死んだら、紫音を守ってやってくれな。





時雨。
ごめんな。その約束、守ってやれそうに無いかもしれない。



後書き

長編です。
あれ、でもこれ普通の長さなのかな…。

病院のシーンの所、自分で書いててよくわかんなくなりました(笑
こんなんじゃダメですね。

久々に緋雨(ひあめ)ちゃんが出てきました。
久々って言うか…初回しか出てこなかったですけど。


手が悴んで打ちづらいです。
もう冬ですね。
もう受験ですね。


こんなことしてていいのか私←


12・22 一部訂正させていただきました。(毎度すみません…!!)

この小説について

タイトル 【約束】
初版 2011年12月20日
改訂 2011年12月22日
小説ID 4338
閲覧数 3175
合計★ 2
亞華羽の写真
ぬし
作家名 ★亞華羽
作家ID 687
投稿数 17
★の数 14
活動度 2678
自由気ままな、亞華羽[Ageha]です(`・ω・´)v
気分屋なんで不定期です。
よろしくお願いします。

コメント (2)

★那由他 2011年12月20日 22時18分01秒
こんばんは。那由他と申します。
御作を拝読いたしました。つたないコメントになりますが、感じたこと、思ったことを書いておきます。

最初に文中で気になった箇所を挙げておきます。細かくなってしまいますが、受験される、ということですので……。

>「ジャクソンっ!!」とい言葉が遠くの廊下から聞こえた。
「という」の「う」が抜けています。

>廊下から走ってきたのは、事故にあったと聞いて駆けつけたのは紫音の姉、桐谷緋雨。
「走ってきたのは」「駆けつけたのは」と「〜のは」が重複していますので、表現がちょっと不自然かな、と。
「廊下から走ってきたのは、事故にあったと聞いて駆けつけてきた紫音の姉、桐谷緋雨。」というような感じでしょうか。

>それと頭と腹部を強打していまいた。
「していました」です。

>兄貴はバイオリンで有名にって1人暮らししてる。
「有名になって」でしょうか。


読んでいて切なくなるお話しでした。つい最近、自分もこの手の作品を書いたような(笑)
手術後に移されたのは集中治療室(ICU)でしょうか。ガラス窓があるようですので。
回想シーンも無理なくすんなりと入れる展開でした。「俺が死んだら、紫音を守ってやってくれな。」という時雨のセリフがキモですね。紫音さんが本復することを願っております。

簡単になってしまいましたが、コメントは以上です。
次回の作品も期待しております。これからもがんばってください。
それでは失礼いたします。
★亞華羽 コメントのみ 2011年12月22日 17時42分51秒
こんばんは、那由他さん。
毎度コメントと評価、恐縮です…!!

っは!!誤字がありすぎですね…。すみません。
冬なもんですから、手が悴んでしまって意味が分からなくなってしましました…。
ご指摘、ありがとうございます。

確かに「〜のは」が重複してますね…。
(馬鹿なもので)あまり意識してませんでした←
文章力が低いですね、大変。笑


そうです、集中治療室です。その言葉が全然出てこなくて、こんなアバウトな感じになってしましました。
すみません。
最近回想シーンばっかりで、大丈夫でしょうか…。
あのセリフ、いっそシスコンみたいですよね。別にそのような子ではないので…笑

おそらく次更新するのは、受験後だと思うので…。
なので、しばらく更新はできません。
のんびり待っていてください←

本日は貴重なご意見、ありがとうございました。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。