現代夜話 - 第二夜『ピアスの白い糸/カオリさん』

「……それで、ピアス開けたら変な白い糸みたいなのが出てきてさぁ。うわ、これマジって、もう超焦った! マジであんなん出てくるとか、あり得なくね!?」
「あり得ないって! それ絶対焦る!」
「でしょ!? 私もう本ッ気でビクビクしてさ、あの話本当だったらどうしようとか、マジ悩んじゃったもん!」
「うわー、やべー! ちょっとそれやばくない? 美樹って稲川淳二とかでトイレ行けなくなる人?」
「あなたピアスしてるの?」
「違うって! 由佳里も耳から糸出たら絶対焦るから!」
「普通出ないしー。私ピアスとかしないしー」
「してみって! 絶対由佳里似合うから! そんで絶対糸出てくるから!」
「あなたピアスしてるのね?」
「絶対出ないよー。美樹それ病気なんじゃん?」
「病気とか言うな! だから一回由佳里もピアスしてみればいいんだってばぁ」
「やだよ、痛そうだもん。それにウチお母さん超怖いし。ピアスなんかしてたらぶっ飛ばされるよ」
「あー、由佳里のお母さんマジ怖いって言ってたもんね」
「姉貴なんかさあ、こないだ朝帰りしたらすっげー叩かれてたもん。お嬢様かっての」
「うわ、それマジ? ウケるんですけど。お嬢様じゃん、由佳里お嬢様」
「実はお嬢様だからー。本当なら美樹とか敬語とかだから、私に」
「あはは、絶対嫌ー。絶対パシらせるー」

「それならあなたの耳をちょうだい」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「今日昼過ぎ、渋谷の路上で起きた傷害事件の続報です。被害者の岡部美樹さんが友人と二人でいたところ、犯人は突然美樹さんの背後から襲いかかり、持っていたナイフで両方の耳に切りつけました。犯人はそのまま逃走し、現在警察がその行方を追っています。白昼堂々と行われた犯行に、繁華街は一時騒然とした雰囲気に包まれました。その後の調べで未だ犯人は渋谷区内に留まっている可能性が高いことから……」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「蘭、ピアスの白い糸って知ってる?」
「え? それってあの、ちぎったら目が見えなくなるってやつ?」
「そうそう。それでね、実際に白い糸が出てきて、ショックで頭のおかしくなっちゃった人がいたんだって。それでその人は、ピアスしてる人を見ると、耳をちぎっちゃうんだって。こないだの事件、その人がやったって話だよ」
「えー……それ、またユッコの嘘ニュースじゃないの?」
「違うよ、本当だよ。ね、ヤナ君、ヤナ君なら信じてくれるよね」
「俺ならって意味不明だけど……ちなみにピアス穴を開けて出てくる白い糸はただの脂汚れだぞ。あと、俺はそういう荒唐無稽な話を信じる系キャラなのか? お前らの間では」
「えー。だってヤナ君、なんかそういう不思議系の話詳しいじゃん」
「あー、確かにそれは言える。ヤナ、人がそういう話するとすっごい馬鹿にするくせに、自分はマニアかってぐらい詳しいもんね」
「あなたピアスしてるの?」
「だからさあ、マニアックなヤナ君なら絶対信じてくれるよね?」
「……俺はマニアックじゃねえっての……俺が知ってる話はもっと別の、普通の話だよ」
「ほら知ってた! さっすがヤナ君!」
「だからお前らが好きそうな話じゃねえっての」
「なによ、ヤナ。じゃあどんな話なの?」
「──昔、カオリさんっていう女の子がいてな? そいつはまあ、別に白い糸が出る出ないに関わらず、ちょっとばかし頭が──『最初から』ネジ緩んでたんだな」
「蘭、言われてるよ」
「ちょっとユッコ、それどういう意味!?」
「人の話はちゃんと聞けって。それでそのカオリさんは、まあイっちゃってる奴はイっちゃってる奴なりにファッションセンスを光らせる権利はあるわけだし、ピアス穴を開けたわけだ。でもまあ、別にそんなんピアスするしないの問題じゃないわけだろ? たとえば……自分が好きな人が振り向いてくれないのは、あいつが私の真似をしてピアスなんかしてるからだ──なんて考えちまうような奴はさ、最初っから落第なんだよ」
「……たまにヤナ君、毒舌だよね……」
「こいつ家だとすっごい猫被ってるんだよ」
「あなたピアスしてるのね?」
「猫被ってるって……蘭、それ今時の若い女の子は言わないから」
「え、嘘。私古い?」
「だからてめえら、人の話聞けっつってんだろ──つっても、まあ今ので話はお終いなんだけどな」
「え? ヤナがただ毒吐いただけじゃなくて?」
「蘭、てめえの中で俺のキャラがどう立ってるかはしっかり理解したからな……ったく。だからさ、そういう典型的なイっちゃってる的思考の持ち主が、本人にしかわからない理屈で逆恨みなんざしたって、どうにもならないんだよな。ましてや無関係の人間まで巻き込むとか……迷惑極まりないだろ」
「……ユッコ、ヤナの方が物言い古臭いよね……」
「物言い、とか言う時点で蘭の方が危険だと思うけど……」
「ユッコ、さっきから私を年寄りキャラにしようとしてない!?」

「それならあなたの耳をちょうだい」

「──迷惑だから、本当におまえの目を奪ってやる」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「今日昼過ぎに起きた傷害事件の容疑者が、渋谷区の路上で倒れているところをパトロール中の警察官に発見され、逮捕されました。逮捕されたのは近所の学校に通う高校生、今川カオリ容疑者。逮捕当時意識を失っていた今川容疑者は、岡部美樹さんを襲ったものと同じものと思われる凶器のナイフを所持し、また意識を回復した現在では犯行を自供しているとのことです。今川容疑者は逮捕される以前何者かに襲われて昏倒、両目を傷つけられていたことから、逃走中なんらかの事件に巻き込まれたものとして──」

後書き

連載二回目。
モチーフにしたのはやはり超有名都市伝説であるピアスの白い糸、そしてその派生系怪談であるカオリさんから。前者はともかく後者の方は知名度もいまいちって感じがしますが、ここ数年の創作怪談では結構デキが良い方なのでは……と思います。

この小説について

タイトル 第二夜『ピアスの白い糸/カオリさん』
初版 2012年1月7日
改訂 2012年1月7日
小説ID 4341
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作家名 ★神楽坂司
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