空白

「あなたにとって、勉強とは何ですか。では、日野さんから」
 突然の質問、そして想定外の質問。
 6人しかいない教室に、虚しくも静寂が響き渡る。
 日野は答える言葉も見つからず、ただ何も無い空間に目を泳がせて、誰も知らないところで一人、孤独に考えていた。



―――――
ちょっと待って、私にとっての勉強とか………考えたことも無かった。
 あー、んー、えーっと、
―――――



「はい、勉強とは」



―――――
 さぁ何と言おう。ほら、面接官だってこっちがん見している。こっちを見ないでください。少し考えさせて下さい。
 はい、えっと勉強とは…結局社会に出て使う事なんてほんの一部です。例えば、数学ならば小学生レベル程度のものしか実際に使うこともありません。国語だってそうです。授業では文の構造なんてものを一生懸命に考えますが、生涯ずっとその文章を読むとは限りません。だからと言って、読書する時にそれを考え始めたらキリがありません。そして、私が最も不必要だと考えるのは社会です。確かに、地理や公民については知って損はないと思います。だけれども、歴史など過去を振り返ることに何の意味があるのか分かりません。ですから私は逆にお聞きします。先生方の求める答えというのはどのようなものでしょうか?
 うん、これは長いから却下かな。そして、その前に落とされるかな。止めといた方が身のためだ。
 うっ…皆の視線を感じるよ…ごめんなさい。トップバッター、私と変わります?2分あればいいのが思いつきそうなので。駄目ですよねー、ですよねー。
 だったら何というべきか。此処での私は真面目っ子だ。そうだ、面接なんて結局は表面しかわからないってお姉ちゃん言っていた。そうだよ、あんなお姉ちゃんでも、面接官騙して推薦と言うチャンスをものにしていたんだから。今だけ私に降臨しなさい、生霊・茉莉佳!
 ……ダメ?もういいよ、ダメもとで全てを言ってみるしかない。
―――――


「……すいません、はい、勉強とは生活していくうえで欠かせないものだと思います」



―――――
 あ、間違えた、此処からどうつなげる?私よ。
―――――



「だっ…なっ…えーっと、あ、すいません」
 ジリジリと感じる面接官の視線、そして面接の仲間からの同情の眼差し。追い込まれる日野の額と背中に不気味な生ぬるい汗を感じた。
 日野は、生まれて初めて本物の焦る気持ちを実感した。



―――――
 焦るのではない自分、焦ったら負けだ、自分。
―――――



「勉強することにより、たくさんの知識を身につける事が出来ます。知識を自分のものにすればするほど、その知識を応用できるようなり、充実した生活が送ることが出来るようになります。知識を自分のモノにする、というのは確かに楽な作業ではありませんが、時間をかけてでも自分のモノにする価値はあるとおもいます。そして勉強する事という意義もそこにあると思います。私にとっての勉強とはこういうモノです」
 面接官は頷き、紙にペンを走らせた。日野はドキドキしながら面接官の表情を確認したが、特にあきれた様子もなかった。日野は安堵した。
「それでは次、水崎さん、どうぞ」
「はい、私は―――――――――」
 そのあと、彼女らが言ったことは、日野は何も覚えていなかった。



―――――
 いいいいいいいいい、勢いで言い切ったぁァァ!!
 もうこれで何となく後悔は無い、うん、大丈夫、これに関してはベストを尽くしたよ。人事尽くして天命を待つのみだよ。
 空白の時間が響かなければいいけど………。
―――――




「失礼しました」

 無事(?)面接は終わった。





「はーい、じゃ、講評するから中においでー」

 面接練習の講評ということで、練習を受けた仲間―――友達と共に、再び練習会場の2-3の教室の中へと入って行った。
 日野の目にはさっきまでいた張りつめた空気の会場と違っているように見えた。そんな雰囲気の教室は今となればくつろぎの場所だった。

「えっとねー、まず春田さんだけど――」
 先生の講評が始まった。ようやく空気が流れ始めた教室だったが、再び少しピリリとした空気が流れ込む。春田、滝沢、池渕、水崎と順番に講評が告げられた。
 日野が面接練習の中で鮮明に覚えているのは、水崎のハキハキとした受け答えと、分かりやすい内容だった。正直、日野は何箇所か彼女をまねていた。だからこそ失敗したのだが。
 先生も高評価だった。
「水崎さんは姿勢もいいし、服装もカンペキ。受け答えにもまったく恐れずに、キラキラした目で受け答えているのは、本当に印象がいいわねー。内容も、それに負けないくらい輝いていて、整理されている…」
 水崎は少し喜びながら、しかし少し恥ずかしそうに俯いた。
 そんな様子の彼女をみた先生は、
「水崎さん、受け答えはそれでいいから、もう少し自信を持って。もっと大きな声で言いなさい。そしたら合格するわよ。ほら、日野さんくらいの声なら大丈夫よ」
 水崎は日野を見た。日野は思わずニヤリとしてしまった。
 しかし、日野はその時点では『声なら』という事しか言われてない事に、気付かなかった。

 そして講評は日野の番。
「はい、日野さんは…。慌てすぎよ。声の大きさとかはいいけど、早口だわ。もう少し落ち着いて。変な印象もたれるわよ。あ、変な印象で思い出したけど…あなた、背筋はとても伸びているわ。でも伸びているだけだわ。時間がたつにつれて、背筋がピンとしたまま、前傾してきてるの。ね?少し不気味でしょ?だからもっとリラックスして!」
 日野は完璧だと思っていた姿勢について突っ込まれてしまい、一瞬で落ち込んだ。恐らく、受け答えに対してばしばし言われても、日野は納得しただろう。だが、違った。
「…はいぃ」
 そうして、いくつものありがたき講評を聞き流してしまった。予想以上にショックを受けた日野の眼には、既に生気はなかった。
 日野は凹んだまま、2-3の教室を後にした。


「あぁぁぁぁ、春田ぁぁぁ」
「どうしたの、日野ちゃん」
 日野は春田に抱きついて泣きまねをした。
 春田はやれやれという様子で日野の頭を軽く撫でた。どうしたの、と聞いた春田も、日野が今、どんな心境なのかは同じ受験生としてちゃんと理解していた。
「何、あの空白の時間が気に食わなかったの?」
 春田は少しだるそうに言った。確信をつかれた日野はムーっとして黙り込んだ。
 その幼稚園生のような様子の日野を見た春田は、怪しい笑みを浮かべながら日野をバカにした。
「マジで笑わせないでよね」
「本気だったから許してよ」
 日野は確かに色々と不安定だったものの、少しずつ戻っていく日常に感謝していた。張りつめた空気というものが、日野は人一倍嫌いだったからだ。
 日野の友達には『緊張感がある空間』が大好きという人がいる。日野は一度、その友達とディベート並みの対談を開いたことがあった。言葉こそはアホ丸出しの事だってあったが、それこそ真剣に語り合えた。
 それほど、彼女にとって『緊張感がある空間』は嫌なのだ。
 そんなディベートもあったなーと、思い出に浸ってボーっとしている日野に冷たいものが首に巻き付いた。
「あ、冷たい」
「当たり前、冷え症だもん、私」
 その冷たいという感覚が、日野を現実に連れ戻すと同時に緊張感から完璧に解放された。
「ま、日野ちゃんは日野ちゃんなりに頑張ったよ。アドリブって大事よ」
「春田ぁっ!」
 日野は再び、春田に強く抱きついた。そして、笑い合った。


「はい、控室までは静かに戻りましょう」
「「あ」」
後ろから、私達の面接官役であった先生が声をかけた。
 折角、青春エンジョイしていたのにと言わんばかりに、春田と日野は口を尖らせた。
「はいはい、女の子でしょ?そんな顔しない事、それと二人とも離れなさいな。女同士で見苦しいわ」
 春田は、素朴な疑問が思い浮かび、尋ねた。
「男子と女子ならいいですか?」
「そういうんじゃなくて…」


 先生は『静かに戻れ』と言ったのに、結局、先生と生徒二人、わいわい喋りながら控室に戻ってきてしまった。静かに、と注意したことも先生は忘れているようだったから、別にいいのかな?と思い、何気なく控室に戻った。
 正確にいえば、日野は戻ろうとした。
「あ、そうそう…日野さん、ちょっとおいで」
 日野は怒られるかと思い、半分泣きそうな顔で先生の前に立った。
「10秒」
「へ」
 突然言われた数字の意味が、日野には理解不能だった。しかし、先生の口調からして怒られるのではないと確信して、少し気の抜けた返事が出た。
 何のことかと、ソワソワしている日野に対し、先生はお母さんのような口調で言った。
「ほら、分かるでしょ、日野さん。止まった時間よ?」
「あ…」
 そこまで言われて分からないというほど、日野も鈍くも無かった。
 さっきの面接で止まった時間と言えば、一か所しかないからだ。
「私にとっての…勉強とは」
「もっと分かりやすく言ってくれない?まぁ、そうね。その考えていた無言の時間よ。その時間こそ大事にしなさい」
 それだけを言って、先生は再び面接練習教室に戻っていった。
 
 日野はどう反応すべきか分からずにそこにいた。
 怒られた?笑われた?からかわれた?
 結局、アホな日野には全く何なのか分からなかった。後に先生に聞いたが「さぁね?」としか言われなかった。
「…後味が悪い。本当に後味悪い」
 日野はボソッとつぶやいた。呟くなんて日野らしくなかった。今思えば、真面目すぎる事しか発言していなかった自体が日野らしくなく、逆にありのままの自分が出なかった。今の日野には日野らしさなんてまったく理解できないが、面接の時にいた日野は、ほとんど日野自身ではなかった。
 ――――空白の10秒を除いて。

 呟いたと同時に、少し開いた窓の隙間から、冬のぬるい風が吹いてきた。
 イタズラに日野の頬を掠め、髪を揺さぶり、スカートをめくった。全身に、寒くて暑い空気を感じた。まるで、自分らしくない日野をバカにしたような風だった。
 冬なのに冷たくない風と、バカなのにお利口の仮面をかぶった日野。日野はその姿を重ね合わせ、自嘲気味に笑った。

「後味悪すぎ、気持ち悪いなー!!」
 その日の帰り道、空に向かって大声で叫んでみた。

後書き

はい、ぐったぐだな面接練習でしたね。主に私のせいです。

これだけ読んだら、なんとなく他の部分はスラスラ言えたように見えるかもしれませんが、実際全然アレです、もうちょっとガタガタです。
どーでもいい所で噛んだり(例…文武両道⇒文武両ぼう)、変なところで言葉に詰まったり(例…貴校の雰囲気⇒貴こっうの雰囲気)大変でした&友達の笑いを誘ってしまいました。申し訳ない。

今、友達相手に面接の猛練習してます。


というコトで、文章的にココへんとか、ここら辺からオカシイ等のアドバイスや感想、待ってます!!

この小説について

タイトル 空白
初版 2012年1月31日
改訂 2012年1月31日
小説ID 4348
閲覧数 568
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その日の思い出の写真
熟練
作家名 ★その日の思い出
作家ID 560
投稿数 6
★の数 41
活動度 1272
高校生とはもっと青春溢れる素晴らしいものかと思いきや

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