●Poem Shot「その約束を知らない子供たちの為の赤い独楽」

そら てんご
●Poem Shot「その約束を知らない子供たちの為の赤い独楽」

君は気づきましたか?
ひとかかえの 四角いおもちゃ箱をひっくりかえし 
そこらじゅうに散らばった 夢の断片の片隅で
どこか切なげな旋律にあわせ 
クルクル カサカサ クルクルと
いつまでも回り続ける 
一本足の赤い独楽のこと

生まれた時から
来る日も来る日も 
楽しい日々が続くと信じていた
決められた地平線の果てに辿りつくまで
空いっぱいの優しさと微笑みを湛え 
心からひとを愛し ひとに愛され 
いつも慈しみを忘れずに 
慎ましやかに生きてきた

3・11
私たちはこれほどまでの 
割り切れない数字を知らなかった
すぐ目の前を 
言葉を失った母が 波間にのまれ去って行った
子供たちは金縛りに逢い 
胃液と悲しみ以外は出てこなかった
この世に存在してはいけない記憶が 脳裏に刻まれ
深海の墨で描かれた黒い海の色 
空は鮮明な青だった

阿鼻叫喚は唸りとなって 
恐怖が大口を開け 多くの人生を飲み込んで去った 
そう……貪欲に容赦なく
海底から力強く隆起した波頭は 無限の力を振りかざし 
ほくそ笑み 抱えきれないほどの命をたずさえて
さきほど沖へと帰えって行った
私たちは狂うほどの怒りを孕んだ 
波頭の存在を知らなかった
これほどまでの悲しみに満ちた 
恐怖のシナリオを知らなかった

その夜
否定された繁栄の街路樹に 
止まる梟は無表情
人の哀れさは雪となり 
うな垂れた首筋に ただ冷たく降るばかり
打ち上げられた魚の涙 それは壊れた大地に帰る

あ、ああ
悲惨の成り立ちを知らない子供達は 
無言で鎮痛剤を飲み込んで 与えられた毛布にくるまった
目を閉じて身体で聴いている 不条理な波音の遠ざかる音
ただ何もできずに呆然と 
ただひたすらに息をひそめて

狂った何かが頭上を覆っている そう気づいていながら 
つとめて冷静に今夜のメニユーを考える
嘘っぱちの活動映画が 
リアルなデジタルに変わった頃から 
達観した神経に陥ってしまった人類
なにもかもがパソコンの前に座れば手に入る 
そんな人生が 
本当に私たちの目指した夢であったのだろうか

人の意識の総意が時代を作ってきた
もしそうであるならば 軌道修正は可能であろう
感動がステージ前にしかないのなら 
人生はあまりにも寂しい
感動がテレビジョンの中にしかないのなら 
あまりにもむなしい

君は気づきましたか?
ひとかかえの 記憶の中で回り続ける 赤い独楽に
どんな非情の風が吹こうとも
けっして倒れることの無い 一本足の赤い独楽
クルクル カサカサ クルクルと
全身が震えるほどの記憶のあとでも
しなやかにバランスを取りながら 
ひたすら回り続ける クルクルと



●センチメンタルな記憶のメロディー

「暗い港のブルース」
雑踏の中から逃げ出して 
夜一人港を歩く
甦るのは あの娘のポニー・テール
もっと勇気を出して 囁けばよかった
でもこんなに情けない自分が好きだ 
純情がなつかしい

「黒い傷跡のブルース」
さよならも云えないで別れた人よ
想い出すと胸がキュンとするのは何故だろう 
叶わなかった恋が 
人を詩人にしてくれるのだろうか
それとも饒舌なカナリヤが 
私の窓辺に現れたせいだろうか 

「コーヒールンバ」
たちまち私はその香りに魅され 
甘露を味わった
みんな陽気に飲もう 踊ろう 踊り狂おう
恋を忘れた男が さまよう

「悲しき街角」
やがて男は情熱的な瞳をした娘に恋をした
悲しみをもてあます

「異邦人」に出会ってから
ちょっと振り向いただけの勘違い
17歳に置き忘れた 切なさ

「霧の摩周湖」その夜を 
一生かかっても忘れることなんてできない

「太陽はひとりぼっち」
君が一度だけスーツで現れた日を 
鮮明におぼえている
そうあなたは 近くて遠い人
わたしは真っ赤なパラソルの下で 
微笑を湛えて
ゆっくりと熱いコーヒーを飲む

「モスコーの夜はふけて」
せつないバンジョーのメロディー
なにげない言葉からでも 
愛は生まれることがあるのです

「ちいさな花」
香りが風と一緒にとおり過ぎたのが 
わかる
私の心の迷い道 
日陰に咲いた ちいさな花よ
風にそよいで ちいさな花よ 
けなげに妖しく咲くがいい
しなやかに 私の心に咲くがいい

秘密の海辺で打ち明けた 
二人だけのジグソーパズル
この謎を解ける人は 何処にもいない
二人のちいさな過ちを 
知る人なんて何処にもいない

「ラストダンスを私に」
私たちは知っている 
もう一度逢えることを
約束の地で逢えることを 
きっと

                    H23/10/13

後書き

不思議に、時間の経った自分の作品が、幼く見えるのは何故でしょう。(笑)
次は脱皮した作品を見てもらいましょう。

この小説について

タイトル ●Poem Shot「その約束を知らない子供たちの為の赤い独楽」
初版 2012年2月2日
改訂 2012年2月2日
小説ID 4349
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コメント (2)

★齋岐ナユ 2012年2月8日 16時10分17秒
読んでいて涙をそそられました。
割り切れない数字…。
あのときの映像がリアルに再現されるようでした。
そらてんご コメントのみ 2012年2月13日 13時28分40秒
ナユさんありがとう。
今を生きる人々にとって、印象深いできごとでしたね。
これから何度、訪れるのでしょう、このような悲劇。
これから何度、涙を流すのでしょう、私たちは。
きっと人の人生は、挫折や苦悩を乗り越えて、次世代へ引き継がれていくのでしょう、深遠な過去から延々と。
だから残った人の魂は、決して悲劇や諦めの誘惑に負けてはいけないのです。
強い魂をもって、亡くなった人々のリベンジを、私たちは行うべきだと思います。
何があっても、たとえ死が訪れても、私たちの魂の中で赤い独楽は、巧みなバランスをとりながら永遠に回り続けると信じています。
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