東西南北 - 前編

《普通》とは一体どこまでのことをいうのだろうか。
学校風景、学生生活、日常、そして彼。
北沢 浩一、彼こそがそのワードのいい見本になるのではないか。

「ホント毎日毎日、面白くないな」

誰に言ったわけでもない、つまらない時に出るよくある独り言。

「浩一!大事件だ!」
園高校2−A、同じクラスの最も騒がしい男、西田 大志。
彼らは中学校からの腐れ縁で、この男は何かあるとすぐにこうして彼のもとへとやってくる。

「お前の顔以上の大事件か?」
「そう!俺の顔以上、恋人未満だ!」
友達以上、と引っかけたらしいがあまりうまいとは言えない。



これは、何事もない普通の高校生活を送る少年少女の物語。



「俺、恋しました」
と、似合わない照れた表情で目を逸らして呟く大志。

「気持ち悪い、って大事件じゃねぇか!!」
彼は大きく机を叩いて立ち上がり、緑色のブレザーの襟元を掴む。

中学以来、大志の浮いた話など一度も聞いたことがなかった。
彼もまた人のことを言えたものではないが、これほど面白い話題はないと感じたのだろう。

「で、誰だよ、お前に惚れられた可哀想な子は!?」
「失礼ですよね!あなた!」
短髪の長身、黙っていれば男前の大志だが、騒がしい性格のせいか寄ってくる女は無といえる。


「んなことはどうでもいい…浩一、お前に頼みがある」


その言葉が始まりの合図だったのだ。



賑やかなお昼休みの廊下、浩一は人を探していた。
教室を覗いてみたが、尋ね人の席には誰もいなかった。

「くそ、あいつどこ行きやがった」
3階の廊下の窓から外の景色を眺めてみるが、人だかりの校庭からは見つけれそうにない。

「浩一?アンタ、何やってんの?」
彼の肩を叩き、馴れ馴れしく名前で呼ぶ少女。
彼女こそ彼の探していた同じ学年の人物、南 藍。

「お前を探していたんだよ」
「へぇ、アンタが私をねぇ、何?告白でもするつもり?」
「そうだ」
冗談で言って冗談で返してくることを予想していた彼女は、違った答えに戸惑いを見せる。

「え…、あ、うん…、ちょっと待ってね、心の準備を…」
「大志が、お前の友達に惚れたらしくてな」
「オラっ!」
決して何も悪いことはしていないはずなのに何故殴られた?だがその言葉は空振りし、見事な突きが入った眉間を押さえていた。

「藍…、テメェなんで…」
「そんなことだろうと思ったわよ」

藍と呼ぶ彼女と彼の関係は、簡単にいえば幼馴染。
親同士が仲がよく、小さい頃は常に一緒にいた人物。
昔は短くしていた髪も、今では腰まで伸ばして女らしくなってしまっている。
左耳にはピアス、カッターシャツのボタンを少し多めに開け、オシャレを気取っている。
気の強い性格だが男子から相当人気があり、学年関係なく頻繁に交際を求められているそうだ。

「で、誰よ、私の友達って」
「あ?あぁ、坂…、坂なんとか」
「もしかして明美?坂東 明美のこと?」
重要な名前を忘れてしまっていたが、伝わったのならOK,と話を進めた。

「俺の連れの大志知ってんだろ?アイツが坂東ってやつに惚れててな」
「で、アンタと私でくっ付けようって話?」
「だそうだ、お前と俺が幼馴染で坂東がお前の友達だから、うまいこと回してくれとさ」

高校二年の冬、クリスマスを間近にして恋のキューピットになるのは少し悲しい話だが、彼は退屈な日常を抜け出したい思いの方が強かった。

「んー、明美かぁ、確かに彼氏とか聞いたことないけど…」
「まー、嫌ならいいんだが」
「断る理由は……、ないわ!面白そうじゃない!」
この少女もまた、そういった話題が大好きなのである。

と、そこで昼休憩の終わりを告げるチャイムが校内を響かせる。

「じゃぁ浩一、今日の放課後さっそく会議を開くわよっ」
「あいよ、場所は?」
「とりあえず校門前で、そのあとどっかの喫茶店で話し合いましょ」
「了解」
軽く挨拶をして、それぞれの教室へと戻る。

窓際の彼の席には緊張して背筋を伸ばして座っている大志の姿があった。
浩一の姿を見つけた途端立ち上がって駆け寄ってくる。

「どどどど、どうだった!?」
「うるせぇ、とりあえず藍と話し合いで進めていくことになった」
「おぉ!俺こういうこと苦手だから、しっかり頼むぜ!」
恋愛の一文字も経験のない大志は、両手を合わせて彼に頼み込んでいた。

「急に二人を会わせて、ハイ告白、ってのは勘弁してくれよ!」
「わかってるよ」

大志のことは彼もよく知っている、そんなことをしたらまずうまくはいかないだろう。
藍も自分の友人を簡単に差し出すとは思えない、何かストーリーじみたものを計画してくるはず。


「あぁ、でもまぁ最終的に頑張るのはお前だからな」
「おうよ!」
「シナリオはまかせとけ」
「頼んだ!俺の恋が始まるぜ!」
「授業も始まるが、いいかな?」

最後の言葉は教団に立っていた数学の教師だった。


浩一と藍、幼馴染だがこうして待ち合わせをしてどこかへ行く、なんて久しぶりのことである。
家が近いため、偶然朝一緒になったり、偶然帰り道で会ったりなどはあったのだが…。





「おっそーい!」
急いで靴を履き替え、校門に向かったがやはり先に着いていたのは藍の方だった。

「悪い…、ちょっと担任に…な」
「…浩一、またアンタ何かしたの?」
「教科書破って、鼻かんだら怒られた」
「……はぁ」
ティッシュがなかったのだからしかたのないことだ、とボヤく彼を藍は呆れた顔を見せていた。

「アンタね、来年は受験生なんだからしっかりしなさいよね」
本当に彼女はお母さんみたいである。
昔は泣き虫で浩一の後ろをずっと付いて回っていたなんてベタな少女だったのに。



『いらっしゃいませ、ご注文はいかがなさいますか?』
「えっと、コーヒーのブラックとミルクティで」
『かしこまりました』

まだ席にも着いていないというのに勝手にオーダーする藍。

「てめぇ、俺まだ何も言ってねぇだろうが」
「うるさいわね、アンタ小学校の頃からブラックでしょうが」
彼の好みを知り尽くしている《幼馴染》。
昔はコーヒー自体苦くて飲めなかったのだが、背伸びがしたくて無理して何度も飲んでいたらクセになってしまっていた。

「で、最近どうなの?」
「バクテリアには興味ないが」
「細菌の話じゃないわよ、ここんとこの話」
座ってやっと落ち着いたと同時に藍は最近の浩一、を問いかけた。

「見てのとおりだ」
「ギリギリ不細工からは反れてるとは思うけど…」
「顔のことを言ってんじゃねぇ!」

バカを言えばバカを返してくる、これが彼らの付き合い方。
他の異性とはこうはいかない、お互いそうだった。

「藍はどうなんだよ」
「私?私は別にいつもどおりよ」
「お前しょっちゅう告白されてるらしいな」
「そうね、私可愛いしオシャレだし」
その自信をほんの少しでいいから分けてくれ、と彼は呟きたかった。
確かに昔の地味さは全く感じられない、感じられないのだが。

「お前そこまで開けたら見えるぞ」
ずっと気になっていた彼女のその場所を指摘する。

「ボタン?あぁ大丈夫、下着なら見せないテクを持ってるから」
「そ、そうか」
「何?見たいの?」
「だだだだだ、誰が見たいと言ったよよ!」

すっかり彼女のペースに持っていかれている彼は、本当に情けない男である。

「ふーん、お願いしたら見せてあげるよ」
「っぅえ!」
「幼馴染のお願いだったら…、いいんだよ?」

襟元を押さえながら上目遣いでこちらを覗く藍。
彼の中のプライド、高校生というのは強がってよく損すると言われているが。

「是非、お願いいたします!」
そんなプライドはそのへんに捨ててしまっていた。

「ばーか、見せるわけないでしょうが、このドスケベバカ」
「……バカまで言うか」
彼はプライドをもう一度拾いなおそうと誓うのだった。




他愛ない話から30分少々、やっと本題に入った二人。
西田 大志と坂東 明美をくっつけよう大作戦。
大志はあの調子で賑やかだが、明美は大人しくて引っ込み思案。
そう簡単にはいかないと判断したキューピットたちは、頭を抱えながら話し合っていた。

「…遊園地」
「はぁ?」
悩みに悩んだ浩一が出したもの、それは初対面同士には少し難易度の高い話だった。

「浩一、それはあの二人にはまだちょっと難しくない?」
「だよな…」
「……ん、ちょっと待って」
何かを思いついた藍は口元に手を当てて黙り込む。
ストーリーを頭の中で描いているのか、彼女の脳内で迎えたエンディングは一体どんなのだろうか。

「遊園地で決まりよ」
「いや、難しいって言ったの藍だろうが」
「私達も一緒に行くのよ」
「あぁ?」

藍の考えた物語。
幼馴染である彼らが手に入れた遊園地の入場料割引チケット(1枚4名様まで)、1枚しかないためお互い友達を1人だけ呼んで一緒に行くといった話だ。
浩一は大志を、藍は明美を、なるほどこれなら嫌でも自然に会わすことができる、と彼は関心する。

「お前天才だな、でもそのチケットどうやって手に入れるよ?」
「それなら私にまかせて、お母さんの知り合いに新聞の勧誘を仕事にしてる人がいるから」

新聞を勧誘している人は大抵そういったものを持っているもの、全くの定番の話。

「OK,それでいこう」
「あとは…明美と西田君をどうやって…」
また頭の中で物語を描き出す藍。

「…何とか、2対2に分かれる方法は…」
お願いだから脳内の話をちゃんと口に出してほしいと思う浩一だった。


「決まったわ」
藍の表情は自信のようなものを感じれた。

「曜日はお客が多い日曜、そこで人ごみに紛れてはぐれるわよ」
自然に二人っきりにさせる、それが彼女の狙い。

「なるほどな、しかもそう簡単には合流できない場所ではぐれる」
「冴えてるわね、浩一、その通りよ」
指を鳴らしてウィンクする藍を不覚にも少し可愛いと思ってしまった浩一。

「どっかで私と浩一は遭遇しないように隠れていましょ」
「おうよ、面白くなってきた!」
「よし、計画も決まったわね、《東西南北作戦》開始よ!」
「おうよ!…いや、何だそのネームは」
藍が提案した作戦には少しどころか、疑問しか沸かなかった。

「気が付かない?全員の名前よ、北沢浩一君♪」
北沢、西田、南、坂東、それは全員の名前に混じっているワードだった。

「東西南北作戦、いいだろう」
「明日、私は明美を誘うわ」
「了解、俺は大志にこの事を話しておく」



退屈だった日常。
彼の普通すぎる毎日にも少し希望が見えてきた。



そう、これは二人をくっつけようという物語なのだ。

後書き

東西南北、前編を読んでいただきありがとうございました。

久しぶりすぎる投稿です。
今回は普通の、何事もない恋の話です。
後編もよろしくお願いいたします。

この小説について

タイトル 前編
初版 2012年4月3日
改訂 2012年4月3日
小説ID 4382
閲覧数 854
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HIROの写真
ぬし
作家名 ★HIRO
作家ID 199
投稿数 32
★の数 52
活動度 3905

コメント (1)

wq コメントのみ 2018年1月3日 9時38分43秒
(このコメントは作者によって削除されました)
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