東西南北 - 後編

東西南北作戦とは。
幼馴染の北沢浩一と南藍の企画した、青春真っ只中の西田大志と坂東明美をくっつけよう大作戦のことである。
雲ひとつない快晴とはいえ、肌寒さを感じる冬。

「よう、待たせたな」

浩一が手を挙げて待ち合わせ場所、遊園地の入場口へと到着する。
先に着いていた女性二人がこちらに気づく。

「おっそいわね、女の子と待ち合わせしたら3時間前に来てなさいよ」
そんな無茶なことを言うのが浩一の幼馴染、藍。

「あ、藍…、私達も今来たとこなんだし…」
隣で怒りに満ちた藍をなだめているのが明美、浩一とは初対面だが藍の親友。

「しかたねぇだろ、大志がなかなか来なかったんだよ」
「おは、おははよう、坂東さささん」
普段のバカさが抜けてしまっている大志、緊張するのもしかたのないこと。
この企画はもともと大志の恋発言から始まっているのだから。

「お、おはよう、西田君…だったよね」
「そい!そうです!」

浩一は大志の返事がおかしくなっていることにはあえてツッコミを入れなかった。

「さっさと入りましょう、人が多くなってきたわ」

歩き出す藍を追いかけて横に並ぶ浩一。

「つーか藍…お前その格好なんだよ」
「何よ、問題ある?」
「ミニスカートて、主役よりキメてんじゃねぇよ」
主役である明美は少し地味め、それに比べて藍は今時の女子の服装。
コートにミニスカ、ブーツ、そして整った顔立ちに通る男性人はほとんど振り返っている。

「これでも少し抑えた方なのよ」
「抑えてそれか…」
ふと、後方で歩く主役二人に視線を向けると、会話もなく下を向いてしまっている。

「どう?」
「だめだ、二人とも純粋全開だ」
「まぁいいわ、もう少ししたらあの二人からはぐれるわよ」

二人きりにしてしまえば嫌でも会話するだろう。
そこへ、後方で歩いていた明美が駆け寄ってきて藍に問いかける。

「何に乗るの〜?」
「浩一がメリーゴーランドに行きたいって言うからそこに行こ」
「わかったー」

再び同じ配列。

「テメェこら、なんで俺がそんなメルヘンなもんを希望してる設定にしてんだよ」
「アンタ、メルヘンな顔をしてるから不自然ではないわ」
もうボロカスな言われ方である。

「西田君、今からメリーゴーランドに行くって」
「そ、そうか、楽しみだねっ」
少し緊張した二人が憂い憂いしく感じる。


少し歩いた先にそのメルヘンが存在した。
やはり日曜、人が多く嫌でも肩がぶつかってしまう。

「多いね…人」
「そうだな、は…はぐれないようにな坂東さん」
「う…うん」

今だ、と言わんばかりの目で藍は浩一の腕を掴む。
浩一もそれに察し、人ごみを掻き分けて藍に付いて行く。

人だかりを抜けたが、それでも念のために二人の距離を遠ざけて歩いていく。

「だいぶ離れたわね」
「だな」
ここまで来れば遭遇することはないだろう、と一息つける。

思ったとおり、藍の携帯に明美からの着信がきている。

「あっ、明美?ごめんねはぐれたみたい。
 うん、あ!携帯の充電が切れそう!またどこかで充電させてもらってから連絡するね!」
そして通話を終了する。

「ちょろいわ」
「女が怖くなりそうです」
どうやったら急にそんな嘘がつけるのか、と浩一は思った。

あとはどこかで時間を潰すだけ、二人に遭遇しなければ何をしていても大丈夫。
浩一は大きく背伸びをして近くにあったベンチに座り込む。

「藍、あの二人うまくいくと思うか?」
「さぁね、チャンスは与えてるんだから後はあの二人次第よ」
ポケットにしまっていた携帯の電源を切っておく浩一、これであの二人との連絡は完全に途絶えた。

「さ、座ってないで行くわよ」
「あ?行くってどこに」
「アトラクション」
「はぁ?」
計画とは全く関係のないことを口走る藍。

「計画とはいえ、もったいないでしょ」
「そ、それはそうだが…」
「あ、そこにお化け屋敷あるよ」
「是非やめときましょう」

浩一は今になって気づいたことがあった。
怖がりではないが、びっくりするのが嫌い。
高所恐怖症で、乗り物酔いするものにも弱い。
別の場所にしておけばよかったと後悔していた。
そして、

「そういえば浩一、アンタ…」
この女性が幼馴染だということ。

彼の苦手なものや好みを知っていること。

「よし浩一!行こう!」
「テメェはドSか!!!」

そこからは地獄の時間の始まりだった。


お化け屋敷で腰を抜かし、ジェットコースターで気絶しかけ、コーヒーカップで泥酔いする。
彼は毎度死ぬ思いをしていたが、逆に彼女の方は心底楽しんでいるように見えた。

「なぁ藍」
「何〜!?」
「あの二人うまくいってるのかな?」
「何?聞こえない〜!」
「そうか、どうでもいいことなんだが、どうして俺達は二度もジェットコースターに?」
「え〜?」
「いや、なんでもない、こっちのはな…だああああああっ!!」
「きゃはは!たのしぃ〜!!」
「いっそ殺してぇえええええええええ!!」


楽しい?時間もすぐに過ぎていき、太陽が沈みかけている時刻になっていた。
疲れで沈みかけた浩一はベンチで横たわっていた。

「なさけないわね、そんなことじゃ女の子は守れないわよ」
「お前が…強すぎるんだよ」
「アンタ、昔は守ってくれたのになぁ」
「10年くらい前の話だろうが…」
「…やっぱ変わるわよね」
「あ?」
「何でもない、飲み物買ってきてあげる」

立ち上がった藍は少し離れた自販機へと走りだす。
幼馴染の彼女を守っていた浩一。
彼は小さい頃一匹狼で何事にも立ち向かう勇気ある少年だった。
しかし彼の脳内にはそんな記憶は残っていなかった。

「ったく…飲み物買うのに時間かかりす……ん?」
正面の離れた場所の自販機で藍が男に声をかけられている。
あんなオシャレな格好をしていればナンパされてもおかしくない。


「いや、だから男と来てるんだって!」
「いいじゃん、俺はその男よか楽しいって」

デコに乗せていた濡れたハンカチを取り、藍のもとへと歩き出す。

「悪いな藍、トイレが混んでてよ」
「こ、浩一…」
「あ?お前がこの子の言っていた彼氏か?」
藍の方に視線を向けると、泣きそうな表情で下を向いてしまっている。

「そうだけど、お前誰?」
「…え?」
「ちっ、ホントに彼氏と来てたのかよ」
近くのゴミ箱を蹴り飛ばして去っていくナンパ師。

「あ、あの浩一、・・・えっと」
「んー、俺これな」
藍がすでにお金を入れていた自販機のボタンを押して取り出す。

「これでチャラだ」
「浩一……、ありがと」
「あ?」
「なんでもない!ほらそろそろ二人と合流するわよ!」
さっきまで怖がっていたはずの藍の表情は少しうれしそうに見えた。



「き、緊張した・・・」
「大志、よく頑張ったな」

夕焼けの空、人が少なくなった遊園地内で明美と藍が利用したアトラクションのことで花を咲かせている後方。
大志と明美の二人きり、表情からして緊張したことがわかる。

「いきなりお前ら消えるんだからよ…焦った」
「いいじゃねぇか、楽しかったろ?」
「あ、あぁ・・・」

「に、西田君、今日は楽しかったね」
振り返る明美は、大志に満面な笑顔を向ける。
「あ、…うん!楽しかったね坂東さん!」

それだけでこの計画が成功したといえるのではないだろうか。
浩一と藍は二人、目を合わせて笑みを浮かべた。

「え、あれ?」
歩き出そうとした時、明美が何かに気づく。

「明美、どうしたの?」
「どうしよう…携帯忘れてきた、たぶん藍と電話したときに…」

急いで走りだそうとする明美、浩一は大志の背中を叩いた。

「お前も行け、お互い場所わかってんだろ、一人にさせんじゃねぇよ」
「お、おう、坂東さん、俺も行くよ」
「あ、ありがとう西田君」

走り出す二人を見送る浩一と藍、あの調子だと遠い場所に置き忘れているのだろうか。

「まったく、明美もドジっ子ね」
「だな」

綺麗な夕日が、アトラクションを照らしていた。
少ないお客たちも次々に出口へと向かっていく。

静かな沈黙、穏やかな時間が流れていた。


「やっぱりアンタ変わってない」
「あ?」
横に立っていた藍が小さく言葉を吐き出した。

「私ね、小さいころアンタのこと好きだったんだよ?」
「え、なな…何だよ急に」
「普段は弱いけど、いざとなったら頼りになるアンタが好きだった」
「………そうか」
空を見上げて薄れていた過去の出来事を思い出す。

「浩一、変わってないよ」
「今日、お前に何度もヘタレって言われたが…」
「ふふ、そうだね」
冷たい風が藍の髪をなびかせる。


「そして、私の気持ちも変わってない」
「…あ?」
「この意味わかる?」
「…それって」
「自分が他の男に何も感じない理由がわかった」

遠まわしの言葉、鈍感な浩一でも理解できていた。
藍のことを好きか嫌いかなんて判断したことがない彼は、冷静に考えてみた。

小さい頃、どうして藍のことを守っていたのか。


成長してから毎日、どうして退屈だと感じていたのか。
簡単なことだった。


彼は何もない日常を面白くないと思っていたんじゃない。


「お前が隣にいることが少なくなっていたから、だったんだな」
「え?」
「幼馴染って大変だな」
「…どうして?」
「好きだって気持ちになかなか気づかないからな」
「浩一…っ」

口に手を当てて涙を流す藍。
発覚した急すぎの遅すぎたお互いの気持ち。

「浩一」
「ん?」
「ずっと好きでした、そしてずっと……好きです」
「ああ、俺も好きだったし、好きだ」

おかしな愛の告白は二人らしいといえた。

「これからずっと隣にいるから覚悟してよね」
「ああ、よろしく頼む」

浩一は優しく藍の頭に手をのせた。
人の目を気にせず、藍は笑顔を向けて浩一に飛びついていた。

どうしてこうなったのか、なんて考えることはなかった。
二人はいずれはこうなることが決まっていたのだから。




「ったく、世話の焼ける」
「藍、幸せそう」
離れた場所で藍と浩一の姿を眺める男女の姿。

東西南北作戦。
北沢、西田、南、坂東の恋の物語。


「ふふ、頑張ったもんね」
「大変だったよ」
男の腕に絡みつく女性もまた幸せそうな表情をしていた。

夕日の輝きは浩一と藍を照らしていた。
まるで、光が二人を祝福しているかのように。

「さ、ネタバレしにいくか、明美」
「そうね、大志君はきっと浩一君に怒られるね」



そう、これはアイツらをくっつけようという物語なのだ。

後書き

読んでいただきありがとうございました。

慣れない恋愛物語だったのでうまいとは言えない作品でしたが……。
次回作も考え中なのでよろしくお願いします。

この小説について

タイトル 後編
初版 2012年4月8日
改訂 2012年4月8日
小説ID 4388
閲覧数 873
合計★ 0
HIROの写真
ぬし
作家名 ★HIRO
作家ID 199
投稿数 36
★の数 52
活動度 4305

コメント (1)

wq コメントのみ 2018年1月3日 9時38分34秒
(このコメントは作者によって削除されました)
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。