Qualia days - ‐試作品彼女‐【SS】「愛情の対価」

-Qualia days- 試作品彼女
「愛情の対価」 

 「朝ですよー。起きましたか?」
 「ううぅみお、みおおお。」
 「マスター、遅刻しちゃいますよ。」
 「布団の悪魔から解放されないんだ。もう少し、もう少し寝かせておくれ。」
 
 私のマスター。久保田さん。32歳の独身男性で機械工学の権威。しかも、日本で相当優秀な逸材を輩出する大学の教授もやっている。私のとっても憧れな人だ。思い焦がれるだけで、自分の中にあるプログラム回路がショートしてしまいそうなくらい好きだ。

 二年前、マスターは、病気で最愛の婚約者、澪(みお)さんを亡くした。悲しみをプログラミングされていない私にとって、「とっても悲しいこと。」としか分からず、頭で理解しているんだけど、どうしても涙が出てこない。「悲しい」という感情が理解できないのだ。

 「おおい!!どうして起こしてくれないんだよぉおおお!!遅刻じゃないか!!」
 「何度も起こしましたよ。でも起きてくれないじゃないですか。」
 そっとコーヒーとトーストを渡す私。マスターは着替えながらパンを加えるという器用な動作で身支度を五分で済ませ、さっさと家を出て行った。
 「じゃ、留守番頼むぞ。」
 「あ、待って……ナデナデは?」

 それから、マスターはプログラムの本を読み漁り、亡くなった澪さんの髪の毛を使って、「クオリア」と言う名前の私を作った。クオリアと言う名前の由来は、一緒に見る景色や色を同じように感じ取りたいというマスターの優しさから来ている。

 「最近マスター構ってくれないなぁ。」
 掃除をしながらため息を吐く私。マスターの部屋には無造作に置かれたコードや、工学書や作りかけの犬のロボットが散らかっていて、片づけるのは私の役目だ。因みに私は澪さんが女子高生の時の姿の時を模して造られたらしく、一回マスターのお母さんが来たとき女子高生と同棲していると思ったらしく、マスターは勘当されてしまったとか。
 ちょっと苦い思い出。

 買い物をして洗濯をして。料理を作った後、バッテリーを充電してマスターの帰りを待つ。(どこにプラグを差すかは秘密です。)
 それが私の日常なのだ。
 「さて、最後に料理でもしよ……あれ?右腕が上がらない。」
 カチカチに動かなくなってしまった右腕。仕方ないので、左手を使って料理をする。あまりの不便さに困ってしまった。
 「ふぅう、やりにくいなぁ。あ、れ、なんかワタシ、キョウ、チョウシガワルイゾ……。」
 頭に途切れなく入るノイズ音。そして、頑張って料理を完成させて、私は倒れた。

 ――ピーピーピー……ピーピーピー。
 電子音が虚しく響く。

 「久保田教授、これからみんなで女子集めてコンパやろうと思ってるんですが、良かったら来ませんか?」
 「うーん、どうしようかなぁ。」
 「綺麗どころ揃えておきました。学生との触れ合いっすよ。」
 親指を人差し指と中指に挟んで見せる学生。俺は少しデレッとしてしまった。
 「まぁ、ちょっとだけな。」

 ******
 「さ、始まりましたぁ、大学交流コンパ。今日は久保田教授を連れてきています!!」
 「ど、どうも。」
 照れくさく頭を掻く俺。
 「教授って結構渋いんですねー。ダンディーと言うか。私、おじさんフェチなんですよぉ!」
 うっわ、イケイケのピチピチじゃんか。オッシャレー。俺の時代に発育の良い子居たっけ?

 ******
 「ハッ、なんか意識がちょっと飛んでたみたい。あれ?なんか下半身が動かない……。充電、しっかりしたつもりだったのになんか調子が悪い……。私、もうスコシガンバッテ。」

 ザー……。
 ――ノイズ音。

 ******
 「へぇー、じゃあ、美弥子ちゃん今年で大学卒業なんだ。卒業したら、院に行くつもりなの?」
 「それが決まってないんですよね。はぁ。教授、頼みます。就職先紹介してくれませんかッ!?」
 胸元攻撃かぁ……。つくづく俺もスケベだなぁ。耐えなきゃ。この子、なんか太ももさすって来ないか?うう、息子よ、もう少し頑張るんだ。

 ******
 「ぴっぴぷる〜♪教授サマにまたゲーム借りに行こうかなぁ。」
 隣に住むヲタク米沢君(26)。
 「ピンポーン。返事がない。屍のようだ。」
 インターホンを押しても返事がないと分かった米沢君はまた戻りかけた。
 「ガチャ。あの……米沢さんデスカ?」
 ドアフォンが上げられ、振り絞った最後の力で話すクオリア。
 「ん?クオリアちゃん、どうしたの?」
 「ワタシ……今日は……。」
 振りきれて、倒れたクオリア。
 「え、え?!クオリアちゃん、返事してよ!!クオリアちゃああああん!!!!」

 ******
 場所は変わって、欲望の流されるままに俺はなぜかホテルに来ていた。
 「教授、シャワー浴びてきてください。」
 そう言われ、冷静さを取り戻すべく頭から水を被りながら考える。ホントはダメなんじゃないかって。こう言うのは。

 「出たよ。あああ、何見てるんだ!!」
 みると、充電中だった携帯電話を見てくすくす笑うバスローブ姿の美弥子ちゃんがいた。
 「クスクス、誰ですかぁ、この子。待ち受けにしちゃって。教授、エンコーでもしてるんですかあ?」
 「黙れ!!黙れ黙れ!!お前に何が分かる!」
 「教授、なんかこわーい。」
 「こんな女の子のことなんか今日は忘れちゃいましょうよ。ね?」
 俺はバカだった。今は?深夜二時?何を今まで惑わされてたんだ!!
 「お前、それ以上言ったら怒るぞ!このアバズレ女!!」

 俺は捨て台詞を吐くと荷物をまとめて、ホテルを出て行った。終電……無い。仕方ない。タクシーだな。

 ******
 「クオリアちゃん、死んじゃ駄目だ!!」
 必死にクオリアに声を掛ける米沢君。しかし、クオリアは原因不明の電源落ちにより、全く動かなくなってしまった。

 「くっそー、幸い鍵が開いてたから良かったんだけど、肝心の人が来ないよ。教授さんの連絡先知らないしなぁ。」
 涙と鼻水をダダ漏れにして泣き続ける米沢君。

 ******
 「ありがとうございましたー。」
 マンションの自室に戻ると、時はすでに三時を過ぎていた。
 「米沢君?!どうしたの???」
 「教授!!いつもは遅くとも十時に帰宅するじゃないですかッ!!!!どこに行ってたんですかッ?!」
 「いや、これだよ。」
 小指を立てながらにやける俺。ちなみに美和子ちゃん以外のアドもちゃっかり入手しているのだが。
 「ふっざけんなあああ!!これを見て言えたことかあああ!!」
 米沢君の後ろには右腕の痛みに耐え、意識を失った様子のクオリアが横たわっていた。
 「クオリアあああ!?どうした?!クオリア!!!!」
 肩を揺すってクオリアに話しかける俺。ロボットなので反応があるか分からないが。
 「残念ながら、クオリアちゃんは三時間前に気絶したみたいです。教授は最も愛しい人を見殺しにしたんですよ。」
 「ああ、俺はロクな人間じゃない。一時間前も女子大生に誘惑されかけて就職何とかしようとしてたし。」
 幻滅。渦巻く絶望感。
 
 「……あきらめるのはまだ早いよ。」
 「澪?!どこにいるんだ?!」
 「……?」
 米沢君は気が付いていないようだ。
 「ジュンイチさんがあんまりみっともないから天国から戻ってきちゃった。」
 「お前、生き返って顔見せてくれよ。」
 「何弱気なこと言ってるのよ。いつも言ってたじゃない。あきらめるのはまだ早いって。一緒に大学言ってた時もそう言って励まされてたじゃん。忘れたの?」
 「ああ。そんなこともあった気がするが。」
 「それとも、ジュンイチさんの技術はそこまでのものだったの?必死に頑張って私の代わりにクオリアちゃんを作ったのは嘘だったの?」
 「……悪い。俺が間違ってた。」

 俺は呆然とする米沢君を諭して部屋に帰らせるとクオリアを抱えて研究室に閉じこもった。三日間ほど。

 ******
 三日後。
 「クオリア、目覚めてくれ!手は尽くしたんだ!」
 起動音が鳴り、クオリアは奇跡的に目を覚ましたらしい。

 「あ、教授、私はいったい……?教授、暑苦しいです。抱き着かないでください。」
 サーモセンサーによって感じる人のぬくもり。

 私は悲しいってこと、少しだけ分かった気がする。意識を失った三日間。よく分からないおぼろげな機械意識の中、手を尽くして必死に話しかけてくれたマスターの姿があったから。

 「ふふふ……もう大丈夫ね。」
 「あれ?マスター?今なんか空に昇っていきましたよ?」
 白っぽいような女性の姿をした何かが天井をすり抜けて空に昇って行った気がした。
 「あ?何のことだ?」
 「気のせいかな?私の網膜も機械だし。あれ、マスター何やってるんですか?」
 「ふふっ。俺もまたこれで独り身だな。」
 なんか泣きながらぶつぶつ言って携帯弄ってるし。
 「ええー、メモリー消去?!何消したんですか?!教えてくださいよお!!!!」



――――終。

この小説について

タイトル ‐試作品彼女‐【SS】「愛情の対価」
初版 2012年5月13日
改訂 2012年5月13日
小説ID 4393
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