SSF - 「マヤ歴46億年の新たなる始まり」

西歴2012年12月21日(金)冬至 宇宙終焉の日 
俺は『マヤの予言』など、はなっから信じてはいなかった。今日がその日であることさえ忘れていたぐらいだ。
予言は信じていないが、人類が破滅に向かう『開始の日』だということは認識している。つまり『宇宙終焉の日』では無くて『地球終焉開始の日』が正式でふさわしいだろう。

ここのところの俺は、烏丸御池にある歯科医院に通っている。
年齢的に60を廻ってからは月平均2度ほどのペースだ。今日も朝からバスと地下鉄を乗り継いで、20年来通っているその医院を訪れた。俺は年齢が10年ほど先輩の医院長がお気に入りである。
「そこまでしょっちゅう通わなくてはならないのは、下手な治療のせいよ。いいかげんに医者を替えてみたら?」
うちの家内などは懐疑的にそう言う。
だが俺はこの医院長を信頼している。これまで浮気したことはない。
被せが不具合になっても安易に抜歯などしないで、何度も何度もトライして元の歯で工夫してくれるのだ。
「他の歯医者と違って、ここの医院長は決してあきらめない」と俺は言う。すると娘までが笑う。
今朝は、さすがに(総入歯を覚悟しなくてはならないかな)と、診療台で仰向けになった脳の中で俺は思った。
何故なら(先日の仕事で)前歯を何本か砕かれてしまったのだ。

俺は鬱を患って7年になる。薬の飲み合わせが気になって、投薬の種類を言ってあるので、医院長はそれを知っている。
実は俺の『職業』さえも知っているのかも知れないが、何があっても俺の私生活のことなどは一度も訊こうとしない。
余分なことを訊こうとしないし、丹念に仕上げた治療箇所の不具合が2、3週間の間に起これば、殆ど再診料代は取らない。
そんな(技術屋魂)も俺の性分によく似ていて好ましい。

永い通院暦の間に、俺は烏丸六角近くのビルにあるスポーツ・ジムに通うようになっていた。
だから今日も治療が終わって、5分ほど歩きビルの8階にあるトレーニング・ルームに行ったのだった。
俺はいつものようにランニング・マシーンからスタートした。
あいの日は、人は疎らで老人と主婦が常客である。マシーンの時間待ちはない。
それに主婦層はジム・トレーニングよりもダンス・エクササイズとコミュニケーションが目当てであるから、人目を気にせずに筋力トレーニングに集中できて好い。
俺がまず30分のランニングをしながら透明ガラス越しに外を見ると(いつもの)ビルの7階の窓が見える。
俺はそこのカーテンの無い窓の中を覗く。そしてしっかりとホワイト・ボードに書かれた『数字』を記憶する。

11時40分、ランニングを始めて10分過ぎると、そろそろ身体が発汗を始めアドレナリンで気持ち良くなってくる。
マーシンのモニターはテレビ・モードにしてあり、イヤー・ホンから昼前のニュースが流れて来た。
それで今日が『マヤ歴の予言の日』すなわち暦の終焉の日であることを知った。
だがそれを言うなら、日本時間、西歴2012年12月22日が正しい『予言の日』であろう。マヤとは時差がある。
そもそもノストラダムスに代表される『終末論』なるものが実現したためしがまったく無いのだ。
今回にしても、なにをか言わんであろう。
空から恐怖の大王が降臨したという2000年以後、キリスト系の信者による訪問布教は確実に減った。
彼等こそ(救われなかった)ようだ。

すると窓外に舟が現われた。
俺は一瞬、『ノアの箱舟』かと驚いた。しかしそれは一瞬のことで、すぐに気球船だと認識できた。
俺自身は意に介していないつもりであるが、少しナーバスになっているのかも知れない。
目測で200m程先の空間にそれはいた。俺の8階の目の高さよりも数十メートルは高い位置だろう。
フット・ボールを横に引っ張ったような形をしていて、舟の側面には生命保険会社の名前が描かれていた。
(広告船なんだ。なかなかお目に掛かれない)
たしか世界で約20機、日本では現在1機のみと言われている。俺の目の前に浮かぶそれは、たぶん全長は約40m、全高13m、全幅11mのタイプだろう。
お目に掛かってはいないが、バブルの時代にはジャンボ・ジェット機より大きな観光気球船が、東京の空を飛んでいたそうだ。
俺は以前に遠目に見たことがあったが、その時はしばらくの間、『ノアの箱舟』かもしれないとマジで信じて見た記憶がある。だがこんなに近くで見るのは初めてである。
その気球船はそこに何秒間か止まり、やがて方向を変えて西から東へ俺の頭上を越えて消えた。

この後、ジムを出た俺は、地下鉄の貸しロッカーのある場所に向かった。これも(いつものこと)だ。
ホワイト・ボードに書いてあった数字のロッカーを探し出すと、ジム用バッグと入れ替えに、そのロッカーの中に入れられていた(こげ茶色のボストン・バッグ)を取り出して、次の『目的場所』に向かう。

次の目的場所であるビルのトイレに着いた俺は、トイレの内鍵を閉めるとこげ茶色のボストン・バッグのファスナーを開けて『スパイダーマン』張りのコスチュームを服の上から身に着ける。
つまり頭の上から足の先まで、スッポリとコスチュームの中に納まる訳だ。
次に俺はコスチュームの内ら側のジッパーを、足の付け根から頭に向かって引き上げる。
そしていコスチュームの内ら側にあるスイッチを押す。
すると俺の全身は消えてしまう。おまけにボストン・バッグも消えてしまうが、実体はそこに存在しているのだ。つまり『透明人間』の出来上がりである。

実は俺の闇の素性は『特捜刑事』である。所属は『NASA』の極秘関連機関である。
そこの日本支局に属している。支局員は俺を含めて105名体制である。
それで何をしているかと公に言うことは出来ないが、侵入者(インベーダー)対策が俺の職業である。
奴等は『スペース・シャトル』に付着してやってきた。
NASAはやっとそれに気づいたのだが、時おそしの状態であった。
奴等のDNA本体は随分と前から隕石などに隠れて早々とこの地球上にやってきていたのだ。
そして人間と仲良く共存して、ゆっくり慌てずに(時を作ってきた)。それが『マヤ暦』と符合している。
人類の崩壊への(カウント・ダウン第2章)は最早、今日、明日をもって始まることになるだろう。

だから我々『特捜刑事』が結成されて、地球上の人間になりすましている奴等を見つけ出し、秘密裏に抹殺しているって訳だ。
奴等の多くは要人に成りすましている。
そう言えば日本の政治家の中で過去に『宇宙人』って呼ばれた党首がいたっけ、ハッハッハ。
それは冗談だが、各国の大統領などの要人に成りすまして、民族紛争や宗教難民者の大量虐殺が行われている。
彼等は要人の脳に入り込み、いかにも人間同士が対立する構造を作り出しているのだ。
だからこそ人類の歴史は、これまでもこれからも戦禍の無い歴史を築くことができないでいるってことだ。

ところで俺が『透明人間』だなんて(貴方)は信用していないよね。だが残念なことに今回は本当に『透明人間』なんだ。絶対にNASAにそんな化学技術なんて存在しないと思っている(貴方”!)。
(そうマヤ歴の予言なんて信じないと思っている貴方! そんな貴方は本当に救われないかもしれませんよ)。
巧妙な悪戯だと思い込んでいるかも知れないね。そんな貴方をいくら説得しても無駄かも知れないけれど、ましてや俺が百年先から救援のためにやって来た人間だと明かしても、絶対に信用しない訳だから、もうやめましょう。
『透明人間』の俺が話しかけても恐怖すら感じない貴方は(もうすでに死んでいます)。
そう、インベーダーに身体組織はすでに犯されているのです。

俺は指令書で素行を確かめられていた男の、運転する乗用車の助手席に乗り込み、事実を再確認した上で男の後頭部に素早く手を押し付けて、脳内に住む『インベーダー』を焼き殺した。
車外から目撃した人々には、ビルの外壁にフル・スピードで衝突した車から、俺が間際で飛び出したことなどには誰も気付かない。もちろん運転していた男、核弾頭用部品を製造し輸出していた会社の社長は『即死』であった。

(37番の市バス)で帰路に着く俺は、外出時間未定の夫を小言で待ち構える妻への答弁を、ひたすら考えている。
明日からいよいよ大決戦の始まりだというのに、情けない話だ。

その時、37番の市バス目掛けて小石大の雹でも落ちてきたような音がしたかと思ったら、機銃から打ち込まれた弾丸であった。
その弾丸はまぎれもなく窓外に見える『気球船』からのものであった。
どうやら俺の行動は、ずっと見張られていたようだ。
常客の悲鳴と共に新しき46億年の戦いの火蓋は、明日を待たずに切って落とされた。

後書き

この作品の一部は事実に基づいて書きました。
つまり、昨日の私の日常生活の一部です。テレビ報道を見て、妄想したって訳です。
即興SSとでも思ってください。ハハッ。

この小説について

タイトル 「マヤ歴46億年の新たなる始まり」
初版 2012年12月22日
改訂 2013年2月7日
小説ID 4444
閲覧数 810
合計★ 8
そら てんごの写真
ぬし
作家名 ★そら てんご
作家ID 675
投稿数 30
★の数 106
活動度 7730

コメント (4)

★堀田 実 2012年12月30日 21時44分18秒
こんばんは。面白かったです。
即興らしく冒頭の『 俺は『マヤの予言』など、はなっから信じてはいなかった。今日がその日であることさえ忘れていたぐらいだ。 』が良く分からなくなってましたけど小説IDの4444も含めて面白かったです。
オカルトやSFは人にとって罪悪なのか薬なのかわかりませんね、でも不思議と惹かれてしまいます。
ただSF作品は個人的にわからない分野なので星3.5で3にしました。
そら てんご コメントのみ 2013年1月3日 5時24分31秒
堀田 実さん
そして、動機はどうであれ私の作品を覗いて下さっている皆様。
新年、明け、おめ!

本人の気づかないID番号のご指摘、ありがとう。444ラッキーです。
今年は年頭から長編物(450枚程度)を仕上げています。

私は、極めて読書嫌いです。そのため創作の上達度が遅いですが、
せめて日常で湧き上がるインスピレーションのようなものを、多数書き留めて、その中から物語を膨らませる遣り方を身につけたいと思っています。つまり少欲必殺の長編を、残りの人生であと何編残せるかが、課題であり今の心境です。・・・以上、現場からの報告でした。
名無しの通りすがり 2013年1月19日 13時09分47秒
運命的なものを感じて、思わずコメントします。
何を隠そう、俺はそのジムに通っているのです。
そんな貴方を探すのですが、・・・・・
とにかくびっくりしました。でも凄いですね。
これから意識して、そらさんの作品には注目です。
では、
そら てんご コメントのみ 2013年2月4日 10時06分04秒
名無しの通りすがり さん

ありがとう。旅に出ていて閲覧が遅くなりました。(どこやねん嘘つくな!)スミマセン

でも、・・・こんなことってあるんですね! ビックリです。
変に意識してしまいますね。数日前に張り切り過ぎで、足首を痛めてしまいました。これは、もしかしたら誰かの陰謀でしょうか(笑)

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