舞台と女と火星人


『舞台と女』



木下烈華はたった一人、大きな舞台に立っていた。昔からの夢だった大きな舞台だった。観客席は埋まり、自分だけを見つめている。それは苦痛にもプレッシャーにもならない。気分を高揚させ、自身を高めさせる材料になる。

「私はこの世界を変えたい――」

息を大きく吸い込む。一言発しただけで喉がからからに渇いていた。気づかなかったが緊張をかなりしているようだった。
私の家は貧乏だった。新しい服なんて滅多に買ってもらえず、ご飯も満足に食べることはできなかったので栄養が足りず身体は高い身長のわりにがりがりに痩せていた。
そんなみすぼらしい私を同級生たちはからかう。絶対金持ちになって見返してやる、そんな想いからこの世界に入っていた。
演じて人を欺き、その楽しさにいつしかどっぷりと浸かっていた。

「私には夢がある、かの有名なキング牧師はそう言った。
 『――友よ、私は今日あなたがたに言いたい。われわれは、今日も、明日も、多くの困難に直面するだろうが、それでも、私には夢がある。』」

観客席の視線がよりいっそう強くなる。
声を張り上げながら私は言葉を続けた。ここに集まった誰もが私を疑う事なく耳を傾け、涙を流しながら頷く者までいる。私は幸福感でいっぱいだった。
どうだ。私を見て感動で涙を流す人もいれば拍手をする人もいる。あの頃私を嘲笑い、馬鹿にしたクラスメート達。お前たちなんかより、私はたくさんの人に必要とされている!
明日、もうこの場にいないとしても、私は幸福感でいっぱいだった。
外には大勢の報道陣と警察官がいる。私の部下はとうに逃げただろう。全員を今日付けで解雇し、外国へと向かわせた。

「今私たち、そう、家族とも呼べるべき私たちは、このあと引き裂かれる運命だとしても!離れ離れになる運命だとしても!また巡り合う!必ず、また、私たちは巡り合う!!その日まで…おやすみなさい。」

私は演説を終わらせると舞台で頭を下げた。沸き起こる会場全部を包む拍手に自然と涙が流れる。



『こちらが問題の新興宗教"家族団欒"です! 最初の1年間はタダで衣食住が至急されますが、次の年度からは"仕事"または"出稼ぎ"という名目で男性は肉体労働、女性はキャバクラやソープで体を売るなどをさせて、宗教祖の木下烈華氏に稼いだお金の8割を渡すことを強要していました。現在、木下氏以外の幹部は外国へ逃亡、木下氏自身はまだこの建物内にいるようです。あっ!今、たった今、機動隊が建物内に突撃しました!!木下氏が武器を持ち、人質を取っているという情報が入ってから数時間、機動隊が建物内についに突撃しました! 繰り返します、自衛隊が今、"家族団欒"の中枢であった建物に────』



私には夢があった
新しい可愛い服を着て、家族みんな揃ってご飯を食べて
友達と遊ぶ、そんな、夢だ

一体どこで間違ったのだろう。私は何を間違ったというのだろう。何が間違えているというのだろう。
みんな、幸せに暮らしていたのに。
私たちの幸せを、勝手に常識という名の歪んだ定規で測った外の世界。

最後の別れじゃないのだから泣く必要などない、ここにいるみんなの笑った顔をみたい。
私はいつもウケた手品を披露しようと思った。まずは拳銃から花を出す手品からだ。
さあみんな、こっちを見て。私の声はマイクがなくてもよく届いた。みんな、ああ、手品だと頬の涙を拭い、微笑む。

さあみんな、笑顔になろう。
私たちはいま幸せなのだと、侵入者に教えてやろう。

静まり返った会場、舞台の上で乾いた音だけが響く。
綺麗な花が銃から咲く。
紅い、紅い、紅い…花が、私の目の前で、みんなの目の前で。



『今入ったニュースです。新興宗教"家族団欒"の指導者であり宗教祖の木下氏が、武器を所持して人質をとり建物内に立てこもっていた事件で、機動隊が突入した際に木下氏は観客に向け、拳銃のようなものを振りかざしていたようです。人質の命を最優先するため機動隊は銃を発砲。突入から2時間後の午後10時20分頃、木下氏は搬送された病院で死亡が確認されました。えー繰り返します。新興宗教"家族団欒"の指導者であり宗教祖の木下氏が死亡しました。』



紅い、紅い、紅い…花が、私の胸の前で、私の舞台で。
大きな花弁を、開かせた。

聞こえた誰かの甲高い声。
きっと私の手品に喜んでくれた声。
薄れゆく思考、突然の眠気、いきなり反転した視界。

「木下烈華、確保!!」

コトリ、と手から手品用拳銃が落ちたのが、私の最後に感じた感覚だった。









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『火星人』


僕は火星人。
地球人となんにも変わらない姿かたち、中身も構成する物質も、一緒なのだけれど。

「やーい!宇宙人!」

最初の学校はうまくやっていた。
けれど2396年の小学4年生のころ、お父さんが仕事の都合で地球に移り住み、2ヶ月経っても僕は地球に馴染めない。
お母さんは昔はみんな地球に住んでたのよって言うけれど、僕が産まれた2388年のときには地球と火星には別々に人が住んでいた。
こんなにいっぱい人が生きているのに、地球に収まりきるのかな?

「やーい!やーい!宇宙人!」

僕は火星人。
地球人となんにも変わらない姿かたち、中身も構成する物質も、一緒なのだけど。

「宇宙人も人だもん!」

僕が叫んだ声はクラスメイとたちの嘲笑でかきけされてしまった。
今日も1人で帰り道、僕は涙と弱音を堪えて歩いていく。
いつか僕も地球人になれるからとお母さんが言っていた言葉を信じて。


僕は火星人。
地球人となんにも変わらない姿かたち、中身も構成する物質も、一緒なのだけれど。



後書き

最近なかなかパソコンに触れられないので携帯でちまちま打ってたものです。
ちょっといつもより勢いは落ちたかな。情景描写が少ない。
毎度のことながら、優しい意見も厳しい指摘もよろしくお願いします。
表現方法、区切りの場所、などなど。

この小説について

タイトル 舞台と女と火星人
初版 2013年1月30日
改訂 2013年1月30日
小説ID 4455
閲覧数 686
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佐藤みつるの写真
ぬし
作家名 ★佐藤みつる
作家ID 510
投稿数 36
★の数 195
活動度 4935
だらだら社会人やってます。
本(漫画・小説)の量が半端なさすぎて本棚がぎちぎちになってます。

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