華の内乱 - 私

如月キル
 そこは、闇だった。
 何処を向いても、何もない世界。闇と、闇と、闇と、闇。
 全てが闇に埋め尽くされ、視界も、音も、臭いも、感触も。五感のすべてに何の反応もなく、ただ、何もない世界だった。
 いや、何もない、というよりは一つだけあるかもしれない。
 私がいる。私は、確かに私という存在を認識できていた。
 けど、やはり私以外には何もなく、ただの空虚さえ存在していない。
 私は、どうしてこんなところにいるのだろう。私は、さっきまで、何をしていたのだろう。私は、一体、何を見ているのだろう。
 全ての疑問に、答えるものは何もなく。単純に記憶をさかのぼろうとしても、それさえも闇に包まれていた。
 いや、闇と決め付けていたが、そもそもこれは本当に闇なのだろうか。
 視界も、音も、臭いも、感触も。五感のすべてに何の反応もなく。ただ、何もない世界。そんな世界に、闇というのは存在するものだろうか。
 そもそも、闇と言うのは何だろう。光の反対、暗闇、夜、影、黒、悪意、存在、飲み込むもの……。そのどれにも、今いるこの世界には当てはまらない気がした。
 結論としては、何もないのだから、闇だって存在しないのではないか。
 なら、今いるこの世界は何なのか。
 最初の疑問。
 そして再び沸き起こる、もう一つの疑問。
 そもそも、何故この何もない世界に、自分が存在できるのか。
 ぐるぐると思考が回転する。同じ場所を、同じ道を、同じように淡々と進み、そしてまた、同じ場所に戻ってくる。
 今いるこの世界は何なのか。
 最初の疑問。
 単純明快で、しかし必ず最初に戻ってくる思考ゲーム。
 それを続けるうちに解ったことは、そんなことを考えるためにこんなところにいるんじゃない、ということだけだった。
 なら、何をするためにここにいるのだろう。
 私は何もない世界にいる。なら、当然何もすることはない。けど、ここにいるからには何かしらの理由がある。だが、私は今何もない世界にいる。なら、何をしろというのだろう。
 そうしてまた、同じ思考ゲームへと入っていく。道を逸れてもまた、同じ道が続くだけ。それこそ、闇の中のような泥沼な思考ゲームが、延々と続く。
 当然のように最後に辿り着く結論は、そんなことを考えるために、こんなところにいるんじゃない。ということだけだった。
 思考するだけ無駄。もしかすると、思考という概念さえ、この世界では存在しないのかもしれない。となれば、答えというものが存在しているかどうかさえ、怪しい。
 そんなことを考えているうちに、私はなんだか怖くなった。
 怖い? 何に対して?
 違う。ただ、怖いのだ。そんなことを考えていることそれ自体が、ただ、怖い。
 私はいつまでもここにいてはいけない気がして、がむしゃらに何もない場所を掻き分ける。もがく。何処が出口かもわからないのに、とにかく出ようと、がむしゃらに手を動かす。
 上も下も、右も左さえもない世界から、とにかく出てしまおうと足を動かす。手を動かす。
 だが、前に進んでいるのか、上に進んでいるのか、右に進んでいるのか、左に進んでいるのか、それとも後退しているのか。それさえもわからない。もしかしたら、止まっているのかもしれない。
 そんなことをしているうちにだんだんと私は気が狂ってくる。
 私が誰なのかさえわからなくなり、ただ一人存在する私も、この何もない世界に溶け込み、消えていく。そんなイメージが頭にこびりつき、はりつき、離れなくなる。
 寧ろ、それが正しいような気さえしてくる。
 だけど当然、私はそれがいやで、もがき、もがき続ける。手を動かし、足を動かし、顔さえも振りながら。とにかく外に出ようと試みる。
 だけど当然、外に出ることなど敵うわけもなく。
 そうして私は、気付いた。
 手に。
 足に。
 体に。
 指に。
 爪に。
 鼻に。
 何もない。何もないはずの世界に、私がいた。
 視界も、音も、臭いも、感触も。五感のすべてに何の反応もなく。闇だと思っていたそれさえも、闇でない。ただ、何もないはずの世界。そんな中で、私は、私自身を認識することが出来ていた。
 周りを見ても何もない。闇なのか、そうでないのかすらも分からない。視界さえもないのに。
 私には、私自身が見えていた。
 そうして私は、気付いた。

後書き

とにかく頑張ったんだから

この小説について

タイトル
初版 2013年3月23日
改訂 2013年3月31日
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