1話 - Last Goodbye

ある建物の地下。

緊張感が張りつめる暗い空間に、カツカツと革靴の走る音が響く。すっと姿を隠すかのように壁に背を向ける。手に持つのは冷えた拳銃。ゆっくりと荒れた呼吸を整える。空気は冷たいのに右腕が熱い。さっきからズキズキと痛む。


撃たれたのは久しぶりのことだった。多分疲労のせいで足元がふらついたんだろう。その一瞬を突かれ、撃たれたせいで今でさえも時々力が抜ける。畜生、しっかりしろ。こんなの擦り傷だ。さっさと終わらせてやる……


気配を感じた。目を閉じる。近い。すぐ近くにいる。


「――――……そこか!!」


カッと両目を見開き、反動をつけて壁から離れたと同時に、視界の左端に映った黒い影めがけて拳銃の引き金をひく。空気を揺らす大きな音のすぐあとにドサッという鈍い音が小さく響いた。どうやら命中したらしい。ふぅっという小さなため息をついてから、床に蹲る黒い影に近づいていった。


「っ……さすがはレザーリオの一員だ……お手上げだな」


呼吸を少し乱しながら倒れている男はこちらに向かって言った。先ほどの弾は右肩を貫いていたようだった。男の隣に腰をおろした。


「……ロックスベルの奴か」

「あぁ」


ロックスベルはレザーリオと同じ裏社会を蔓延する、表から見れば"犯罪"組織。シチアーズやトメイオン、ミストリアなどいろいろな組織が存在しているが、それが表社会に漏れることはない。裏社会にいる者でもそのすべてを把握することは不可能だ。表社会で公に出来ない企業の裏仕事や暗殺、様々な仕事がこれらの犯罪組織に回ってくる。

まぁ、ロックスベルというのも気になるところではある。面倒なことになったな。

それにしても。

訳がわからなかった。普段接触することはないのだが、最近何故か狙われていた。組織同士の対立など、仕事がらみでなければ今まで経験したことがない。突然襲ってくるとは何か理由があると思われる。
男はふっと笑って続けた。


「は―これで終わりか……まぁ楽になるとなっちゃそうだが……そう素直にっ……喜べるもんじゃぁないんだなぁ」


男は死を恐れてはいないようだった。


「もうこれで、こんなことから解放されるんだからな……」

「……」


男は穏やかに言った。頭に銃口を突きつけられても抵抗はしなかった。


「一つだけ聞く。何故、俺を狙った?ロックスベルの標的にされるようなことは、した覚えがない」

「……知らないのか」

「何がだ」

「お前を排除しようとした、理由だ」

「何故俺が知ってるんだ。ロックスベルの考えてることなんかわかるかよ」

「それもそうだな。じゃぁ」


男はクスクスと笑った。


「―――お前は何故、そこにいるんだ?」


……こいつは何を言ってるんだ。


「哲学的な質問だな。俺は」


言いかけて、止まった。何故?そんなことは知らない。俺は、ただ―――


「もういい」


手に再び力を込める。


「じゃあな」


再び銃声が響いた。目の前の男はもう動かなかった。時間がとまったように物音一つ聞こえない空間で、ほんのりと穏やかな笑みを残している男をしばらくみつめたあと、携帯電話を取り出して立ち上がった。
いくらか呼び出し音がなってから繋がる。


「ロックスベルの一員を殺った。あぁ……例の地下だ。これから本部へ向かう。以上……」


黒い帽子、薄地の黒コート、すらっとした黒いパンツ。全身に黒をまとった人物はそのコートをなびかせて、小さなため息を一つして言った。

「以上、リヴァレス=ドーターゼムより」







市、スペクタートルには小さな病院がいくつかある。ここはそのうちの第2病院。

今日も気持ちの良い秋晴れだ。風はちょっと冷たいけど太陽の光があたたかい。いつものように独りで病室を抜け、このベランダにやってきてからもう1時間近く経とうとしていた。アイボリーの病院着を風が揺らしている。ここには205室の私しか出られないしくみになっている。割りと広くて眺めも悪くないし、外の空気が吸えるからいい気分転換ができる。
空が綺麗だ。ずっとみていたら何だか吸い込まれそうな……あぁ、いっそ全て呑み込んでくれたらいいのに。
ふと我に返り腕時計をみる。アナログ式の時計が13:30ちょっと前を指している。そろそろ薬の時間だ。塀から手を離し病室のドアへ向かって歩き出す。

「リゼル」

病室に入ってすぐに看護師のジュアンがやってきた。
ジュアン=ウェンリー。明るい茶色の長髪をしている。よくリゼルの面倒をみてくれる女性だ。

「外に出てたの?」
「うん、まあね」

そう応えるとベッドに座りジュアンから受け取った錠剤の薬を口に放り込み水で流しこんだ。

「……」

深呼吸をして立ち上がった。

「ごめん。もっかい行ってくるよ」

ジュアンの視線を感じたがあえて彼女の目を見ずにベランダに繋がるドアに手をかけ、それ以上何も言わずに外へ出た。ジュアンもその背中を無言のまま見つめてから、病室を出た。
205室のドアを閉めたところで、ジュアンは小さなため息をこぼした。

一度も目を合わせてくれなかった。こんなことは初めてだった。当たり前といえばそうなのかもしれない。正直言ってどう対応したらよいのかわからない。一番混乱しているのは彼女であることをジュアンは理解しているつもりだったが、彼女が今何を思っているかなんてことはわからなかった。
なぜなら、彼女は昨日泣かなかったから。彼女は一筋の涙も見せなかった。ただ医師の言葉のあとに「そうなんだ」と、悲しそうな笑顔を見せただけだった。そんな彼女を見ているのが辛かった。彼女自身の方がきっとずっと辛いのだろうだけど……

あの娘、リゼル=フローネスはあと1年しか生きられないというのだ。

後書き

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この小説について

タイトル Last Goodbye
初版 2013年3月26日
改訂 2013年3月26日
小説ID 4478
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ゲスト
作家名 ★Salan
作家ID 806
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コメント (2)

ちぇっかーくん 2013年3月31日 23時04分48秒
読ませていただきました。

後半のシーンが、次への期待につなげていますね。

組織の説明の時、無造作に設定を並べている部分に多少違和感を覚えました。

少し厳しい意見ですが。
読んだ人に伝えやすいように、
配慮しすぎてもよいかと思います。

センスのいい、運び、
やはり、かっこいい記述はこの作品の命だと思います。

魅力のある作風だけに、注文も多くなってしまいました。
期待しています。
★川原晴輝 2013年4月9日 21時55分05秒
読ませて頂きました。
僕はこの丁寧な描写はすきです。
主に心情や背景がほんとに気に入りました。
ただ、説明がないと読んでいる方は結構辛いです。
どこかで軽い説明を入れて頂けたら、もっと読者に分かりやすくなるのではないでしょうか?

PS
新入りがこんなことをいうのはなんですが、
salan先生、僕の投稿文を読んで、改善点など、 ビシバシ指摘してくれると嬉しいです! 是非お願いします。
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