何億光年の星の音

枯れたギターの音、眉間によったシワ、いつも通りの毒舌。
デモテープのときの貴方の声、深く暗い瞳、交わらない視線。


夢の中で、貴方は叫んでいる。何と言っているのかは分からない。音だけが聞こえない夢だ。
私の目を見て、あの、深く暗い瞳で、何かを訴えている。突然伸びた手が私の首を掴んだ。声をあげる前に体制が崩れる。
助けを呼ぼうと、やめてと貴方に言うために必死にもがき、声をあげようとするけれど「ああ音だけが聞こえないのなら私の声も音がしないんだ」と気づいて、抵抗するのをやめる。意識が消える直前、ぎちっと貴方が私の首を絞める音だけ聞こえた気がした。
目が覚めて、荒い息をさせて首元を撫でる。痛みはない。鏡で覗き込むと、跡もない。それはそうだ、あれは夢なのだからとじんわり額にかいた汗を拭う。どうしてこんな夢を見るのだろう。もう、何回目だろう。激しく脈打つ心臓、胸に手を当てて、大きく深呼吸する。
私の首を絞める相手は、悠くんだ。彼は、私と一緒にデビューして、歌を作って活動している大切な相手だ。そう、大切な相手なのだ。よくテレビや雑誌で、おふたりの間に恋愛感情は生まれたりしないんですか?と、悠くんが言うには「下品でデリカシーの無いアホみたいな質問」をされることもあるけれど、私の中で悠くんは大切な人というだけで、それ以上も、以下もない。悠くんだって、鼻で笑って、「誰がこんなゴリラと」って言うわけで。
だから、私たちは、それ以上も、以下もない。




ニューアルバムの制作のために呼び出された事務所の会議室で、私と悠くんは二人で制作の人を待つ。
せっかく私が座った隣の席を、はい、悠くん!と座りやすいように引いてあげたのに、余計なお節介やねん。と一つ空けて座るったものだから、私と悠くんの席は一つ空いている。
ここのところずっとそうだ。そのくせ、私が悠くんを見ていないときに、悠くんは私をじっと見つめている。あんまりにも感じる視線だから、何かあるのかと振り向けばすっと目をそらしてしまう。ブラインドをいじくって、カシャカシャさせる音がうるさい。時計の秒針の音もうるさい。でも何よりも、音のしない悠くんの視線が最近やけにやかましい。

「もー!なんなんよ!」
「モーってお前、いつからゴリラから牛になってん」

いつも通りの毒舌に、むっとして頬をふくらませ、牛ちゃうしごりらでもないし!と怒る。喋るとさっきまでうるさかったブラインドの音も、時計の音も、気にならなくなる。悠くんの手がブラインドから離れて、私の両頬を片手で掴まれて口がタコみたいになった。

「なんひゃ、言ひたいこほあるんにゃら、言ひや!」

口がおかしな形をしているせいでしゃべりづらい。悠くんの視線が、深く、暗く、私を突き刺した。
突然、さっきまで気にならなくなったばかりの時計の秒針の音が聞こえ出す。誰かが会議室前の廊下を走り去る音がする。

「…俺な…お前のこと…好きやねん」

えっと声を出す前に、悠くんは空いていた方のもうひとつの手で私の肩を掴み、ぐい、と引き寄せる。私の唇と悠くんの唇が、あと10センチ、5センチ、1センチ。
秒針の音が心臓とリンクする。カチカチカチカチカチ、同じ速さでドキンドキンドキン。悠くんの眉間によったシワがいつもより深い。あと5ミリ。世界の音が一瞬聞こえなくなって、止まったのかと勘違いするほど、シンとした。目をぎゅっとつぶる。深く暗い瞳に飲み込まれそうだったから。

「痛っ!!」

急に感じた痛みに、音が取り戻される。心臓の音、時計の秒針の音、誰かが廊下を小走りに通っていく足音、私の声。
悠くんに鼻を思いっきり噛まれた。意味が分からず狼狽していると、悠くんが「ゴリラ、今日は何月何日か知ってるか」と問いかけた。
その瞬間、ええっまさか!と声をあげる。そうやエイプリルフールじゃボケ、とデコピンされる。

「ま、そういうわけでさっきのは冗談や、忘れろや。俺も、すぐ忘れるから」

視線がまた外れる。いつもの私なら、ごりらちゃうわ!とか、乙女の鼻噛むってなんなん!とか、いろいろ、もっと、たくさん言えたけれど。
けれど。

「いやーそれにしても間近で見てもお前ぶっさいくやなー」

肩を掴む手が、一瞬、私の首を掴むのかと思った。でも、予想とは違い、悠くんの手は私の肩に向かった。
その、私の肩を持つ手が震えていた。好きやねん、と絞り出した声が揺れていた。深く暗い視線で私を捉えたとき、眉間によったシワが一層深くなった。
それで、すべてを理解する。ああ、それ以上でも以下でもないのは、私だけだったのかもしれないと。でも、私は気づいてはいけないのだとも思った。この関係は、彼を壊してしまわないために、私を壊してしまわないために、私たちの創りだす音を壊してしまわないために、何年も何年も、それ以上も以下でもない時を重ねなければいけない。
私は本当はずいぶん前から気づいていたのだろうか。あの夢で叫ぶ、気づいてくれという貴方の声が今更届く。まるで星の光のように、何年も何十年も何億光年も、過ぎてから。
もう貴方の届かなかった声は、すでに輝きを失っているのだろう。それ以上でも以下でもないままでいようと決意してしまったのだろう。
ぶっきらぼうに「すぐ忘れるから」と言った言葉の裏に、「一生忘れないよ」と優しい声が聞こえた気がした。
一生君を好きになったことを、忘れないよ。そう言われた気がした。きっと、そう言ったら、悠くんはまた眉間にシワを寄せて「勘違いブス!」と指をさすのだろうけれど。



時計の秒針の音、ブラインドをいじる癖、いつも通りの毒舌。
普段通りの貴方の声色、長い前髪で見えづらい貴方の目、交わらない視線。

だったら、私もそれ以上でも以下でもないままでいるために、このことを忘れない。でも思い出さない。
またいつも通りに戻るために、私もいつも通りに振舞おうと決意した。
うっさいな、もう、と絞り出した声は、震えてしまったけれど。

後書き

多分そろそろこれでこのシリーズ終わりだと思いたい。でもなんかこの二人がお気に入りで書いちゃう。
エイプリルフール当日に書き込む予定でしたが、パソコンつけるの忘れて一週間経ってました。
そんで見直して気になるとこ変えてたらこんな時間になりました、つらいです。

明日も仕事だよ!6時起きだよ!こんにちは!社畜ヒロイン、みつるいろクローバーZです!!
歌ほとんど知りませんが最近のトレンドらしいのでノってみました。どうでしょう(どうもこうもない)
一応ね…ほら、私も永遠の18歳という設定でやらせてもらってますからね!

そんなわけで、いつもどおり、厳しい意見も、優しい評価も、どっちもお待ちしておりますのでよろしくお願いします。
特に優しい方。特にお優しい方。あと特に超優しいk(ry
えー、冗談です、いや冗談ってわけでもないですが、参考になる意見としての厳しいお言葉ももちろん受け止める覚悟です。
受け止めれる大きさと速さでお願いします。

この小説について

タイトル 何億光年の星の音
初版 2013年4月8日
改訂 2013年4月8日
小説ID 4482
閲覧数 1303
合計★ 9
佐藤みつるの写真
ぬし
作家名 ★佐藤みつる
作家ID 510
投稿数 36
★の数 195
活動度 4935
だらだら社会人やってます。
本(漫画・小説)の量が半端なさすぎて本棚がぎちぎちになってます。

コメント (2)

★丘 圭介 2013年4月9日 23時07分24秒
久しぶり?ですかね。せんべいさんや弓射りさんたちが活動していたころに小説を書いていた丘です。

では、感想を。

やはり佐藤みつるさんの心理描写の表現は秀逸だと思いました。前から佐藤みつるさんの作品を読ませていただきましたが、人の心理をうまくかけているなぁと惚れ惚れしてしまいました。

今回の作品はエイプリルフールネタを組み込んでの挑戦でしたが、ボクの大好物の内容で、とても面白かったです。

これからも暇があったら、作品を執筆してほしいなと思います。
★アクアビット 2017年6月26日 5時12分52秒
みんな日記から飛んできました。
みつるさんの文章はあたたかくて、やっぱり好きです。

あと、ここまで削れるって凄いな、と感じました。
必要最小限で、最大の効果発揮……ちょっと、
何いってるか解らない感じだと思いますが。
私はだらだら書いちゃうんで、憧れです。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。