裸のスキモノ - 裸のスキモノ―



 キンタマを切り落とすと権力欲が肥大するっていう噂があったね。ユーモアじゃそっちにまったく敵わないけども、ルウが俺の家に居候するようになって三日目か四日目だったこの日。太陽が地平線にすっかり埋没した秋のいつか。俺は初めて「一五歳の匂い」の話を打ち明けた。

「一五歳の?」

「そう、一五歳にしかなくて、一六歳になると雨が乾くように消えちまう」

「どんな匂いなの?」

「かなり別物だが、バニラと方向性は似ているな。ただもっと甘さ控えめで、香水の一滴を五〇〇㎖のボトルに入れて水で薄めたレベル。どちらかと言えば無臭に近い」

「じゃあどうやって嗅ぎ分けてるの」

「さあ。でも分かるよ。俺だけには」

 ふうん、とルウは自分の膝を撫でながら、ふざけたように俺の口元を一瞥する。

「鼻水たまったら分かんなくなるのかな」

「残念ながら風邪は滅多に引かない」

 俺は顔を近づけ、グロスのないルウの唇を人差し指で持ち上げた。コショウみたいな粒々がガサガサの皮の中に被せられている。

「キスの経験は」

「ない。あ、女の子同士でなら何回か」

「初めてってことだ」

 俺は指を離し、素早く唇を合わせた。ガサガサの焼け野原。それっくらいは予想済み。初めて会った時、こいつは脇毛の処理すら満足にしてやいなかったから。そんなところ興味がないからマイナスにはならない。

「いっ」

 俺が下唇に犬歯を立てると、ルウはわずかに呻いた。捕捉完了。俺の犬歯はやけに鋭利で、少し勢いをつければいかに弾性のある唇でも穴を空けられる。吐息を上唇で受けながら、歯を徐々に、徐々に、肉の奥へと挿入していく。そして、五mmほど入ったところでその進攻を止めた。ゆっくり済ませたいところだが、乾燥肌女の唇が歯に張り付いていて鬱陶しい。

 ジュジュ、ジュジュジュ。動物の鳴き声に似た擬音を立て、緩やかに吸っていく。唾液が徐々に鉄分を含んでくるのが味覚で感じ取れる。飲み込みはしない。僅かな血液が、僅かな唾液と交接し、舌の裏に貯蓄されていく。処女の血は最高級の化粧水というつまり飲んだら毒ってことだ。二、三、四。吸う度にルウは閉じた瞼を更に閉じようとする。黒髪を掴んだ右手に、自然と力が入る。奴は俺の手に触れようと片手を近づけてきたので、シーツを捲りあげて防御した。相当ガキだ。お互いに。

 潮時なのでスッと唇を半分だけ離した。おもむろに歯を引き抜くと、ルウの唇にべとついた血液が糸を引いている。知らずのうちに、コショウみたいだと思っていた粒々がなくなっていた。カビでなくて一安心。

「……さっき」

 丸い瞳が光っている。実はかなりの手練れなのか、白痴なのか。

「その、一五歳の匂い、あなたなら分かるって言ってたけど、どうしてわかるの?」後者か。

「俺が善人だからかな」

 いい加減に答えたつもりだったが、なかなか真実味があるようにも思える。

「良い人は自分で良い人って言わないんじゃないかな」

「そうかもしれない。だけども、少なくとも俺は善人だよ。血を吸う人間に悪人はいない」

「ドラキュラも善人ってこと?」

「ありゃ頭の緩い空想だ。本当に血が吸いたけりゃ、牙にカエシでも付いているさ」

 瞬間、俺は再び唇にキスをした。今度は歯を立てなかった。代わりに口内に残留していた唾液と血液のミックスジュースを溶かすようにねじ込む。どろどろりと。彼女は困惑しつつも鼻息を小刻みに震わせながら喉まで押しこんだ。

「ぐ」

 奇襲成功。「ゴボッ」という下品な音を合図に、血はこの女の喉を逆流。再び俺の口に戻ってきた。

「ひど」

 い、まで言えずに、ルウは三、四回ほど咳きこんだ。

「吸われたきゃ、蚊にでも頼めよ」

 二人分の唾液が血液と混ざって喋りづらさこの上ない。

「だましたの?」

「言葉にしなきゃ嘘じゃない」

 俺はニッと笑い、粘度を増した血と唾液の混合物を、この女の顔面めがけて思いっ切り噴き出した。ところが奇襲は二度通じなかった。ルウは素早く顔を反らし、身代わりにベッド脇にあったスタンドのカバーに直撃した。俺は自分の甘さを思い知らされた。この女は十代だった。いくら成績不良の十代でも学習能力は高い。

「いいカラーリング」

 丸二年使用しているスタンドは電球を入れ替えたように赤い光を放っている。ただの六畳間の部屋が急に淫靡な悪魔の住処に様変わり。残念なのは女王様の御姿。学習した女はスタンドを指でツンツンと突き、余韻に浸りつつ頭をベッドに横たえている。貫録もクソもない。俺は抑えた動きでゆっくりと立ち上がり、ソファに寝そべった。

「拭いとけよ」

「噴いたのはあなたじゃん」

「そんな信頼関係は持てない」

「なぜ?」

「お前とは、もって三〇〇日ってところだろ」

 奴は一瞬は? という顔をしたが、すぐに意味が分かったように吹き出した。

「鼻がよすぎるのも、考えものだね」

「何にも考えてない奴が言えたことか」

 俺はルウから視線を反らし、タヌキ寝入りをした。

「……」

 五分経っただろうか。音沙汰がない。

「……」

「どうした」

 振り返ってみた。どうしたってどうもない。スースー寝てやがる。大した度胸だ。というよりか俺が見くびられているのだろうが。そうは言ってもご期待に沿おう。俺はベッドからタオルケットだけ引ったくり、部屋の隅に落ちていた雑巾を放り投げた。朝起きたら洗剤を買ってこさせる。

 この何でもない出来事が唯一、ルウに表した小さな忠告だった。「お前個人には興味がない」なんて頭の良いチンパンジーでも口に出せる言葉さえ出し惜しみする、文学気取りの無学モノが自分。ちなみにこの日以後、血を吸おうなんてしたことはない。考え直したんだよ、病気持ちだったら困るって。







 空っぽな人間は特段探さずとも道端を歩けば湧いて出る。そいつらに関して言うことは何もない。俺もその空洞人間の一人だろうし、個人主義がはびこる気狂いの現代ではむしろ保護すべき奴らだ。奴らは無意識に理解している。「みんな違ってみんないい」が嘘つき詩人の洗脳術ってことを。ひねくれ者だが頭が切れる。ゆえにどうでもいい。

 俺が興味を持つのは大抵、空っぽなふりをしている道化たちだ。そいつらの特徴は一目で分かる。何一つ着飾っちゃいない。交差点で巨大な穴が移動しているように見えたらきっとそいつらだ。腕にブレスレットもリストカットも施す必要がない、そういう女。女と言ってしまったがそれは俺が女にしか興味ないだけの話で男にもいる。こちらもひねくれ者だが考える必要がない。ゆえに憎まれ屋。

 ルウもそんな連中の一人だった。齢は一五で髪は肩まで―俺の鼻は高性能だ―そして、一五歳の匂いについて唯一話した女。例に漏れず憎まれ屋で、学校にはほとんど行ってなかったそう。あいつ自身その自覚があるほど頭が良くはないので、不登校と決まれば根なし草のごとく無為な放浪。年齢不相応に大人びた飲み屋にいたことが幸か不幸か、一週間前に俺の鼻が「分別」したというわけ。

 奏という、名前に似合わず嘘つきを絵に描いたような筋肉女は俺にこう言った。

「オスの生存競争に負けただけだろうに」

 まったく不正解とは言えない。一六九cm・四九kg。これが俺の基本データ。一七〇cm未満の男はオスとして不合格。トレンドにならないぶん余計に骨の髄にまで染みついている鉄則。今だって一八〇近い奏に見下ろされている。この国は戦闘力が性欲に変換されている変態ばかりだから、テロップ通りロリコンに走る奴がおおよそ過半数。嘘だと思うなら今まで幼女誘拐で捕まった奴らの身長を調べてみるといい。犯罪人類学を嘘だと決めつけた外国の老人たちだってきっとチビばかりさ。ただし奏みたいな不細工は身長以前の問題なので対象から外すように。

「おっしゃる通り俺は負けているよ。」

 俺は素直に認めた。反駁すれば同レベルに堕してしまう。奏はよく呼ばれるクラブの常連客だが、説教されるほどの仲じゃない。黄ばみきったエルオーブイイーは小便と一緒に流してくれ。

「だけどもさ奏、あいつを連れている理由は他にもある。正直者が良く知っている言葉」

「あんたはすぐ正直だとか嘘だとかの話をするね。私が嘘つきだとでも言いたげに」

「その通り、あんたは嘘つきだよ。腕の筋肉が白状してくれている」

「人が言われて一番嫌な言葉だって、あんたのことだから分かっているんだろうね」

「じゃなきゃ言わないね。推奨はしないよ。一回言うともう止まらない」

「あ、そう。へえ」

 奏は怒るよりも少し呆れたように視線を右隅に反らした。不細工にしては長い襟足が汗を吸収し、首筋に抱きつくようにへばり付いている。おまけに俺の位置はこの女より風下。タバコの狭い店では奴の臭いを自分に移さないように避けるだけでも精一杯だ。

 この日はルウと初めて出会った、思い出横丁の飲み屋に来ていた。もちろん彼女も一緒。基本はフリーター、良くいえばしがないイチDJでしかない自分だが、あいつの承認欲求を満たすには十分な肩書だったらしい。無知の知カーストじゃ最上級かもしれない。

「で、その正直者の言葉って何さ」

「楽しいから、ただそれだけ」

「ヤったんだろ」

「すぐセックスの話に向かうんだね。あんたの頭蓋骨には遺伝子が詰まってんのかい」

「そんじゃ、まったくしてないって? いや私が信頼されてないわけ」

 奏はやや肩を落とし、便所に向かおうと体勢を半身にした。

「嘘は言わないさ。ほうら俺は痩せているだろう? それにサラリとしてしまったらおもしろくない。体質柄、一五歳の女ならいくらでも拾えるからね」

「なんだよ、大したことないじゃないか」

 奏はせせら笑った。今の一言で俺の何かに勝ったらしい。そうなんだ負けてしまったアッハッハと両手を広げてからかってやりたくなったが押しとどめた。この女の噛みつきはルウへの嫉妬と捉えて差支えないだろう。あいつと距離を離した隙にトイレで出会い頭ぼそぼそとのたまうんだからとんだ拍子抜けだ。このせせら笑いを浮かべるために今までどれだけの涙ぐましい研鑽を積んできたことか。だが残念、君はブスだった。

「そいじゃ話は簡単だよ」

 昨日も今日もそして明日も不細工な女は、勝者の余裕と共に肩の力を抜いた。

「あんたがやってるのそれな、子どものお遊戯だよ。何をこじらせたかは知らないが、現実を見な。ガキを連れ回す男は将来設計ができてないから人生に未来がないんだよ。調子に乗ってるとあんたの沽券に関わってくる」

「遊びはガキがやるものなんだからそれでいい。何であれ、あんたみたいに針小棒大に人生を語りだす教育者を連れ回すよりか、だいぶマシだよ」

 何か言い足りなそうな奏を尻目に俺はその場を立ち去った。大小問わずヒステリックには自然治癒が最良だと相場が決まっている。まだ二〇代だが更年期に入っているらしい。このペースだと四〇手前に死ぬ。ご愁傷様。

 席に戻ると、ルウが薄いパッケージのDVDを俺の眼前に突き出した。

「ゲイのビデオ」

 躊躇のカケラもない。「そこの人からもらったの」

 指差す方向には頭髪が後頭部にしか残っていない、獅子っ鼻にピアスをつけた男がいた。こちらの視線に気づかず、淡々と包み焼きを頬張っている。ルウが手に持っているパッケージの表面で、映画俳優顔負けのドヤ顔を決めているデブと同一人物。家畜の飼育用DVDか。平和的で大いに結構。

「観るのか」

「帰ったら」

「じゃあ、俺も観る」

「えっ」

 ルウはクスッと笑った。「意外」

「気になるだけだ」

 俺自身、自分の言葉を信じられなかった。俺が観たい理由は何だ。ノンケがゲイの性行為を見る理由はヒヤカシ以外にないと知り合いの同性愛者に言われたことがあるがあいつも高血圧だったから信用ならない。しかし今、それを排斥して俺は俺の言葉が分からなくなっていることは事実。ルウとの会話で初めて優位に立たれたらしい。とは言え、さほど重要じゃない。この高校生、人を支配するにはちょっとばかし数学の授業を休みすぎている。







 俺はほとんど反省したことがないし、すぐに顔に出るので更生したフリをするのも大の苦手だが、ゲイのビデオを飼育用などと揶揄した自分を反省したい。

『八〇時間耐久アナリズム講義・大東亜デブ祭』と題された当DVDは、アル中の治療には最適。一〇〇kg超級の三匹の大豚が、ノンケの状態からアナルファックを体得するに至るまでを描いた壮大なドキュメンタリー。酒の一滴でも含んで観賞したら嘔吐は不可避。ルドヴィコ療法としては満点だ。

 パッケージに男優のクレジットがあったようだが見ていない。一人はルウにDVDを渡した鼻ピアスデブ。こいつは本当の同性愛者らしい。もう一人は一番太って五段腹になっていて、アイドル歌手のような甘い声で喘ぐギャップ萌えデブ。そして大黒顔をした「あーやべえ」以外の言語をほぼ発せないノータリンデブ。ルウ曰く「一人はデブで後もデブ」。なるほど。アブラハムほどデブくさい名前もそうそうない。

 散々言ったが俺だって差別主義者じゃない。鼻ピが「脱糞量が足りない」スタッフに指摘され、糞尿の異臭にまみれた現場でオニギリを二杯食し、もう一度下剤を飲むといったシーンでは、あの家畜鼻ピアスの真面目でストイックな人間性がひしひしと伝わってきて畏敬の念さえ抱いたものだ。「ヒヤカシ以外にない」と言った知り合いの高血圧がどれほど深刻だったかが知れる。俺の知能は人並だ。このDVDにはノーマル用の楽しみ方もある。

『君、仕事しようよ、不真面目だよ』

『先生、勃たない……せんせえっ』

 先生と呼ばれた鼻ピアスデブは、単三の乾電池ほどしかないギャップ萌えデブのペニスに、自分の亀頭から漏れたカウパーを塗りたくり、自らの両胸にはローションをかけてパイズリを始めた。が、三回ほど擦ると立ち上がり、足首まで下ろしていたギャップ萌えデブのステテコを引っ張った。

『全部脱げよなあ、お前靴下も履いてんじゃねえかよなあ、俺見ろ俺を。君さ本当に、今日これ仕事なんだよ、仕事は真面目にやってよねえ、ダメだってそれさあ』

『全……部』ギャップ萌えのウィスパーボイス。

『早く脱いで。脱がんと何もやれんよ!』

『はいっ! はいっ!』

 注意という名の恫喝。普通のアダルトビデオでもよくあるシーン。しかし不快に感じない。権力差のバックグラウンドが体格差の均衡により完全にカモフラージュ。リズムが乱れない。むしろ鼻ピアス先生のプロ意識、美意識の高さだけが前面に映る。あくまで俺の思い込みだが、ゲイは美に対するこだわりが尋常でなく強い。聞いた話だがどこかのゲイ専門雑誌の採用試験では、「美とは何か」という根源的な問いについて記述させるそう。そういう一本芯が通った奴らは無条件に尊敬されるべき。芯が通った奴らは鏡になる。『不真面目だ』という言葉は液晶画面を突き破り、脳天をくすぐってきやがる。祓いものを落とすよう。当然のように、俺の両目は数秒だけルウを見る。両目で見れるかどうかってだけで、既に不真面目さの度合いが知れてくるってもんだ。

『不真面目だよっ、不真面目だよっ』

 そこから三〇分近く、ギャップ萌えのアナル開発に力が注がれた。最終的にフェラチオで射精すると次は挿入シーン。鼻ピアス先生が標的にしたのはノータリンデブだった。奴はアナル開発の間はひたすら鼻ピアスの肛門を舐め続けていたために、ここまで一度も調教を受けていなかったが、鼻ピアスのペニスはみるみるうちに吸いこまれていった。どうやらこの男優は素人ではないらしい。素人・経験者・熟練者がバランスよく揃っている。正にゲイの博物館。

『あーやべえ、きたわきたわ』

 ノータリンは短髪寝グセにスエットという無職スタイルに似合わず、キャンパスライフを謳歌する大学生の口調で喘ぐ。喘ぐというよりしゃべる。こんな脱力感あふれる姿をゲイの奴が観たらペニスが凹んでマンコになるほど萎えるんじゃないかと思ったが、この障害デブはなかなか視聴者を分かっている。徐々に不真面目な腰つきも動きに滑らかさが付いてきているのが素人目にも分かる。成長したか。俺は不覚にも少し感動していた。しかし今目に溜まっている涙は感嘆ゆえではない。純度一〇〇%の苦痛だ。そろそろきつい。ルウが言葉なく画面を凝視しているのも、俺の動きを束縛していた。再生時間、残り一五分。

『真面目ですか、真面目ですか』

『おおう……』

『先生! 俺ぁ真面目ですか! 俺ぁ真面目ですか!』

『イッってねえくせに生意気なんだこの野郎!』

 先生はこれで何度目かの体罰を加え、三〇秒後にイク、と明快な言葉を残し、ノータリンは絶頂に達した。今度は逆に入れ替わり、先生が挿入。残り七分。うおおっ、やべえ、体勢が替わってもノータリンはノータリンとして突き抜けている。ギャップ萌えはというと、裏で戦力外通告を受けたらしく、汁男優に徹し、二人の絡み合いを望郷のごとく見つめながら萎びたペニスをしごいていた。残り一分。早漏らしく、先生は挿入から五分で声なき声を高らかに発して射精した。ペニスを引き抜いた後、肛門にこびりついた精液をチロチロといじっているノータリンに免許皆伝と言わんばかりに手を差し伸べ、映像はフェードアウト。

 黒い液晶画面が最後に映したのは、黒い画面には涙で潤んだ俺と、脳ミソが溶けたような顔をして眺めているルウ。

「ぷるぷるしてる」

 巻き戻しをしながら、ルウは遠慮がちに感想を口にした。

「頭」

 ベッドに腰かけ俺の肩に全力で寄りかかっている。

「どう? 筋肉男がいなくて残念だったね」

「デブも嫌いだ」

 俺は見上げてニタッと笑う小さい女の手からリモコンを奪った。

「どうして」

「筋肉に限らない。肉そのものが嘘の肖像なんだよ。類例は孤独死ババアのゴミ屋敷。面食い女が散らかすピンク。一括して、さびしがり屋の手慰みだ」

 筋肉なんて大嫌いだ。贅肉もしかり。この二つは肥大した自分のオトコな部分とコンプレックスという魔法の薬を調合して発生する。言うなれば妖怪のようなもの。正直に曝け出せない人間はこうして妖怪をオブラート代わりに利用して自分を隠そうとする。ホラーを現実に持ち込むなんざ自律神経異常も甚だしい。

「生まれつきかな、変なトコで頭が固いよね」

「善人だからな」

 巻き戻しを止めようとすると、ルウが再びリモコンを奪い、サーチで逆回しを始めた。俺は脊髄反射で手を画面にかざして視界をふさいでいた。

「どうした」

「これ」

 画面が停止したようだ。指差す方向にはあのノータリンが挿入された肛門。あんまり画面いっぱいに映るのでテレビのフレームが額縁か何かに見える。

「やってみたい」

「生憎だが趣味じゃない」

「本物じゃなくていいよ。こう、アダルトグッズあるよね今は」

 俺は返事をせずに財布から五〇〇〇円札を抜き、彼女の膝元に投げた。

「ドンキ」

 俺は画面もルウの顔も見ずに言った。

「一人で行って来い」

「わかった」

 俺は少々タカをくくっていた。歩いて三分もすれば目的地はファミマに変わるに決まっている。だが予想は外れた。二時間後、ドンキで三番目に高いペニバンを手に上機嫌で帰宅したルウは、玄関先でローションも使わず肛門に挿入した。







 一五歳の匂い。嗅ぎ分けられるようになった理由は不明。何か特別な訓練を積んだわけでも幼少期のトラウマがあったのでもない。明日急に能力を失ったってなんら不思議じゃない。DJ仲間の友達と渋谷で飲んでいた時にたまたま隣にいた集団があんまりに老けていたのだが、絡んでみて「もしかして君等、一五歳じゃない?」と酔った勢いでストレートな一撃をかましてしまった。子供番組のザコ敵みたくうろたえた顔に気づき、近くにいた生真面目店員が年齢確認をとったところ、五人総じて一五歳だったという。もちろん友人たちからは大ヒンシュク。酔いつぶれされた挙句、高架下で留守中のホームレスのダンボールハウスに安置された。

 言うまでもなく最初はガッツポーズモノだった。法律の縛りなんか気にも留めるものか。メニューのない男女関係において、一五歳の女だけをオーダーできるってだけで、人間社会ではオリンピックの選手レベルのVIP待遇じゃないか。性欲が強くなく年上好きな俺でさえそう思わざるをえなかった。ところが現実は甘くない。残念ながら最初に手中に収めた女は学生ノリで肛門を開発した見返りで、傘立てを宝物のごとく抱きしめてうずくまっているような奴だったのだから―。

 あの日、ルウが一人で肛門処女を神様に投げ捨てた日を境に、俺たちは奇妙な遊びをするようになった。
 
 ルウはジャンキーになった。アナルジャンキー。はじめは激痛に耐えかねて肛門が収縮しきり、三日も便秘に悩まされたのでもうやるまいと決心したようだったが、衝撃で計算不能の脳ミソが一周回ってしまったらしい。早くも痛みには慣れつつあるようだ。ちんちくりんのガキでも女なだけはある。俺なら三秒以内にペニバンを包丁で真っ二つにして窓から投げ捨てる。生理にもお構いなし。一見すると何でもないケツ女だが、メンタルは文字通り鉄の女だ。

 とばっちりで、俺は不当な身分に落とされていった。そりゃあそうだ。俄然ノーマルを貫いているために肛門に異物挿入した女なぞに欲情できない。二三歳の男が一五歳のみずみずしき肢体を目の前にして半ば強制的にセックスレスに追い込まれちまって全く平気とはいかない。とはいえ楽しいから良い。最初の異物挿入の時に筋弛緩剤を打たれたように痙攣するルウを見て、俺は初めて単体の生物で面白いと思った。楽しいことはだいたい正義。三回ほど眺めていた頃には、ああ小学生のアサガオ観察ってのはこんなもんだったかなどと変にノスタルジックにもなったものだ。植物としてはアクティブが過ぎるがな。

「ねえこれこれ」

 あいつはうちの箪笥やキッチン、風呂場と、あらゆる場所を物色して目ぼしいアイテムを見つけ、許可も取らずに肛門にインサートする。先週観たあのゲイのDVDも、翌日には真っ二つにして突っ込んじまった。代償は三日間のボラギノール漬け。

「これ入れて。脱ぐから準備お願い」

 その反省からだろうか、俺を呼びだしたのは。こっちとしてはノーギャラどころか経費全額負担。労基法違反だが楽しきゃ問題ない。

「この端っこ」

 生贄に差し出されたのは、随所で錆びた骨がむきだしになっている青のハンガー。俺が今穿いている茶色のパンタロンをかけていたものだ。

 驚きはしない。ルウは所有権の売春女。自分の財布でさえ簡単に人に渡す。代わりに人のモノだろうと何でも使う。出会ってから一週間、あいつは俺が連れ出さない限りうちに入り浸るようになった。掃除不精ゆえにカビ様が模様変えに床をデコレートしているこの部屋にいるメリットは一つしかない。シャンプー・ローション・髪留めに新品のフリル付きスカート。いつどうやったら買えるかなんて知れたこと。鉄は鉄でもクズ鉄の女だ。

「テープか何かでまとめておけ。三本以上は要ると見た。それ以下なら曲がっちまう」

 俺はゴム手袋を探しにキッチンへ向かった。ルウがあまり美人ではないことが功を奏している。もう少し肌が滑らかで白かったならこんな蛮行は許していない。所詮はガキの遊びと割り切れるルウの絶妙な不器量さに乾杯。

「できたよ」

 俺がゴム手袋をはめたと同時に声がした。今日は恐い位にいいリズムだ。戻ってくると、奴はガムテープで巻いたハンガーの束をコマのようにグルグル回していた。

「そんなに入れるのか」

「入らないかな」

 俺がお前の専属肛門研究家だったら分かるんだろうが。面倒な会話を続ける気力はないので、ルウの手からハンガーを奪った。

「ローション、どこにやった」

「バッグのサイドポケットにあるはず。そうだ忘れてた」

「外で使っているのか」

「たまにね。雨の日はいつも持って行ってる。悪いことが起きないように」

「変わったお守りだな」

 俺はバッグを漁りにソファを離れ、ついでにメガネと顳丕茖錚遑紊鮖って戻った。その間ルウは肛門を突き出したまま微動だにしなかった。姿かたちはまるで別物なのに、何故だか健気な働きバチを連想させる。

「現実、か」

 一撫で。一五歳の尻。唇と一緒でガサガサだ。プラス肉付きが足りなすぎる。二次性徴の神様に身捨てられたのか、男子中学生の身ぐるみを剥いだようで妙にバツが悪い。皮かむりのサオが一本や二本生えてたってなんら不思議じゃない。

「胸はE寄りのDだって言ってなかったか」

 このアンバランス感、まるで土偶だ。ため息をつきながらも、俺はやや後ろにのめり、肌荒れのひどいその物体を顔の近くにまで持ち上げた。

 これだ。女の裸には笑いが詰まっている。お気に入りのギャグは尻を持ち上げれば一目瞭然。二つの穴が身体の線と平行に並んでいる点。いかに容姿端麗な女であろうと、この穴と穴、点と点が結ぶ一本線の整然さには叶わない。逆を言えば、どんなブサイクでも皆この一本線だけは綺麗に整っているってこと。奇形児かどうかはこの一本線の乱れを確認すれば判別できるのかもしれない。そのうち、肛門とマンコが七つに分裂して北斗七星の形になった女が生まれてこないだろうか。

「初めてじゃないのに」

「もう少しこの時間を充実させたくてね」

 ルウの肛門は乳首よりも色が鮮やかで綺麗だった。中トロを濃くした感じ。無数の筋がガサガサの唇よりも唇的。こいつの身体は肛門の劣化バージョンなんだろうか、毛が薄いあたりも好感度が高い。尻が毛深い女と乳繰り合いなんて、獣姦そのものだ。

「もっと上げろ。開けない」

「うん」

 素直に従った。俺は口で呼吸するよう努めつつ、顔の前まで浮き上がった尻の奥に顔を近づけた。屁をぶっ放してくる前に観察をやめねば。

 毛は奥までは生えておらず、赤黒い洞窟が広がっている。色と裏腹のほのかな異臭が、口で呼吸しても感覚で分かる。汗の臭いや腋臭のような類はオスのようでありメスのようでもある。尻も男みたいだったが、肛門も性別不詳だ。思い返したくはないが、ルウの肛門はゲイビデオで見た豚どものアスホールとそんなに変わらない。皺が少なめで鮮度が高いってだけ。老化の仕方がミカンの皮かにそっくりだ。肛門に前世があるとしたらあれだな。こういう時に限って妙な分析力が発揮される。

「大事にしろよ」

「お尻、のこと?」

「エステに行くなら顔より先に肛門のケアをしてもらえ」

「褒められちゃった」

 こっちを向いて笑ったようだったが尻が視界を遮って見えない。侮辱されたと思わないあたりの性格が、居候させてやってもいいと思える所以。俺は奥まで手際良くローションを塗り込めた。突起が三箇所あるが、挿すのは両端のどちらかと決まっている。フックを入れて取れなくなった場合、病院に金出すのは誰だろうって考えれば。

「入れるぞ」

 セックスでもしているかのような、無駄に優しさを誇張した声音。俺は片手で肛門を開かせ、もう一方の手でハンガーの束を構えた。微かに光るローションが涙のよう。人類は歴史を積むごとに表面的には美しくなっていくのに、肛門だけは一万年以上も形を変えずに現存している。称えられるべき伝統工芸じゃないか。

 イッ。いつもの呻き。痛いのか、気持ちいいのか。女がセックスの時に喘ぐのは脊髄反射にすぎないと聞いたことがあるからこれも同種である可能性は高い。そうでなくても知ったことじゃない。共同正犯だろうと責任を負う気はないね。

「ううふっ、ううふっ」

 当然、ハンガーは三角形型だから徐々に刺激は増す。合図はまだ来ない。ああそうだ、洗剤が切れていた気がしなくもない。終わったら買ってこさせる。

「いいいっ」

 少しピストンさせながら顔を覗き込むと、ソファに半分埋もれながら紅潮し、血を吸ってやった時よりも強力に瞼を閉じて呻いている。決して美人ではなかったがこうなるとなかなかのブスだ。しかし不快なブスじゃない。醜い方が美しいのかもしれない。個人の感覚の問題だけどもさ。

「やめ、やめ」

 ペチペチと俺の手を叩いている。それだけでは足りないな。
「やめ、め、め、め……めり、ありがと」

 よし。俺は突起で傷をつけないよう、慎重にハンガーの束を引き抜いた。「ううう、あああ、ううう」事を済ませてからは二分ほどソファの下でうずくまる。気持ちいいのか痛いのか。分からないが両方同じようなものだからそれ以上のジャンル分けは暇人のやることだ。俺は暇人ではない。一旦ゴム手袋を外し、リセッシュを取って戻った。洗浄作業が残っている。

「どこやった」

 ルウのいる場所へ戻ると、ハンガーの束が消失していた。

「知らない」

「あんなもの放置しておけない」

「あれ、服、しまうところなかったっけ」

 俺はルウの額を掴み、尋問の態勢を整えた。

「おい、隠すつもりか」

「隠してないよ、言わないだけ」

 なかなかの食わせ者だ。クズと言ってしまえばそれまでなので褒めの方向に考えておく。こいつに白状させるのは難しい。目には目をと事は運ばないのなら閑話休題。俺は手を離した。厚顔無恥には公明正大だ。

「今度はお前の私物でも突っ込むか」

 ゴム手袋を外した折、ふと思い立った。俺の提案は初だと思う。この際だ。楽しむことは、正直者にとって唯一の正義。

「なんか、あるかな」

 ルウはソファから跳ね起き、前転しながら玄関にある自分のバッグを片手にUターン、ダッシュでソファーに首から突っ込んだ。いつもこの調子だ。終わった後は半ばトリップ状態になってる。ピロートーク好きの男は三日と持たないだろうな。
突っ込んだはいいが、奴は息を切らしてそのまま動かない。

「運動しないと老化が早い」
結局俺が探してやることとなる。何か紛失しても文句なんか言わせるものか。だが、その思いが先入観に満ちたものだと気付くのに三秒とかからなかった。無くすものなんてありゃしない。この肛門女、四〇cm弱の小さなバッグの中にペンケースと財布しか入れてない。手頃、棒状、財布は期待できまい。ペンケースを漁ることにした。

「これはどうだ」

 プリキュアのボールペン三本を見せると、彼女は首を激しく横に振った。

「かわいいのはイヤ。うんと気持ち悪いの、臭いのを」
 そういうことか。俺はルウの鎖骨に鼻を当て、二度嗅いで囁いた。

「お前の匂いは消えないぞ。寝ても覚めても、一六になるまで一五歳だ」

「だけどもさ、あんたの理屈っぽい口を閉じさせたら、あたしの勝ちよね」

 タカをくくったように微笑む。ナメてるとは思えない。むしろ敬意を払われた結果、こういう顔に至ったのだろう。図抜けて本能的な女だ。こちらこそ、だ。突き抜けた奴には敬意を払ってやる。

「いいだろう。何が欲しい?」

「えっと、筆箱」

「それじゃあ張り合いがない」

「じゃあバッグ。原宿の何とかって店でいいの見つけたの。下地がブラックで、赤いスペードのマークでびっしりな」

「ハンドメイドはゴミが多い」

「いいよ」

 俺が買うんだからそうだろうな。 

「分かった。代わりに、お前が負けたらクソ付きハンガーを出してもらうぞ」

「信用ないのねえ」

 奴はそれ以上反駁しなかった。重ねて尋問にかける気もない。俺は物色作業を再開した。一応、財布も確かめてみる。革製で、なかなか立派な長財布。中は千円札が三枚。そうか、これは規定違反だ。私物じゃないんだから。何か出ないかとバッグを逆さにしたが、残りは綿ゴミと布クズ。

「あ、でも何もないっぽい」ルウの間抜けた声。先に言え。

「おっしゃる通りだ。ちょっと待ってろ。その辺に雑巾あるからケツ拭いとけ」

 俺は部屋着のままで奴を放置して外に出た。一〇分後、戻って来た時には奴は浅く眠っていた。額に寝汗がうっすらと浮かんで前髪が張り付いている。

「これならどうだ」

 俺は目覚ましがてらその頭に下投げでビニール袋を放り当てた。重力に負けて床に落ちたのは、すぐ近くの青果店で買ったゴボウ。肛門が舌鼓を打つところを見るのも面白い。
 奴は薄目を開けて床に転がる灰色の棒を一瞥すると「それでいいかな」と曖昧に答えた。
どっちつかずならこちらの裁量に任せてもらう。

「じゃあ今からトイレだ」

「ここでするよ」

「トイレの方がお好みで臭くなれる」

「じゃあ、水分入れなくちゃ」

 奴は軽やかな足取りで冷蔵庫に向かい、二ℓのペットボトルにたっぷり入った綾鷹を直接口につけて飲みだした。お茶の買い直しまで経費になるとはね。呆れたが今日は些細な不祥事をかき消せる高揚感がある。

「テーブルに置いとけ」

 律儀に冷蔵庫へしまおうとするルウの手を止め、おざなりにトイレを指差した。奴が大股走りで個室へ駆け込むと、俺はペットボトルの残り半分を全て台所に押しだした。一瞬、どこからともなく殺意が湧いた。憎んだのでも妬んだのでもなく。殺したいって感情はとても平和的だ。ボトルを放置し、俺はトイレへ向かう。

「いざ挿れるとなると何となくソレに見えてくるよね」

 さっきと微塵も変化のない姿でウミガメのように便座にへばりつく、尻丸出しの一五歳。

「ほとんどの物体は長さがあって穴が空いているよ。ゴボウだってペニスだしペニスもゴボウだ」

 我ながら高校生レベルの下ネタを吐いたと思ったが、一五歳の女は納得したように人差し指を口端に当てて頷いた。

「ゴボウって穴空いてるっけ」

「あるよ。目に見えないぐらい小さい穴が。俺らと一緒。アナボコだ」

「私アナボコ嫌い。ここからなかなか出ない理由の一つもそれ」

「汗のことか」

「そ。だからハゲるの怖い。これ以上穴だらけになったらおかしくなる」

「心配ない」

 俺は一種の緊張感をもって、ゴボウの先端にローションを塗りたくっていた。そうだ心配ない。特別な情熱もないデカダン気取りの寿命は短い。お前もハゲる前に死んでいるさ。

「やっぱりあなたは不思議」
躁のスイッチが切れたのか、声のトーンがガクッと落ちた。

「キスもしないの」

「分かりやすいタイミングでして欲しいなら、ちょっとばかし人間らしい仕草をしたらどうだ」

「じゃあ、少しはかわいいと思ってるんだ」

「正反対。美しくはある。かわいいは作れるものだが、美しいは作れない」

「かわいいと美しいが反対語?」

「対義語っていうのは辞書上の表面的なものじゃない。互いに憎み合うものなんだよ。大きいは小さいを憎むし、小さいは大きいを憎む。クロはシロを、シロはクロを。かわいいは美しいを。それで最近じゃ、美しいの側もかわいいを憎むようになった。美しいが憎むイキサツは、俺には理解できないがね」

 ふーん。山のごとく体勢を崩さずに、便座の奥に顔を擦りつけている。首をひねる仕草をしているようだ。

「てことはさ、あたし化粧下手ってこと」

「そうだな、でもお前は美しいかもしれないから、どっちでもいい。風呂にも入らなくていい。脇毛ボーボーで化粧道具なんか全部肛門に入れろ」

「ひっど」

 プススススッと笑う。

「早い。受けるのはこれからだ」

 ガチッ。俺はドアを閉めて、ゴボウの先端で赤い肛門を二、三度突いた。ルウはストックのトイレットペーパーを両足の支えにして腰を上げ、両手で肛門を開いた。また経費がかさんだか。

 ブジュ、ブジュジュ。棒状なだけあって、ゴボウはハンガーより生々しい音を立て、滑らかに入っていく。この実の中に何億もの命の欠片が眠っていると思うと、なるほど俺の言うとおりゴボウとペニスにそうそう違いはないような気がしてきた。玉袋なんて邪魔で無駄に神経過敏なブツを持ってないだけ、植物の方が楽な構造。楽だからこそ、こんな風に使われてしまう。どんなものでも肛門に入れてしまえば貶めることができる。何万年後かの生物がみんなルウみたいな奴になっていたらどうだろう。平和ってのは案外そういうものじゃないか。

 ルウが呼吸を震わせ、尻をもぞもぞと動かし、腕をカブトムシのように便器に這わせた。ピストンするとウッ、ウッと喘ぐ。最初はBPM一一〇程度だったが、一八〇ぐらいにまで早めると比例して喘ぎも早くなる。頭は悪いが立派なメトロノームにはなれるな。自分の顔が自然と綻びているのを感じる。五分ほど続けて、俺は手を止めた。

「もう一本入るな」

 俺は肛門を軸にして、勢いをつけて真っ二つに折った。パン。いいいっ。ルウが連動して呻きを発する。

「痛い」

「すぐに引くさ」

 俺は折った片割れのゴボウの先端を肛門に向けた。ところが、異変に気づいた。さっきまでもう一本分は確実に空いていた肛門が収縮し、不自然な遅さで痙攣している。せっかく折ったのに無意味だ。ルウの顔を見ると、眉を上下左右ランダムに動かしながら唇を噛み、白い壁の上方に視線をやっている。苦痛。違う、困惑だ。

「出そうなのか」

「うん」

 股の奥をよく見ると、性器が音を立てずに細かく震えている。股間に脈があるのでない限り、アレだ。

「無理に開くよりさっさとぶっ放した方がいい」
俺は片割れのゴボウを手放して、挿している方をルウに支えさせた。ドアを開けてしゃがんだまま後退し、避難完了。

「いいの?」

「後にする予定だったが仕方ない。小便を済ませたらもう一本入れるぞ。好きなだけ塗ったくってもいいが肛門は避けろ。唾液と違ってローションの効力が消えてしまう」

「オッケー」

 ルウは神妙な表情で腰を上げ、後ろ向きのままで性器を便器の底へ定めた。撥ねる。絶対に。俺がもう一歩下がる意志を固めると、察知したのか、こっちに振り向いてきた。

「近く来て。当たらないようにするから」

 やや膝を曲げる。この高さなら顔面をションベンの水玉模様に彩らずに済みそうだ。何より、棄権と判断される気は毛頭ない。あぐらを掻いたまま徐々に、徐々に、俺は前進した。「もっと」「もうちょっとこっち」と、ルウの細かな指示。年上の傀儡は女にとって普遍の喜びの一つといえる。俺はまだ二三歳だから、反抗期のガキには少し若すぎるかもしれない。

「もういいか」

「顔、前に……そうそう」

 二分ほどかけてようやく、ルウは満足に至ったようだ。俺はあぐらを解き、正座で首が前のめりというおかしな体勢でストップをかけられた。そう腹筋が強くもないので、俺は五秒後にはもう便座の端に片手をついて支えていた。掌とプラスチックが触れる僅かな音を合図に、ルウの性器から尿が漏れだした。少しづつ勢いが増していったが、腹筋の力が入らないので水鉄砲とはいかないようだ。その性器に指が伸びていく。少し赤らんだ指先を見て、やはり一五歳なのだと再認識した。俺は右足の爪先を立てる。回避のためだ。こいつが全身に塗ったくる際に、もししくじって飛び散った場合の。

 と突然、蛇口をひねるようにして水勢が止まった。視線が滴る液体から、へと自然移る。塗りたくるために接近していたはずの指は一本ずつ性器に触れていき、残滓を掬って陰毛を浸すに留まった。もう一度性器へ。陰毛へ。俺を招くように指を動かしていく。ピチャリ。指は次第に糸を引き、尿と混ざった液体がだらしなく便座に垂れる。

 瞬間。ジリッ、と股間に何度も覚えのある感覚が走った。まさか。俺は下を見やった。ルウの余った左手の指先がズボン越しに俺のペニスの裏筋を撫でている。いや、それよりも、ペニスの感覚への違和感。トランクスの中の窮屈感。勃起している。しかも、完全にフルで。奴が股間を撫でてきたのは反則技ではない。気付いていたのだ。俺が一五歳のヒトモドキに勃起させられていることを確認させ、投了を促していたのだった。もちろん論理的思考力が白痴レベルのルウに、そこまでの読みはなかったはずだ。

「あたしの勝ち」

 一文字ごとにハッキリと発音。そして、再び残りの尿を放出し始めた。まったく。二次性徴以外は順調に発達しやがる。こいつが空っぽ人間だったら負け惜しみを考える間を作りたいが、こんな負け方では弁解なんてできやしない。

「ルールブックを作るべきだったか」

「罰金でも取るおつもり?」

 いや、と俺は言葉を濁した。そもそも奇襲は俺が始めたことだ。頭が悪い奴ほど猿真似は優秀だったってだけ。

「不良品でも返品はなしだぞ」

「オッケー。店の場所、明日案内するね」

 全てを片付けて風呂に入った後、俺は初めてルウとセックスをした。処女ではなかった。キスの経験がないはずないがどっちでもいい、事後処理を考えたら大助かり。真っ裸になるのは頑なに嫌がっていたが俺は全て剥ぎ取った。射精と同時にゲロの衣をかぶって結果オーライ。なかなか美味そうな天プラだった。誰のゲロかって、ずっとウンコ臭い空間に居させられた上に、男みたいにゴツゴツなあいつの尻からあのゲイビデオを連想しちまった、俺のだよ。

この小説について

タイトル 裸のスキモノ―
初版 2013年10月26日
改訂 2013年10月26日
小説ID 4544
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