心の乱れとは - 心の乱れとは〜第22乱〜


今日は平和だった。
どのくらい平和だったかというと、平和魔王が降臨して世界が尋常なく平和に陥れられてしまうくらい平和だった。
今日も坂をごろんごろん転げ上がって家路に着く。
部屋に入って2秒きっかりに留守番電話をチェックする。
1件。
再生ボタンを押す。
『お寿司の右側って最後の砦みたいだよね』
プッ。つー、つー、つー。
やはり彼女からだった。
……寿司の右側?砦?
一体、何が言いたいのだろう。
とりあえず、僕は寿司が好きだ。I like Sushi. I need Sushi. I am Sushi.
だから多少は寿司について造詣が深いと自負している。
しかし彼女のいうように寿司に対して砦的な印象を受けたこともないし、そもそも寿司の右と左の区別がつかず、彼女に比べて僕の観察力、感受性が劣っていると認めざるを得ない。
しかしよく考えてみれば左右の区別というの相対基準と絶対基準とが存在すると思われる。
自分からみてどうか、という主観に基準をおくものが相対基準、そして物それ自体に左右があらかじめ決められている時に適用される絶対基準。
僕は寿司に対し、相対基準しか適用してこなかった。寿司をみた瞬間に「これは相対基準でみるべきだ」と直感してしまったのだ。そこでよく推敲を重ねずにここまで生きてきてしまったのが間違いだったのか。
実は寿司も絶対基準でみるべき対象だったことに彼女は気付いていたのだ。
そういえば、その寿司の右側というのにも一つ疑問がある。寿司の右側面を指すのか、寿司のある位置より右の空間を指すのかという事だ。
だがこれは簡単だ。寿司の位置より――説を採用してしまうとどこまで右と規定するかが曖昧であり、つまるところ寿司の右側全ての空間を指すことにもなりかねない。ところが地球は球体であるため、ずーっと右側を伝っていくといずれ地球を一周して左側にたどり着いてしまうのがオチだ。故に右の空間説ではない可能性が高い。
となると、必然的に寿司の右側面説を採らねばならなくなる。
が――。
砦というのがどうもわからない。
寿司の形が砦っぽいという意味だろうか。いや、”最後の”と限定しているから特定の砦を指しているのは明白だ。彼女がみてきた砦の中でも一番最後に見た、もしくはなんらかの関係をもったものであったのだろう。または実際には最後にみたワケではないが”最後”という単語を想起させるにふさわしい、単なる防衛拠点とは思えないものものしさ、兵士達の必死さを感じさせるような砦を指しているのかもしれない。
シャリのみっしり感、ネタの存在感、この二つが最も感じられるのが右側面の観察ということなのか。
そうなると、寿司そのものがかなり上質であることも条件に含めるべきだろう。
いや、もしかすると寿司は本当に砦なのかもしれない。むしろ最後となった砦が寿司に偽装して敵に攻撃を受けないようにという計略なのかもしれない。だが唯一の誤算は寿司は攻撃されないが食べられてしまうということだ。そうは考えられないか。
つまり寿司屋の板前は防衛隊長でそれに気付いた彼女は寿司をよく観察し右側からみた時にその寿司が砦であったという何らかの確証を得た。そして食べた。
彼女の観察力があればそのくらいはたやすいように思える。
そして彼女は防衛隊長のことに気付きながらもはっきりとあの寿司が砦であったとは言わず寿司一般が砦であるかのような言い回しをすることによって防衛隊長へのこころばかりの気遣いをも見せつつ僕に対してはある種の重大情報を伝えてくれたのではないかと思える。砦が寿司に偽装するという一事を知っていれば次に砦が何に偽装をしていたとしても気づける可能性が高くなるのは確実だ。
ただ、彼女がみた砦が最後だったのだからこの先僕が偽装した砦に出会うこと自体が皆無だというのがいささか残念であると言わざるを得ない。
……。
しかし実際のところ、彼女は何を僕に伝えたかったのか。僕が考えた答えが1%でも彼女の意をくめていたらと思う。


とにかく今日も平和だった。
きっと明日も平和だろう。



後書き

はずれ

この小説について

タイトル 心の乱れとは〜第22乱〜
初版 2004年3月12日
改訂 2004年3月12日
小説ID 457
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ビビンバ吉田の写真
作家名 ★ビビンバ吉田
作家ID 3
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