御影石幻明の日常生活 - 御影石幻明の日常生活〜花火で上々〜

 
PM2:00、幻明宅――
 
暑い。
それは夏だから。
8月も終わろうとしてるくせにまだまださんさんと照りつける太陽がまぶしい季節だから(鬼残暑)。
温帯のくせして亜熱帯と詐称しても誰も気付かないぐらいの気候だから。
1時〜4時はとっても暑い時間帯だから。
そして俺の部屋にはクーラーがないから。
さらに扇風機の羽を手で回しているから(故障中)。
だから俺は少しでも涼しくなろうとアイデアを出す。
「よぅし、夏だから、怪談!」
「……僕ら二人だけで?しかもこの真っ昼間に」
うちわが見つからないため俺が扇風機の羽を回しながらできるだけ明るく努めてやってるのに、やる気ないのがはっきり見てとれる、俺の親友。
「おうよ!」
「……一人でやって」
「……」
「……」
「…こ、こうなったら自分で話して自分で怖がってやる」←ふてくされてる
「……僕は自分で話して自分で怖がろうとしてる幻明が一番怖いと思う」
「じゃあ俺は自分で話して自分で怖がろうとしてる俺を怖がればいいんだな?」
「先にクギさしておくけど、永久循環するよ、それ」
まだ循環しはじめる前につっこまれた。
さすがにテンションが下がる。
「…お前はとことん先読みして面白みを削り取る奴だな」
「ブレーキ役だから、僕」
「夏にブレーキはいらない!」
「またよくわからないことを…」
「いらないったらいらないんだよ」
「でも二人で怪談はつまらなすぎると思うんだけど」
「じゃあ一人二役!」
「不採用」
「俺にどうしろと。他のアイデアを出せばいいのか」
「そう」
あっさりと言って床に寝っ転がる。
俺もいい加減手が疲れてきたので扇風機を回すのをやめて寝っ転がった。
床が熱をもってホカホカなのが腹立つ。
ああ、他にあるアイデアといえば……、
「京都あたりでししおどしのある料亭にて美しい女性の舞を見て、かこーんかこーんと涼しげな音と華麗な舞のハーモニー。ああ涼しい涼しい。クールクール。ひゃはははは」
暑くて自分で何言ってんだかわかんなくなってきた…。
脳味噌の言語コンバーターが不具合を起こしてるらしい。
「幻明、なんでもっとプールに行くとかアイス食べるとか、現実的なことを考えないんだよ〜」
良も暑くてしゃべるのも面倒なのか、はっきりしない発音で文句言ってくる。現実が『げんりふ』に聞こえた。
「……」
「………」
ごろんと寝返りをうつ。
元寝転がっていたあたりを手で触ると案の定カーペットが汗で濡れている。気分が悪い。
「なぁ、市の花火大会って今日だっけか?」
ふと、花火大会のことを思い出した。
市の広報に載っていた日付は今日だったはずだ。
「多分。でも『今日だっけ?』って幻明、この前嵯峨君達に誘われたとか言ってたろ?」
「ああ、京介な?断った」
「なんで」
嵯峨京介、というのは我がクラスの委員長で将来の夢が錬金術師というちょっと危険な奴だ。
そんな危ない奴と気が合ってしまうのが悲しいが、今回は諸事情により断った。
で、その断った理由というのは、
「あのなぁ…あの化学マニアと花火なんか行ったら花火が爆発するときの反応がどーたらこーたら言われてテンション下がるんだよ。一般人が花火見たら、ああ趣があって良いものだとだけ思ってりゃいいんだ」
「……あ、なるほど。つまり幻明は小夜子ちゃんと行きたいってことか」
「おお、そうだなぁ。確かに小夜ちゃんだったら面白いコメント聞けそうな気がするな」
「いや、僕はそういう意味で言ったんじゃ…」
「ほう、じゃあどういう意味か…」
〜てれれれれろ〜てれれれれろ〜(着信音)
言いかけたところに携帯が鳴った。
「ん?誰だ、俺に電話かけてくる暇な奴は。勉強しろ、勉強。もしくは朝練
「何故朝練に限定?」
良を無視し、机に置いてあった携帯の画面を見ると、
『天葉若菜』
と出ている。
天葉から電話がくることは多分初めてだ。
「はい。こちらNATOカツ丼研究部」←とりあえずデタラメ
『…幻明君だよね?』
やや間があっておそるおそる聞いてきた。声も間違いなく天葉だ。
「そりゃそうだろ。NATOでカツ丼は研究してない」
『それはわかるけど、幻明君じゃなくてそれ以上におかしな人につながってたらどうしようと思って』
「俺がおかしな人の比較原級みたいな言い方だな…」
『え、あはは、気にしない気にしない♪ところでね、今日は暇?』
「ああ、暇だな。ついでに良も暇だ」
良は自分の携帯でお手玉をしていた(暇すぎ)が、名前を呼ばれてこっちを向いた。
『良君も?丁度よかった。じゃあさ、7時ぐらいまでにあたしの家に来れる?』
「天葉の家か。行ってもいいが、暇なのか?」
『今日は花火大会でしょ。4人で花火を見るのはどうかと思って。今、小夜子とようかんつくってるからそれ食べながら見ようよ』
「んー、まあ、暇だしな…」
俺はいったん電話から顔を離す。
「良、天葉が今日のよき日に貴様を花火のように粉々に粉砕してようかんの具にしてやるって言ってるけどどうする?」
電話から『言ってないって』という天葉の声と多分小夜ちゃんであろう笑い声がきこえた。来てるとは言ったが、どうやらすぐ隣で聞いているらしい。
「はいはい、デタラメはわかったから。何にしろ行くけど後でちゃんと説明して」
「聞こえたか?良も行くってよ。天葉に粉々にされるのが楽しみだと」
良はそれを聞いて、はぁ…とため息をつく。
『いや…あたしは良君にそんな酷い事はできないよ…』
天葉がわざと泣きそうな声で言った。
そしてワンテンポ置いて、
『そういうことは全部小夜子に任せる』『「任せるな」』
俺がつっこんだと思ったら電話の向こうからもつっこんでいた。無論、小夜ちゃんだ。
『そんな二人でつっこまなくても……。全くもう、二人とも気が合ってるねぇ、やだやだ♪』
無視。
「……ともかく行けばいいんだな。何か必要なものあれば買っていくけど」
『それは平気。あ、そういえばあたしの家どこかわかるの?』
「ふ、天葉については住所や誕生日、身長体重はおろか、普段の食生活や下着の色も全て把握済みよ」
良が横でまたくだらないことを……と呆れている。
「あ、冗談、本当は住所も誕生日も身長体重も普段の食生活もわからないです」
『…下着の色は?』
「明日の予想ができるくらい!」
『さよなら、幻明君。ついでに良君も』
「だから冗談だって。本当に住所わからないから……どうすればいい?」
というかついでにされた良は一体?
『じゃあ駅まで迎えに行くから。そこまで来てくれれば』
「そうか、天葉の家は隣の駅のすぐそばって言ってたよな」
『うん。それじゃ、また後で』
「あい、良を伴って参る」
『はーい、そんじゃねー』
がちゃ。つーつーつー……。
…………。
……。
「で、幻明、何がどうしたって?」
携帯を置き、壁によりかかっている良の肩をがしっと掴む。
「行くぞ良」
「だから説明は」
あくまで良は説明を聞くまで立つ気もないらしい。
「ようかん花火を食べてみる」
「やっぱりよくわかんないけど、今行くの?」
「いや、7時頃に来いと言われたからまだだ。何やら小夜ちゃん達がつくったようかんを食いつつ花火を見るらしい」
「へぇ、いいね。ようかん」
「そしてお前は粉々に」
「それはいいから」
良もやっと立ち上がった。
「暑いのは暑いけど、あの二人、特に天葉はやたらと明るいくせになんとなく涼しげな雰囲気を持ってるな」
「んー、いるだけで涼しくなる気はする。幻明よりは間違いなく」
「俺なんかと比較すんなよ……」
まだ時間があるので俺はまた床に寝っ転がった。
 

 
下車と同時に電話をし、改札で待つこと10分。
俺達はやっと日が落ちたばかりの午後7時の暑さにやられて息も絶え絶えになっていた。(大袈裟)
「良、お前の服に冷却装置ついてたりしないか?」
「残念だけど、しない」
「そうか……ああ…っつい…」
流石に花火の日ということもあって、人の往来はかなり多い。
中には浴衣を着てる人もいる。
通り過ぎていく中に見知った顔がないか見渡す。
「あ、来た」
俺が見つける前に良が言った。
良と同じ方に目をやると、確かにこちらに歩いてくる中に見知った顔がいた。
一人は割と背も高く、右手からぱらぱらと粉チーズを出している少女天葉、もう一人は結構小柄で左肘から抗菌スプレーをあちこちに散布している少女小夜子。
というのはウソだが、俺達が歩き出すと二人も気付いたようだった。
「あ、いた。二人とも久しぶりだ〜」
「久しぶり。あー、御影石君も良君も実寸大ー」
天葉はともかく、小夜ちゃんの実寸大というのがなんだかわからない。
10分の1スケールの俺達に会ったことがあるのだろうか。
「二人とも久しぶり。今日はすごい暑いねぇ」
「久しぶり…、しかし暑い…暑くて頭がイカレそうなんだ、俺は」
「んー、ほんと、暑いよねぇ。ここにいると干からびるから早く行こうか」
俺と良は二人と並んで歩き始めた。
「……そーいや学校以外で会ったのって初めてじゃなかったか?」
良は何年も前からイヤという程会っているが、多分この二人は私服を見ることも初めてだ。
「あ、そうだね」
「だよなぁ。で、どうして俺らが突然呼ばれたんだ?」
「サイコロふって3が出たら幻明君達を呼ぼうってなって、一発で3が出たから〜♪」
天葉がにこにこしながら言う。
どうやら俺達は6分の1の確率にあたって呼ばれただけらしい。
「そんじゃ他の目が出たら俺ら呼ばれなかったってことか?」
「ううん、その点は大丈夫」
小夜ちゃんが何故か自信ありげに言った。
「そのサイコロ全部3だから」
「何かサイコロとして間違ってないか?」
それでボードゲームをやったりしたらとてつもなくつまらないこと請け合いだろう。
「若菜さん、何故そんな不可解なモノを……」
「いやぁ、ちょっとしたウケ狙いに」
「御影石君達も呼ぼうかって迷ってたら、若菜ちゃんが『じゃあこれで3が出たら呼ぶ』って。ふったら3が出たけど、よく見たら全部3」
「なるほど、そうやって使うワケか…」
まだ確実に30度を超えているだろう暑さも、なんやかんや話しながら歩いていたらそう苦にならなかった。
 

 
「ああ、これこれ。これがあたしの家でございまーす」
俺達の一歩前に出てこっちを振り返り、右手をあげてガイドさんっぽく言った。
「なんだ、何の変哲もない2階建てだなー」
天葉の家だから実はものすごい豪邸とか、合体変形できるとか、そういう家かと思っていたが、ごく普通の一軒家だった。
「幻明君、何か不服そうだな…」
む、そうか…見た目が何の変哲もないということは、パッと見ただけではわからない何かがあるに違いない。
俺は家の二階のあたりをビッと指さして言った。
「天葉、この家はズバリ書道五段だろう」
「あたしの家が普通なのがそんなに気にくわない?」
横で聞いている良と小夜ちゃんは声をあげて笑っている。
「そうだよ、若菜さんだってせめて居住空間ぐらい普通でいたいもんねぇ」
「良君?その『せめて』の真意は?」
「あ…いや、若菜さんが普通じゃないという意味を込めて言ったワケではなく…その…」
「幻明君、良君、両名のようかんはさながらコンクリートのよう。というかコンクリートそのもの」
「「無機物?!」」
天葉は俺らの言を無視し、すたすたと歩いて玄関に入った。
ついで良は『ごめん、若菜さーん』とわざとらしい情けな声を出して玄関に入っていく。
「コンクリートもイヤだが、普通の家なのか…つまらん」
「そうでもないよ」
「へ?」
小夜ちゃんの言葉にぎくっとした。
「冗談だよな」
「あはは、冗談冗談」
「良かった。いやぁ、迎撃ミサイル搭載とか、本気で謎を秘めた家なのかと思った…」
俺はホッとして家に上がった。
 
 
 
「はぁー、涼しいじゃないか!まさしくイン ザ エアーコンディショナーだな」
「御影石君達迎えに行くまでこの部屋にいたからね」
家に上がり、すぐ右側の部屋に通された。
床はフローリングで、台所とつながっている。ダイニングってやつのようだ。
廊下のあたりは吹き抜けになってるし、いかにも天葉家という感じがする。
「えーっと、そんじゃその辺に掛けて」
天葉が部屋の中央にあるテーブルを指さす。
俺は良の右側に座る。小夜ちゃんは俺の左はす向かいに座った。
「突然だけど、良君はようかんの作り方知ってる?」
「僕だって和菓子好きだからね。そのくらいはわかる」
「じゃあ幻明君は?」
「はっはっは、わかるに決まってるだろ」
三人は疑いの視線を向けてくる。
が、俺だってようかんの作り方ぐらいわかっている。
「じゃあ言ってみて」
「ようかんの実を細かく砕いて黒鉛と一緒に煮込み、次回のオリンピックが始まる頃に火からおろして固めるテンプル入れればできあがりだ」
「……そんなふざけた作り方が料理の本に載ってたらその出版社つぶれるわよ」
「というか編集長がようかんの名誉毀損で捕まりそうだね…」
天葉、小夜ちゃんは俺のデタラメを真にうけたらしい。
「ああ、本気にするな…。寒天溶かしてあずきをゆでてうらごししたやつと一緒に煮込んで冷やして固めて終了だろ。そのぐらいわかってるっつーの」
ほんとに作り方を知らないみたく思われてしまったので仕方なく言い直した。
「なんだ、つまんないの」
「うん。知ってると思わなかったからねぇ」
「そこの二人、すげぇ腹立つな」
「まーまー幻明、落ち着いて」
そう言う良が、妙にカンにさわった。
「…………」
ぎりっ。←腕つねった
「幻明、痛いんだけど」
「俺を諫めたときのヘラヘラした表情が二人への憎悪をお前への憎悪に転換させてくれたんだ。これで俺は女をひっぱたくようなヤな奴にならずに済んだ。ありがとよ」
無理矢理、笑顔で言ってやった。
「ああ…それは予想外にどういたしまして」
良はむすっとして答えたが、すぐ天葉の方に向き直って言う。
「それで若菜さん、これから行くの?」
「行くよ、もちろん」
「俺もさっきの駅の様子みて思ったが、今からじゃ人いっぱいなんじゃねぇの?」
「あー、わざわざ会場まで行ったりしないから安心して」
「そうそう、若菜ちゃん、さっきも平気だって言ってたけど、どこ?」
天葉はふふん、と鼻で笑って真上を指さした。
「上」
「まさか空中庭園があるのか?」
「だからあたしの家は普通だって言ってんでしょ。うちには古代文明の技術力なんかないの!屋根で見ようって言ってんの!」
「あ、屋根の上ね。それとも軒下に吊されて?」
吊すって……。
「はぁ、もうアホ言ってないでついてきて……」
「その前にようかん切り分けないと」
「ん、ああ、忘れるとこだった。ぱっぱと切り分けるからそこで待ってて」
 
 
 
 
全員屋根に上がって安定したところに座る。
そして空なんかを見上げるより先に思った。
「屋根がまだ熱いんだけどよ…」
「うーん、昼ものすごい日射しだったからまだ熱もってるんだなぁ」
「あー…これじゃまた汗だくになりそうだ」

「だね……」
二階に上がってベランダに出、そこから屋根へと登った。パンパンと手をたたけば黒子(?)が梯子を降ろしてくれるかと期待したが、手をたたいても何も起こらなかった。(しかし俺もしつこいな)
「うん、確かに熱いよ?だけど、屋根が熱いからこその大きなメリットがある!」
天葉がそういってまずようかんの皿を置き、小夜ちゃんの肩をがしっとつかんだ。
「え?何?」
ややうろたえ気味の小夜ちゃんをそのまま寝かせる。
そしてワンテンポおいて楽しそうにこう言った。

「焼き小夜子ー♪」
「どこがどうメリット?」
「え、小夜子がミディアムレアに」
「するな」
「へっへっへ、何をおっしゃいます。ちょっとレアぐらいが一番おいしいんですよ?お客さん」
「…天葉って夜になるとネジがはずれるタイプなんだな」
アホなこと言ってるのは天葉だけかと思いきや、小夜ちゃんも仰向けに寝たまま、
「うわ〜、焼かれて背中に網目がつく〜」
どうやら網焼きのつもりらしい。
そこで良がすかさず(慣れてる)ツッコミに入った。
「小夜子ちゃん、屋根じゃ網目はつかないって」
「じゃあ屋根目」
「こっちもダメか」
この二人はやはり惹かれるべくして惹かれた名コンビのようだ。
「…しかし最近、小夜子ちゃんが若菜さんのおもちゃと化してるなぁ…」
「確かに。なぁ小夜ちゃん、いいのかそれで」
「でも、おもちゃは使われてこそだし」
「いやそうじゃなくて、おもちゃと化してることに疑問持とうよ、小夜子ちゃん…」
 
 
座っている順は俺から向かって、右から俺、小夜ちゃん、天葉、良と並んでいる。
周りにはそんなに高い建物はないので確かにこれならよく見えそうだと思った。
空を見上げると月もこうこうと光を放ち、かなり明るい。
ただ、暑い。
「花火が見える方向って、あっちか?」
俺が正面のあたりを指さすと、丁度そのあたりから、花火が上がった。
始まったらしい。
一発目の特大スターマインは中心からパッと広がり、赤から青に変わって消えた。
ぱぱ〜ん
{color#FF0000}ぱ{color#FF3300}ら{color#FF6600}ぱ {color#FF6666}ら{color#FF66CC}ぱ{color#CC33FF}ら{color="#6600FF}〜{color#3333FF}…{color#0000CC}…
音が少しあとからついてくる。
「へぇ、ここからかなり近いんだなー」
良が言う。
また花火が、今度は6発連続で色鮮やかに広がり、あっという間に消えた。
「……ね」
天葉がなんか言ってるが花火の音でよく聞こえない。
「…………」
ひるるるる〜
ぱぱぱーん
ぱらぱらぱら〜
「……くん」
「んー?」
よく聞き取れないが小夜ちゃんに名前を呼ばれたような気がして返事をする。
「残念、私はイカケリシ君って言ったのでした。自分の名前を間違えちゃダメだよ?」
「……なんじゃそりゃ」
「ひっかけ」
「ほう……なら次の奴は聞き取ってやる」
「ふふん」
小夜ちゃんはできるかな?とでも言いたげに鼻で笑った。
よくわからない対決が始まった。
「……」
とは言っても花火を見なければ意味がないので当然目は花火の方へやったままだ。
次のが来た。黄色から緑へと変わっていく、シンプルで一番見応えのあるやつだった。
ひょろろろ〜
すぱぱぱ〜〜ん
音もかなり大きい。
「………………くん」
口元は見ず、言葉だけを聞き取る。
小夜ちゃんもこっちを見てはいないようだ。
「さて私は何と呼んだでしょうか?」
「なんか明らかに名字より多くしゃべってた気がするんだけどよ」
「さぁ?」
「……」
俺は悩むフリをして次の花火を待った。
ひょろろー
すぱぱぱぱぱーん
「…………し」
「え?聞こえない」
「さて、俺は何と答えたでしょうか?」
「あ、ずるいなぁ。わかんないって」
「残念。正解は『し』しか言ってない、でした」
「あー…。でも私は『ミカケソバメシ』って言ったから引き分け」
「引き分けで充分。だって俺、最初から答えわかってなかったからな」
「うう、答えわかってないのに引き分けにされた私は……」
無理に勝つことはない。負けなければいいと三國志の司馬懿仲達も言っている。
だからこれで充分だ。(謎)
俺は勝手に納得してまた花火に見入った。
 
 
…………。
……。
「花火はさぁ」
「あおう?」
花火に集中してるところを急に呼ばれたので間抜けな返事をしてしまった。
「どうしてきれいなのかねぇ?」
「どうしてって……」
唐突な質問に困っていると天葉が小夜ちゃんの後ろから身を乗り出して言った。花火の青が二人の顔を照らす。良も気付いてこっちにずりずりと寄り、無言のまま俺の後ろへ回った。多分、さっきの位置からだと話がよく聞こえないのだろう。(並びが良、俺、小夜ちゃん、天葉の順になった)
「決まってるでしょ、色が変化していく様がいいんじゃないの?」
「そりゃそうだろうけど……、俺は、その変化が一瞬でパッと広がってすぐ消えるからきれいなんじゃねぇか、と…」「あ、確かに。花火が2分も3分も見えたままだったらきれいに思わないかも」
「花火の一瞬の命に人ははかなさを見いだし、それをまた美しさに重ねあわせている、そういうことなのかもしれぬ…、なんてな」
「御影石君、風流人だね♪」
「そんじゃ私も一瞬だけ姿を現して、すぐに自爆したら『ああ、はかなくもきれいな人だった』って思われるかなぁ?」「自爆テロだと思われるだろ」
「はっ!そうか!」
天葉、夜になるとやはり思考がおかしくなるようだ。
「というか若菜ちゃん、そのためだけに自爆してどうすんの……」
「むしろ自爆した後の姿を見たら気持ち悪くなるしな」
「なんだ、つまんない」
「つまんないって……若菜さん、良く思われるんならやってもいいみたいに聞こえて怖い」
俺の後ろから良が言う。
「かわいく思われるのなら死をもいとわない。それが乙女心だよね、小夜子?」
「かなり違うよ」
「…………」
小夜ちゃんがばっさりと天葉を切った。
「おお、珍しく小夜ちゃんと天葉の意見が割れた」
「いや、僕には若菜さんの意見が間違いすぎてるだけの気がするけど…」
ひるるるる〜
ぱぱぱぱ〜ん
ぱらぱらぱらぱら〜
「…………」
このときばかりは思いっきり否定された天葉へ、花火が無情さを演出してるように思えた。
 
 
 
…………。
……。
「……終わったか」
最後に10連発ぐらいのがあって、それきり花火があがってこない。
「終わったみたいだねぇ」
「あー、終わったと思うと何か一抹の寂しさというのが…」
「ああ、あるね」
「……」
…………。
……。少しの間の沈黙をおいて、
「帰るか、良」
俺から切り出した。
「そうだね、いつまでもご厄介になってても悪いし」
そういうと良は立ち上がり、続いて俺も立ち上がる。
「私も帰ろうかな」「はぁ、皆帰っちゃうのか。よっ、と」
天葉と小夜ちゃんも立ち上がった。
「よし良、ここから飛び降りろ」
「無理」
当然即答された。
「だろうな。俺も無理だ」
「それじゃ四人で地味にベランダに降りようか」
何となく口数も少なく、ベランダに降り、玄関で別れた。
「じゃあな。何故か話題が出なかった気がするがようかんもおいしかったぞ」
「若菜さん、また今度」
「じゃね、若菜ちゃん」
「はい、またね〜」
天葉はひらひらと手をふっていた。
 
  
「小夜ちゃんの家はこっから近いのか?」
「近いよ。10分くらい」
小夜ちゃんは家の前に置いてあった自転車にまたがる。
「こっちの駅の住人だったのか、小夜子ちゃんは」
「そ。じゃあね〜、私は駅と反対方向だから〜」
挨拶をして別れ、俺達は何となく一抹の寂しさを抱えたまま駅の方へと歩き出した。
だが……
「うぇ…人だらけ……」
「そだね」
駅が人でごったがえし、一抹の寂しさなんかイライラでどっかに吹っ飛んでしまった。
「お前、この人を半分に減らせ」
「無理」
「はっはっは。簡単だ、片目をつぶれば」
「うーん、それはあんまり納得できないな〜。12点」
「ちっ」
「あ、幻明、電車来たぞ。走ろう!」
「お、待て!片目じゃコケる!」
「アホやってないで早く!」
そんなこんなで一日が終わったのだった。
あー、楽しかったけど、疲れた。
 
う……そういや明日、また暇だな……。
 
 

後書き

ようかん食べたい。

この小説について

タイトル 御影石幻明の日常生活〜花火で上々〜
初版 2001年9月4日
改訂 2005年7月12日
小説ID 462
閲覧数 1196
合計★ 8
ビビンバ吉田の写真
作家名 ★ビビンバ吉田
作家ID 3
投稿数 148
★の数 1180
活動度 17563

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