Retry - 第一話 リトライ

永遠に続くものがこの世界にあるだろうか。

“普通”の人間が言う、
ずっと友達。

そんなものは次第に連絡が途絶え、
それぞれ違う道を歩むようになり、気がつけば別の友人ができている。

“普通”の人間が言う、
永遠の愛。

それこそ時間が変えていく。
お互いがお互いを必要としていたはずが次第に鬱陶しく思うようになり、
別の新鮮さを求めてしまう。


“普通の人間”

求めてもいない命を授かり、求めてもいない死を迎える。

結局は全て終わりを迎える。
だったら初めから求めなければよいのだ。


そう言い聞かせて自分は生きてきた。

――――そう、このすぐに終わる永遠を手に入れる前までは。



徐々に影が薄くなりつつある商店街という存在。
昔は活気があったらしいこの街の商店街もまた安心できるものでもない。
そんな場所に静かに建つ小さな喫茶店。
自分が働くここ、<リトライ>という店は暇と戦うことが一番の試練だと言っても過言ではない。

暇で、何もなくて、何も起きなくて。

昨日起こったことはきっと夢だったのではないか、とも思えてくる。

《昨日発生したトラック追突事件では…》
壁に貼り付けてあるテレビから流れてくるニュースのアナウンス。

《怪我人は出ておりません》
嘘をつけ、と鼻で笑いそうになる。
いや、言葉としては間違っていないのかもしれない。
出たのは誰も知らない死者。
不幸にもあの場所にいて、不幸にもあの場所に立っていた人間。

トラックに追突され、即死した東田浩樹(とうだ ひろき)という男。


――――――そう、昨日あの場所で俺は死んだんだ。



自宅から電車に乗って二駅、自分の住む場所より栄えた街。
ここらに住む連中は皆何かあるとこの場所へと足を運ぶ。
自分とその友人もまたその中の一部だった。


大きな衝突音と人の叫び声。
すぐ目の前で事故が起き、野次馬が辺りを陣取っていた。
隣に立つ友人、坂上大志(さかがみ たいし)は冷静を失った表情でその現場を眺めている。


大志「ヒロキぃぃいぃぃ!!!」

何をこの男は悲劇を演じているのか、何故隣に立つ自分の名前を叫んでいるのか。

浩樹「なんだよ」
大志「浩樹、お前がトラックに!!」
浩樹「そら大変だな」
大志「いくらお前が頑丈っていってもあれじゃ…」

―――――誰と喋っているつもりなのだろうか。

大志「あれじゃ無事じゃ済ま…お前がそこにいるぅうぅうううう!?」
浩樹「ずっといたっつぅの」
大志「ちょ、ちょっと待て、お前自販機に行くっつってあそこにいたよな?」
浩樹「そうだっけか?」
大志「じゃなきゃ…」

大志は現場をゆっくりと指差す。

大志「あそこで血まみれになって死んでんの誰だよ…?」
浩樹「……あ?」

指差した方向に視線を向けると一度だけ大きな何かが胸を叩いた。
その場所には血まみれになって転げている自分がいた。

自分の視線の先で自分が死んでいる矛盾。
――――それじゃ、この俺は…。
今のこの自分の存在を確認するため重い両手を上げると手のひらの先にある地面が薄っすらと写っている。
手だけじゃない、身体全体が透けている。

明らかにおかしな存在、だが辺りの野次馬は全くこちらを気にしていない。
唯一目の前にいる友人だけがこの存在を目視できているのだ。
試しに近くにいる人間に触れてみようと思ったが想像通りの空振り。

浩樹「大志、俺…」
大志「お前…」
浩樹「幽霊…始めました」
大志「冷やし中華かよ!」


無念、やりのこした未練、悲しい現実。

―――――俺にはそんなものはなかった。

浩樹「すっげぇ、死んだらこうなるのか」
大志「いや、お前腐ってるから天国も地獄も来ないでほしいんじゃねぇか?」
浩樹「つーか何でお前には見えてんのよ」
大志「俺霊感あったっけかな…?」

死人が喋り、死人と喋るおかしな光景。
自分の人生がくだらなさすぎて自分が死んだことに全く動揺しない。
むしろさっさと連れて行ってほしいくらいだ。

その時に現れたのが、人の形をしていることはわかるがそれ以外ははっきりとしない光の塊だった。

『あ〜っと』
全く信じていなかった神様というやつか、はたまた死神か。

『君、間違えて死んじゃったね』
浩樹「…あぁ?」
『本当はこの事故では誰も犠牲にならないはずだったのだけど』

お前は死んでしまったのだ、と。

浩樹「もういい、さっさと連れて行け」
『あ、それ無理、手配できてないのよ』
大志「間違って死んで幽霊になって、しかもあの世でも存在を忘れられている」
浩樹「…」
大志「笑っていいか」
浩樹「俺もアホらしくて笑いてぇ」
『うーん』
大志「つーか何で俺には見えてんのよ」
『あ、それはこっちのミス』
大志「よし浩樹、今のお前なら神を殴れる」
浩樹「まかせろ」


決して現実逃避をしているわけではなく、
自分達はそういう人間で、そういう生き方しか知らないのだ。
簡単に言えば、何が起きても<どうでもいい>で片付けてしまう。

『こちら側は君を受け入れる準備ができていない』
死後の世界には住民届とかが必要だというのだろうか。

『君に試練を与える』
浩樹「魔王でも倒しに行けってか?」
『本当は未練や後悔を残した者に与える試練なのだが…』
大志「あぁ…こいつにそんなもん微塵もないな…」

余計なお世話だが事実、自分なんてとっとと消えてしまえばいいとさえ思っている。
どうせ誰も傷つかず、誰にも気づかれないまま死んでいく身なのだから。
友達もいない、夢もない、希望もない。
他人恐怖症で、ただ一人で生きていることが唯一幸せと感じている。

そんな自分に、天からの使いはこんな試練を残していった。

『誰かを、幸せにしなさい』
なんて、与える人間を間違えているとしか思えない試練を叩きつけてきた。

そう、これが終わりが来るまで終わりのない悪夢の始まりだった。




カウンターに置かれてあるTVのリモコンに手を伸ばし、電源をオフにする。
なかったことになっている現実。
普通なら夢、で片付けるのだろうが、
浩樹「終わりが来るまで終われない、か」
手のひらを眺めながらの独り言。

試してみたのだ。
ハサミを使って自分の手を切りつけてみたら激痛が走り、普通の人間と同じように血が流れ出た。
<普通>はそこで終わり。
しばらく耐えていると傷は塞がり、完全に治癒してしまっていた。

天からの使い曰く、
完全に消滅しない限り、この身体は復活し続けるとのこと。
不死身だが痛みには耐えないといけないらしい。
誰かを幸せにする、それがこの身体に与えられた条件で、それをこなす事ができたのであれば、願い事を一つ叶えてくれるという。
ただ、その条件は例外のない自分だけの特別。

未練ややり残したこと、人生に悔いのないように。
それを叶えさせてあげる為に少しだけ授けられる身体。
しかもそれが完了すればなんでも一つ願い事を叶えてもらえる。


だが、自分には未練もやり残したことも、悔いもない。
もし条件を満たし願い事を叶えられるとしたらどうだ。

生き返る?
――――だから未練などない。

金持ちに生まれ変わる。
金持ち+生まれ変わる、その時点で二つの願い事であり生まれ変わることを願ってもどんな人間で誕生するかはわからない。

誰かの幸せを願う。
――――吐き気がする。





浩樹「まぁ今まで通り生活して時が来れば勝手に消えるだろ」
きっとこの身に置かれてある立場でここまで落ち着いていられるのは恐らく自分だけだろう。

そしてこの現実が夢ではないとはっきり言える事実はもう一つある。


大志「よう死人!」
本日の初めての来客、遠慮と同情を知らない男が勢いよく店の扉を開け放つ。
そうこの男は知っている、昨日の出来事や今の自分の存在を。

浩樹「いらっしゃいませ、お帰りください」
大志「歓迎してるのかしてないのかどっちだ」
大学生であるこの男は暇があればこの店にやってくる。
否、授業をサボりにくると言ったほうが正解か。

「やぁヒロ君、元気?」
大志の後ろから顔を覗かせる女性。
髪は茶色のショートロング、背は150の中くらいだろうか。
10人中10人間違いなく可愛いと言うほどの顔立ち。

浩樹「・・・どうも」
「相変わらず暇そーだねぇ」
江田夏美(えだなつみ)
本当に納得がいかないが、この女性は大志の彼女である。

浩樹「えぇ・・・まぁ・・・はい」
夏美「ヒロ君も相変わらずだねぇ」
大志「友達いねぇし、彼女いねぇし、人付き合い知らねぇしな!」
浩樹「テメーは遠慮を知らねぇしな」

人付き合いのうまい大志とは違い、自分は彼の言うとおり<付き合い>というものを苦手とする。
苦手―――、興味がないとも言える。
まともな付き合いは大志だけで、その他の友人はいない。
そして人とコミュニケーションを取るのが苦手、簡単に言えば他人恐怖症。

他人と馴れ合うのが嫌なだけなんだ。

大志「浩樹は他人恐怖症だからな」
夏美「もう、それいつになったら治るのよー」
浩樹「病気みたいに言わんで下さい」

こうしていつものように友人が来て、その友人が彼女を連れてくる。
これもまたいつも通りの日常。

しかし本日は少しだけ違っていた。

「こんにちは」

そのまた後ろから顔を覗かせるもう一人の女性。
身長は160くらいだろうか、ストレートの黒髪ロングヘアー、夏美に引けを取らないほどの美女。
遊んでそうなイメージはなく、清楚な雰囲気がにじみ出ている。

浩樹「大志」
大志「なんだ」
浩樹「俺は修羅場の仲介などせんぞ」
大志「バカ言え」

遥「鈴野 遥(すずのはるか)です」
浩樹「……はぁ」

たまたま遊びに来るのに友達を連れてきた、そんなとこだろうか。
おそらく大志と夏美の大学の友人。
他人と会話が苦手だとわかっているのにどういうつもりなのだろうか。
さっさと席に座らせて注文を聞き裏へ下がった方がよさそうだ。

遥「あなたにお願いがあるの」
浩樹「…はい?」
遥「私の彼氏役になってほしい」

今、自分はとんでもなく呆気に取られた表情をしているだろう。
彼女の呟いた台詞にどこからツッコめばいいか戸惑ってしまう。

大志「ハルちゃん、話をぶっ飛ばしすぎだ」
遥「え?」
夏美「はぁ、しょうがないなー」

大志の彼女である夏美は結論から話し出した遥に代わって事情を説明する。

鈴野遥、彼らの通う大学で行われたミスコンテストで三本の指に入る存在。
美女の集まる大学と言われるほどの学校の中でもトップに入るとなれば、どんな男でも黙ってはいないのは当然のこと。

あの鈴野遥はフリーだ、と。

毎日、毎日。
学校に行くのにも嫌気がさすほどの数。

夏美「だいたいここまで話せば理解できたでしょ?」
浩樹「はい、お断りします」
大志「さすが、言うと思ったね」
浩樹「他に頼ってください、俺じゃなくても頼めそうな奴くらいいるでしょ」
夏美「いないよ、だって」
大志「お前童貞だから」
夏美「他に頼めば絶対にその男がハルを好きになるから」
浩樹「さらっとあなたの彼氏ひどいこと言ってますからね」

それはそうだ。
恋人役をして、それがきっかけで恋が始まる。
それなんていう少女マンガ?って話。
だけど、何故よりにもよって自分なんだ、という疑問が大きかった。

大志「お前、友情って信じるか?」
浩樹「何それ、お菓子?」
大志「愛って信じるか?」
浩樹「燃えるゴミなら明日だぞ?」
大志「人類、皆?」
浩樹「滅びればいいのに…」
夏美「……」
遥「……」

――――おかしいな、自分なりのジョークだったのだが。

大志「お前なら絶対にそんな事にはならない、そう思ったんだ」
浩樹「勝手に抜擢するな」
夏美「文句なしの美女で金持ち、これは誰でも狙うでしょ」
大志「そう、お前は恋愛に全く興味がなく、バカでクズで童貞だからさ」
浩樹「後半全く関係ねぇからな」

遥「お願い協力して、お礼ならするから!」
女性にここまで頭を下げられたのは生まれて初めてではないだろうか。
本当に今の生活が嫌で、必死変えようとしている眼。

視線を大志に向けると、「諦めろ」といった表情をしている。
この男のしつこさも知っている。
今断ったところで明日また来るにちがいない。

浩樹「……わかりましたよ」
遥「本当っ?」
浩樹「この二人から聞いてるとは思いますが、俺は他人との交流が苦手です」
大志「そして童貞で…ぶふぁっ!」
夏美「アンタ黙ってろ」

他人ならまだしも、大志の彼女である夏美にすら未だ敬語。
直すつもりもなければ心を開くつもりもない。
―――否、開き方がわからない。
言葉のキャッチボール?
こっちはグローブすら持つ気がないのだ。

浩樹「だから、満足のいく結果にならないかもしれませんよ」
遥「大丈夫っ」

合意してもらったことに心底嬉しそうな表情を浮かべている。

彼氏役、大学が終わったら学校まで迎えに行って一緒に帰る、それを周りに見せ付ける。
そんなとこだろうか。
いや、それだけでも自分にとっては相当ハードルが高い。

大志「よし、それじゃチケットだ」
浩樹「おう、んでこれは何のチケットだ」
大志「1週間後、俺達がよく一緒にいるメンバーと遊園地に行く」
夏美「そこで彼氏役をアピールよ」

浩樹「ハードルたけぇえええええええええええ!!」

遊園地、知らぬ人との交流、馴れ合い、恋人。
先にそれを言ってほしかった。

浩樹「ちょ、ちょっと待て、さすがにこれは…」
大志「どう恋人を演じるかとかそういった段取りは二人にまかせるわ」
浩樹「おお、お、お前、俺という人間を知っているだろ」
夏美「今日は大志とちょっと行くとこあるから後は二人で話し合ってね」
浩樹「え、江田さん、あ、ああの、僕、コンビニの店員ですら苦手で…」
大志「ま、頑張れよ死人」
夏美「死人?」
大志「いや、こっちの話だ」

遥「うん、二人ともありがとう!」

なんて言って普通に帰らすこの女。
閉まった扉の向こうであの二人が大笑いしているのが想像できる。
特に大志。
自分がすでに死んでいることをわかっていて楽しんでいやがる。

遥「ごめんね、無理言って」
浩樹「いえ…」
初対面で、しかも二人きりで死にたい気分全開だった。

―――あ、俺死んでた。

遥「1週間あるし、ゆっくり私たちの関係を作っていこ」
浩樹「は、はぁ…」
遥「改めて、鈴野遥です、よろしくね」
浩樹「東田浩樹です、よろしくおねがいします…」
遥「ふふ、これは思ったより大変そう」

どんな美人な芸能人でも呆気に取られてしまうほどの美しい笑顔。
自分は他人恐怖症だが、女性が嫌いというわけではない。
この彼女の笑みは、自分が第一歩を踏み出した喜びを表したものなのだろうか。

1週間、それを過ぎれば終わるんだと言い聞かせて自分で自分の背中を押した。







家族、恋人、友人。
さまざまな関係を持つ人たちが集まる場所、彼らもまたその中の一部だ。
彼らの住む街から電車で少し離れた場所にある遊園地。
すでに開場してから30分経っているが、一同は中へ入ろうとしない。

大志「ったく、あいつら何やってんだ…」
「まぁいいじゃん、のんびり待とうぜ」
夏美「もうちょっとで着くってハル言ってたし、そろそろ来ると思うよ」
「ハルちゃんの彼氏、初見だなっ」
「楽しみだね〜」

一同が待っているのは他でもない。

遥「ごめーん!」
夏美「二人ともおっそい!」
大志、夏美、そして見知らぬ男が二人、女が一人。
言っていた大学でよくいるメンバー。

遥「だって浩樹がぎりぎりまで寝てたんだもん!」
そう言って背中を軽めに叩いてくる。

浩樹「おい遥、その件はもう何度も謝ったろっ」
遥「ホント迎えに行って正解だったよ」
浩樹「へいへい、次からは気をつけるよ」

呆れた顔で、でも本当に怒っているわけではない表情の遥とその彼氏。

「初めまして!」
その言葉が一度に三つもこちらに飛んでくる。
一同、人付き合いに慣れているのだろう、初対面でなかなかここまでの笑顔はできない。

浩樹「……」
一度大きく深呼吸する。
大きく、そしてバレない程度の短い深呼吸。


浩樹「東田浩樹です、ってまぁ遥から聞いているとは思うけど」
大志「……」
浩樹「皆、よろしくな」
「なにー?遥の彼氏すっごい爽やかじゃないっ」
遥「そ〜ぉ?」
「まーいいや、挨拶等は中でしようぜ」

各自持っていたチケットを取り出して受付へ。

遥「あ、はい浩樹のチケット」
浩樹「お、サンキュー、俺が持ってたら絶対忘れてきてたわ」
遥「だから私が預かってたのよ」
夏美「……」

そう言って遥からチケットを受け取る。
一同、先へ進みだす中、後方で佇んでいる一組のカップルがいた。
自分はその二人に振り返って言う、

浩樹「大志、なっちゃん、何やってんだ、さっさと行こうぜ」

そう、誰もが疑いもしない最高の笑顔で。


夏美「…ねぇ」
大志「あ、あぁ」
夏美「誰、あれ…?」
大志「……知らん」
夏美「私の事なっちゃんって呼んだよ…」
大志「おかしいな…誘う奴間違えたのか?」

二人にあれからの一週間何があったのか。
まるで演技ではないかのような二人。
そして180度別人の友人。
大志と夏美にはもうすでにこの時点で、不安は疑問へと変わっていた。


だってこの一日の目的は、
計画したこの二人ですらも錯覚させるほどの演技、これが自分と遥の狙いなのだから。

この小説について

タイトル 第一話 リトライ
初版 2015年7月20日
改訂 2018年9月6日
小説ID 4695
閲覧数 654
合計★ 0
HIROの写真
ぬし
作家名 ★HIRO
作家ID 199
投稿数 36
★の数 52
活動度 4305

コメント (1)

JIANBIN0105 コメントのみ 2018年1月5日 11時13分14秒
(このコメントは作者によって削除されました)
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