狂ったボクの怪奇譚 - ボクの日常における、ただ一つの変わらない平凡な毎日の記録

 ボクの一日の始まりは、目覚ましが鳴った時ではなく、またカーテンの隙間から入ってくる陽の光でもない。

何かがボクの身体に乗っている、そんな寝苦しい重さを感じた瞬間、それがボクにとって、一日が始まる瞬間であった。

目を覚ませば、まず始めにボクの視界に入ってくるのは、誰とも知らない人の顔。
今日は若い女の人だった、昨日は年老いた男の人で、その前は5歳くらいの幼い子供。
時折、人なのか動物なのか分からない程、グチャグチャに混ざり合ったモノがあったりする。
服装も年代もバラバラだが、皆共通していることは、
ボクの鼻先に付いてしまうのではという位に顔を近づけ、その血走ったと言うには余りに赤々しい両の眼を、強制的に見せつけてくる事だった。

些か生暖かすぎる吐息がかかり、ボクはまた顔をしかめた。ただ今日乗っている女の人は、
吐息からミントの清々しい香りを漂わせている。
前はかなり酒臭い吐息をさせたおっさんだったから、ボクはすんなり目を覚ますことが出来て、この女の人がエチケットを弁えている方でよかったと、
ボクは内心でフゥと息を吐いた。

うん、どうやら今日も良い一日を送れそうだ。

ボクは気だるさを一切感じることなく、すんなりベッドから起きあがり、そのままカーテンを開いた。
起きあがる途中に、女の人に右手を掴まれたが、それよりも陽の光をしっかり浴びることの方が大事なので、ボクはそのまま掴まれた状態のまま、
左手でカーテンを豪快に開ける。

本日は快晴です、そう言わんばかりに雲一つ無い青空が、ボクの眼に飛び込んできて、思わず目が眩んでしまった。
急いで視界をはっきりさせようと、眼を擦り意識的に瞬きを数回繰り返す。するとボクはあることに気が付いた。

「あれ、今日は全然ないな。どうしてだろう」

いつもならカーテンを開けても光が全く入らない位に、赤い手形がびっしりと付いているのだが、
今日はなぜだか窓の下枠に、おまけといった感じで2,3個赤ちゃんサイズの物が付いているだけ。

何かあったのだろうか、風邪かな?でもそんなわけないしなぁ。

不思議に思いながらも、頭を掻きながら、そのまま洗面所へと足を動かす。
勿論、ボクを掴んだ女の人も一緒に向かう形となった。

ボクとしては、このままシャワーを浴びて、意識を完全に覚醒させたい所なのだが、本日は女の人が同行しているため、
唐変木と言われているボクでもちょっとだけ抵抗があった。一応ボクにも恥じらいはある。女の人が凝視している中で、
積極的に素っ裸になる性癖は持ち合わせていない。生憎今日のシャワーは断念すべきだろう。

そんな事を考えながら洗面所に向かっていると、急に締め付けられていたはずの手首が軽くなった。
あれ、と思い女の人をみると、既にそこに姿はなく、右手首に痣が残されているだけ。

・・・・・・どうやら気を遣ってくれたらしい。本当に今日は、良い一日になりそうで、ボクは少しだけテンションが上がった。
ともすれば、さっさとシャワーを浴びてしまおう。

ボクは直ぐに寝間着を脱ぎ捨て、生まれたままの姿へと変わった。
洗面台に映る鏡にはボクの身体と幼い男の子が映つるのみ。
最近鍛えているからなのか、腹筋が良い感じに割れ始めてきている。

そんな事を考え、ちょっとばかし身体に力を入れてポーズを取ってみたが、
すぐに頭を振って身体を崩す。ボクはナルシストではないし、なにより隣にいる男の子が指をくわえて、
何をしているのだろうこの人、みたいな純粋な眼を向けて来るのが、何より恥ずかしかった。
もう変なポーズなんて取ったりしない。
そう心に決めて、そのままお湯に変わっていないシャワーを頭から被った。

シャワーを終えて、身嗜みを整えつつ、歯を磨く。途中鏡の中にもう一人女の子が追加されていたが、
まぁ子供だし裸を見られていても良いか、と考えそのまま気にすることなく身支度を整えていく。

朝食は軽く済ませ、一杯のコーヒーと共に頂く。一人暮らしだから自炊をするべきなのだが、肝心な塩が買った瞬間にドス黒く濁ってしまうため、
未だに自炊が出来ずにいる。うーん節約のために料理をしたいのだけど、どうにか出来ないだろうか。
最近生活も苦しいし、ちょっと考えなければならないかもしれない。

もそもそと買ってきた焼きそばパンを食べながら、今日のニュースを観ようとテレビを点けた。

どうでも良いのだが、何故どんなチャンネルにしても最初に鬱蒼とした森の映像が映るのだろうか。
どこかの樹海みたいだが、それ以外に木に吊された人がユラユラと揺れているだけで、そのまま何もなく映像が続いていく。
大して面白くもなく、どうにも飽きが入って来ているため、そのまま注視することなく、
ボクはチャンネルを変え、いつも観ているニュース番組に変えた。

コーヒーを飲み終え、少しだけ食休みを挟み、玄関に掛かった鏡で最後の身嗜みを整える。髭は生えないから、寝癖が直っているか、
服装におかしな所はないか、顔や身体に変な跡が出来ていないかを確認していく。

映るのはいつものボクと、幼い男女に、知らない女の人。この子供達の親なのだろう。こちらを警戒するような目つきでボクを睨みつけている。
生憎ボクはロリコンでもないし、ましてやショタコンでもない。よって、その女の人の警戒心は筋違いなので、そのままボクは玄関を後にした。

玄関を閉めるとき、中に二〇名ほど人の姿が見えたが、それもいつものことなので、ボクはそのまま鍵を閉め、遅刻しないように足早に学校へと向かっていった。

今日も一日、何事もない日でありますように。
そう少しだけ願うのは、ボクにとっての願掛けみたいなものである。





 学校への道中、色々知り合いや隣人、ガードレールに佇んだ黒い影にいつもの挨拶を交わして、ボクは学校に到着した。
友人との挨拶はそこそこに、自分の下駄箱に張り付く人の手をスルーして、在籍するクラスの自分の席へ着く。

そのまま時が過ぎていく事に身を流して、授業を受けつつ、時折空を見上げる。
本当に今日は綺麗な青空が広がっている。天気予報を見ると、今日は一日ずっとこの天気が続くそうだ。それなら、帰ってから、ふとんを干すのも良いのかもしれない。それで帰りにはちょっと奮発して外食でもしようか。でもその前に一限目の数学で宿題が出たから早めに片づけないと。

そうやってボケッと考えていると、昼休みが終わった五限目の終わり、ボクが眺めていた二階の景色に、勢いよく男の人が上から振ってきた。
落ちた瞬間に、下から柔らかい何かが弾けた音が響く。音の印象としては、熟れきったトマトが潰れたような、そんな液体音が大きく鳴り響く。

それも一度きりではない。

何回も何十回も、繰り返し男の人は下へと落ちていった。まるで繰り返し時を戻しているかのような、同じ位置で同じ格好のまま振ってくる。

勿論、それで何かが変わるわけでもない。
他の皆は気にすることなく、無視というには余りに自然に、ただ先生の話に耳を傾けるだけ。ノートに文字を書き込む音と、チョークの音、
そして先生の野太い話し声だけが、教室内で鳴っているだけ。ボクと同じように窓の景色を眺めている人もいるが、それでも結果は変わらない。

当然だ、だってボクだけが見えているのだから。例えこれが毎日この時間に起きていることだとしても、ボクが何かを言わない限り、
皆が反応することなど、ありはしない。

ふと落ちていく男の人と目線が合った。無表情にも関わらず、目は飛び出さんばかりに見開かれている。何か言いたいことがあるのかと思ったが、
良く考えればボクにはどうすることも出来ないので、一応会釈だけして、皆と同じように、ボクも意識を先生に向けなおした。

それでも横目で黒い影が落ちているのが分かったから、
また今日もこのこんな感じで男の人は落ち続けるのだなぁ、とただ頭の中で結論付けて、そのまま授業に集中する。でも毎度少しだけ不憫に思うので、
とりあえず、まぁ、ご苦労様ですとだけ思っておいた。別に、他意は無い。

そんないつもと変わらない学校での日々が終わり、別段先生からの呼び出しもなく、ボクはそのまま放課後を迎えた。
部活とかには入っていないボクだから、そのまま部活へ向かう友人達と挨拶を交わし、ボクは学校を後にする。

まだ冬の名残で風が少し冷たい。例え四月となっていても、北国の春はまだ遠い。
日が落ちるのも早く、まだ四時前に関わらず、外は既に夕暮れ時となっていた。

「おーい、ノラ」

帰り道、校門を出た辺りで、後ろからボクを呼ぶ声がした。
振り返ると、そこには同じクラスの男の子、名前は・・・・・・なんだったっけ?

「あー、うん。こんばんわ」

「かー、お前はいつもボケッとしているな。声に張りがないというか、覇気がないというか」

クラスの男の子(名前は分からないからA君で良いや)が、いきなりボクの事を貶してくる。
ちょっと失礼じゃないだろうかと一瞬怒りそうになるが、A君が言っていることは別に間違ってはいないので、ボクは溜飲を下げて、会話を続けた。

「それで、何か用事?」

「無表情なのも相変わらずだなぁ、まぁいいや、お前暇だろ?ならさ、ちょっとつき合えよ。今日合コンなんだけどさ、あ、隣町の女子高生とな。
 それでちょっとメンツに入ってくれないか?」

「えー、メンツ?何でボクなの?」

高校生から合コンという単語が出てくるのが驚いたが、それよりも何故ボクが、A君が主催する合コンのメンツにならなければならないのか。
そっちの方が気になって、思わず問い返す。

「いやー、実は参加するはずだった奴が急に体調悪くなって欠席したのよ。もう三日もだぜ、三日!それで穴埋めは誰が良いかなと思ってよ。
 それでノラが良いんじゃないかって、他のメンツが言ってな。それで誘ったわけさ」

「ふーん、体調不良、ねぇ」

「そうなんだわ。それにお前顔だけは良いじゃん。声掛けた奴らにイケメン連れてくるって言っちまったし、こっちも切羽詰まってるのよ。本当はあの馬鹿が休まなければこんな事にはならなかったんだけどな。全く、ふざけんなって感じだよ。ちょっと格好いいからって、調子乗り過ぎ」

そう言って、A君はその顔が良いらしい友人に悪態を突き始めた。うーん、他人の事を『顔だけは良い』と言う奴も大概じゃないかなとは思うが、ひとまずA君は会話を続けたいらしいので、そのまま耳を傾ける。

「なぁ、助けると思って参加してくれないか?何、適当に話に相づち打ってれば良いからさ。あ、どうせなら一人くらい持ち帰っても良いぞ。俺達結構美味しい思いしてきてるからさ、お前も肖っちゃっても問題ないぜ」

A君はちょっと良識的には問題がある表情を浮かべ、ボクにそう持ちかけてきた。どうやら相当美味しい思いをしてきたようで、これからの合コンに、下卑た皮算用を、頭の中で浮かべているらしい。

ボクとしては、A君のその様子をみる以前に、既に返答は決まっていたが、
それをする前に、少しだけ気になったことがあったので、もうちょっとだけ会話を続けることにした。

「ねぇ、美味しい思いって、どのくらい経験したの?」

「ん?何だ気になっちゃう系?ノラも結構そういうのに興味があるんだな。もしかしてムッツリなのかお前?」

「うん、そうかもね。ねぇ、それでどうなんだい?」

「おう、しょうがないから教えてやるよ。そうだなぁ、かれこれ十回程やってきたからなぁ、その中で持ち帰れたのは・・・・・・五人くらいだな!へへっ、俺も結構やるだろ?いやぁ、あれは良かったなぁ」

「へー、そうなんだ。ありがとう参考になったよ。それじゃあ、またね」

「は?え、おい待てよ!合コンはどうするんだ!?」

「ボクは遠慮しておくよ、やっぱりガラじゃないからー」

そう言い残して、ボクはA君から駆け足で去っていった。ボクを呼び止めようと手を伸ばすが、既に届かない距離まで来ているので掴むことは出来ない。
後ろから「何だよ、全く。次に行きたいって言っても絶対誘ってやるかよ」と吐き捨てる声が聞こえた。また二度と声を掛けてやるかとも言っていたが、
それはどっちかと言うと、ボクの台詞であった。

ただ、それを実行する前に一つだけ、言っておくことにしよう。

「あのさーA君」

「は、A君って俺の事か?何だよ、やっぱり行きたくなったか?でもぜってーお前は誘わないから、誘って欲しかったら可愛い子でも連れてこいよ。そしたら考えてやるからよ!」

「いや、それはヤダー。だけどさー」

「ああ!?じゃあ、何だよノラ!」

「体調には気をつけてねー」

「はぁ、何言ってんだお前?ホント、意味分からん。やっぱ声掛けるんじゃなかったわ」

ボクの言葉を聞いて、A君は舌打ちをして、そのままボクを一瞥することなく、そのまま戻っていった。

一方ボクはと言うと、動かしていた足を止め、A君をじっと見据える。
別に合コンが羨ましかった訳ではない。例えもう一度誘ってきたとしても、ボクは速攻でNOと答えるだろう。
では、何でボクがA君を見ているのか。それはもっと正確に言えば、A君の近くにあるモノを見ていたからだった。

A君の直ぐ側に、女の人が立っていた。

顔の無い女の人が、合わせて5人、まるでA君を囲むように立っていたのだ。
顔が分からないが、服装はセーラーやブレザーだから、恐らく他校の女子生徒だろう。A君は全く気が付いていなかったが、ボクはA君の姿よりも、まずソレに目がいく位、強い存在感を持って、そこにいる。

それが気になってたから聞いてみたのだが、成る程五人くらいか。
随分喜色満面で自慢げにA君は言っていたが、果たして、その後の彼女たちは一体どういう扱いを受けたのだろうか。そこも気になるには気になるが、それはボクが知るべき事ではないのだろう。それよりも、ボクには気になっていることがある。

「あれって生き霊なのかなぁ、それとも普通のやつ?うーん、違いが分からん」

まぁ、生き霊だったとしても、普通のモノでも、ベクトルが違うだけで、籠められている思いは相当であることは間違いない。
それに顔の良い友人は現在調子が良くないらしいし。それで一応気をつけるよう言ってみたのだが、五人の女の人は去っていくA君を
恨めしそうに、ゆっくりゆっくりコマ送りのように、変わらず追い続けている。どうやらボクが言ったことは、あまり意味がなさそうなご様子だ。

「まぁ、一応注意はしたし。もうボクには関係ないことだよね」

精々取り返しがつかなくならないようにすることだね。そうA君に向かって心の中で呟くと、ボクも再び足を動かし、今度こそ家路へと向かっていった。







 帰り道の途中、ボクが良く買い物に行っているスーパーへ赴き、
丁度切れていた洗剤と、今度こそはというチャレンジ精神で食塩を購入する。

だが、食塩をもって買い物カゴに入れようとした瞬間、真っ白な塩が一瞬で黒くなってしまった。丁度隣で商品を整理していた店員に見つかり、信じられない顔でボクを見ていたのだが、ボクは慌てず「あ、ちゃんと買いますので」と言っておいた。商品をダメにしたら、買い取りは絶対。

たまに商品を換えてくれる親切な店員がいるのだが、それでも丁重にお断りすることにしている。だって、これ以上ダークマターを増やしてしまっては、きっと店員も困ってしまうだろうし、何よりボクが悼まれない気持ちになってしまう。

金の無駄遣いとボクのなけなしのチャレンジは泡に帰ってしまったが、それはもう仕方がないことだ。
いつの日か、食塩をふつうに持ち帰ることを夢見て、再び買い物を続けていこう。

そう決意しながら、買い物カゴをぶらさげブラブラ歩いていると、夕飯時だから結構人な人が買い物に来ているのが見えた。

すれ違う人とは目線が合うことはないが、その人に着いている老若男女には必ず目と目が合うので、会釈は忘れず行っている。何事も挨拶は大事なので率先しているのだが、幼子が高確率で何も言わずこちらをガン見してくるように、その着いている人たちもこちら見ているだけで、漏れなく誰も反応を示さない。

会釈すら馬鹿馬鹿しくなってくることがあるが、それでもボクは目が合う度に挨拶を繰り返した。
無視して変な事になってしまうのは嫌だからである。一人暮らしで学んだ、ボクなりの処世術と言ったところだ。

そんなこんなで買い物を終えると、そのまま帰路を進み、今日も無事に自宅があるアパート(家賃一万の1LDK、業者が鬼気迫る勢いで止めたが、安いので住むことにした)へ到着する。

玄関の扉を開けると、朝目覚めた時に乗っていた女の人が逆さで立っていたが、良くあることなのでそのまま入り、持っていた鞄をソファに投げて、暫くの間、羽を伸ばすようにベッドに寝っ転がる。

「あー、そう言えば天井のシミ直すの忘れていたな。ペンキ、買ってこないと」

ベッドから見る天井には、黒いシミが広がっていた。初めは野球ボールくらいのシミだったのだが、今では人の形にまで範囲を拡大してしまっている。
異常なまでに寛容な管理人さんではあるが、これは少々まずいレベルではないだろうか。偽装工作というわけではないが、早いところ処理をしておくとしよう。

そうやってベッドで寛いだ後、洗濯を済ませ、数学の宿題を手早く終わらせる。その後は良い時間帯になったので、いざ夕飯を食べようと近くのファミレスへ足を運ぼうとしたのだが、玄関の扉が何故か開かなくなってしまった。立て付けが悪くなったのかと心配したのだが、よく見ると無数の手が内側から押さえつけていたた事が原因だったため、余計な出費が無くて良かったと、ボクは安堵し窓を開けて外へと出かけた。

ファミレスのハンバーグは、ボクの中で現在トップ3に入るくらいには気に入っている料理だ。例え、店員がボクだけにもかかわらず、五名様ですかと聞いてきたり、持ってきたお水が8名分になっていたりとサービスに些か不満があったとしても、ボクは外食をする時、決まってここを選んでいる。

今ではボクの顔も覚えられ、すっかり常連様だ。ただ、店員がボクを見るときもの凄い勢いで怯え始めるのは大変腹立たしいことなのだが、
別にボクはクレームを言ったことがないので、杞憂だと思っておこう。何事も万事、心の平穏を保っているべきなのである。

そして料理を楽しんだ後、そのまま自宅へとまっすぐ帰る。そしてお気に入りのドラマを見て、読み途中だった小説を読み進めていく。

そうしたら大体もう夜も更けて、良い感じに眠気も降りてくるから、そのまま一日の疲れを落とすようにシャワーを浴び、相変わらず洗面所の鏡に映った親子の視線を感じながら、歯を磨いて寝間着へと着替える。

勿論、洗濯物は布団と合わせて天日干しは既に完了済みだ。良い感じにフカフカな布団を満喫して、ウトウトし始めたボクの意識に身を任せるように、そのまま人の形に盛り上がったベッドへ潜り込んだ。

そうやって一日を終えて、既に生ぬるくなった布団でこう思う。

「うん、今日も一日、何事もなかった。良かった良かった」

表情には出さず、内心で満足顔を浮かべ、ボクはそのまま睡魔に身を委ねていく。やがて暗く塗りつぶされていく意識の中、静かに呼吸が整う。寝付きが早いのは生まれつきだ、どんなところでも平気で眠れる。ボクの数少ない特技でもあった。

さて明日は誰が、ベッドに乗っているのだろう。出来れば余り重くないのと、途中の金縛りは寝不足になるから止めてほしいなぁ。

そんな事を途切れ途切れに考えながら、黒い影が目の前に落ちてくるのを最後に見て、ボクは意識を手放していった。







 これが、ボクの日常である。

別に何て事はない、皆と同じように目が覚め、学校で友人達と雑談を楽しみ、一人暮らしの節約に普通に悪戦苦闘する。そんな普通の高校生が過ごす、何一つ特徴がない、至って平凡な毎日の記録。

例え、朝起きたら知らない人が乗っていても、鏡を見れば必ずボク以外の何かが映っていたしても、すれ違う人の首が無かったとしても、歩道で自動車に轢かれたように、四肢がありえない方向に曲がってしまった人間が、自然にボクの身体にしがみついて来たとしても、ボクは何も変わることがない。

そしてまた、ボクと同じように家路を急ぐ人たちも、何一つ変わることはない。

だって、それは当然なのだ。それが普通、つまりボクは普通で平凡な人間という事に他ならない。
時々、ボクが驚く展開もあるけど、それだって普通の日常と言えてしまう範囲だから、別段挙げることでもない。

現実は小説よりも奇なり、だっただろうか。その言葉はボクには決して当てはまることはない言葉だ。

ああ、何て平凡で素晴らしい日々であろうか。ボクはこれからもこんな一日をずっと続けていこうと思う。だから本日も変わりなく、ボクはこう願うのだ。ボクのちょっとばかりの、この願掛けの言葉を。


どうか明日も、何事もない一日でありますように。





これは、そんな少しの驚きと、ほんの少しの奇妙な体験、
有り体に言えば、怪奇と呼ばれるんじゃないかなぁといった出来事に『ボク』こと『ノラ』が出逢っていく、

どこまでも平凡で普通な、そんな、ありふれた『日常』の物語である。

後書き

お久しぶりです。久しぶりの投稿です。

この小説について

タイトル ボクの日常における、ただ一つの変わらない平凡な毎日の記録
初版 2015年12月11日
改訂 2015年12月11日
小説ID 4735
閲覧数 405
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みかんの写真
ぬし
作家名 ★みかん
作家ID 445
投稿数 12
★の数 171
活動度 3999
みかんです、みかんと言ったら、みかんなんです。

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