狂ったボクの怪奇譚 - 閉じ込められたボクと五人の愉快な仲間達(白目) 其の一


 ボクは本日も、何事もなく一日を過ごしていた。

目が覚めれば、いつものようにボクの上に人(今日は三人の和装の男の子だった)が乗っていたし、洗面所に行けばボクを睨みつけている母子家庭の風景が見られたし、テレビを点ければ森の映像が静寂と共に映し出されている。

学校に行けば、先生の話している授業内容よりも、落下してくる人に視線が移り、それではダメだといざ授業に集中しようとすれば、今度は眠気という悪魔がボクを誑かす。結局禄に授業を聞かぬまま、微睡みの中でただ時間が過ぎていく。

そんな何て事のない、ボクが何より尊ぶ平凡で普通な日常。
どうやら今日も、素敵な一日を送れそうで、ボクは顔を綻ばせた。実際は表情は変わってないが、内心はとても平穏万歳のハッピー状態であった。

さて学校が終わったら、さっさと帰宅して、今日放送されるお気に入りのドラマでも眺めながら、のんびり夜を過ごすとしようか。
夕ご飯は、先日予め買っておいた惣菜とご飯を電子レンジで暖めれば良いし、買い物も特に不足しているものはない為、する必要がなかった。

ああ、何て素晴らしい平和な一日なのだろう。明日もまた平和な一日でありますように。

放課後に入った昼下がりに、いつもの願掛けをしていたボクであった。








いま思えば、そんなフライング気味な考えが良くなかったのかもしれない。
ちゃんと一日の終わりに布団の中でこう思えば、こんな事態にあうことは無かったのではないだろうか。

そんな覆水盆に返らずよろしくな後悔と共に、先までの平和な一日の風景を夢想しながら、溜息を吐く作業を繰り返していた。

現在のボクがおかれている状況は、分かりやすく言うと、こんな感じである。

「くそっ、何で扉が開かないんだ!?おい、どうなってんだよ!」

「ああ、窓も全然ダメだ。割ろうとしても全くびくともしない。こんなのありえないだろ!」

「まだ日が沈んでいないのに、生徒はおろか教師までいやしない。これは、まずいな」

「ううう、私もう帰りたい。いやだ、怖い、怖いよぉ」

「泣いちゃダメ、弱気になっちゃダメよ!こんな時こそ冷静にならなきゃ!ね?大丈夫、皆で何とかすればきっと出られるわ!」

「そうだな、こんな時こそしっかりしないとな。パニックにだけはなっちゃダメだ。何が起きるか分からんしな」

「そう、だね。ありがとう・・・・・・ワタシからも何か出来ないか考えてみるね」

「よし、ひとまずまた集まろう。ここから脱出出来る方法を、また皆で考えるんだ!」

『分かった(わ)!!』という何とも前向きな言葉が目の前の人達から聞こえてきた。対するボクは、そんな光景を目にしてさらなる溜息を深く吐いて、耳を塞ぎながら、全身で脱力感を露わにしていた。元気なのは大変良いことだが、あまり耳元で大声を上げないでほしい。頭に響く。

全く、ふざけるな。早く帰らないとドラマが始まってしまうじゃないか。さっさと帰らせてくれ。いやもう、この際ボクだけもいいから抜けさせてくれ。いや本当にマジで。

「ほら、ノラ!お前もこっちに来いよ、また一緒に考えよう!」

自分の机でうなだれていたボクに、やる気に満ちあふれた生徒が声を掛ける。正直もう勘弁して欲しい。張り切るのは結構だが、ボクを除いてやってくれないだろうか。ボクはボクでやるから。

そんな事を思いながらも、ボクはその生徒に連れられ強制的に参加させられていく。
皆が真剣に話し合いを続ける中で、ボクはこんな状況になってしまう前の事を思い浮かべ、また深い溜息を吐いてしまった。

事の発端は約一時間前、ボクが意気揚々と帰り支度を始めていた、教室での一幕から始まった。





 放課後の一時、使い終わった教科書を無造作に鞄にぶち込んで、ボクは意気揚々と帰りの支度に精を出していた。

途中何やら教室内の空気が騒がしかったが、当然ボクには関係ないことなので、それを無視して教室の扉を開け、校門へと向かっていく。

ドラマが始まるまで、少しの時間があるからそれまでベッドで休んでいよう。それかコーヒーでも煎れながら読書にでも興じてようか。

そんな事を夢想しながら、廊下を足早に歩いていたボクだったが、玄関の扉に手をかけた瞬間、手鼻を挫かれる事態に遭遇してしまった。

扉が開かなかった。どれだけ力を入れようとも、扉が開くどころかピクリとさえ動かったのだ。

最初は鍵でも掛かっているのかと思っていたのだが、扉は鍵が閉まっているどころか、扉には僅かに数センチの隙間が開いている。明らかに鍵が掛かっていない状態だ。だがそれにも関わらず、その隙間に手を入れて開こうとしても一向に開く気配がない。

これはどう言うことだろうか、試しに扉が壊れる覚悟で全体重を掛けて扉を引いてみる。しかし何度やっても開かない。隙間から生暖かい風が入り、ボクは思わず身震いしてしまった。

は?なんだコレ、いや待て、どうして開かない?

その状態にピクピクとこめかみが痙攣していたボクだったが、何か他におかしい所があるかもしれないと考えて、再度扉を注視してみる。

扉は相変わらず数センチの隙間を覗かせるばかりで他におかしな所はない。扉に集まる無数の人の顔が張り付いてはいるが、それは些細なことなので、ボクの中でそれは除外して考えた。扉に顔はデフォルトだ、別段何もおかしい事ではない。

・・・・・・だめだ、開かない。ボクには何が起きているのか、さっぱり理解できなかった。

この状況に頭を悩ませるボクだったが、それに続くように、ボクはこの扉だけではなく、周囲の状況までもおかしいことに気づく。

人が全くいなかった。ボク以外に誰も、その影すら見当たらない。

普段なら間違いなく、ボクと同じように家路へ帰ろうとする生徒がいるはずであろうこの場所。それなのに、今はボク以外に誰の姿も見えていない。
存在しているのは、閑散とした学校の空気と、静寂を表す響音だけがあるばかり。

明らかにおかしい状況だった。全く持ってありえない状態とも言えてしまう。
学校内はおろか、窓から見える校庭すら人影が確認出来ない始末だ。最も外にはやや数が増した浮遊する白い物体が見えるのだが、それはこの際どうでも良い。本来見えるはずの人の姿がない。重要なのはそれだけだった。

人が一切無い学校の風景、静けさよりも不気味さの方が増した空間。そんないつもとは違う光景が、ボクに警鐘を鳴らしていた。平穏とはかけはなれた事態に、焦りを覚えたとも言える。

誰か他に人はいないだろうか。扉が開かない事よりも、そちらの方がボクには大事に思えた。

そう考え、ボクは他に人がいないかを探そうとして、下駄箱から上履きを取り、急いで廊下を走っていった。
途中後ろから人の笑い声が聞こえてきて慌てて振り返ったのだが、それは扉に集まる人の顔が発した声だったので、舌打ちをしてその後は振り返ることなく、ボクは階段を掛け上がっていく。

目指す場所は、自分のクラス。確か帰るときにあそこで騒いでいた人達がいたはずだ。記憶を頼りに、ボクは急いで教室がある二階へ向かっていった。
ボクの頭の中にある一つの焦りが、駆け上がる足を速めていく。早く、早く何とかしなければ、そうしないと、そうしないと。

そうしないとドラマが、ドラマが始まってしまうじゃあないか!
お気に入りのドラマが始まるまで、後三時間。先週はかなり良いところで終わったのだ、先を見ないと絶対に後悔する!

ブルーレイや先行予約が出来ない家庭事情が、ボクを焦らせる。いやな汗を流しながら、ボクは息切れなど気にせず全力で階段を上っていった。
頼むぞ、一人でも生徒か教師でもこの際気にしない。誰でもいいからそこにいてくれ。

そんな懇願に近い形の希望を抱いて、ボクは教室のドアを思い切り開いていったのである。








 それで現在、ボクはこんな状況に陥ってしまったわけなのだが。ボクの心境としては、もしこれがテレビ番組なら、おいカメラ止めろとプロデューサーに怒鳴り込み、長時間かけて不満をぶちまけていることだろう。

それほどまでに、ボクはこの状態が大変気に食わなかった。もう不満で体が爆発しそうである。

現在の時刻は午後四時を過ぎた頃、ボクが教室にたどり着いてから、既に一時間が経過してしまっていた。

一時間も、である。それでもまるで脱出の糸口が掴めていない。ただ話し合いばかりが無駄に続き、時間が浪費されてしまっている。

時間が増す毎に、イライラが積み重なっていくのだが、それを止めようも出来ない。ただ話し合いの目途が立つのを、見守るばかりである。

全くどうしてこんな風になりやがった。ボクの総意はこれ一択である。はぁ、本当に何でこうなったのだろうか。

ボクはいまこの話し合いを主導している生徒、もう何か色々仕切っているからリーダーと呼ぶことにしよう。そのリーダーに強制的に話し合いに参加させられていたのだが、ボクの頭の中は後悔の嵐が吹き荒れており、言葉を発することもないまま物言わぬ置物とかしていた。

無論、意見を述べる気もさらさらない。寧ろさっさと単独行動をさせて欲しいと思っている。何故ボクは他の人なんて代物を探そうとしていたのだろう。そればかりが頭の中でグルグルと周り、消えることなく続いていった。

教室を開けたまでは良かった。願いが叶ったのか、確かに人がいた、それも五人もだ。ボクも安堵した、これで早く学校から出られる。そんな安直な考えを抱いていた。皆で力を合わせれば、早急にこの事態を解決できるだろう、そう思っていたまでは良かったのだ。

その五人の話し合いと、試行錯誤の連続、そして行動の遅さに絶望を感じてしまうまではだが。

ボクがこの五人の生徒達を見つけてから、既に数十回ほど、行動と話し合いが交互に繰り広げられていた。この外へ繋がる全ての入り口が閉ざされた学校内で、トライアンドエラーを繰り返し、脱出のための方法を考えている。

それ自体は問題ない。ボクも効率的なやり方で、最善の方法だと思ってはいる。
何も分からない手探りな状態では、考えなしの行動は大きなリスクが起こりうる為危険だ。ならば、こうして少しずつ可能な範囲で情報をかき集めるのは、
マンガやアニメよろしくな、王道的な対応策と言えるだろう。

ただ、その範囲が狭すぎるのが問題だった。それはもう、致命的な遅さである。
今までやった行動を、簡易的にまとめるとこんな感じだった。

話し合い→まずはこの教室から出られないかを調べよう!(リーダー)→了承(皆)→だめだびくともしない!→次は隣のクラスだ!(リーダー)→了承(皆)→だめだビクともしない!→何か危険な感じがする、一端元の教室で話し合おう→了承(皆)→話し合い→次は隣の隣のクラスだ!(リーダー)→了承(皆)→だめだびくともしない!→何か危険な感じがする、一端元の教室で話し合おう→了承(皆)→もう勘弁してぇ(ボク)

以下エンドループである。こんな感じのやり取りが、今も続いている。
これでは埒があかないどころか、ただ時間を消費していくばかりで、有効な解決策すら出て来ない。というか、コレ脱出する気がないんじゃないだろうかと疑ってしまうレベルである。他の皆はそれで良いかもしれないが、生憎ボクはそうではない。一刻も早く帰りたい組の筆頭と言えよう。

故に、ボクは早いところ具体的で画期的なアイデアを出して、学校から抜け出す必要があった。主に、ドラマのために。

半ば思考放棄の状態であったボクだが、そろそろ本気で時間が押してきているため、ボクも積極的に、但し意見には出さずに考えを巡らせ始めていった。

まず考えるのは、この無駄なループからの脱出だ。ボクはそう考え、このループを作り出している原因に視線を向けた。

「よし、次は反対の教室へ行こう!」

「ね、ねぇ、もう少し範囲を広げてみない?」

「そうね、これじゃあ時間が掛かりすぎるわ。別々で行動すべきじゃないかしら?」

「だめだ!危険すぎる!何が起こるか、分からないんだ。全員で纏まって行動した方が良い。携帯も繋がらないんだ、危険な事があっても不思議じゃない!」

「だがよ。本気でこのままだと埒があかないぜ。俺ももう少し範囲を広げる事に賛成だ」

「そうならない為の話し合いじゃないか!さぁ、皆で集まって良い案を練っていこうよ!」

皆が探索範囲を広げようと言う提案を、リーダーは明るい笑顔のまま切ってしまった。妙な圧力を感じたのか、全員反論を言うことなく、その場で黙してしまう。目には不満が混じっていたが、彼に変わる具体案が出てこないのだろう。なすがまま、リーダーに流され、また不毛な話し合いが始まってしまった。

そう、問題はこの無駄に熱血なリーダーにあった。一々元の場所に戻って、話し合いをしようと提案したのも、次の行動の案を出していくのも、全部このリーダーである。

こいつが全員で纏まって行動することを絶対条件としているから、一人で行動しようにもさせてもらえない。寧ろ集団行動でも、人の意見を聞いている振りして、自分の考えで行動してしまっている。周囲の皆からも分かるとおり、自分勝手な行動をしているだけに過ぎない。これでは例え良案が出ても、彼の裁量一つで無くなってしまう。

リーダーは声に明るさを出して、皆を怖がらせないように計らってはいる。仕切る側の人間としては大切な要素だろう。だが、話し合いを迫るくせに、禄に意見を通さないのは頂けない。典型的な悪いワンマンシップだ。

それにリーダーを見ていると、彼はどこか興奮しているように見える。いや、この場合は高揚していると言えるだろう。

ボクが覚えているに、リーダーは別に仕切屋タイプな性格はしていなかったはずだ。
確かにいつも明るく、何とも友人が多そうな奴ではあるが、それでもここまでリーダーシップを取ろうとする人間だっただろうか。この状況に対して、自分が何とかしないとと責任感を持つのは良いことだが、彼の雰囲気を見ていると、些か過剰ではないかと思う。

ボクはリーダーが、一種の英雄症候群(正義感が過剰になり暴走状態になる事)になっているとしか思えなかった。

だとしたら少々マズい状況である。ボクにしても、皆にしてもだ。

難事件に首を突っ込む名探偵の如く、空想の世界で活躍する主人公の行動は、現実世界では妄想以外に他なら無い。もしそれを実際に夢見ているのだとしたら、必ず手痛い結果が生まれる。

典型的な夢と現実の履き違え、今のリーダーがまさにその状態になっているのだろう。自分が皆を助けてみせる。そんな無謀な考えの元、彼は行動していると、ボクは考えていた。

「さぁ、どうしたんだ皆?早く意見を言ってくれ!」

そう高らかに宣言するリーダー、それについて意見を言うにも、反対され次第に口数が少なくなっていく他の生徒達、そしてまたリーダーが反対の教室を調べようと、再度問いかける。どうやら今回もリーダーの意見が通るだろう。

時間も既に4時半を回ろうとしている。ならば、早いところボクも行動しなければならない。思考は上々、考えたアイデアは中々な仕上がり、後はボクがそれを実行するだけである。

まずは最初の一手が肝心、よし、覚悟は決めた。非常に面倒くさいが、ひとつ気合いを入れてやることにしよう。

ボクはリーダーが発言している最中、それをぶった切るつもりで計画を実行した。
具体的な方法としては、目に付くように右手を天高く突き上げたのだ。所謂挙手をしたのである。

勢い良く挙がる手に、リーダー含め全員が驚きの表情でボクの方へ視線を向けた。
それを確認して、ボクが口を開く。さぁ、この一言が勝利の鍵だ!喰らうが良い!

「ごめん、ちょっとトイレ」

え?という言葉ともに、皆の目が点になった。拍子抜けとも言える顔である。この状況に全くそぐわない言葉ではあるが、
それでもボクは堂々とどもることなく、右手を直立させ続けた。

「・・・・・・我慢できないのか?」

「うん、もうやばい。今にも暴走しそうなくらい」

「今のこの状況は危険な状況なんだ。分かるだろ?」

「今のボクの下半身も危険な状況なんだけど、分かるでしょ?」

「・・・・・・どうしても我慢できないか?」

「うん、マジヤバです」

リーダーが、そんな事言い出すんじゃねぇよと顔で言ってきたが、ボクはそれに怯むことなく言い続けた。周りは呆れるばかりだが、まぁ仕方がないという雰囲気だ。だって生理現象だもんね、止めろとは言えないでしょう。こいつは食い下がらないが。

何度か、我慢しろ、いやムリっすというやり取りを繰り返した後、とうとうリーダーは諦めた。渋々といった表情だが、まぁ良いだろう。「仕方ない、早めにしろよ」という言葉と共に、リーダーは全員に声を掛けようとする。だがボクは、そこでさらに追撃を加えた。

「いや、一人で行くのであしからず」

「は?ダメに決まっているだろう。あのな、今は皆で行動する必要があるんだ。単独行動は絶対に認められない」

「別に良いでしょ、トイレくらい。すぐ近くだよ?パッと済ませて帰ってくるからさ」

「だめだ、こればかりは許可できない。勝手すぎるぞ、ノラ」

「なら、扉の前で待っててよ。わざわざ中まではこられるのはちょっとねぇ」

「男だろ?それくらい気にしなくても良いじゃないか」

「男だって気にするさ、とりわけボクはね。他に人がいると出なくなっちゃうんだよ。だからさぁ、頼むよ」

「いや、でもなぁ!」

ボクの言うことに対して、次第に苛立ってくるリーダー。声を少しばかり荒げ、ボクの申し入れを断り続けていく。それでもボクは妥協せず、頑なに一人で入ることを要求していった。

最も、こいつが絶対に単独行動をさせないのは既にいやと言うほど認識している。だから、このままでは恐らく、ボクの意見は通らないだろう。だが、それもボクの中では計算済みだ。それを踏まえて言い続けているのだ。

一体何故なのか、それはボクがある言葉を待っているからだった。早く早くと念を送っていたのが届いたか、ついに幾つかの問答を経て、待ちに待った機会が訪れた。

「あ、あのワタシも、その・・・・・・」

来た!ボクは内心でガッツポーズを取る。くだらないやり取りを経て、望んだ展開が顔を表し、その言葉を発した人物へ目を向けた。

「ユキ、君もなのか?我慢できないのか?」

「う、うん・・・・・・ワタシも、その、あの」

「ちょっと、女になに言わせようとしてるのよ」

「いや別に、そう言う訳じゃ」

「大体あんたね、トイレくらい自由にさせて挙げなさいよ。それくらい別にどうってこと無いでしょ。ノラ君の言う通りよ」

「いや、しかしだな、単独行動は控え」

「じゃあ何、ここでさせようってわけ!?皆のいる前でしろっての!?」

「そんな事、言ってないだろう!?」

「なら良いでしょ?トイレくらい直ぐ終わるわ。少しの間だけなんだから、ノラ君が言うようにトイレの前で待っていることにしましょうよ」

「・・・・・・はぁ、分かったよ。ほらノラ、ユキ、早く済ませて来てくれよ」

女子生徒の猛攻に、たじたじとなったリーダーは、等々折れてボクともう一人の女子生徒、ユキに対して実に複雑そうにトイレへの許可を出した。わざわざお前の許可を取る必要はないと突っ込んでやりたいところだが、今はそれよりも自分の考えが計画通りに進んだことで、内心ウハウハ状態だ。

ボクが考えた案、それは初めから一人でトイレに向かうことではなく、扉の前で待機してもらうことだった。これはボクが最終的に一人になるための布石であり、その準備段階を作り出すためのアイデアである。

まぁ時間内に脱出するための直接的な策ではないが、それも問題はない、脱出のための方策は、一人になったときに思いつけばよいのだ。ひとまずは中に、人が入ってこなければそれで良い。

ただそれには、まずこのリーダーを黙らせ、一人になる時間を作るが必要あったのだったが、やれやれ本当に上手く行って良かった。

ありがとう、ユキさんとやら。君のおかげでボクの計画が上手く運びそうだ。ボクは内心でニヤリと笑ったつもりになった。あくまでつもりである。

何しろ話し合いの途中で、体をもじもじさせてたからな。他の皆は話し合いに集中していて気づかなかったようだが、ボクはしっかり見ていたぜ。それを利用させてもらったのは不本意ではあるが、まぁ結果オーライだろう。トイレへ行きたいのを言うことが出来なかった程、大人しい彼女なのだ。どうかwin-winという事で許してもらいたい。

ボクは心の中で彼女に感謝しつつ、軽快にトイレへと向かっていった。後ろからリーダーがブツブツと文句を垂れているが、そんな事は気にせず、皆を連れてトイレへ向かう。

「じゃあ、外で待っていてね。したくなったら別に良いけど」

ボクは振り返って男二人に笑顔で(無表情)そういった。まぁ同行をその際は、人がいるから出来ないと全力で抗議してやるがな。

「ああ、良いよ僕はしたくないから。それは良いから早く戻ってきてくれよ」

「俺も大丈夫だ、まぁ、焦ることはないから、しっかり出してこい」

二人の男子が見守る中、ボクは一つ会釈をする。リーダーは未だ不満気だが、もう一人の方は苦笑を浮かべていた。中々に落ち着いた性格である。どうかこの後は、君が皆を先導してやると良い。ボクはいないが、まぁ精々頑張ってくれたまえ。

さて、それではトイレに着いたことだし、さっさと次の計画を実行に移すとしよう。

内心でそうほくそ笑み、ボクはトイレの扉に手をかけた。
皆には悪いが、ボクは一抜けさせてもらう。未だ具体的な脱出方法は分かっていないが、一人の方が遙かに効率的で有ることは明白だ。

全ては今日のドラマ放送のために、その一念のみである。ふはははは、さらばだ諸君。ボクはボクで解決策を練ることにしよう。精々楽しい話し合いを経て、全員で仲良く脱出を図ってくれ。その時、既にボクは自宅でくつろいでいるだろうがなぁ!

「あの、ノラ、君」

無表情であくどい笑い声を体の中で響かせていたボクだったが、後ろから掛けられた声によって遮られてしまった。

「え?あ、何・・・・・・えーと、ユキさん?」

声を掛けてきたのは、もじもじと体を動かし、縮こまっているユキさんだった。
まるで小動物の如く、目を潤ませてボクを見ている。え、何これ、なんだか嫌な予感が。

「えっと、その、ワタシも・・・・・・その」

「あの、早くトイレに入らせて頂きたいのだけど」

「あ、う、うん、ごめん。その、あのね・・・・・・うう」

何かを言いたいのか、ユキさんがまるで鯉のように口をパクつかせている。しかし言葉には出せず、しだいに顔が赤くなっていった。

・・・・・・一体どういう事なのだろうか。訳が分からん。

「ユキさん、何か伝えることがあったら、トイレの後にしようよ、ね?」

ボクが早いところトイレ=逃走を図りたいがために、ユキさんにそう伝えた。勿論、その時にはボクは既にいなくなっているが、これ以上時間を消費することは利口ではない。彼女には悪いとは思うが、話を区切らせてもらおう。

その言葉に「あ、あの、ちがくって・・・・・・」とユキさんは返答するが、ボクはそれを敢えて無視してトイレへ入っていく。「あ・・・・・・」という言葉を最後に、彼女の姿が扉に阻まれていく。何かすごい罪悪感を感じてしまうのだが、それを耐えてそのまま扉を閉め切ろうとした。

「待ってよ」

閉め切ろうとしたのだが、それを阻む第三者の声がボクの耳に入ってきた為、ボクは思わず体を止めてしまった。

「ユキが話そうとしているのに、何切ってるのさ。ちゃんと聞いてあげなさいよ」

振り返ってみてみると、そこにいたのはもう一人の女子生徒、先ほどリーダーに強い口調で迫っていた人である。彼女の顔は「何でそんな事も分かんないの?ばかなの、死ぬの?」と言っているかのように怖い表情を浮かべていた。へ?どうしてボクが責められているの、なしてなん?誰か説明して下さい。

「あー、そのー、それは帰ってからでも宜しいのではないでしょうか?」

「はぁ、もうそう言うことじゃないんだけどなぁ。はぁ、本当に男ってやつは」

「ごめんなさい」

何故ボクが怒られなければならないのか、疑問に思うが、決して言葉には出さない。だって、怖いから。

「・・・・・・ああ、もういいいわ!アタシが代わり言ってあげるわよ。ユキ良いわよね!?」

「は、はいぃ」

「良い、一度しか言わないから良く聞きなさい!」

「は、はいぃ(ボク)」

鼻息荒く、扉の前で仁王立ちをした女子生徒は、少し深呼吸をする。一体何を言うつもりだろう。個人的には早く言って欲しいのだが、中々言おうとしない。けれどもボクはそのもどかしさを絶対に顔や口に出したりはしなかった。
だって、怖すぎるから。

ボクは彼女の雰囲気に身震いを感じつつ、平然を装って言葉を待ち続けた。
まぁ、別にそんな変なことは言わないだろう。嫌な予感はするが、うん、きっと大丈夫。多分、恐らく大丈夫。そんな心境で、高を括っていた。

だが、こういう時の嫌な予感は大抵当たってしまうらしく、ボクが抱いていた暢気な予想とは裏腹に、彼女は脳味噌をぶち抜く程に強烈で、とても衝撃的な言葉をボクにぶつけてきたのだった。




「ユキが怖くて一人でトイレ行けないから、あなた手伝いなさい!」




「・・・・・・は?」


「後、アタシも一緒にするから!」


「・・・・・・へぁ?」


「言っとくけど、覗くんじゃないわよ、この変態!!」


「・・・・・・はぁ!?」



余りの衝撃的な言葉に、一瞬ボクの思考がどこか遠くへ飛んでしまったような錯覚を覚えてしまった。
今、この人は何と言ったのか。一緒に?トイレへ?しかも男子トイレに?女ではないボクが?

え、つまり、どういう事?どういう事なの!?

考えようとしても、纏まらず、あれよあれよと言う間に、ボクは女子生徒に掴まれトイレへと連れてかれていく。その光景に口を開けて呆ける二人の男子生徒と、ひょこひょことオロオロしながら着いてくるユキさん。もうなんか完全に状況がおかしな方向へ向かってしまっていた。

連れて行かれる最中、思考が真っ白になった状態のボクであったが、一つだけ思うことがある。先の彼女の発言における、返答と言っても良い。それはこんな言葉だ。

『普通に女二人で行けば宜しいのではないでしょうか?』

自画自賛ながら、何とも的を得た台詞である。しかしながら、どんなに的を得た言葉をしなければ無意味に等しく、ボクはその頭の内容を表に出すことなく、無言のまま、そしてなすがまま女子生徒に手を引かれ中に引きずり込まれていった。

ああ、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。ボクの計画がこんな形で霧散するとは、一体誰が想像できよう。

ズルズルと引きずられた体勢のままで、ボクと女子生徒二名はトイレに入っていった。何故この二人がボクと一緒に男子トイレに入ることになってしまったのか、それについては割とすぐ分かってしまう事なので、敢えてここでは言わないでおこう。というか、もう言いたくないです。

もう全く、慣れないことはするものじゃない。
そんな絞りカスみたいな思考の元、ボクは閉じこめられてから、ここに至るまでの様々な出来事を踏まえて、今日という一日をこう結論づけた。

今日はあれだ、多分厄日だわ。

それが完全に当てはまるかは定かではないが、ボクは内心でそう確定させ、さらに力なくうなだれていった。

先に述べたように、悪い予感という物は、得てしてよく当たるものなのである。この時のボクはそれをまだ実感していなかった。







後書き

少々長くなってしまいました。
感想お待ちしております。

この小説について

タイトル 閉じ込められたボクと五人の愉快な仲間達(白目) 其の一
初版 2015年12月19日
改訂 2015年12月19日
小説ID 4738
閲覧数 1151
合計★ 0
みかんの写真
ぬし
作家名 ★みかん
作家ID 445
投稿数 12
★の数 155
活動度 3999
みかんです、みかんと言ったら、みかんなんです。

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