飛行船αの上空紀行 - 飛行船αの上空紀行

 現状を説明しよう。今この小屋のなかには少女一名、青年一名、負傷者三名がいる。
 多少いかがわしく聞こえるが、少女と青年は契約関係にある。臨時で。
「契約内容を確認しよう…………依頼主の名前は?」
「あ………ラ、ライラ…………」
「そうか、俺はスターノだ。契約内容はこの人たちを助けること、で構わないな?」
「つ、ついでにモンストロも倒してもらえると………」
 ライラがそう言うと、スターノは暫くキョトンとしていた。そして
「フッ」
鼻で笑った。
「!?」
「安心しろ、モンストロ討伐は既に仲間達が行っている」
 よし、とスターノは言って杖を掲げた。
「この程度ならすぐ終わる」
 途端に負傷者の傷ついた部分が燃えだし、ライラは驚いて身動きがとれなかった。
 暫くたつと、傷ついたところが何事もなかったかのように消え、負傷者が浮かべていた苦悶の表情も穏やかなものとなった。
「す、凄い…………」
「ハァ………何を言っている。こんなのは序の口だぞ」
 スターノはそのまま窓の外を見た。
「あっちはあっちで楽しんでいるようだしな、終わるまで待ってやろう」
「あっち…?」
 あっちとは何だろう。討伐中の仲間の事だろうか。
 ライラは、風が漏れていた窓によって外を見、驚愕した。


街θ 小屋外

「よっと!」
「とりゃっ、くそっ!リック、邪魔!」
「邪魔とかないし。ほっ」
「本当マジで退けっての」
「地味にしりとりするの止めてくんない!?」
 外の戦闘組は村に出現したモンストロの大半を消滅させていた。
 あちこちにモンストロのセムの塊が落ちていて、ちょっと戦いにくい。
 しかしまぁ、大量のモンストロが出たものである。
 ちなみに、モンストロのセムはこのあと回収してレジの手により貴重な燃料へと生まれ変わる。料理等をするときの火力、武器を生成するときのエネルギー、勿論、飛行船を動かすための燃料は動物性セム燃料から来ているのだ。
 で、エネルギーとして消費されたセムは空気中に還っていくため、生態系としても全く問題ない。むしろ自然と調和していて超エコロジーなのだ。
「モント、あいつでラストワンだ!最後は俺が………………」
「お先っ!」
「あっ、おい!」
 モントは羽衣を翻して軽やかなステップを刻みながらモンストロに近づいた。
 三日月型の短刀で他のと同じように弱点である額を裂こうとした、が。
「!?」
 鋭い眼光が実物となってモントに襲いかかってきた。ギリギリのところで体をしならせて避ける。こういうときに踊り子の特性が役立つのだ。
「く……っ、強いセム……」
「馬鹿、そんくらい見極めなよ?」
 リックはそう言うと辺りに少しだけ残っていた並木を足場に、モンストロの目の高さくらいまで上がって背後に回った。そして
「少しは、大人しくなれェエェェッ!!!!」
 両手の鋭い刃でモンストロの四肢に繋がる筋を断ち切った。その瞬間にモンストロがよろける。
 その一瞬の隙をついて、モントが止めの一撃を空中から降り下ろした。





「御苦労だったな」
「でしょ?俺なんかモントを守ってやったんだからねぇ」
「は?結局俺が討ったんだろうが」
「俺がいなかったらチビちゃん死んでたと思うけどな?」
「おま……っ」
「お前ら、いい加減にしろ。仮にも依頼人の前だぞ」
「あ、はは…………」
 小屋の中。今ライラの目の前には三人の男がいた。
 一人はスターノで、もう一人は灰髪深翠眼の背の高い男。しっかり鍛えている体つきだ。
 もう一人は対照的な感じ。身長も三人の中ではダントツに低く、多少は筋肉もついているが、まぁ、室内で音楽でも奏でていそうだ。
 でも実際、この二人は華麗な手捌きでモンストロを倒している。実力は折り紙付きというわけだ。
 そんなことを考えていると
「ふーん?君が依頼人、ね………」
「………っ、な………」
 何ですか、と言いたいのに言葉が詰まる。私の人見知りは基本的に発動しているが、こんなに長い間見つめられては、最早顔から火が出るのも時間の問題である。
「リック、依頼人が困ってんだろうが」
「モントもそんなこと気にするんだー、世も末だね」
「あぁ!?」
「おいコラお前ら」
 すまんな、とスターノが言い、やっと話が先に進んだ。
「とりあえず、話を整理しようか……俺たちはギルド、お前は依頼人。この人たちを助けるように依頼して実現したはいいが払う金がない、と」
「は、はい……すみません…………」
 そう。あのときは相当焦っていて気づかなかったのだが、モンストロに家も破壊され親も遠出をしており金もなければ頼れる人もいない。
 というか、ここをどうにか切り抜けたとしてもそのあとの生活がどうなることやら。
 ライラはため息をついた。
「……ねぇねぇ、スターノ」
「何だ」
 思ったんだけど、とリックは続ける。
「今俺たちがやってることは慈善事業なんでしょ?それだったらライラちゃんが頼んだこともどうせスターノがやってたわけで、実際はあんまり関係ないんじゃ……」
 リックがそこまで言うと、スターノは静かに目配せをした。
 何かあるんだろうかとそれに気づいたライラが見ていると、突然リックが
「スターノは昔から可愛いね♡」
と言ってスターノに殴られた。
「わ、分かった分かった!スターノの考えてることは分かったからっ!!」
「本当に分かったのか!?この、女たらしが!」
「え?スターノ、妬きもち妬いてくれてたの!?やっぱり可愛い!」
「ふざけるなっ!!!!」


「で、報酬のことだが」
「あ、は、はぁ………」
 一通りリックを殴り終わると、スターノはもう一度ライラに向き直って話を続けた。
「あいつの事なら気にするな。回復力だけは異常にある」
 それでいいのか、と思うがあえて言わない。というか、この目の前の問題を片付けないことには心の余裕も持つことができない。
 ライラはまた深いため息をついた。
「さっきからため息ばかりだな…………どうだ、俺たちが保証できる方法が一つだけあるぞ」
「えっ」
 それはどういう方法なんだと身を乗り出す。


「俺たちと一緒に旅をすることだ」


「「え?」」
 モントと声が被った。リックはこう言うことを理解していたようだが、モントは全くの盲点だったようで三日月型の短刀を研ぐ手をうっかり止めてしまっていた。
「ス、スターノ。それはどういう………」
「どうもこうも、そのままだ。よくあるだろう、金がないからタダ働き、というわけだな」
 ちょうど部屋も空いているしこれほどいい案はない、とスターノは満足気だ。
 しかし、ライラは不安な点を抱えずにはいられなかった。
 まず一に、親が帰ってきたときの心配。そして、男たちの中に一人混ざる不安。
 でもだからと言ってやめてしまっても問題は残る。いったいどうすることが正解なんだろうか……
「不安か?」
「え?あ………」
「試しに、というのもいいんじゃないのか。だいたい、お前のようなチビが我が飛行船に入っても、誰も襲うようなやつはいないぞ」
「えっ!?そ、そりゃそうに決まってます!」
「それなら問題はどこにもないだろう。親には『魔術の修行に行く』と役所の掲示板にでも貼っておいたらいい。ほら」
 スターノは遠くに見える辛うじて崩れていない役所の掲示板を指差した。
 確かに、それがいいかもしれない。それに、問題は早く片付けるのが一番だ。
 スターノのいうとおり、ここはついていっていち早く報酬を支払うべきかもしれない。
「も、もし一緒に旅をしたとしたら………どのくらいで支払えるんですか」
「ざっと5ヶ月くらいだな」
 5ヶ月、か………。と、ライラは考えた。そのくらいなのならば、全然平気なんじゃないか?むしろ、小旅行くらいに思っていてもいいのでは?
 その思考が、ライラの次の発言を促した。

「私、皆さんについて行きます!」

「…………」
 ふと見ると、またモントの手が止まっている。どうやら、先程から自分の身の回りで起こっている目まぐるしい状況変化に精神的に追い付けていないようだ。
「そうか。ならば決まりだな。荷物は……大事なものだけ纏めてこい」
「分かりました……」
 あぁ、そうか。この人たちについて行くということは、街に別れを告げるということなんだ。今更になってその事に気づいた。
「ほら、新入り。早く行ってこねぇと、もうαが来てるぞ」
「え、あ、α……?」
「なんだ、お前知らないのか。上、見てみろよ」
 モントに言われるまま、ライラは上を見た。
「おーい、そこのお嬢さーん!α号はこっちだぜ!」
「………………!!!!!!!!」










 ____声がした方を見れば。
 そこにあったのは、ライラにとっては大きすぎる新しい世界への扉。
 扉の名前は《飛行船α》。

 
「ようこそ、新入り!」


 きっとこの胸の高鳴りは、ときめきは、ざわめきは、きっと。
 新世界への期待以外の何者でもないんだろう。
 そう思いながら、ライラは目の前の大きな飛行船の前で動くことができなかった。

後書き

コメントなど、お待ちしております!

この小説について

タイトル 飛行船αの上空紀行
初版 2015年12月30日
改訂 2015年12月30日
小説ID 4744
閲覧数 408
合計★ 3
七宮 睦月の写真
熟練
作家名 ★七宮 睦月
作家ID 981
投稿数 10
★の数 51
活動度 1093
拙い文章ですが、楽しんでいただけると嬉しいです

コメント (1)

匿名 2016年1月24日 18時05分41秒
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。