飛行船αの上空紀行 - 飛行船αの上空紀行

「へーっ!βの出身じゃないのか!!」
「あ、は、はい。γ皇国の小さな民族の生まれで……この髪色も民族の特徴なんです」
 ライラがそういうとレジは興味を持ったようで、近くによってライラの髪を観察し始めた。
「う、あ、あの………」
「あーもう、レジ!!ライラちゃんが困ってるから。はい、終了」
「うぐっ、苦しい………」
 ここは飛行船αの内部。元依頼人のライラを乗せて、街θから遠く離れた上空を浮遊している。
 飛行船でただでさえ重そうなのに、ワイナリーもあるし暖炉もある。大丈夫なんだろうか。落ちたりしないのか。
「ん、何だお前。もしかして落ちないのかとか思ってんのか?」
 レジはそう呆れたような顔をして、ライラの顔を見ながら言った。
「このα号は俺が設計し作った第2号。天才の俺が作り出したα号が落ちるわけないだろ」
 ふふんと胸を張っている。
「あ、あの………」
「ライラ、待たせたな」
「ライラちゃんっ、お兄さんたちとお話ししよ?」
「その言い方やめろ」
 台所から茶菓子を持ったリックとスターノが出てきた。
「すまないな、こんなことになってしまって………まぁ、後先考えなかったお前もお前だが」
「いいじゃんいいじゃん。皆面白いし楽しいから、5ヶ月後には離れたくなくなってるかもよ?」
 でもお母さんの方が恋しいのかな、とリックはクックッと笑った。
「ねぇ、ライラちゃん」
 突然フェリーが口を開いた。
「は、はい」
「今日のモンストロの出所……心当たりない?」
「で、出所……ですか?」
「そう。出所。あれだけのモンストロを寄越してくるなんて相当の財力を持っていないと」
 ライラはキョトンとした。
 モンストロを“寄越す”?どういうことだ、モンストロは野生の獰猛な生物のはず。なのに、今フェリーは何者かがモンストロを街に寄越していたような口ぶりだった。
「フェリー」
「……あ、すみません」
「良いんじゃねぇの、スターノ。ライラちゃんも臨時とはいえギルドの一員な訳だし、隠し通すなんてできねぇだろ」
「俺もモントに賛成だな、きっと役に立ってくれるだろうし」
 スターノはそれを聞いて、少し困ったような顔をしてから浅く頷いた。
 どうやら、この話題のゴーサインが出たようだ。
「ライラちゃん、これは普通に暮らしている人たちは絶対に知らないんだけど………」
 ライラは、自分のその耳を疑った。
 王国βが造り出す黒いセムを持ったモンストロと、それを飼い慣らす特殊部隊の存在。目的不明のそのプロジェクトは、実験台として多くの街や村を犠牲にしてきた。
 そんな街をなんとか救うのも最近飛行船αは仕事(ほとんど慈善活動)にしているらしく、王国βの話が聞けるかもしれないと思い、ライラにも反射的に訊いてしまったようだ。
「極力ライラちゃんの身に危険が及ばないようにするけど」
 万が一の事も考えておいて、とフェリーはすごく申し訳なさそうに言った。
「あ、いえ、良いんです……そういうことも、考えていたので………多分」
 多分。それは凄く不安定な言葉だった。ライラが自分の爪先を見つめながらその言葉を呟くと、レジが何か言いたそうに少しだけ身を乗り出したが、すぐに元に戻った。
「そっか」
 それだけ言って、フェリーは茶菓子のビスケットをかじった。
 飛行船内に沈黙が流れる。暖炉の火が小さく燃え、パチパチと薪の焼ける音がした。
 暫くして、スターノが口を開いた。
「今日はもう遅い。各自寝るなり好きなことをするなりするといいな。ライラの部屋はあの通路の突き当たりにある。明日から色々なことは教えるから、覚悟しておけ」
「あっ、はい!」
「んじゃ、俺は寝るからな!おやすみ!」
「えっ、レジ!?」
 フェリーは談話室から出て自分の部屋に向かっていくレジの背中をじっと見た。
「………………」
 いつもなら遅くまで談話室でホットミルクを飲みながら皆に頼まれた機械を作っているのに。今日はどうしたっていうんだろう。
 でも。答えは大体分かっているんだ。それはもう、ライラ以外皆分かっている。それでも、誰も何も言おうとしなかった。
「……さて、俺も寝ようかな。明日は隣街のηで買い出しでしょ?俺も狩りがあるからね」
「そうだな、俺もそうするか」
「じゃあ僕も………おやすみ、ライラちゃん」
「あ、はい、おやすみなさい…………モントさんは……」
 モントにも尋ねようとしたが、既にその姿はもう談話室にはなかった。
 仕方ない。皆寝てしまうようだし、とライラは席を立った。
 その夜、疲れが相当溜まっていたのか、ライラは通路の突き当たりの部屋で横になって少し目を瞑ると何かに誘われるように眠りへと落ちていった。
 遠くの方から美しい声と繊細な音色がララバイを奏でていた。



「お、はようございます」
「おはよう、ライラ!!………って、その頭何だよ!?」
「頭、ですか……?」
 起床早々、レジは目を疑った。ライラの頭が大爆発を起こしているのだ。長い薄紫の髪はあちこちに跳ね回ってまるで蛇、後頭部に至ってはまさしく鳥の巣。
 レジは暫く絶句していた。
「二人とも、おはよ………って、その頭何!?これはすごいなぁ………」
 次にカフェテラスにやって来たリックも、現代美術のようなライラの髪に驚いている。
「わ、私の髪昔からこうで………お二人は、櫛とか持ってたりは……」
「ないな!ていうか、そんなの必要か?」
「ごめんねー、俺も。自慢じゃないけど、手櫛で全部済むから。レジの場合は、元々天パで朝は爆発起こしてるけどフードで直るやつでしょ?」
「お、そうかもな!!!!」
「……………」
 羨ましい限りだ。
 ライラの髪の毛は酷い癖っ毛で、朝は櫛が手放せない。しかし、昨日飛行船に上がってくる準備をしていたときに、目の前の事のインパクトが強すぎて癖っ毛という重大な問題を見落としていたのだ。何てことだろう。
「今日の買い出しの時に買いにいけばいいだろう」
「わっ、ス、スターノ!!!!」
 リックの背後に、腹を抱えたスターノが立っていた。
「早かったね……?」
「どうしたんだよ?お腹なんか抱えて」
 レジが珍しく気を利かせて朝食のパンを配りながら言った。
「何処かの誰かのせいで腹が痛いんだ」
 そう言いながらその目はしっかりとリックを見ている。
「いやー、あれはさ?ほら、その、疲れてるスターノを癒すためっていうか……」
「そのお陰で俺はさらに疲れたぞ」
「すみませんでした……」
 リックを諭しながらスターノはレジからパンを受け取り、飲みかけのコーヒーカップに手を伸ばした。
「そのカップ、リックさんが何か入れてたけど、スターノさんのだったのかよ!!」
「えっ、レジ!?見てたの!?」
「………………リック、お前また余計なことを……!!」
 反省してるからと叫びながらリックはスターノの制裁を受けた。
「ライラ!」
「え、は、はい?」
「リックさんがくれた食べ物を無闇に貰うなよ?十中八九腹を壊す!」
「そ、そうなんですか……」
 なんだかリックが可哀想になるライラだった。しかし、腹を壊したくはないし。よし、食べないようにしよう。
「さ、早く着替えてきなよスターノ。その格好で行くつもりじゃないでしょ」
「勿論だ。どうせお前は街娘をナンパしたくてうずうずしているんだろう?その前にフェリーとモントを起こしてこないとな」
「じゃあ俺が起こしてくるよ。スターノは着替えて。レジも降りるための準備とかあるでしょ?ライラちゃんに男の寝姿は見せられないしねー」
 いつものようにクックッと笑って、リックはカフェテラスから出て行った。
「はよー」
「あれ、モ、モントさん」
「モントさん、おはよ!!!今、リックさんがあんたのこと起こしに行ったぞ!」
「え、マジで?良かった……」
 モントは席につきながら安堵の息を漏らした。
 そして、レジのパンにかじりつきながら
「あいつに寝姿見られるとか俺のプライドが許さねぇし」
と言った。
「リックさんのこと、その……き、嫌いなんですか?」
「…………」
 モントは暫く黙ってライラの方をじっと見た。そして前に向き直り
「………別に、嫌いじゃねぇよ。考えが一致しねぇだけだ」
 またパンにかじりつき始めた。
 モントはもう既に着替えていて、いつでも出発できる格好だった。
「俺も一つライラちゃんに聞きたいことがあるんだけど」
 モントは自分の人差し指を空中で少し遊ばせて、そのままライラの頭を指した。
「その頭、どうしたっての?」
「………櫛、持ってませんか?」
「持ってねぇよ、俺そんな風に爆発したりしねぇし」
「ですよね……フードで乗りきることにします」
「あっそ」
 そう言うとまたパンにかじりついた。一口がちまちまと小さいので、食べ終わるのに時間がかかりそうだ。
「ほい、いつものだ!フェリーが冷蔵庫に作っておいたのを温めたぜ」
「おー、ありがとな」
 台所からレジが出てきて、白いマグカップをモントの前に置いた。その中にはトマトのスープが入っている。
 それを受け取ったモントは、パンを大きめに千切り、スープに浸けて食べ始めた。
「おはようー」
「お、寝坊助!やっと起きたか!」
「リックさんに起こされなかったら、僕ずっと寝てるところだったよ」
「そうそう、モントも部屋を見たんだけどいなくて………って、モントいるじゃん」
「おはよう女たらし、今日も元気にナンパに励むんだな」
「そうさせていただきますけど、なにか問題でもー!?」
 フェリーもやってきて、カフェテラスも相当賑やかになった。
 暫くして全員が食べ終わると、スターノが服を着替えて戻ってきた。
「……全員いるようだな、そろそろ降りるとするか。レジ」
「昨日から準備は万端だぜ!」
 そう言うとレジはカフェテラスの隣にある談話室の隣にある操縦室の隣にある《機械室》の中に入っていった。
 機械室は、操縦室とは違い、無数の歯車とハンドル、パイプなどが要り組んでいる。しかも、そこは他の部屋とは違い床が飛び出ているところ以外は地下に吹き抜けているのだ。操縦室の床の延長線のようなところも案外広く構えられており、腰ぐらいの高さの柵が張られたそこでレジはいつも機械の制御をしている。
 ライラが走り出した彼を追いかけると、彼は白い石で床に円を書いていた。最後まで書くと、息を吸ってボロボロと《声》を零し始める。
 ____まるで零れていく《声》がレジの周りで弾けていくような気がした。
「凡ては上から下に流れ落ち、汝は円の中に収束する。理に逆らえ。統べよ。祝福を持たらせ___地上へ」
 述べている間、レジはいつもの陽気で滑稽な顔を何処かに置いてきてしまったように見えた。真剣な眼差しを何もない目の前の空間に向けながら、ただその言葉を零していた。
 そんな思考も、そのあとの強大な機械音で掻き消されてしまった。
 レジの言葉の後に先程まで稼働していなかったであろう歯車までもが動きだし、それと同時に飛行船全体が下がっていく感覚がした。
「………さ!」
「!!!!」
「何驚いてるんだよ?あ、そうだ、ライラに櫛ってやつを買ってやるよ!わぁ、久々の壊れてない街だな……!!!」
「……そうだな、まともな街だ」
 スターノが微笑みながらレジに応えた。
「そんなこと言って、また『古代文明だ』とか叫びながら迷子になるなんてこと、勘弁してよね!」
「……ふっ、あ、あのときは本当……ふはっ、色々と勘弁しろよな……っ、ぶはぁっ!思い出しただけで腹痛ぇ!!」
「女の子も逃げちゃうしさぁ……てか、モント。おい。笑いすぎ」
 飛行船内がだんだん騒がしさを取り戻していったところで、今度はスターノがコンッと一回長杖で床を叩いた。不思議な波動がそれを中心に拡がっていくのがよく分かる。
(………凄い、皆こんなことが出来るんだ……格好いいな…………)
 ライラは何故か一人だけ取り残されている感覚に陥った。5ヶ月しかいないのだから、別にライラが強かろうが弱かろうが関係のないこと。一体どうしたというのだろうか。


 ガタンッ!!!!


 その時、飛行船が何かに固定されるような音がした。
「さぁ皆、街ηに着いたぞ。いつも通り、飛行船の姿は消してある。日が沈む頃には必ず帰って来いよ」
「了解!」
 そう言って、飛行船αの乗組員たちは街へと繰り出していった。

 ___これは、まだほんの幸せな日常の入り口に過ぎず、更にそれが終わりを告げて新たな幸運か不幸かも分からない世界に足を突っ込んでいくのを、まだ誰も何も知る由もないのだった___

後書き

 皆さん、今回も読んでいただき、誠にありがとうございます。
 何しろ言語力が足りない上に初心者なものでして、投稿が遅くなってしまい申し訳ないです……
 不束者の私ですが、どうぞこれからも読んでいただけるととっっても嬉しいです!
 感想、アドバイス、諸々待っています!勿論、誹謗中傷はやめてくださいね。それ以外は大歓迎です!

この小説について

タイトル 飛行船αの上空紀行
初版 2016年1月18日
改訂 2016年5月14日
小説ID 4749
閲覧数 458
合計★ 3
七宮 睦月の写真
熟練
作家名 ★七宮 睦月
作家ID 981
投稿数 11
★の数 55
活動度 1193
拙い文章ですが、楽しんでいただけると嬉しいです

コメント (2)

匿名 2016年1月24日 18時06分41秒
JIANBIN0105 コメントのみ 2018年1月5日 11時12分41秒
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