―ニシキゴイ―

死神。
人はそれを聞いて何を想像するだろうか。
死を司る神、
人の命を刈り取る者、
色々あるだろうが、大体において正確ではないだろう。

彼ら、或は彼女らは死を「管理」するのであって、むやみやたらに死を振りまくことはしない。
むしろ、死ぬべきではない命を助けることも往々にしてあるのだから・・・

―――
「く、くるなあ!」
「・・・はあ」

一人の少年は、学校の屋上のフェンスを越え、一歩足を踏み外せば地上へ真っ逆さま、そんな危険な場所にいる。
落ちれば、まず、助からないだろう。
その状況で、じり、と後ろ足を生と死の境界線を踏み越えるギリギリまで近づける。
対して、もう一人の少年、彼は、中途半端に手を出して、何とか対面の少年を死の淵から引きあげようとする、が、うまくいかないようだ。

「ぼ、ぼくは、もうだめだ、もうだめなんだよおお!!」
「ま、待て、落ち着けって・・・」

何とか引き留めようとするも、全く聞く耳持たない様子。
何が少年をそこまで駆り立てるのか、その理由の本質を知らずとも、一端を知っている彼はため息を禁じ得ない。

「先輩、どうすりゃいいってんですか、俺には無理っすよ・・・」
ぽつりとつぶやくその言葉を、恐らく近くで様子を見ているであろう先輩が聞き逃すはずもないであろうに、それでも先輩とやらは一向に出てくる気配はない。

「と、とりあえず、危ないからフェンスからこっち来いよ、な?」
「う、うるさい、うるさい!!!」
「・・・はあ」

正直、めんどくさい。この少年と彼は友達でもなければ、実は一切面識もない。ここに来て、今日この時初めて会ったのだ。

そりゃあ、人に死なれちゃあ寝覚めが悪い。

だが、彼か少年を助けようと、正確に言えば死なないように努力している理由、それは、「仕事」だからである。

「どうすりゃいいんだよ・・・」

初「仕事」である彼は、どうすれば上手くいくのか見当もつかない。
先輩には、
『出来るだけ相手の感情を動かして』
と言われたが、見ず知らずの他人の琴線にどうやって当たりをつけろというのか・・・
全く見当もつかない。

それでも・・・

「やるしかないんだよな・・・」

気を引き締め、彼は、

「えーと、何か、好きなことは?」
「す、好きな『子』だとお!この前告白して振られたんだよおお!!」
「・・・いや、そういう意味で言ったんじゃないんだが・・・て、聞いてないな・・・」

彼の言葉に少年は錯乱し、髪を振り乱し、
そして・・・

ガシャン!!


「・・・あ」
「う、うわあああ!!!」

フェンスが外れ、少年は真っ逆さまに落ちていく。
彼は焦って駆け寄ろうとして・・・

「・・・クン、落第点ね」
「!?先輩!?」

黒い一陣の風が吹いたかと思うと、髪の長い一人の少女がその可憐な容姿には似合わない、漆黒の鎌・・・まるで死神が持つような・・・まあ、実際そうなのだが・・・を使って、泡を吹いて気絶している少年をひょいと救い上げた。鎌の先端には、何故が魚が串刺しにされている。

「こころの揺さぶり方は良かったわ。おかげで似死期鯉は釣り出せた。でも、対象を危険にさらすのはまだまだね。30点て所かしら?」
「・・・すみません・・・」

少年、そして少女の「仕事」
それは、死の管理。
死ぬべき人を冥界へ導き・・・
逆に、死ぬべきでない人、まだ若すぎる人の死因を取り除き、現世でその時まで生きていけるようにすること。

それが「死神の仕事」

今回は、冥界から逃げ出した「似死期鯉<ニシキゴイ>」の捕獲と棲み憑かれた人の救助。
似死期鯉とは、見た目は真黒な鯉で、人の心に巣くい、憑かれた人の心を死へと傾かせる。
そして、自ら死を選ばせ、余剰のエネルギーを喰い、成長する。
本来はあきらめの悪い亡者に対して使う刑罰や一種の説得に使うものなのだが、一匹逃げ出し、現世へ迷い込んでしまったらしいのだ。
この似死期鯉を捕まえるには、憑かれた人から引っ張り出す必要があるのだが、心の奥深くに棲み付かれると、死神でも引っ張り出すのは難しい。
こころを揺さぶることによって、波で魚が打ち上げられるように似死期鯉を手の届く場所まで引きずりだし、出てきたところを鎌で一突き。捕獲するわけである。
ちなみに、霊体ゆえ鎌で刺されても核を壊されない限り死ぬことはない。

「ま、これから要勉強ってところかしら?帰ったらビシバシ鍛えるから覚悟しててね?」
「・・・はい」

これから自分の身に降りかかる「勉強」に暗澹とした気分になりながらも、少年は頷くことしかできないのであった。

こうして今日も死神たちは仕事を続ける。
誰にも本当の姿を知られることのないままに・・・

〜了〜

この小説について

タイトル ―ニシキゴイ―
初版 2016年9月11日
改訂 2016年9月11日
小説ID 4811
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teiwazの写真
ぬし
作家名 ★teiwaz
作家ID 1049
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活動度 3463
はじめまして。teiwazといいます。
思いついた作品を思いついたときに投稿しますので、よかったら見てみてください。
これからよろしくお願いします!

尚、小説のタイトルと紹介文は必ずしも小説の内容全てを表しているわけではありませんのでご注意下さい。

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