今週の目標

――金曜日、放課後。
生徒会室。


「ねー、副会長。来週の『今週の目標』どうしようかー? アイデアある?」
「廊下を泳がない」
「誰が泳ぐの」

「泳ぎ魔とグレート泳ぎ魔」
「不審者が対象の目標を作らないで」

「あと北島康介」
「あの人はそんな特殊練習しません!フツーのメダリストです!」
「フツーのメダリストってなんか変な言い方だなあ」
「副会長のフォローでいっぱいいっぱいだったの、文句言わないでよぅ。あと真面目に考えて」
「そうはいっても『今週の目標:廊下を走らない』なんてのはもう飽きただろう、会長も」
「んー。確かにイベントの時はいいんだけど、何もない時期はありきたりのばっかりで飽きたかも」
「だからたまには意表をつくような目標にしてみたいのです!」
「そうかな?」
「そんな私の切なる願い、届け近所の駄菓子屋へ!」
「なぜ駄菓子屋?!」

「……いちいちリアクションとかツッコミとか忙しい生徒会長だ」
「そう思うんならいちいちボケないでくれる?」
「無理無理」
「……」
「で、何の話だったか。ああ、会長は何かいいアイデアとか無いですか?」
「え? え、もともと私はそういう変な目標にしようとは思ってなかったから……」
「ぬうう。そういや他の生徒会役員はどうしたんだ、誰も来ないけど」
「今日は集合かけてないよ。皆、部活あるし、どうせすぐ終わるからいいやと思って」
「ああ、まあ、行事のない時は5分くらいでパッパと決めてぐだぐだするだけだったし」
「じゃあ今日のところも普通のにして来週……」
「否!」
「否?!久しぶりに聞いたその否定法!」
「どうせ私は家に帰っても暇なのでガッツリと考えて時間潰しをしたいんだよ、会長」
「私的すぎる理由が最高」
「会長は早く帰りたいですか?」
「んー、んー。真面目に考えてくれるなら付き合うけど」
「ツッコミ確保」
「帰る」

「ちゃんとやる。やりますから」
「……本当?」
「私は副会長です。新撰組でいえば土方ですよ?!」
「土方に謝って」
「ええ、謝りましょう。土方殿っ、同じ副長の身として不甲斐なき事、申し訳ござらんっっっ! かくなる上はそこな娘御を斬った上で切腹いたーす!」
「何で私を斬る流れに!」
「…………」
「副会長?」
「……副会長じゃねえ。今はこのオレ土方歳三が副会長の体を借りている。奴の魂がオレを呼び寄せた。死にたくなけりゃ副会長と今週の目標を考えろ」
「ダメ土方!
ファン辞める!」
「天誅ー!」
「いやー! ごめんなさい、ファン辞めない、目標も考える!」
「よし、それでいい。近藤さんに負けない立派な武士になるんだぜ?」
「私、女なんですけど」
「大丈夫だ。今、戸籍を書き換えた」
「余計な事しないで下さい!」

「はっはっは! じゃあな。副会長を大事にしろよ。主に金銭面で」
「それは賛同しかねます。もういいから早く冥界に帰って」

「……。ということで土方副長のご助力(脅迫)により会長の同意も得られました。ありがとう歳さん!」
「もう、わかったよ。しょーがないな副会長はー、ふふふっ」
「ははははっ、じゃあテンションも上がったところで早速考えましょう」
「基本的に意味がわかんないのは却下で」
「そうだな、まずは改めて既存のモノを思い出してみよう。先週は『廊下を走らない』」
「他には『掃除をしっかりする』『忘れ物をしない』『遅刻をしない』『ゴミをポイ捨てしない』『身なりをきちんとする』『挨拶をきちんとする』『手洗いうがいをする』とか、内容が小学校並みだよね」
「しかもそれをローテーションで使ってるのが情けない」
「でも目標決めるだけ決めても誰も気にしないのわかってるから考えても無駄かなーってのもあるし」
「だからこそ嫌でも気になる目標にする必要があると思うのだよ、会長」
「確かに『廊下を泳がない』は気になるけど、どうすればいいのかわかんないんじゃ結局意味ないよ」
「でも例えば『小林は権田原だ』とかはどうすればいいかわかると思う」
「いや全然わからない。そしてその自信に満ちた断定は何」
「小林は権田原なのだという事を定着させることが目標」
「で、何か意味あるの」
「小林イジメ」
「絶対ダメー!」

「そうですか」
「そうです」
「うーん、『蚊に刺されても掻いちゃダメ掻いちゃダメー』」
「CM?」
「あ、いいの思いついた」
「何?」
「『禁煙』」
「当たり前でしょ!」



――。


「いろいろ出してはみたが、考えようと思うと意外と難しいものだな。こうなればいっそのこと『お前らが目標考えろ』という目標は」
「投げやりすぎて私たちがリコールされそう」
「確かに」
「副会長が変な方向に考えるからこのままじゃ一生終わらないよ。もっと皆が気になるプラス自発的にやってみようと思う感じのがベストなんだよね」
「おお、なるほど。さすがは会長。じゃあ『非常ベルの音が変わったらしいよ』で」
「らしいよってあたりがそそられるけどそういうの本当に駄目だから。それ以前に目標じゃなくてただのガセネタだし」
「『うめぼし食べたら元気出た』」
「え? それは報告?」

「疲れた時に思い出して欲しいクエン酸の標語みたいな? 自分で言っててよくわからないですが」
「なんか標語ですら無いと思うけど、でも個人的にはそれすごく好き」
「会長、意外と変わった趣味してるな」
「副会長に言われたくない。あ、どうしよ、どんどん可笑しくなってきた。今週の目標で、うめぼし食べて元気出ちゃって、アナタもいかがクエン酸? なんて、ぷっ、うふふふ、あははは♪ やだ、可笑しいよー」
「……」
「あはははは♪ やん♪ うめぼしはこんなに食えん酸、あはは、あはははは♪」
「あ、あの、会長……」
「決定! それでいこう!」
「会長が壊れた!」

「きゃー♪ あはははははっ♪ はっ、はっ、あ、お腹痛い。ちょっと休ませて、くふっ、ふ、ふー、ふー」
「……」
「はー、はー、やっと落ち着いて来た」
「『元気出た』」
「いやっ、やめて、はぁ……やめて副会長……」
「なんか、このへんの会話だけ誰かに聞かれたら私は逮捕されるんじゃなかろうか」
「はー、はー、逮捕されちゃえ……うめぼし罪でシソ漬け3年の刑。ぷふっ、いやー! もう本当にやめてよ副会長ー!」
「何も言ってません!」
出所したしわしわ赤ら顔の副会長……。あはっ、げほっげほっ、また、お腹痛い、助けて……」
(ここで『パク・ヨンハ』と言ったら『元気出た』と語感が似てなくもないとかワケわからん理由だけで笑いだしそうだな。言いたいけどやめよう、殺人罪になりかねん)
「ほら、会長。そろそろ本当に考えないと下校時刻になってしまう」
「うー……、うん、でも本を正せば悪いのは副会長なんだからね……」
「ごめん。それがそこまでウケるとは思ってなかったもので。むしろ禁煙の方が自信作だったくらいなのだが」
「あれはちょっとストレート過ぎー。インパクトあるけど」
「ならば次からは会長の笑いのツボを的確に突けるよう精進しよう」
「是非とも精進して」
「ん? 精進していいのか?」
「面白いのは歓迎するよ。ただ、真面目に目標も決めないと、さ」
「そうか。じゃあ両方精進する」
「うん。あー、笑った笑った。こんなに可笑しかったの久しぶり」
「会長、他の役員がいなくて却って救われたなあ。あの姿見たら普通の人は引きますよ」
「唯一居合わせた副会長は普通の人じゃないしね」
「どうもそのようで」
「あ、他の人には言わないで。『うめぼし会長』って言われたくないから」
「はっ。他言無用ですね、うめぼし会長」
「呼ばないでって! ひどいな、シソ漬け副会長」
「ははは、なんかやたら酸っぱそうな生徒会に」
「いいんじゃない? 生徒会の提案にみんなサンセイだよ」
「おお、うまいこと言うね、会長」
「副会長にばっかり面白い事言われてちゃ会長の名折れだからね」
「では私も他言しない代わりに今の、会長に面白い発言で先を越されたというのは他の人に言わないで頂きたい」
「交換条件ってこと?」
「うむ」
「いいね、それ。お洒落な感じ」
「交換条件って、お洒落……か?」
「いいの、お洒落」
「はあ。ではそういうことに。ともかく契約は成立、と」
「うん」

――ピーンポーンパーンポイー。

「下校時刻になりました。下校時刻にカエルが帰る、ゲコーゲコー。なんつってなんつってー」



「あ、下校時刻になっちゃった……。結局、決まらなかったねぇ」
「あらら、参った。私がアホすぎたばっかりに」
「でも楽しかったからいいや。ね?」
「そうだな、やはりクリエイティブな事は楽しい」
「うん。……あっ! 私、お母さんから帰りに買い物頼まれてたんだ。すっかり忘れてた」
「あー、そりゃ、時間とらせてしまってすまなかった。ごめん」
「いいよいいよ。じゃ、私、先に帰るね。鍵お願い出来る?」
「はい。それじゃまた来週」
「ありがと。じゃーね、また来週ー」

――。





(今週の目標『会長を思いっきり笑わせる』はギリギリ金曜日で達成、と)


(来週はどうするか……。うーむ……私が悩むとは……)


「……ふむ」


(ああ、そうだな。もう回りくどい事はいいだろう。来週の目標は『会長に告白をしよう』だ。それがいい)


(これは青春と言うのだろうか。やれやれ……こんなにめんどくさいものだったのか)


(会長……)


「……。さて、私も鍵を掛けて帰るとしますか」




――そうして今日も日は、暮れる。



後書き

学校でよくある『今週の目標』ってワンパターンでつまんないよなあ、と会社研修中に社訓や行動規準を見ててふと思ったので書いてみました。
生徒会長を吐き気がするくらい可愛いキャラにしてみたつもりだけど頭は大丈夫なのか、この人。
副会長は私が普段よく書くキャラに近かったので、扱いやすくて楽でしたが。
最初は漫才にしようと思ったんですが、書いてみたら単なる普通の会話になりまして、これはこれで笑いよりも読者の心が和む方に作用すれば成功かと。
たぶん彼らは中学生かと思いますがよくわかりません。読者個人の自由で脳内設定して下さい。ウィーンウィーン。
ちなみに梅干しは酸性ですが食べるとアルカリ性になります。あしからず。

:後書きハードボイルド 第二回(前回は市長と秘書第82回に掲載)

――男はフラメンコを踊っている婦人を張り手でふきとばし、コーンスープを飲んでいるもろこしハゲの少年を地獄車で投げ飛ばしたところで目が覚めた。
夢を見ていたらしい。
「懐かしい夢を、見ちまったな……」
感慨にふけったのも束の間、周囲を見渡すと港の倉庫街であった。
と、そこへ
「オッス、オラ悟空かと思ったらヤムチャだったぞ」
ゴスゴスゴスゴスゴスゴキーン。
いきなり現れたあからさまな不審者をマッハパンチでぶちのめし、海に投げ込んだ。
奴らのカモフラージュかもしれないからだ。
男は時計の無事(壊れたまま)を確認すると、気が抜けて腹が鳴った。
”ピンポーン”←腹の音
「腹減ったな……。何か食うか」
そう言った時、男の目の前に都合良くバームクーヘンが飛んできた。

バームクーヘンの運命やいかに!
次回へ続く。

この小説について

タイトル 今週の目標
初版 2005年4月17日
改訂 2005年4月18日
小説ID 482
閲覧数 7875
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ビビンバ吉田の写真
作家名 ★ビビンバ吉田
作家ID 3
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