ドラゴンの流儀 - ドラゴンの流儀 その5

第5話 ドラゴンの逆鱗

「・・・で、何用かな?」
目の前に座る、アンビ・ツィオーネ子爵がこちらを見下した態度で聞いてくる。

ここは、王城の一室。先ほどの王女との作戦会議後、最重要容疑者・・・まあ、王家子飼いの諜報員の調査ですでにクロだと思われてたらしいが。逐一宝珠の場所は監視し、泳がせ、こいつが手に入れた時、取り押さえるつもりだったらしいが・・・微妙に予定が変わったため、我が対峙し、自白を引き出すことになった。

「これに見覚えがあるだろう?」
「・・・!?」

我の貴族を何とも思わない態度に眉をしかめるも、宝珠を出した途端、ツィオーネ子爵の目が驚愕に開かれる。


「あ、ああ・・・確か、国宝の一つだったかな?」

飽くまで知っていることは知っているが、それは知識として。
自分は窃盗に関与していないとシラを切るつもりのようだ。

「で、これも知っているな?」
「・・・?なんだ、それは?」

もう一つ、我のスキル<アイテムボックス>に収納された食べかけのケーキを出すが、こちらはやや反応が薄い。
こっちの方が重要だというのに。

「知らないとは言わせない。貴様らが盗みに働く隠れ蓑に使った、金貨一枚のケーキだ」
「・・・ふ、ははは」
「何がおかしい!!」

ケーキを嘲笑するツィオーネに頭に血が上るが、それを意にも返さず、

「ふ。俗物が。つまり、お前は金が欲しいのだろ?」
「なに?」
「隠さずともよい。何を勘違いしているのか知らないが、その宝珠を私が盗んだとでも思い、それをばらされたくなければ金を払えと、そういうことだろ?」
「・・・」
「ふ、図星か」

呆れてモノが言えないとはこのこと。
我が黙っているのを勘違いしたこいつは、饒舌に言葉を並べる。

「まあいい。金ならくれてやる。だからそれをよこせ。私が陛下にお返しする。犯人は、私が責任をもって見つけ出そう」

いや、犯人お前だから。

「で、いくらだ?そんなくだらない金貨一枚のケーキゴトキを持ち出すのだからどうせ・・・」
「・・・ケーキごとき、だと?」

先ほどより、我の怒気が強くなり言葉の途中で詰まるツィオーネ。
だが、我に返り自分が気圧されたのが余程気に入らなかったのか、余計に傲慢な口調になる。

「あ、ああ。所詮はした金のそこら辺の民が食べる菓子ゴトキどうでもいいではないか」
「貴様!食い物は人の重要な糧。糧がなければ民は飢えることになる。それでもいいというのか!!」
「ケーキ一つで大げさな・・・だいたい、民が飢えようが何しようが構わん。あれらは勝手に増える。ただ税だけ搾り取れば・・・!?」

「民が飢えても構わない、だと?」
「あ、あが・・・」

我のいらだちは最高点に達し、<竜気>がにじみ出す。
その気に中てられたのか、ツィオーネは呼吸すらままならない。
だが、先ほどの奴の言葉に怒気は収まらず、瞳孔は縦に裂け<竜眼>が顕現し始める。
皮膚にも<竜鱗>が浮き始め、人化の制御が怪しくなってくる。

民が飢える。

そのキーワードを耳にして怒り狂う我は、その理由であるとある出来事をようやく思い出していた・・・

―――
それは、まだ我が人を<人族>と呼んでいたころのこと。
気まぐれに助けた娘の村を少しの間守護することにした時のこと。
その娘は、年は10、11ほどで、下に3、4歳の小さな弟がいた。
両親は流行病で亡くし娘自身も病で体調は思わしくなく、日々裁縫などで食い扶持を稼ぎ、他の村人から食料を分けてもらい何とか過ごしていた。
容姿はこれといって良くもなく、悪くもなく。
一般的な村娘そのものだった。
我は守護竜として崇められ、村からの奉納をその娘から日々届けられていた。
我がいることで魔物は寄り付かず、我を連れてきた形になる娘は感謝され、こうして奉納品を我に届けるだけで食べ物を今まで以上にもらえるようになったと喜んでいた。
これで、弟も空腹を感じずに済むと笑うその笑顔はなかなかに可愛らしかったことを覚えている。

毎日我に奉納品・・・主に食い物だが・・・を届け、たわいのない話をする。
食い物はお世辞にも豪華とは言えず、会話も同じような内容だったような気もするが、それでも何か満たされるものを感じていた。

人族とは・・・人とは不思議なものだ。
竜種は基本的に個を好む。群れを作るのは弱い者の証だと。
一頭でも生きていくに十分すぎる力があるのだと誇示するかのように、頑なに個でいようとする。
我もそう思い今まで生きてきたが、<人>と触れ合ううち、群れるのも存外悪くない、そう思い始めていた。

そんな日々が続き、ある年、我は2、3年ほどうたたねをしてしまった。
竜種にとって、それはほんの少しの期間であった。
ほとんど何も変わらないはず、だった。

だが、人にとって、その時間は長いものであったらしい。
目を覚まし、1日、2日と待ってみるも、娘は訪れない。
あれだけ毎日来ていたというのに。
我が寝ていたから、起きるまで村で待っているのだろうか?
そう思い、村へと降りてみることにした。

「守護竜様!いかがなされました!?」
「ああ、聞きたいことがあってな」
村長、という村で一番偉いらしい人に問いかける。
最近奉納品をもってきていた娘が来ないのだが、どうしたのか、と。

「そ、それは・・・」
何かひどく言いずらそうにする村長は、それでも言わないわけにはいかないと意を決した表情で、

「実は・・・」

我がうたたねをして1年ほどたった頃。
この村、そして、ここの地域一帯を大飢饉が襲った。
魔物の被害は我の存在で起こらなかったが、毎日食うや食わずのギリギリの生活をしている村には十分な備蓄がなく、食料は十分に村に行き渡らなかった。
それでも、竜の巫女であるあの娘には、他よりも多くの食料を渡した。
守護竜である我と懇意にしている娘に何かあっては大変なことになる、と。

だが、娘は、弟に十分な食事を取らせるために自分の食事を切り詰めて。
病弱な自分より、元気な弟を優先したいと。
流行病で両親を亡くした娘は、もう、これ以上肉親を失いたくなかったのだろう。
弟は、まだ物事の判断がつかず、「大丈夫だから、お姉ちゃんはいっぱい食べたから」という言葉をそのまま信じてしまったのだ。
だが、無理がたたり、もともと体が丈夫でなかった娘は、冬を越せず、死んでしまった。
弟が、お姉ちゃんが起きてこない、と村人に伝えに行って、そこで気づいたときには、もう娘は冷たくなっていたのだ。

「・・・申し訳ありません、守護竜様。この責はすべて私にあります」

村長の謝罪の言葉に、我は、ただ一言、

「そうか」

とだけ答えた。
我の竜眼は、真偽を見抜く。この村長は嘘をついていない。
そもそも、人は竜種と違い、寿命が短く、弱く、すぐ死んでしまう。
仕方のないことだ。
気にすることはない。

我は、その事実を聞き、悲しみも怒りも感じなかった、と思っていた。
・・・そもそも、取るに足らない、気にすることもないのなら、竜眼を使う必要すらなかったはずだ、ということにも気づかずに。

実際、そのときの我は、何か言葉に言い表せない何かを感じていた。
今思えば、あれは、寂しさ、だったのだろう。
生まれてこの方、一人で生きてきた我の初めての友人ともいえる娘。
思えば、この時から人族のことを人びとや人、と呼ぶようになった。
同時に、自分の中で流儀とも呼ぶべきものが出来た。
最初の流儀は、確か、

「食べ物は無駄にしない」
だったろうか。

その後、我は娘の弟が一人で生きていけるまで成長を見守り、立派に働けるようになると村を離れ、また放浪の旅に出た。


―――

「・・・」
我が食い物にここまで興味を示している理由。いっそ執着ともいえるこの感情の源泉は、そこにあったのか。

ふと気づくと、ツィオーネ子爵はうわごとのように、

「い、命だけはお助けを!!これは、盟主が命じたことで、私の意志ではないのです!申し訳ありませんでした!!許してください!!」

洗いざらいすべて自白したツィオーネは、集音の魔道具ですべてを聞いていた姫ソフィアの指示で近衛兵に引っ立てられていった。


「ふう・・・」
竜眼・竜鱗ともに収まり、人化の正常な状態に戻る。

「さて、食うか」
先ほど取り出した、食いかけのケーキ。
食い物に罪はない。
最初の流儀を果たすためにも、ケーキのひとかけらも残すことなく、黙々と食い進めていくのだった。

後書き

ドラゴンの過去でした。

この小説について

タイトル ドラゴンの流儀 その5
初版 2016年11月20日
改訂 2016年11月20日
小説ID 4840
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teiwazの写真
ぬし
作家名 ★teiwaz
作家ID 1049
投稿数 33
★の数 29
活動度 3362
はじめまして。teiwazといいます。
思いついた作品を思いついたときに投稿しますので、よかったら見てみてください。
これからよろしくお願いします!

尚、小説のタイトルと紹介文は必ずしも小説の内容全てを表しているわけではありませんのでご注意下さい。

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