RED ARROW - 〜紅の護り人〜1・2

<<登場人物>>

・真琴(マコト)
村を守る、守護者の家系に生まれた少女15歳。
風と話が出来る不思議な子。
・紅矢(コウヤ)
守護者の盾になる少年17歳。
弓の名手。

・白珠(ハクジュ)
風の神様?
真琴と仲良しで、彼女は『しらたまちゃん』と呼んでいる。
戦の時は、紅矢の矢尻に乗る。

・淡河(オウゴ)様
ミヤコの偉い人、紅矢と同じ17歳。
次期天皇と言われている。


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『序章〜遷都〜』

「過疎化した土地を元気にしましょう」
「作業員募集」
「住み込みで働けます」
「資格所持者優遇」

こんな呼びかけが、
政府の広告という名目で国中に流された。

数年前の大災害で、
人々が様々な困難に喘いでいる現状。

動ける者はみんなそこへ向かった。

「急に人が増えたねえ」
「また、宿泊所が建ったよ」
「働き口が増えたのは、良い事だよね」

連なる山脈に囲まれた小さな集落が、
どこも人でいっぱいになっていた。

物資を運ぶ為に森が切り拓かれ、
大きな車が一日に何百台と通り過ぎていく。

「春日さん大丈夫、身重なんだから無理しないで」

車が通る度に、
地震のように揺れる小さな店舗で、
おかみさんが若い店員に気を使う。

「うん、これくらい。平気」

迫り出してきた丸いおなかを軽く撫でて、
春日さんと呼ばれた女性が笑顔で頷いた。

妙に似合うもんぺ姿に、
バンダナの三角巾。

開発現場に一番近いせいか、
作業員のおっちゃん達が日に何度も、
たくさん訪れる。

彼女は笑顔で良く働いた。

おっちゃん達は、
この笑顔も見に来ているのかもしれなかった。


「いらっしゃいませえ」

今日も、
元気で明るい声が店内に響く。

「お早う。煙草ちょうだい」
「はいっ。いつものですね」
「俺の弁当あっためて」
「はあい」

おっちゃん達は行儀良くレジに並び、
仲間との情報交換も欠かさない。

「この先の峠で、昨日崩落事故だってよ」
「マジか。俺、これから通るんだけど」
「南側に迂回路出来たって聞いたぞ」

そんな話を横で聞きながら、
彼女は毎日彼らの無事を祈っていた。

「気をつけてくださいね」

開発は人海戦術で着々と進んだが、
深い山はそれでもなお自然を色濃く残し、
切り立つ岩山は
人を拒んでいるようにも感じた。



数年かけて、
ようやく空港が完成すると、
建設現場用の宿泊所や売店は
順番に撤退していった。

集落は、
元通り静かになろうとしていた。

小さな滝の水音と、野鳥の鳴声が
森の中に吸い込まれるような、
穏やかな時間の流れ。

確かに、
誰の、何の為の開発だったのか、
詳しい説明は無かった。

そして突然の遷都。

営みを始めた
要塞のような山間の大都市。

おとなしいこの国の人々は
大きく騒ぐことも無く、
大掛かりな引越しも
いつの間にか終わっていた。

主要な人々は、
連なる山脈に囲まれた森の
奥深くに造られた新しい都市を
『ミヤコ』と名付けた。

当然みたいな顔をして、
小型の飛行機が離着陸を繰り返すようになり、
ミヤコはすぐに定着したのだった。




『第一章〜村の護り人〜』

「真琴(まこと)。ちょっといらっしゃい」

要塞都市ミヤコの脇に、
もともとあった集落。

若いのにもんぺが似合う春日さんが、
彼女に良く似た女の子を呼ぶ。

「なあに、おかあさん」

真琴は、
伸び始めた髪の毛を
黒いゴムで無造作に束ねながら、
母のもとへ走っていく。

「この子、どうしたの」

春日さんの手のひらには、
怪我をして動けない雀の雛が包まれていた。

「あっ」

しまった、という判り易い表情の後、
真琴は母の顔色を伺いながら説明する。

「こないだの大風の日にね、屋根から落ちてきたの」

上手に隠しておいたはずなんだけどなあ、
どうして出てきちゃったんだろう。

「雀のお母さんが呼んでいたからよ」
「え。そうなの」
「ほら、見てごらん」

言われて見上げた家の屋根。

雨どいの端っこに掴まってうろうろしながら、
心配そうに雛を呼ぶ親雀の姿があった。

「本当。あそこがおうちなのかな」
「多分ね」

春日さんの手の中で、
雛は比較的元気に親雀を呼んでいる。

「元気なうちに、巣に返したほうがいいのだけど」
「オレが行ってこようか」

二人の後ろから、弾んだ声がした。

「あ、紅矢(こうや)。今来たの」

紅矢と呼ばれた少年は、
振り向いた春日さんから雛をさらうと、
ひょいと簡単にシャツの中へ落とし入れる。

「畑仕事が一段落したから、休みに来た」
「もう、おなか空いたんだ」
「朝から何も食ってねえからな」

紅矢が着る、土で汚れたTシャツの、
おなかの辺りがもぞもぞ動いている。

「じゃあ、それ無事に届けてくれたら、私がお昼作ってあげる」

雛を指差して真琴が言うと、
紅矢は首を横に振って笑った。

「嫌だよ。おばさんが作る飯のほうが、うめえもん」
「失礼しちゃうわね」

振り上げた真琴の
小さな拳をひらりとかわして、
紅矢は屋根を見上げた。

「あそこか」
「そうらしいよ」
「気をつけてね」

片手で雛を抑えながら、
紅矢の視線は素早く周囲の環境を確かめる。

「あそこから行けそうだな」

呟きながら歩き出し、
屋根に近い一本の木を選んだ。

ほとんど猿みたいな動きで、
紅矢はするすると木の幹を駆け上り、
突き出た枝から屋根へ飛び移った。

「これでよし」

上から聞こえた紅矢の元気な声に、
真琴が母を見て言った。

「すごく簡単な作業に見えるよね」
「……真似しちゃだめよ」

頷く春日さんが一応注意する。

「わかってるって」

笑いながら頷いた真琴が、ふと、空を見上げた。

「紅矢あ」
「んん」
「風が、来るよ」
「りょおかあい」

屋根の上の紅矢にも、
西風が塊になって森をの木々を揺らし、
音を立てて向かってくるのが目に見えた。

木の葉が舞い散り、土埃に目を閉じる真琴。

適当な場所にしがみついて
突風をやり過ごした紅矢が、
やがて身軽に降りてきた。

「大丈夫か」
「ん、目に土が入っただけ」

俯く顔を持ち上げて覗き込む、
紅矢の整った顔立ちが、
最近妙に真琴の胸を締め付ける。

「まったく、白珠(ハクジュ)もさ、ちょっとは遠慮して吹けよな」

呟いた紅矢の舌先が、
不意打ちのように真琴の目尻を舐めた。

「ひゃ、な、何」
「土が付いてた」

自分の舌を
手の甲で拭いた紅矢が踵を返す。

「おばさん、何か食い物ある」
「ちょっと早いけど、お昼ごはんにしよっか」
「やった。行こうぜ、真琴」

後ろ手に伸ばした紅矢の手が
空を掻いた。

真琴が、
両手を胸のところで組み合わせたまま、
真剣な顔で空を見上げていた。

黙って傍らで待つ紅矢は極上の番犬だ。

「先、行ってるわね」

満足そうに微笑んだ春日さんが、
先に家の中へと戻っていく。

「何か、聞こえたのか」

座卓を挟んだ向かい側に座る真琴に、
紅矢が聞いた。

「うん」

おひつの蓋を取った真琴が、
手を伸ばして紅矢の茶碗を受け取る。

温めた味噌汁と黄色い沢庵の香り。

「紅矢は、ミヤコに行ったことある」
「ないけど、どうして」
「さっき、しらたまちゃんが言ってたから」
「へえ」

村の神社が祀る風神に、
彼女が付けたあだ名が
『しらたまちゃん』だった。

気紛れに吹く強い西風に乗っているのか、
それが本体なのか、
白珠神は時折、
真琴に向かって言葉を落として行く。

「何か良くない事が、ミヤコって処で起きるよ。って」
「ふうん」

紅矢は美味しいおかずを口いっぱいほおばり、
頷きながら味噌汁を流し込む。

そこへ春日さんが合流した。

「じゃあ、巻き込まれないように、村長さんに言っておかなきゃね」
「うん」

頷く真琴が
春日さんのお茶碗を受け取った。

「分かりました、すぐに放送します」

ちょうどミヤコから帰ってきた
スーツ姿の若い村長さんが、
役場に設置された放送機材に手を伸ばす。

森の奥や山中の畑で仕事をする
村人にも聞こえるように、
スピーカーは各所に建てられていた。

「あーあー。村長より連絡です……」

のんびりしていた村が、慌ただしく動き出す。

「ちょっと早いけど仕入れに行って来るわ」
「明日納品だったけど、置いてこなきゃ」
「ストック品、多めに買って来て」
「ガソリンは満タンにしておけよ」

村の人々は、
天気予報でも聞いたかのように、
着々と防災準備を始める。


その翌日、
突然吹き始めた強い風は竜巻を起こし、
真っ黒な雲が豪雨を降らせ、
ミヤコを局地的に襲ったのだった。

要塞と呼ばれる大都市の、
ライフラインを切断する規模の大嵐だった。

雲の切れ端は
真琴が暮らす村にも雨を降らせたが、
予め頑丈な役場に避難していた村人は、
全員無事でテレビ画面に釘付けだった。

「舗装路は水を吸わないからねえ」
「あああ。車が水没してる」
「あ。あの店、俺が今日行くはずだったトコ」
「水浸しじゃん」
「北側で土砂崩れだって」
「あっち側は、昔から地盤が弱いんだよなあ」

そこへ村長さんが口を挟んだ。

「例によって、わが村の人的被害はゼロです。真琴ちゃんに感謝ですね」
「ああ、そうだ」
「さすが村の守護者様だ」

一人が室内を見渡して聞く。

「そういえば、真琴ちゃんは」

窓際でお茶をすする春日さんが応えた。

「紅矢と二階に行ったけど」
「おいい。二人きりにして大丈夫かあ」
「大丈夫よ。真琴の相手は白珠様だもの」
「神様か!」
「そりゃ、敵わねえなあ」

明るい笑い声が室内に広がり、
テレビ画面は相変わらず
悲惨な声に劇的な音楽を上乗せして、
まるで映画のように騒いでいた。


この遷都は、
ひとつの時代の分岐点だった。


富豪層だけを呼び集めて造られたミヤコを、
経済的に護られたい下層市民が取り囲む。

しかし度重なる災害は食糧難を呼び、
飢餓は新しい伝染病を生み出して、
国力は落ちていく一方だった。

すがる者を失った下層市民の心の拠り所が、
目には見えない何かに変わっていくのも
時間の問題で。

そういう幾つかの選択肢の中から、
この村は、
代々伝わる慣習とともに生き、
静かに滅びゆく道を選んだのだった。

深い山の奥で
長い間暮らしてきた彼らが信じるのは、
人の生死を直接左右する天候であり、
雨雲を運んでくる西風だ。

その風の声が聞こえる守護者の一族を、
村の人々は大切に思っている。


後書き

文字数が足らず、
1・2章をまとめて投稿しました。

私は、
妖怪とかオバケとかが好きなようです。
……ようやく自覚しました。

この小説について

タイトル 〜紅の護り人〜1・2
初版 2016年12月4日
改訂 2016年12月4日
小説ID 4848
閲覧数 171
合計★ 1
アクアビットの写真
ぬし
作家名 ★アクアビット
作家ID 666
投稿数 29
★の数 67
活動度 7901
継続の大切さと恐ろしさを実感する今日この頃

コメント (2)

そら てんご 2017年4月19日 6時56分55秒
断Facebook、断ブログ、断ぱろしょでひたすら創作の世界につかりきっちょりました。やっと作家として片目が開きつつあります。喜びの一報を周りの知人に言いふらしているんですが、先ずはアクアビットさんにもお届けしたいと思い覗きました。(笑)そしてお元気な様子で何よりです。

さてオープニングは大変ですね。人物紹介やら背景描写やらで読者のハートを鷲掴みしなければいかんからね。(土佐弁は相変わらずです)
ひと読みして北欧の牧歌的な風景をイメージしました。紅矢真琴がヒーロー・ヒロインですね。まずは☆1つから始めましょう。まだ鬱でありますゆえ偶にしか訪れることができませんが、よろぴく
★アクアビット コメントのみ 2017年4月21日 10時35分08秒
そらさん>>
お久しぶりです!
とりあえずお互い生きてますね!
北欧ですか〜、私の中では日本の長野県辺りが
イメージだったのですが・・・共通点があるのかな^^♪
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