人工妻 - 久しぶりの手料理

川崎大輝
 坂本優希が目を覚ますと歩は隣りで寝ていなかった。その代わりにキッチンで料理をしている音がしている。
 優希がキッチンに行くと皿に料理を盛り付けているところだった。
「おはよう」
「起きたの。あなたに手紙が来てるわ」
彼女の指を指した方向には小さな封筒があった。坂本はそれを読み終わると無表情で手紙をテーブルに置いた。
「誰からの手紙だったの」
「昨日の事件をもみ消す代わりに俺はクビだってさ」
 数秒の沈黙が流れる。歩が最初に言葉を発した。
「これからどうするの」
彼女の声はとても重々しかった。しかし坂本は平気な顔をしている。そして軽々しく言った。
「この前、他の研究所からこっちで働かないかって誘われてたんだ。だからこれからはそっちで働くよ」
 坂本が料理のそばに行って言う。
「朝ごはんを食べよう。久しぶりの手料理が冷めちゃう」
彼が皿に盛られた料理を見た。料理を見て言う。
「イカ墨の料理が作れたんだね。さすがだよ」
 歩の顔がみるみる赤くなる。
「卵焼きなんだけど」
坂本の顔がみるみる真っ青になる。卵焼きには見えないほど黒い。身長が小さいせいで焼け具合がよく見えなかったようだ。坂本は、にっこり笑って彼女に言った。
「君の料理なら食べれるよ」
歩は感動して目に涙が浮かぶ。坂本が卵焼きを食べた。坂本の目に涙が浮かぶ。不味かった。
「ごめん。愛があれば食べれると思ってた。無理だね」
 結局、坂本が料理を作ることにした。中々手馴れたものだ。
「前は私の方が上手かったのにね」
「僕は大人だから」
歩は少し笑った。私も大人よ、と言おうと思ったが思う壺になる気がしたので言わないことを決意した。
「食器は私が洗うわ」
「ありがとう。後からお小遣いをあげるよ」
ニヤニヤしている。
「私は大人よ」
つい言ってしまった。坂本はクスクス笑っている。歩も一緒に笑った。
 歩が皿を洗い終わってから二人で買い物に出かけることになった。小さくなった歩に合う服がないからだ。
「本当にこの服装で出かけなきゃいけないの」
歩が着ている服は歩が大きい時の服で、半袖の服でも長袖のワンピースのようになっている。
「その服しかないんだからしょうがないでしょ」
 服屋にやって来た。服屋に入るとすぐに女の店員がやって来た。そして歩とヒソヒソ話している。数分後二人がこっちに来た。
「やっぱりこの服のせいで変な誤解されちゃったじゃん」
隣にいる店員が申し訳なさそうに謝った。気が沈んでいるが、いつもは明るそうな若い店員だ。
「すいません。服が大人用で上しか着てなかったんで何か問題がある親なのかと思いました」
とても正直な店員だ。
「僕もこんな服装で歩かせるのは気が引けたんですが、これしか服がなかったんで、今日ここに来たんですよ」
「そうなんですか。勘違いしてしまったお詫びに娘さんにお似合いの服を探しますね」
「よろしくお願いします。上下三枚選んでいただけると嬉しいんですけど」
店員がニコッと笑う。
「任せてください」
 一時間くらい経って彼女達は服を選び終わった。
「良いの選んでもらったか」
店員が申し訳なさそうな顔をしている。坂本が何があったのか聞こうとしたら、先に店員が声を出した。
「申し訳ありませんでした!」
坂本は目を丸くして驚いた。
「どうしたんですか」
「娘さんの方がセンスが良く全く役に立てませんでした」
歩を見ると気まずそうに逃げていった。助けて欲しいという視線を送ったが、視線から逃げるために服の影に隠れていった。店員に視線を写そうとするが気まず過ぎて視線を写せない。だが立ち去ることはもっとできない。
「えっと〜、頑張れ」
「はい」
頑張って立ち去っていった。
 服を買い物が終わるとちょうどお昼時になっていた。
「昼を食べて帰ろうか」
普通にレストランで食べた。
 歩がレストランを出て来てから提案した。
「ユークバニマルに行こう」
ユークバニマルは町のスーパーだ。ユークバニマルで歩は色々な食材をカゴに入れた。
「君が晩ご飯を作るつもりかい」
「うん」
一瞬、坂本がひるむ。
「やめといたほうが良いんじゃない」
坂本の忠告も聞かずに歩が作ることになった。坂本には処刑台に立たされるような気持ちだ。もう一度一口でも食べたら体が使い物にならなくなる気がする。
 家に帰ると三時になっていた。夕食の準備には、まだ早い。夕食の準備をする時間になるまで二人で寝た。
 坂本が起きるともう七時になっている。ハッと思いキッチンに行ってみると歩が料理を盛り付けていた。美味そうな料理が並んでいる。イカ墨料理は無い。
「どうやって作ったの」
歩が微笑みながら言う。
「元主婦の知恵があるんだよ」
坂本は苦笑いしながら言う。
「やっぱり君には勝てるものはないね」
 今日は妻の久しぶりの手料理を思う存分食べようと思う。

この小説について

タイトル 久しぶりの手料理
初版 2017年2月17日
改訂 2017年2月17日
小説ID 4888
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コメント (1)

匿名 2017年2月22日 23時28分18秒
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