サンタクロース・アンビリーバー

 まったく、サンタクロースというのは本当に信じられない奴だ。
 なにせ人の部屋に、人が寝ている間に、勝手に入ってくるのである。常識がないし、なによりデリカシーがない。きっと、プレゼントを枕元に置くためにそうしているのだから、大目に見てもらえるとでも思っているのだろう。クリスマスだから、という意識もあるかもしれない。誰も彼も浮かれてしまうから、そのような暴挙が横行するのがあたかも当然であるような空気が出来上がってしまうのだ。子供はともかく、いい大人が率先してはしゃいでいるのだからあきれてしまう。嘆かわしいったらない。
 だいたい、プレゼントがあるなら直接手渡したらいいんじゃなかろうか。どうしてわざわざ人が寝ている隙にこっそりと置いておくなんて真似をするのだろうか。起きたときに驚かそうっていうのならとっくにネタが割れているし、寝顔を見ようっていうのなら悪趣味だし、だいいち双方で受け渡しを確認しないなんて不確実だ。寝相が悪かったら、潰してしまったり、ベッドから落としてしまったりする危険もある。ああ、そうか、靴下に入れるんだったっけ。まどろっこしいとしか思えないけれど、そういった決まりごとが楽しいという奇特な人が、実に世の中の大勢を占めているのだから驚きである。
 まあ確かに、良い子にしていればプレゼントをもらえる、という建前なのだから、クリスマス特有の不可解な慣例に対して盲信的であることが良い子の条件として求められるのだ、という解釈もできる。それを言われると、ちょっと弱いところではある。正直、プレゼントはほしい。まして全国的にみんながもらっているのに、私だけがもらえないのはあまりに悲しい。
 とはいえ、やっぱり眠っているのを見計らって部屋に入ってくるのは許せない。
 かくなる上は、直談判しかない。私は彼に、クリスマス当夜、起きている間にプレゼントを渡すようにしてほしいと要求した。彼はなんとも形容しがたい複雑な顔をした。私の要求は受け入れがたいらしかった。
 問題は私の姉にあった。彼女は私よりもいくつも年が上だというのに、サンタクロースのことを怪盗かなにかだと思い込んでいるのである。全身赤ずくめの格好をして、白いひげで覆いつくされんばかりの顔をしていて、大きな袋を肩に抱えた恰幅の良い老人が、いびつな角を生やした獣に引かせたそりで夜空を駆けて、きちんと戸締りされた家の中にいかなる方法でか侵入しおおせるというのだ。世間知らずはしかたないにしても、物理的に可能かどうか、という判断くらいは身に着けてもらいたいものだ。
 その姉と私とは同室なのである。姉の周囲の人たちは、姉の脳内に広がる常春の楽園を希少で価値あるものだと評価していて、末永く保全していきたいと志を同じくしているようだ。したがって、クリスマスにもらえるプレゼントとは、怪盗サンタクロースの手によって眠っている間にそっと枕元に置かれるものでなくてはならない。そして厄介なことに、それは隣で眠る私についても同様で、朝目覚めた彼女が、妹の枕元にはプレゼントがないことを発見することもまた、あってはならないのである。つまり、彼女とベッドを並べている以上、事前や事後にプレゼントを受け取る方法はとれないことになる。
 姉が眠った後に二人分のプレゼントを受け取り、私自身の手で枕元に置いて眠りにつくというアイデアも思いついた。しかし実行はいかにも困難であった。私はまだまだ夜更かしができないし、そのこともあって姉は決まって私を寝かしつけるような行動をとる。そんな中で、姉にされるがまま寝ついたふりをして、夜更けにこっそり起き出すのは現実的ではないだろう。
 いっそ姉と別室にしてもらうというのも考えたが、取り下げた。取り下げざるをえなかった。それを軽くほのめかした途端、姉の目にみるみる涙がたまったからだ。
 手詰まりだった。私が姉よりも夜更かしをすることが当たり前になるまでは、サンタクロースの無断侵入は防ぎがたく、甘んじて見過ごすよりほかにないのか。
 すべては姉のせいである。姉の心の花園を守るために、私は蔑ろにされる。どうして姉ばかりが優先されるのだろう。
 姉のほうから私と別室にしてほしいと願い出てくれさえすれば、何も問題はないのに。そのための部屋は用意できるはずだし、私も反対なんてしない。それにもしも私が反対したとしても、その要求は通るにちがいない。
 世間では、たいていの兄や姉は、そんなふうに弟や妹と距離を置きたがるものらしい。けれども姉はそんなことを言い出したりしない。
 私の姉は特殊だから、そのあたりも世間一般とは少し違うのかもしれない。それは希少で、価値があるってことなのかもしれない。
 わからない。私はそんなふうになんて考えられない。そんなことのために娘の部屋に勝手に入るなんて、やっぱり信じられない。

この小説について

タイトル サンタクロース・アンビリーバー
初版 2017年2月25日
改訂 2017年2月25日
小説ID 4891
閲覧数 119
合計★ 3
こてさきのてばさきの写真
熟練
作家名 ★こてさきのてばさき
作家ID 1074
投稿数 16
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コメント (1)

弓射り 2017年3月10日 19時35分07秒
最後のオチが効いてるといえば効いてるのですが、え、じゃあ今までくどくど話してた内容は何だったん!?と戸惑いも若干あります。

独白系の内容としては、軽快で読みやすかったです。お姉さんがすこし変な人ってキャラなんですね。それとバランスを取る意味でもヒロインのキャラがもっと立ってほしいです。何歳くらいなのかがちょっと読み取りづらい。多分小学生、、、?プレゼントに何が欲しいかとか普段の学校生活や喋り方なんかで、この説明っぽい文とギャップが出来れば、想像がぶわっと広がったり、萌えたりできます。

すごく面白いので、もっとパンチ力が出て来ればより生き生きする文章だと思いました。
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