JUSCO OF THE DEAD

 世界中がゾンビだらけになって、命の危険にさらされることはあっても、仕事漬けの日々に追われることはもうないのだろうな、と皮肉でもなく清々した気持ちでいたのだったが、いざゾンビになってみると案外そうでもなかった。
 ゾンビたちは勤勉である。生き延びている人間を根気良く探し出し、仲間を増やす活動に余念がない。休むことなく、昼夜も問わず、24時間フル稼働である。多少だらけた態度に見えるけれども、ゾンビなのだから仕方ない。メリハリよりも、持続することを重視した戦略ともいえるだろう。そしてその戦略は功を奏した。ゾンビは順調にシェアを伸ばし、人類はもはや駆逐されたも同然である。
 さて、ゾンビになった私だったが、早々に行き詰っていた。周囲の仲間たちのように奔放で迷いのないゾンビ的振る舞いがなかなか身に付かなかった。田舎に帰ることも考えたが、途中で腐敗して、きっと目的地を忘れてしまうだろう。どうしたものかと途方に暮れていたところ、ようやく活動の取っかかりを得た。通常はゾンビ化した場所を中心に活動するものなのだが、活きの良いゾンビを集めているゾンビがいるらしいという話をゾンビづてに聞き及んだのだ。生前のサラリーマン生活の習性が抜けきっていなかったのかもしれない。勝手気ままに人間を襲うのは、どうにも地に足がつかないように感じられた。それに、求めに応じるというかたちであれば、なにかと都合が良いように思われた。ゾンビになりたてという身分は、後になってからでは得られるものではない。
 彼と対面したのは、回転寿司チェーン店の冷凍倉庫だった。無論電気はもう通っていないが、まだどこか冷気の名残りがあるように感じられた。
「よく来てくれたな。歓迎する」
 そう言って彼は私の肩を叩いた。かなりベテランのゾンビだということだが、その手は腐りきっておらず、まだ張りが残っていた。たまたま防腐剤の工場に勤めており、こまめにそれを全身に塗り、高温多湿を避けて過ごしてきたのだという。
「どうかな、まだ走れるかね?」
「元が三十過ぎなので……でもまあ、すこしなら」
「今となっては、新鮮なゾンビは貴重だ。君には期待している」
 彼はにやりと格好良く笑った。並のゾンビならその拍子に頬肉が削げ落ちてしまうところだ。
「では、さっそくだが君に仕事だ。この近所に生存者が立てこもっている建物がある。そうだな、二十人といったところか」
「けっこうな人数ですね。よくそんなに備蓄があったものだ。何の建物です?」
「普通の商社が入っていたビルなのだがね、初期段階に近所のコンビニやらから相当量の物資を集めたようだ。だがどうやらそれも底を尽いてきたらしくてな、今までは我々の手の届かない上階で悠々していたのだが、最近になって慌ただしくなってきた」
「食料探しですか」
「まあ、そうだ。我々の隙をついて数人がビルから出てくる。このあたりのゾンビはすっかり腐敗が進んでしまっていてね、簡単な陽動にもすぐに引っかかる。だがそれだけなら特に問題はないんだ。食料の捜索範囲はどんどん広がるし、連中も疲弊している。現に、連中が外に出るようになってから何人か仕留められたしな。ジリ貧というやつだ」
「で、問題は? 私は何をすればいいんです?」
「ここから少し離れたところに、ジャスコがある。知っているかね?」
「それはもちろん……はっ、まさか、ジャスコの中に……!?」
 息をのんだ私に、彼は小さくうなずいた。
「そうだ。相当な数の生存者が立てこもっている。そこに逃げ込まれると非常にまずい。なにせジャスコだからな、物資は無尽蔵にあると思っていい」
「そうですね、ジャスコですからね……」
「ああ、ジャスコだけはまずい」
「連中に、ジャスコへ逃げ込む素振りが?」
「いや、まだだ。当然ジャスコの存在は知っているだろうが、そこで生存者が立てこもっているとはわからないだろうからな」
「ジャスコの賑わいを考えると、ゾンビの巣窟になっていてもおかしくないわけですからね」
「しかし連中が食料を求めて、いちかばちかジャスコまで足を伸ばすことは大いにありうる。ジャスコに行けばたいていのものは手に入るからな。たとえ危険を冒しても行く価値はある」
「わかりました。私は、連中がジャスコへ向かうのを阻止すればいいんですね?」
 私が言うと、彼は沈痛な面持ちで見返してきた。
「すまない。自分でやれれば良いのだが、防腐剤も尽きてしまってね、陽の下に出るのはもう……まあ、このままここにいても、どれほどもつかわかったものではないのだがな……」
「任せてください。連中の誰一人として、ジャスコには行かせません!」
「頼むぞ。この先我々にはつらい季節になるが、ジャスコにだけは、絶対に……!」
 こうして彼の元を離れ、仕事に取りかかった。サラリーマン時代にはついぞ持ちえなかった強い意欲に、私は燃えていた。
 ゾンビになって間もなく、人を襲った実績もない。不慣れな仕事をどれだけやれるかわからない。肉体の腐敗も刻一刻と進んでいくだろう。意識も混濁し、ただ刺激に鈍く反応するだけの存在に成り果てていく。それがゾンビの宿命だが、それゆえに、ゾンビとしての証を立てなくてはいけない。
 人を襲い、仲間を増やすのだ。
 たとえ自我が失われても、それこそがゾンビの生なのだ。
 だから、この声はきっと届く。
 あたりのゾンビたちに呼びかけ、我々は志をひとつにする。
 誰も、ジャスコに行かせてはならぬ……と。

この小説について

タイトル JUSCO OF THE DEAD
初版 2017年3月18日
改訂 2017年3月18日
小説ID 4900
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こてさきのてばさきの写真
常連
作家名 ★こてさきのてばさき
作家ID 1074
投稿数 9
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活動度 896

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