俺とお前のターニングポイント

 名ばかりの春で、風の冷たい夜のことだった。仕事を終えてアパートに帰ると、部屋に男がいた。
「よっ、おつかれー」
 手狭なワンルームで、同居人の類はハムスターの一匹すらいない。にもかかわらず、そいつはくたびれたソファから振り返って、気安い調子で手をあげたのだった。俺がいつもくつろいでいるソファである。空き巣にしては図太いというか、いやにこの部屋に馴染んでいた。
「……だっ、誰だお前!」
 びっくりして大きな声が出た。男は目を丸くして立ち上がり、歩み寄ってくる。
「えっ、ちょ! 誰誰誰誰!? 待って、ねえ誰!? 待ってってば!」
 俺は両手を突き出して後ずさりする。俺のあまりのびびりっぷりに、男は吹き出し、しかしその場で足を止めてくれた。
「ふふん……さて、俺は誰でしょうか」
 男はなにやら楽しげに、にやにやと顔を歪める。
「知らねーよ!」
 言ってやった。ノータイムで言ってやった。当然のことだ。他人の部屋に勝手に上がり込んで平然としている不審者のくせに、どうして承知してもらっているなどと思えるのか。常識的に考えてもらいたい。
 ところが男はまったくこたえたようすもない。
「いやいや、本当は心当たりがあるんだろう?」
「…………」
 言い返す言葉が出なかった。男の言うとおり、その面相にはどうしようもなく見覚えがあり、俺は動揺を禁じ得ないのだった。
「……誰だよ、言えよ。そもそもどうやって入った?」
「これさ」
 男はポケットを探る。取り出されたのは鍵だった。合鍵? となると、考えられるのは管理人か不動産屋か、という推測が順当なはずなのだが、そんな真っ当なものでないことはわかっていた。
「これに、見覚えがあるんじゃないか?」
 男はそう言って、鍵そのものではなく、それが提げられたキーホルダーを示してみせた。インディアン調の装飾で、安っぽい青い石があしらわれている。
「ターコイズだ。確か、安産祈願かなにかの意味合いがあるとか」
「そう、お前にはまったくの無用の長物だ。……そして、この俺にもな」
「…………」
 俺はポケットを探り、今しがた玄関を開けるために使った鍵を取り出す。同じキーホルダーを付けた鍵が二つ、俺と男の前に揃った。
「お、お前は、まさかやっぱり……!」
 ごくりと喉が鳴る。わなわなと肩が震える。一目見たときから、予感はあった。
 男はいったん視線を外したり身体の向きを整えたりしてたっぷり間をとったあと、俺を見据えた。
「……そう、俺は、お前自身さ!」
「はあ!? マジか!」
 驚愕のあまり、俺は近所迷惑も省みず、奇声を上げた。
「マジか!」
 驚愕のあまり、俺はもう一回叫んだ。
「マジなんだよ、これが。まあびびるわな」
「え、なんなの? どういうこと? お前どういう奴なの? 分身? 俺、分裂したの?」
「違うよ。そんな不思議生物じゃねえよ。よく見ろ、だいぶ熟成されてるだろ?」
「え……? 老けてるってこと?」
「俺はな、9年後のお前だ。未来から来たんだよ」
「9年? また半端だな。しかし9年後っていうと、38歳の俺ってことか。へ〜、ほ〜ん、ふぅ〜ん」
「いや、40だから」
「なんかさ、見た感じあんま変わらなくない? それにさ、それにほら、髪! 髪が、まだあるし!」
「そう! そうなんだよ! 持ちこたえてるんだよな〜。お前くらいのときには、もう絶望しかなかったのにな〜」
 男は頭頂部を両手で撫でる。そのいつくしむような手つきに、俺はこの男の正体がまぎれもない自分自身であることに確信を得た。まあそもそも、俺に対してこんな手の込んだことをする理由をもちえるのは、他ならぬ俺自身くらいしか考えられない。たとえ9年先のことであったとしても。
 素性がはっきりしたところで、お互い腰を落ち着けた。俺も仕事着を脱いで楽な格好になると、冷蔵庫に常備してあるビール(リキュール類)を振る舞った。彼は懐かしい銘柄だと目を細めた。
「そうだ、煙草ある?」
「ないけど。買ってこようか?」
 煙草は年に3箱くらい吸う。いっそ禁煙しろとよく言われるが、なぜそんなことを言われなくちゃいけないのかわからない。人前では吸わないんだから、好きにさせてくれればいいのに。
 彼は顔の前で手をひらひらさせた。
「ないならいいんだ。吸わなくなって久しいから、あればと思っただけ」
「え、禁煙……?」
 だとしたら、ちょっとショック。
「そういうわけじゃない。単に高くて買えないだけ。なにせ一箱8000円だから」
「8000!?」
 一本が現在の一箱に相当することになる。
「来年には8200円になるらしい」
「この期に及んで地味な値上げだなー……」
「値上げしたという事実が重要なんだよ」
 うーむ、価格上昇の推移が見てみたい。物価そのものもかなり上がっているのかもしれない。
「ところで、鍵を持ってるってことは、俺は9年経ってもまだこの部屋に住んでるのか」
 こうして男二人が座っているだけで狭苦しく感じられる安アパートである。俺の今後は推して知るべしということか。
「ぷぷぷ、お前って進歩ないよな」
「いやそれお前のことだから。俺にとってはこれからのことだから」
 まあ、どっちでも大差ないことではある。ビール(リキュール類)の苦味が増す話だ。
「で、未来くんだりから何しに来たの? そもそもどうやって来たの? 9年後ってタイムマシンあんの?」
「そんなものはない。もしあったとしても、俺が使える立場なわけがない」
「じゃあどうやって」
「超能力だな」
「ええー……」
 引いた。
「まあ正直俺もなんだかわからんのだけど、マシンなんてないから超能力的なものなんだろうというだけだ。ものすご〜く後悔していることがあって、やり直しできたらな〜って鬱々としていたらタイムスリップしていた。アレだよ、過去の自分にアドバイスして悲劇を未然に食い止めよう、っていう系の」
「それ系っていうと……うそ、俺、近々なんかやらかすの? 大それたやつだったりする?」
 俺はおののいた。限りなく人畜無害な生き様であるはずなのに、いったいどんな迷惑を他人様にかけてしまうというのか。
「いや、すごい個人的なこと。てゆうか、お前に何か指示したかったわけじゃないんだ。お前とは……そのー、なんだな、一緒に飲もうと思って」
「は? なんだそりゃ」
「そうか〜、まだこのころは後悔なんて全然なかったかもな〜。時間が経てば経つほど、だんだんと、もしかしてあのときチャンスだったんじゃ?って思うようになるんだよ」
 なんだかわからないことを言う。俺が眉をひそめていると、彼は鼻を鳴らして、酒をあおった。
「俺はな、10年前に戻ってたんだよ。お前からすると1年前ってことになるな」
「去年? 去年なんかやらかしたってことか? 去年ねぇ……まだ俺28か。えー、なんだろ」
「30だろうが! なんでちょっとサバ読むんだよ! しかも自分に!」
 しばし顎に手を当てて考えた。なぜ人は年齢をごまかすのかという命題についてではない。去年の俺がしたという失敗についてだ。
「やらかしたわけじゃねえよ。いつもどおりこれまでどおり、何もしなかっただけだ」
「さっきチャンスとかって言ってたな。それを棒に振ったってことか」
「そう。そう言われれば、思い当たることあんじゃね?」
「ん〜…………はっ!」
 彼の言葉に誘導されて、俺の脳裏にある女性のまぶしい笑顔が大写しになった。
「わかったぞ! 去年のクリスマスだろう? 経理課の安中さんと、お互い予定なくてさびしいね〜みたいな話をして、カップルなんて凍てつけ!いやキャンドルで燃えろ!暑かったり寒かったりしろ!みたいなこと言い合って盛り上がって――」
「うんうん、そうだったなぁ」
「あーそう、やっぱりあのときか! あのときなー、さびしい者同士みたいな口実で食事とか誘ってれば……!」
「そう、それよ。ほんっとそういうのスルーしちゃうよな、お前って」
「いやお前もだし。あー、でもそっかー……なんかちょっと妙な雰囲気醸し出してたもんな、あのときの安中さん。俺を待ってたってことか〜、誘ってればうまくいったってことか〜」
「はい、ブー! ちがいまーす」
「ええー……」
「全然! ぜんっぜんちがいます! なぜなら安中さんはその翌年の春ごろに寿退社します。しかもおめでた」
「は!? 春って今じゃん!」
「だから、もうそろそろよ」
「マジかー……ずっと彼氏いないって言ってたのに……」
「ずっといた、の言い間違いだったんじゃないかな」
「そんなことある?」
「ずっと、いたりいなかったりしていて、聞いたときにはいつもいなかったってことじゃないかな」
「そんなこと……ない、とは言い切れない……?」
「まぁアレよ、女ってこわいなってことよ。関わり合いにならないのが無難」
「あ、じゃあ後悔って、そっち方面じゃないんだ?」
 少し、肩から力が抜けた。正直なところ、安心した。そっち方面は自分なりにある程度割り切っているつもりでいたからだ。
 ところが、彼はあっさりと首を振る。
「いや、そっち方面」
「なんなんだよ……」
「しょうがないだろ? わかるだろ、お前だって。しょうがないんだよ」
「…………」
 まったくもって彼の言うとおりなのだろう。釈然としないことながら、極めて高度な脳内政治的判断において、この件はしょうがないことなのだった。
「うー……じゃあ、なんだろ。去年、他になんかあったっけ……?」
「どうする? まだ考える? それとも答え言う?」
 彼はにやにやしながら身体を左右に揺らす。40歳が、機敏に身体を揺らす。40歳なのに。
「うざいなぁ。いいから教えてよ」
 呆れ半分に言ってやると、彼は満足げにうなずいた。
「ゴールデンウィークにさぁ、高校の同窓会あっただろ」
 憶えている。憶えているが、あまりに意外で、思わず身を乗り出した。
「あれなの? まったく後悔する要素とかないけど。高三のときって、ほぼぼっちだったじゃんか俺。当時でさえ苦痛だったのに、今さらそんなのにのこのこ出てってどうしろというのかと」
「そうだろうそうだろう、そう思うよなぁ。お知らせが来たこと自体おどろきだったもんなぁ」
「2秒でゴミ箱に捨てたし。ポスト・トゥ・ダストだったし。え、じゃあなに、去年の俺に、同窓会に出席しろって言ってきたわけ?」
「言った」
「出たの?」
「出るとは言ってた」
「マジか、信じられん」
「古庄さんっていただろ」
 俺は内心、ぎくりとした。
「……ああ、いたね」
「そう、古庄さん。お前が密かに好きだった古庄さんだよ」
「うるせーな、お前もだろうが」
「ぼっちのお前には到底手の届かない高嶺の花だったあの古庄さん。彼女が、お前にも声をかけるように幹事に進言したんだそうな。この意味がわかるな?」
 彼は試すように俺をにらんだ。答えるまでもない。俺は真正面でその視線を受け止める。
「わかるな?じゃねーよ! ちゃんとクラス全員を呼ぼうとか、単なる気まぐれとか、理由なんてどうとでも考えられるだろうが。そんなの真に受けてんじゃねー、いい年したオッサンのくせに!」
「おいおい、オッサンが人のことオッサン呼ばわりすんじゃねえよ」
「だいたい、お前だって同窓会出なかったんだろ? 何を根拠にそんなこと言ってんだよ」
「うむ、それはだな、同窓会は、もう一度あったんだよ。5年前――お前からすると、4年後ってことになるな」
「まさか……それ、出席したの?」
「した」
 重々しく、彼はうなずいた。俺は背中がぞわわと総毛立って、ヌンチャクを振り回すような愉快な動きをせざるをえなかった。
「ええー、嘘、マジで。うわー、うわー、え、なんで? 絶対無理でしょ。なんで行こうと思ったの?」
 俺がドン引くのもさもありなんといったようすで、彼は遠い目をした。
「なんだろうなー……今となっては自分でもよくわからんなー。もう二度と行かんと思うし」
「やっぱり、ひどい目に遭ったんだ、案の定。ほらぁ、やめとけばいいのに。馬鹿だなぁ」
「……お前は、俺が未来の自分だってことを忘れているのか? お前も俺と同じ気の迷いをやらかすんだぞ?」
「10年前じゃなくて5年前に戻って、同窓会に行くのをやめさせれば良かったのに」
「ほんとにな。でもなー、行かせるのはできても、行こうとしてるのを止めるのは無理のような気がするなー……」
 彼はまた遠い目をするが、すぐに戻ってきて俺に焦点を合わせた。
「まあとにかく、同窓会自体はお前の言うとおりさんざんだった。アルミホイルを食って砂を飲むような席だった。どうしてこんな当たり前の展開を予想できなかったのかって震えたよ。ただな、古庄さんと話す機会があったんだ」
「二人きりで?」
「いや、いろいろおまけがいたけれども。というか、古庄さん本人とはほとんど会話してない。そのおまけどもの気まぐれで古庄さんが一緒に俺のところに来ただけ。で、そのおまけどもが言うことには、当時古庄さんは、お前のことを気にかけていたらしいのだ」
「だからさぁ、そういう話をいちいち真に受けるなって。妄想もたいがいにしろ。そもそも、古庄さんって付き合ってる奴いただろ。ほらあいつ、名前出てこないけど、人生の主要な選択肢を全部俺と逆のほうを選んできたみたいなあいつ、夏休み明けくらいから公然といちゃついてたじゃん。受験生なのに」
「そいつと付き合う前っていうか、お前が何もしないでまともに目も合わせられないで素っ気ないフリしているあいだに、そいつにかっさらわれたようなものだということだ。ほら、一学期のうちはさ、なぜかちょいちょい話しかけられてただろ? つーかお前、そんなんで古庄さんのこと好きになったんだし。ちょっろ!」
「うるせーよ! お前もだろ!」
「10年前の同窓会――お前にとっては去年の同窓会な、そのとき古庄さんはお前との再会を望んでいたんだよ。当時彼女はフリーだった。この意味がわかるな?」
「……その、お前が出席した、今から4年後の同窓会のときにはどうだったんだ?」
「二児の母」
「…………」
「わかる、わかるぞ。そんな顔になるよな。俺が思わずタイムスリップした気持ち、わかってもらえたか」
「いや待て! お前、からかわれてたんじゃないのか? 高三当時の俺に好かれる理由なんてないだろうが」
「二年までは比較的普通だったじゃん。そのころに、なにかあったんじゃないかな。特に接点は思い当たらないけど」
「だったら、古庄さんに気にしてもらえてた高校生の俺にアドバイスしてやればよかったのに」
「お前……それはいくらなんでもファンタジーすぎるだろ……」
 ものすごく呆れられてしまった。でも確かにそのとおりに思える。首尾良く事が運んだとして、そのあと繰り広げられるバラ色の青春がこれっぽっちも想像できないからだろうか。
「……ま、いいや。わかった、わかったよ……」
 テーブルの上には何本もの酒類の缶が、空になって林立している。部屋にあるかぎり、すべて飲みつくしてしまった。
「わかったけどさ……それって結局意味あったのか?」
「お、気づいた?」
 彼はにやりと口の端を上げた。
「なにその反応……」
 俺は嘆息まじりにそれを眺める。
「そう、そうなんだよ。お前は、1年前に俺に会って、同窓会に出席するようにアドバイスされてなんていないんだよな。いやー、この部屋見たときさー、結局うまくいかなかったのかなとか、やっぱり同窓会自体に行かなかったのかなとか思ったけど、そもそも繋がってなかったんだな。そりゃそうだよな、俺も、未来の自分と会ったことなんてないし」
「なんでお前、まっすぐ10年後に帰らないで、いったん俺のとこ来たの?」
「うすうす、わかってたんだよね。過去を変えたら、自分になにか影響あるはずだろ? 全然なんもないし。でもちょっと、様子見れないかなと思って」
「ふーん、なるほどねー」
「すごいどうでもよさそう」
「……でもさ、お前は去年の俺に会ってるんだよな? 未来から来た自分に、同窓会に行くように言われた俺っていうのは、どこかに存在してるわけだ」
「んー、まあ、わからんけど、たぶんそうなんじゃね? 別の未来に分岐するとか、そういうことが実際にあるなら」
「行ったのかな、同窓会」
 未来の自分に会って、このままいくとこうなるという実例を目の当たりにして、どう思うか。
 ……去年も今も、そう変わらないような気がするが。
 彼はごろりと寝ころんだ。いかにもオッサンらしい。
「どうだろうなー……半信半疑どころじゃなかった。疑ってたっていうか拒絶反応を示してた。でもしょせん俺らだしなぁ……」
「わかる。甘い期待を抱きやすい」
「そうそう。あー、まんまと出席して、さんざんな目に遭っててほしいなー」
「なー。自分だけ幸せになるとか許せんわー」
「ほんとなー」
 肺の底から出てきたような同意のあと、彼は不意に身体を起こした。そのままよっこらせと立ち上がる。
「うっし、じゃー俺そろそろ帰るわ」
「なんだよ、ゆっくりしてけよ」
「できればそうしたいところなんだけど、この時間に留まれるタイムリミットみたいなものがあるのかもしれん。さっきかあらなんか無性にそわそわするんだ。トイレ行きたいみたいな」
「……あのさぁ」
 内股になってもじもじしながら尻をかきむしる彼に向って、俺は言ってみる。
「ひょっとしたらなんだけど、俺もタイムスリップできたりしないだろうか」
「さあ? どっちにしろ意味ないけどな」
「や、そうじゃなくて。9年先までは、俺はこの部屋に一人で住んでるんだろ?」
「そうだが?」
「1年後くらいに行って、そこの俺を冷やかしつつ、残念会の続きをやろうぜ」
「おおー、いいなそれ」
「だろ? 1年ずつ移動していって、一人ずつ仲間を増やしていこう」
「それなら9年と言わずその先まで行って、いつまでこの部屋に住んでるか確かめてやろう」
「いつまで髪が残っているかもな!」
 再び意気投合し、俺は勢いよく立ち上がった。
「で、で、どうすんの? どうすればタイムスリップできる?」
「わかんね。けど思うに根性と、あとは負の想念だ。自分の人生を呪うんだ」
「任せろ、得意だ。よぅし、むむむ……!」
 きつく瞑目し、幾度となく繰り返されてことで最適にダイジェスト化された黒歴史を脳内で再生する。
「がんばれ、もっとだ! もっと呪え! 今さらどうにもならない愚痴で頭をいっぱいにするんだ! それと、わずかばかりのスタイリッシュなポージングだ! そう、いいぞ、お前はみじめだ! それなのにちょっとかっこつけてる! 最高に滑稽だぞ!」
「あー……なんか死にたくなってきたかも」
 膝をつき、手をつく。身体から力が抜けていく。まぶたの裏の暗い視界がぐにゃぐにゃとねじ曲がったかと思うと、急激な落下感に襲われた。
「それだ、すごいぞ、ナイス鬱屈! さすが俺、スジがいい! もうだいぶ薄くなってきてるぞ! その調子で――」
彼はなおも何か言い続けている。だが次第にその声も遠くなっていき、ついに途切れる。
 しばらくの無音。
「…………」
 そっと目を開く。
 見慣れた間取りの部屋に、俺はいる。

この小説について

タイトル 俺とお前のターニングポイント
初版 2017年3月25日
改訂 2017年3月25日
小説ID 4903
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こてさきのてばさきの写真
熟練
作家名 ★こてさきのてばさき
作家ID 1074
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