人工妻 - 久しぶりの誕生日

川崎大輝
 歩が起きると外はまだ暗かった。悪夢を見た。二時か三時なのだろう。二度寝しようと頑張るがなかなか眠ることができない。
 隣に坂本がいない事に気づいた。リビングに行くと坂本が家具をずらしていた。イチはいつもとは違う場所にあるテーブルを拭いている。
「どうしたの」
「それはまだ秘密」
「そういえば、私、今日私誕生日だわ」
口に甘い匂いのするハンカチを軽く当てられたところで意識がなくなった。
 歩が起きた。時計は8時を指している。隣に坂本はいない。もうこんな時間だからもう起きているのだろうと歩は思った。とりあえずリビングに行くことにした。
 坂本は壁に飾りをつけている。イチは壁に飾りをつけるために両面テープをちょうど良い長さに噛み切っている。
「どうしたの」
「それはまだ秘密」
「そういえば、私、今日誕生日だわ」
イチがうなじに来たかと思うとバチッという音とともに気を失った。
 歩が起きた。時計は5時を指している。本当は午後5時だが歩は午前と勘違いして二度寝に入った。歩にしては何故なのかは全く分からないが寝られない。6時になって隣に坂本がいない事に気付いてリビングに行くことにした。
 リビングでは綺麗に飾り付けされていて、テーブルには美味しそうな料理が並べられている。
「どうしたの」
「それはね・・・」
「そういえば、私、今日誕生日だわ」
やっと誕生日の事を言おうとしたが先に歩が言葉を挟んできた。
 一人と一匹で声を合わせて言った。
『ハッピーバースデー』
 歌も歌い、ろうそくの火も吹き消した。
「それでは、坂本家恒例、今年の抱負はなんですか、を行おうと思います」
拍手など一切起こらない。
「いや、今までそんな事やってなかったでしょ」
「今年から恒例行事にするんだよ。それでは抱負をお願いします」
歩が少し考える。
「身長を伸ばしたい」
坂本もイチも高笑いした。みんなのテンションがおかしくなっている。歩も笑いながら言う。
「身長を伸ばすために食事の時に牛乳を飲んでるんだよ」
さらに笑い声が大きくなる。
「身長を伸ばす薬を開発してあげようか」
「お願いします」
「坂本が作った薬なんて副作用で身長が縮みそうだけどな」
イチの言葉でまた笑い声が大きくなる。
 大笑いしながらもご飯を食べて、料理がなくなった頃に坂本が席を立った。
「ちょっと待ってて」
坂本がリビングを出て、戻ってきたら箱を持ってきた。
「それではプレゼントを渡します」
そう言って歩のところ行った。
「どうぞ」
「ありがとう」
「早速開けてみてよ」
「うん」
箱を開けると、花の髪留めが入っていた。誕生日プレゼントに髪留めというチープ過ぎるプレゼントに二人と一匹の間に沈黙が走る。
「誕生日プレゼントに髪留めってチープ過ぎるだろ」
沈黙を破ったのはイチだった。歩は髪留めをじっと見ている。
「歩もなんか行ってやれ」
「私はこのプレゼントいいと思うよ」
「ええ!」
「この前、髪留めが欲しいって言ったんだ。それにセンスがあまり無い優希がこんなに可愛いのを選んだんだから相当な時間考えてくれたんだと思う」
歩には図星だった。坂本は照れくさそうに頭をかく。
 後片付けも終わった。後はもう寝るだけだ。坂本と歩は半分寝ながらテレビを見ていたが、イチだけは違った。何やらソワソワしている。しばらくソワソワした後覚悟を決めてリビングを出ていった。
 そして戻ってきた。
「歩」
眠たそうにイチの方を見る。坂本も同じだ。
「これ、誕生日プレゼントだ」
蜘蛛の巣に鳥の羽を付けたようなものを持ってきた。
「何これ?」
二人とも頭の上にハテナが浮かんでいる。
「これはドリームキャッチーだ。悪い夢から守ってくれるそうだ」
「なんでこれを選んだの」
「時々息を荒げながら起きる時があるんだ。だから悪い夢見てるのかと思ってね」
たしかに同じ悪夢を見ることが多かった。自分が交通事故にあって死ぬ夢だ。
「ありがとう。でもよく気付いたね」
照れくさそうにイチは言う。
「夜は泥棒とかがいるから警戒してたんだ」
二人はびっくりしている。全然気づかなかった。
 眠くなったのでみんな寝ることになった。
「イチも普通に寝ていいよ」
うなずく。
 歩はもうベットに入って寝息を立てている。その枕元にはあの御守りがある。明日はきっと髪留めをつけて料理しているだろう。

この小説について

タイトル 久しぶりの誕生日
初版 2017年3月28日
改訂 2017年3月28日
小説ID 4907
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