まったりれー - Cordial Storys -1

 ここは温泉街。安い料金設定の宿に、2人。
 脱衣所、裸の一片のニンジンとこんにゃく。彼らは親友だった。
 扇風機の前では温泉上がりの大根が座っている。
 辺りには檜の良い香りが漂っている。

 こんにゃくがニンジンの背中を叩いて言う。
「要するにお前は硬く考えすぎなのさ。問題はいたって簡単さ」
 こんにゃくはニンジンの良き理解者だった。
「考えてもみろ、問題なんかない。
 お前は大手企業のやり手ビジネスマンだ。
 そして会社の重要プロジェクトの担当の一員だ。
 仕事以外だって、プライベートだって充実してる。
 結婚式は2週間後なのだろう?綺麗な彼女と。
 全くもって誰もが羨む状況だ。違うか?」
 ニンジンは納得しきれない表情だ。
 こんにゃくは言う。
「まあ、話を聞いてやるから、
 まずは温泉に浸かろうじゃないか」

 温泉の中はシンプルな作りだが、それが逆に良い味だ。
 この時間、温泉に浸かっているのは2人だけ。
 こんにゃくはリラックスして伸び伸びしてる。
 ニンジンはこんな時でもキチンとしてる。
 頭に乗せたタオルは完璧な正方形。
 体育座りでくつろいでいるようには見えない。

「あのチームに俺は馴染めない・・・無理そうだ」
 ニンジンがこんにゃくに語る。
「リーダーのビタミンCとは俺は合わない。
 事ある事に意見が対立する。良さを打ち消してしまう。
 高卒からの叩き上げの俺と、名門4大卒のビタミンCとは、
 うまくいかないんだ。いや、ビタミンCだけじゃない。
 思えば他の野菜と一緒に仕事をしてても思うんだ。
 俺は組織に向いていない。孤立してしまう」
 こんにゃくは湯で顔を洗う。
「だけどお前は常に結果を残してきた。
 そんなお前を、皆は必要としているはずだ」
 こんにゃくもニンジンが新しいチームに移動したと知っている。
 サラダチームA、それが今のニンジンの所属チームだった。

 脱衣所の扉が開く。誰か入ってきた。2人は視線を向ける。
 入ってきたのは卵。2人と目が合って軽く会釈。
 卵は2人から最も遠い場所で湯に浸かる。

 再び途切れた会話の続きを話すのはこんにゃく。
「俺に言わせてもらえれば、お前に必要な事は一つ。
 もっと柔らかくなれ。それだけで良いんだ。
 今のお前は硬すぎて食えない男なんだ」
 ニンジンはしっかりした口調で言う。
「それが出来ればどんなに楽だろうか・・・
 いっそのこと、今の会社を辞めて一から・・・」
「おいおい。これから結婚するのだろう?何言ってるんだ」

「その時は、結婚も取りやめだろう。申し訳ないが」
「ちょっと極論過ぎやしないか?」
「知ってるだろう、彼女は会社社長の娘さんなんだ」
 ニンジンは言う―ーそういう状況だから。
 辞めたら彼女とも分かれるべきだろう、と。
「それが俺なりに芯を通した結論だ」

 こんにゃくは夜空を見ていた。月明かり。

 ニンジンの性格はよく知っている。
 芯の通った男だ。リスペクトもしてる。
 この温泉旅行に来る前から、予想してた相談内容。
 だが今回のニンジンの結論は極論すぎるとも思っている。
 そしてニンジンは言い出したら聞かない性格だ。
 そのための―温泉旅行―だ。こんにゃくは言う。
「まあ、ゆっくり温泉に浸かろうぜ。
 こんな旅行の時くらいリラックスしてさ。
 そうしてじっくり考えようぜ、ニンジン」

 温泉の温度は低めに設定されている。
 野菜用は約65℃ 沸騰はしてない。
 野菜たちが心からくつろげるためにとの心意気。

「ああ、良い気持ちになってきた。なんか中まで温まったよ」
 ニンジンも足を崩して、リラックスする。
 頭の上に置いたタオルも崩れている。
 ―ー今だ。このタイミングで話すしかない。
 こんにゃくはニンジンにアドバイスを送る。

「もっと自分に楽になれよ。悪い事じゃないさ。
 オープンになって新しい気持ちで飛び込んでみるんだ。
 柔らかく周りと接して、新しい自分になってみるんだ。
 それだって「チャレンジ」なんだ。
 失敗を恐れずに流されてみろ」
 ニンジンもこんにゃくの意見に耳を貸す。
「でもな・・・型にハマるのも抵抗があるしな・・・」
「いいんだよ。それは「幸せの型」だと、俺は思うぜ」
「幸せの型か・・・」

 脱衣所の扉が開かれて長ネギの父と子が入ってくる。
「幸せの型ね・・・」そうニンジンは呟いた。
 そろそろ上がる事にした2人。
 湯を出て脱衣所へ向かう。

「流石に会社の仲間が多いな」
 2週間が過ぎて結婚披露宴。
 着慣れていないスーツを着たこんにゃく。
 ―ー似合わないな。俺はこういう場は苦手だ。
 こんにゃくの仕事は土仕事。実家の農業を継いでいる。
 普段はスーツなど着ない。こういう場所は避けて通ってきた。

 だが今日は親友のニンジンの晴れ舞台だ。見てやらねば。

 会場で司会が式を進めていく。
 いよいよ新郎、新婦の入場だ。

 皆が見守る中、ウェディングドレスを着た新婦、
 それと地味なスーツを着たニンジン。
 皆が歓声を上げる。
 華やかな新婦に?違う、ニンジンに。
 もちろん新婦は派手で美しいのだけど、だけど。

 ニンジンの妻はハートの型抜きだった。幸せそうな顔。
 その隣を歩くニンジンの顔は、ハートにくり抜かれている。
 それは、誰の目にも明らかな、ニンジンの覚悟と誠意そのものだった

「汝、右の者を妻として愛し、一生を添い遂げると誓いますか?」
「はい、誓います」
 指輪を交換して、誓いのキスをする。

 その後は和やかな式だった。とても良い結婚式だ。
 式も進み、会社の同僚、カイワレ大根がスピーチで言う。
「新郎のニンジンさんは最初は話しかけにくかったのですが、
 いざ一緒に仕事をしてみると、皆と調和を合せてくれる人でした。
 結婚が決まったからでしょう。最近は雰囲気がより男らしく・・・」

 終始ニンジンは、とても柔らかい、ハートの笑顔を周りに見せていた。

後書き

「Cordial Storys」は野菜や果物たちの心温まるショートショートです。Cordialには「心からの」と言う意味があるとかなんとか。是非みなさんも家にある野菜や果物をもとに優しい物語をお書きください。

この小説について

タイトル Cordial Storys -1
初版 2017年4月22日
改訂 2017年4月22日
小説ID 4926
閲覧数 172
合計★ 4

コメント (2)

★餅村 みみ 2017年5月7日 10時38分48秒
読ませてもらいました。
面白いですね!
続きを書きたくなりました。
ですが、書くには普通に(投稿する)から書いたらいいんですかね?

★青樹 凛音 コメントのみ 2017年5月7日 19時43分44秒
はい「投稿する」から投稿してもらって大丈夫です:D
トピックに詳細が載っていますので、よければ参考にしてください。
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