まったりれー - Cordial Storys -2

 ある時にしがない氷は思った。
「無欲に、真面目に生きてきた僕だけれども、
 他人より目立って生きてみたいと近頃思うようになってきた。
「普通」という存在は、想像したよりも面白くはない。
 目立ってみたいよな。一度くらい、注目を浴びてみたいんだ」

 しかし僕の長所と言えば、周りと協調出来ることくらいだ。
 僕なんかがスポットライトを浴びることは可能だろうか?
「確か高校の時、皆の注目を浴びていたのは、
 メープルシロップ君だった。輝いて見えた」
 彼は甘いマスクで、女子から人気があった。
「僕と仲良くしてくれてた・・・今も会ってくれるかなあ?」

 電話すると会ってくれると言う。
 そういえばメープルシロップ君は今何をしてるのだろう?

 冷蔵庫通りの牛乳記念像前で久し振りに彼と会った。
「おーす!久し振りだなあ、氷。元気そうじゃん」
「メープルシロップ君こそ、元気で何より」
「とりあえず、ファミレスにでも行こうぜ」

 どうやら今は新人芸人として活動してるらしい。
「ずっとピン芸人で活動してるけどさあ・・・
 どうも俺は我が強すぎるみたいなんだよなあ。
 味が強すぎて、逆に敬遠されることが多いんだ、困ったよ」
 メープルシロップ君はそう言って笑った。
「本当はコンビで活動したいんだけど・・・
 俺の周りは協調性のない奴らばっかりでさ。
 例えば、氷みたいに協調性のある奴と組めたらなあ・・・」

 その時、僕の中で、何かが弾けた。
 チャンスっていうのは、今しかないと思った。

「メープルシロップ君、僕は仕事辞めて、芸人になるよ!
 メープルシロップ君の味を、僕が引き出せれば、
 僕たちは有名になれるはず」

 後日、本当に仕事を辞めて、彼とコンビを組んだ。
 最初の舞台は、本当に酷いものだった。
「おいおい!頼むぜ、氷!俺の味を引き出すどころか、
 足を引っ張ってんじゃねーか?もっと頑張ってくれよな」

 その後はとても辛い下積みの世界。
 ダメ出しされて、試行錯誤、暗中模索・・・
 身をすり減らして勉強の日々の末に、活路を見出す。
「僕はメープルシロップ君の味を、引き出すだけで良いんだ。
 僕は基礎的な支えになる。それが出来るだけの経験は積んだ。
 僕たちの芸風は、今、固まった。あと改善するのは僕の容姿だけ」

 美容院の中でスタイリストさんに僕はお願いする。
「かき氷カットでお願いします!」

 8年の下積みの後、僕たちは有名になった。

 ところが今度はメープルシロップ君が、
 ピンで活動すると言って聞かなかった。
「俺達のネタは、ほとんど俺の味なんだぜ?
 それなのにお前にギャラを取られるのは納得出来ない」
 結局僕たちは解散してしまった。悲しいことだ。

 その後、僕は黒蜜シロップさんとコンビを組んだ。
 彼も強烈なキャラだった。僕は相方の味の引き出し方は分かってる。
 ところが有名になった途端に彼もメープルシロップ君と、
 全く同じことを言い出してしまった。結局解散。

 その後も「はちみつれもん」「キャラメルシロップ」
「宇治金時」などとコンビを組んで、有名になって、
 解散。この珍現象は、週刊誌にも取り上げられた。

 僕の相方だった人は皆、最初こそ人気が上がったけれど、
 その後は下降線。徐々に人々に忘れ去られていく。

 そんなある日、僕のマネージャーの生姜君が仕事を持ってくる。
「ドラマのちょい役ですけど、断りましょうか?」
 僕はその時は誰ともコンビを組んでなかった。
「いや、受けよう。期待に沿えるかは、分からないけれど・・・」

 撮影現場には女優さんや、人気アイドルがいた。
「そんなに緊張するな。楽に構えてろ」
 大御所の和三盆さんが話かけてくれて、驚いた。

 何とか大きなミスなく撮影終えることが出来た。
 僕は何回か刑事役の和三盆さんの引き立て役をこなした。
「非常にやりやすかったよ。君、見どころがあるな」
 和三盆さんに褒められた。それが一番驚いた。

 ドラマの撮影監督に帰りの挨拶をしに行く。
「ああ、君か。ちょうどいいところに」
 ドラマの撮影監督は言う。
「最近の若い奴らは、個性があっても、
 全体のことなんて、考えちゃいない。
 君は周りをよく見て共演者の味を引き出せる。
 作品全体を考える私の立場からしたら、非常にありがたい。
 今度他局で2時間ドラマを頼まれているけれど、
 どうだい?そっちにも出てくれると私は助かる」

 その2時間ドラマは大ヒットして、撮影監督は有名に。
 撮影監督がインタビューで僕を名指しで絶賛した。
「彼は基礎的なものがしっかり出来る。素晴らしい」
 その後はいろんな役でオファーが殺到する。

 メープルシロップ君、他過去の相方が、
 再結成の話をしきりに僕に持ちかける。
 それ自体は嬉しいし、興味ある話だったけど、
 僕は大河ドラマに出ることが決定してそれどころじゃなかった。

「かき氷さんホームページを作りかえた方が良いんじゃないですか?」
 楽屋でマネージャーの生姜君はそんなことを僕に言った。
 確かに僕のホームページは、デビュー当初のままだった。
 最後のニュースは「解散しました」という題だったはず。
「そうだよね。メープルシロップ君とコンビを組んでいた時代のだし、
 そうした方が良いよなあ。でも時間が無いし、どうしようか・・・」
 悩んでいると生姜君は僕に言う。
「じゃあ私に任せて下さいよ。実は知り合いが、
 デザイン会社を立ち上げたんですよ。そこに任せましょう」

 ーーははーん。さてはこういう流れになるように、頼まれたな。
 別に断る理由もなかったので、生姜君に任せた。

 後日出来上がった新ホームページのトップには次の文字。
 ーー素材の味を引き立てます。For the Syrup

後書き

「Cordial Storys」は野菜や果物たちの心温まるショートショートです。Cordialには「心からの」と言う意味があるとかなんとか。是非みなさんも家にある野菜や果物をもとに優しい物語をお書きください。

この小説について

タイトル Cordial Storys -2
初版 2017年4月22日
改訂 2017年4月22日
小説ID 4927
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