まったりれー - Cordial Storys -4

 冷蔵庫の奥に忘れ去られた苺が一つ。それが俺。
 完全に腐り果てるまで、そう時間もかからない。

 ビニールハウスで暮らした幼少時代の後、
 選別されて出荷された。若かりし頃の俺。
 軽トラックの荷台の中。
 ダンボールの中、透明なパック。
 そこに俺たちは収められていた。
「いよいよ、俺たちも最後の審判が近づいているな。
 最後くらいは5号ホールケーキの、
 一番中央に飾られてみたいものだ。人間の子供たちが喜ぶような最後だと、俺の死も意味があったように思えるだろうし。おいおい、皆、ガタガタ震えるなって。苺たるもの堂々としてなきゃいかんよ。ははは・・・」
 一個の苺はそう言って笑った。だけど誰も何も言えず。

 あんな風に余裕を持っていられる苺は少ない。
 俺は透明なパックの中、他の苺と身を寄せ合っていた。
 隣の苺が耐え切れずに言葉は発する。暗闇の中。
「5号ホールケーキか・・・立派な最後だよ。
 けれどそれは選ばれた苺だ。幸運な奴だよ。
 俺みたいな普通の苺は、
 ジャムの材料にされちまうだろう。
 それを想像すると、見ろ、震えてくる」

 俺の入ったパックはスーパーで売られることになった。
 行き来する主婦たちは俺たちを選別する。
「最初に売れた奴らは、生で食われて、
 最後まで残った奴らは加工されるよ」
 どうやら、それは信頼出来る情報だった。
 隣の奴は、客が通るたびに、冷や汗をかいていた。
「どちらでもいいから早く決まってくれ・・・頼む」
 俺の入ったパックは最後の最後まで残ってしまう。
 50%引き、なんて烙印を押されてしまう。
 どうやら俺は他のイチゴの半分の価値しかないみたいだ。
『5号ホールケーキか・・・立派な最後だよ。
 けれどそれは選ばれた苺だ。幸運な奴だよ。
 俺みたいな普通の苺は、
 ジャムの材料にされちまうだろう。
 それを想像すると、見ろ、震えてくる』
 俺の隣の奴は同じことを何度も繰り返し、呟く。

 閉店間際になって俺たちは運良く買われて行く。
 中年の酔った男が俺たちを購入した。
 寂れたアパートの一室。男の家族はもう寝てる。
「何だ、皆もう寝てるのか・・・折角苺を買ってきたのに」
 男は俺たちを冷蔵庫の中へと入れる。

 冷蔵庫の中の先客たちは優しかった。
 缶ビールは言う。
「さあ、今日はもう休むんだ。
 こんなところだけど、歓迎するよ。
 その日がくるまでは、皆仲良く暮らそう」
 俺たちはその言葉を聞いて、気が抜けて、眠りにつく。

 目が覚めると仲間の姿が見えない。
 不安そうにしている俺に缶ビールが言う。
「君はなんて幸運なんだろう。
 君はこぼれ落ちて、最後の日が伸びた。
 これも運命だろう。ほら、ぐずぐずしないで、
 早く冷蔵庫の奥へ。誰にも見つからないよう、急いで」
 俺は言われるがまま、転がって、冷蔵庫の奥へ向かう。
 そこには俺と似た境遇の葡萄がいた。

「あなたも運の良い苺ね、私に似てる。
 ここなら、誰にも見つからないはず。
 私はまだ水々しいでしょ?あなたもそうよ。
 逃げ延びたモノ同士、仲良くしましょうね」

 一緒に過ごすうちに、
 互いを生温く想うようになって、
 生温いことを言うようになって、
 冷え切った冷蔵庫の中で俺たちは結婚した。
 冷蔵庫の端で枝豆を一匹飼って、静かに暮らしていた。

 次第に俺たちは腐り始めてくる。
 時の流れは残酷で、最愛の葡萄との別れ。
「本当はワインに憧れていたの、小さい頃から。
 けど、誰もがお前には無理だって言ったのよ。
 私がアメリカ種だから無理だって。
 努力では越えられない壁を知って、
 私は人生に行き詰まっていたの。
 ここであなたと出会って、
 ささやかでも幸せな暮らしを経験して、
 そんな劣等感は何処かへ消えてしまったわ。
 生まれ変わっても、またあなたと結婚したいわ」

 葡萄の後を追うように、枝豆も死んでしまった。
 冷蔵庫の中では俺が一番古株になってしまった。
 しばらく見ないうちに冷蔵庫の中は様子が変わってしまった。

 俺が来た時は缶ビールさんが優しく迎え入れてくれた。
 そんな時代は、とうの昔に、終わってしまったらしい。
 割と昔からいるわさび君と話した。
「昔の秩序は今は崩れてしまいました。
 今、冷蔵庫の中は、力と名声が支配しています。
 嘆かわしいことです。缶ビールさんさえいれば」

 今は缶ビールさんに変わって、
 プレミアム缶ビールが冷蔵庫の顔。
 プレミアム缶ビールは随分偉そうな態度だった。
 新参者のマスクメロンは大きな顔をする。
「俺の価値を知ってるか、おっさん。
 俺は他の奴より甘いから、
 2000円で買われたんだぜ?
 おっさんは腐りかけのただの苺に見える。
 一体どんな、売り文句で、買われたんだ?」

 俺は正直に答える。
―正規の価格の50%引きで買われたよ―と。
 それを聞いてマスクメロンは俺を馬鹿にする。
「おっさんよ、50%引きってマジ?あんたの価値は半分か。
 だから無駄に生き延びているってわけか。
 おっさんの人生って幸せなのか?」

 マスクメロンの問いに俺は正直に答える。
―これはこれで、幸せだったんだぜ―

「けれど、おっさん。あんたの外での価値は、
 今も昔も無きに等しいんだぜ?
 それに、誰もおっさんを覚えてはいないぜ」

―知ってるさ―と俺は答えた。
 マスクメロンは納得してない様子。
 だから俺は笑顔で、甘ちゃんのマスクメロンに、逆に問う。

―外での価値や、俺が有名かをお前は言うが、
 冷蔵庫の外が―楽園―だとお前は思ってでもいるのか?―

後書き

「Cordial Storys」は野菜や果物たちの心温まるショートショートです。Cordialには「心からの」と言う意味があるとかなんとか。是非みなさんも家にある野菜や果物をもとに優しい物語をお書きください。

この小説について

タイトル Cordial Storys -4
初版 2017年4月29日
改訂 2017年4月29日
小説ID 4932
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